○○鎮守府、○八○○ーー
執務室ーー
電「えっと、後は司令官さんのサインや何かが必要な書類をこっちにまとめて……」テキパキ
本日秘書艦を担当する電は、只今伝令室へ赴いて席を外している提督が、執務室へ戻ってきた時にすぐ仕事へ取り掛かれるよう準備をしていた。
電(大本営へお電話を掛けるなんて何かあったのでしょうか……)ウーン
電はそのことを少し気にしつつ準備を進めていると、机の上に置いてある朱肉が乾いていることに気が付いた。
電(これももう取り換えないといけないのです……)
そう考えた電は換えの朱肉が入っている提督の執務机の一番目の引き出しを開けた。
電「?」クビカシゲ
すると、そこに一枚の書類が入っていた。
電(司令官さんもたまに忘れちゃう時がありますからね……一応確認しておくのです!)
電はその書類を手に取り、内容を確認した。
電「…………え」
その書類を見た瞬間、電は自分の目を疑った。
『貴殿ヲ士官学校特別教官トシテ大本営ヘ招聘スル』
そしてその書類にはもう既に提督のサインと印鑑が押されていた。
電(司令官さんが……大本営へ?)
ガチャーー
電「」ビクッ
提督「待たせてすまないな電…………どうした、何かあったのか?」
電「電……こんなお話聞いてないのです……」
電の言葉に提督は首を傾げたが、電が手にしていた書類を見て提督はやっと状況を理解した。
提督「黙っていて悪い……いずれはちゃんと話すつもりだったんだ……」
電「本気、なのですね……」
その言葉に提督は黙ったままコクリと頷いた。
電「いつ大本営に?」
提督「さっきその話をして来てな。急で悪いのだが明日の朝にはここを出なければならなくなった」
電「司令官さんはいつも急なのです。最初も急にこの鎮守府に着任して……」
(最後もこんなに急に……)
提督「すまない……中規模作戦や新しく着任した皆のこと等があったから話すタイミングが無かったんだ」
電「…………気にしないでください♪ 寧ろ司令官さんらしいのです♪」
提督「……そう言ってもらえると助かる」ニコッ
(これは本心ではかなり怒っているな……)
電「では、電はこの書類を大淀さんに渡して来るのです。その後はそのまま工廠に向かいますので、少し遅くなると思うのです」ニコッ
提督「あぁ、よろしく頼む」ペコリ
それから電は急ぎ足で執務室を後にし、提督は電が準備した書類を片付けるのだった。
大広間、○九○○ーー
電は
そしてここへ集まった者達は電からの状況報告に戸惑った。
冷静にこの事を受け入れようとする者。
悲痛な表情を浮かべる者。
無言で涙を流す者。
その場で泣き崩れる者。
と多様な反応を見せているが、そうなった理由はみんな同じだ。
電「司令官さんはもう心に決めているのです。辛いですが、これはもう電達がどうこう言っても……」
みんな電の言葉に何の反論も出来なかった。
何故なら、こうして話している電自身が涙を必死に堪え、肩を震わしているのを目の当たりにしているから。
電「司令官さんを気持ち良く送り出しましょう……」
扶桑「そうね……でないと提督が気にしてしまうでしょうから」
高雄「盛大に送るのではなく、いつも通りに送り出しましょう」
愛宕「えぇ、その方がきっと提督も気兼ねなく大本営へ移れるわ」
赤城「それぞれ思い残すことが無いよう、そして提督に気を遣わせないように行動しましょう」
山城「最後まで提督に迷惑を掛けてはいけないものね……」
夕立「ぽい……」
電に続き、現第一艦隊の面々の言葉にその場に居た者達は静かに頷いた。
そして解散後、みんなはそれぞれ提督へどの様な言葉を最後にかけるか考えるのだった。提督との思い出をそれぞれ思い返しながら……。
その日の夜までに提督の元へ、全艦娘が訪れ、それぞれ別れの挨拶をした。
みんな引き留めたいのをグッと堪え、流したい涙も堪えた。そして最後は笑顔で提督と笑い合ったり、握手を交わしたり、ハグをしたりと、みんなは提督の門出をお祝いした。
そして次の日の朝ーー
提督は朝一で鎮守府に所属する全員を大広間に招集した。
提督が現れるまでの間、多くの者が涙を流し、大広間にはすすり泣く声が響いていた。
一晩中泣いていた者。
一晩中思いを馳せていた者。
一晩中思い出に巡らせていた者。
一晩中大本営を呪っていた者。
と、様々だった。
