艦これ Short Story《完結》   作:室賀小史郎

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今と言う時間。の談。

少し真面目なシーン、キャラ崩壊、独自解釈含みます。


艦これSS三百十六話

 

 ○○鎮守府、一九○○ーー

 

 執務室ーー

 

提督「…………」

 

 提督は本日の業務を終え、秘書艦を帰してから執務室の窓から見える夜の海を眺め、龍驤とニムの二名がやって来るのを待っていた。

 

 何故、提督がこの二名を執務室へ呼んだのか。

 それはこの二名に大切な話があるからだ。

 

 コンコンーー

 

提督「入りなさい」

 

 提督の声に執務室のドアがガチャっと開くと、

 

龍驤「お〜っす司令官♪ 呼ばれて来たで〜♪」ノシ

ニム「来たよ〜♪」ノシ

 

 提督が待っていた二人がにこやかに手を振って入室して来た。

 そんな二人に提督はソファーへ座るよう促すと、二人にお茶を淹れ、自身もその正面に腰を下ろした。

 

 いつになく難しい表情を浮べる提督に、二人は茶をすすりながら小首を傾げる。

 そして提督は小さく息を吐いて、二人の前にそれぞれコピーした書類を配った。

 

提督「二人に……特に龍驤には思い出したくもないことを突きつけるようで悪いが、その書類を落ち着いて読んでほしい」

 

 提督がそう言うと、二人はその書類を読み始めた。

 そして読み始めてすぐに龍驤は表情を強張らせた。

 

 提督が二人に渡した書類のコピー。

 その内容は簡単に言えば、

『そちらの鎮守府へ、アメリカ正規空母・レキシントン級・二番艦・サラトガの着任を許可する』

 という旨のことが記された大本営からの書類だった。

 

 鎮守府は大本営が発令した中規模作戦『艦隊作戦第三法』の戦最終作戦『MS諸島北部・B環礁沖』を完遂。その功績により、大本営からアメリカ正規空母のサラトガを着任させる権利を貰ったのだ。

 提督としては今後更なる深海棲艦の脅威に備え、また艦隊の強化として着任させたいと考えてはいる。

しかし提督は先ず、目の前にいる二人の意見をしっかりと聞いてから、着任させようと考えたのだ。

 

提督「二人が着任を望まないのであれば、それでもいい。何も咎めたりはしない……だから二人の素直な意見を聞かせてほしい」

 

 提督が二人にそう言うと、二人は書類を見つめ、それぞれ考えをまとめるように口をつぐんだ。

 どうして提督が龍驤とニムに対してこんなにも配慮しているのか……それはこの二人が艦だった頃、この『サラトガ』と決して看過することの出来ない出来事があったからだ。

 

 先ず龍驤とサラトガのその出来事は、一九四二年・八月二十三・二十四日に勃発した第二次ソロモン海戦のことである。

 龍驤はこの第二次ソロモン海戦にて、サラトガの搭載機による爆撃と雷撃を受け海に沈むことになってしまった。

つまり龍驤にとっては自分を討った宿敵なのだ。

 

 対するニムこと伊二十六とサラトガの出来事、それは第二次ソロモン海戦から七日後のことである。

 第二次ソロモン海戦から一週間後の八月三十一日、この日に珊瑚海の哨戒を行っていたサラトガを伊二十六の雷撃で大破させたということがあり、ニムにとって顔を合わせ辛い相手なのだ。

 

 アイオワを着任させるか迷っていたあの時、艦隊全員が過去ではなく未来を見ていた。

艦時代のアイオワは日本本土へ砲撃している過去はあるものの、みんなは『あの戦争は終わった』と前を向いていた。

 しかしサラトガのように轟沈に直接関与していたりすると、いくら前を向いていても切り離せないものが出て来る。

 このようなことがあるため、提督はサラトガを着任させるか否かは龍驤とニムの意思を尊重したいと考え、こうした機会を設けたのだ。

 

 提督がジッと二人の言葉を待っていると、先に龍驤が「決めた」と言って前を向いた。

 

提督「聞かせてもらおう」

龍驤「ん、じゃあバシッと言ったる。うちはサラトガを着任させてもええで」ニッ

提督「無理をしてないか?」

龍驤「無理してうちに何の得があんねん。あの戦争は終わったんや。いつまでもウジウジしとるうちやないで。うちは今、艦娘として生きとるんやからな」フフン

提督「龍驤……」

 

 胸を張って答える龍驤。そしてその隣に座るニムが龍驤に続いて口を開いた。

 

ニム「ニムもサラトガさんに着任してほしいな♪ あの時は敵だったけど、今度は……艦娘に生まれ変わった今はお友達になれるんだもん」ニコッ 

提督「ニム……」

 

 二人の意見に提督が少し困惑していると、龍驤は茶をすすってから提督に声をかけた。

 

龍驤「確かに今でもあの時の悔しさや憎しみはあるで。でもな、それは敵だった艦だってみんな同じや。みんな命賭けて自分の国を、国民を守るために戦った結果や」

 

龍驤「艦隊のみんな同じ気持ちを持っとる……でも今、過去にグチグチ言ったってあの結果がひっくり返ることなんてあらへんねん」

 

龍驤「ならうちらが出来るのは前を向くことや。前向いて今の脅威に世界が一丸となって立ち向かうことや。キミならよう理解しとるやろ?」

 

 龍驤の言葉に提督は黙ったまま力強く頷いた。

 それを見た龍驤とニムはニッコリと笑った。

 

ニム「あの時のことを思うことは止めないよ。でもいつまでもいがみ合ってたら、お友達になれる人ともお友達になれる機会を失っちゃうよ」

提督「あぁ、そうだな」ニコッ

ニム「うん」ニパッ

 

龍驤「日本語にはな、『昨日の敵は今日の友』っちゅうええ言葉があんねん♪ これだけ時が過ぎればこうなる運命だってあるやろ? 現にアイオワなんか艦隊にかなり馴染んどるしな♪」アッハハ

ニム「確かにみんなと仲良しだよね〜♪ 会ったら良くハグしてくれるし♪」

 

 龍驤がにこやかにそう言って笑い飛ばすと、ニムもそれにつられてクスクスと笑った。

 そんな二人を見て提督は二人の……艦隊の志しや思いの強さを改めて思い知らされ、提督自身もみんなに恥じないよう、常に高い志しを持って日々精進することを心の中で誓った。

 

提督「では二人の意思を尊重し、サラトガの着任を要請するよ」ニカッ

龍驤「おう、要請したれや♪」

ニム「また賑やかになるね〜♪」

龍驤「フランスの水上機母艦も着任予定やし、ビシバシしごいたるで〜♪」ニッシッシー

提督「程々にな。先ずはここに慣れてもらうことが先決だ」ニガワライ

龍驤「分かっとる分かっとる♪」ノシ

ニム「ニム、沢山お話する〜♪」エヘヘー

 

 ニコニコと笑顔を絶やさない二人に、提督もそれにつられるように笑顔を浮かべた。

 そして提督はサラトガ着任に関する書類にしっかりとサインをした後、二人に食堂で晩御飯とデザートをご馳走するのだったーー。




今回はサラトガさん着任に対して、関わりがある龍驤さんとニムちゃんの思いを書きました。
サラトガさんの最期は長門さん、酒匂ちゃん、プリンツさんも参加したあの作戦ですが、敢えて別の史実での関係から書きました。

不