すると提督が大広間に訪れた。
みんな一斉にすすり泣くのを堪え、壇上に上がった提督を目に焼き付けるように見つめた。
そして提督の最後の言葉を聞きもらさないよう、全員が提督に集中してその最後の言葉を待った。
提督「皆、おはよう」
全員『おはようございます!』
提督「うむ……皆をここに集めたのは他でもない。私のこれからの話と今後の鎮守府についての話をするためだ」
提督「皆も知っている通り、私はこれから大本営へと向かう。皆のこれまでの多大なる活躍があり、それが大本営のお眼鏡に敵い、大本営で士官学校の特別教官として呼ばれることになった。皆の活躍に恥じぬよう、力みも緩みもせず、鋭意努力することを皆に誓おう」
提督「そして私が大本営へ向かうにあたり、本日から皆は一週間程、鎮守府に待機してもらうことになる。休暇を与えてやれないのは心苦しいが、皆、鎮守府で大いに羽を伸ばしてくれ」
提督「誰も居なくなるのはあってはならないが、鎮守府近辺の警備任務と鎮守府内の巡回任務さえしっかりやってくれれば、街へ出ても構わん。それくらい黙っていれば分からないからな」
提督の茶目っ気にみんなは思わずクスクスと笑い声をあげた。
提督「私からは以上だ。皆、後はよろしく頼む」
全員『はい!』ケイレイ
こうしてみんな一斉に提督へ敬礼をし、朝礼は滞りなく終えた。
それからみんなは、最後に提督を見送ろうと全員で鎮守府の正門へと赴いた。
その中には堪えきれずに涙を流す者達も居たが、その者達は泣き声を必死に殺し、提督に悟られないようにしながら泣くのだった。
正門前ーー
正門の前に着くと、既に大本営からの迎えの車が停まっていた。
提督はみんなの方をもう一度振り返ると、みんなは綺麗に並び、提督へ敬礼をしていた。
提督「ははは、何やら大袈裟な気がするが、皆の気持ち嬉しく思うよ」
それから提督もみんなへ敬礼を返し、
提督「
との言葉に全員は言葉を失った。
そんな中、電が肩を震わせながら提督の元へ歩み寄った。
電「し、司令官さん……大本営へ招聘されたのでは?」
提督「ん? 特別教官として一週間、大本営へ
電「……は……はわわ……////」ボンッ
提督「あの書類には招聘とあったが、大本営側の誤字だったそうでな。招聘ならばしっかりと断るさ。私は生涯現場主義を貫くと決めているからな」ナデナデ
幹部「中将殿、そろそろお時間が……」
提督「あぁ、すまない。では皆、またな」ニカッ
提督が乗り込んだ車は、みんなの身と心を置いていくかのように小さくなっていった。
そしてやっとみんなが声を揃えてあげたのは
『えぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜!?』
という何とも言えない声だった。
その後、勘違いしてそのまま伝えてしまった電は提督が大本営から帰ってくる一週間中、みんなから『ドジっ娘の頂点・電ちゃん』略して『ドジズマちゃん』と呼ばれ、電は提督が帰ってくると一目散に提督の胸に飛び込むのだった。
そして提督と艦娘達の賑やかで笑顔溢れる日々はこれからも続くのだーー。
艦これ Short Story-完-
タイトル通りこれが今作品の最終回です。
多くの艦娘の台詞は敢えて出さず、初期艦である電ちゃんと提督さんをメインに出して、今作品らしいドタバタなラストにしました。
この作品を投稿したのは2015年の12月9日。
そして最終回の今日は2016年の12月8日で、この日は真珠湾攻撃の日でもあります(現地時刻では前日ですが)。
他にも神通さんや朝風ちゃんの進水日だったりするのですが、この日をこの作品最後の日にしようと決めました。
元々百話で終えようと思っていましたが、気が付けば三百話とかなり多くなりました。
一年間、時には更新が出来ない日もありました。
ギャグやほのぼのメインでも、史実や艦歴を勉強していく内に真面目な回も書くことがありました。
色んなネタを盛り組、かなりの艦娘を登場させました。
長いようで短い間でしたが、私が書いた作品をここまで読んで頂き、本当に本当にありがとうございました。
評価してくださった方々、ご感想を書いてくださった方々、お気に入り登録してくださった方々、多くの方々に心から感謝致します。
こちらは終わりますが、他の作品でお会いしましょう!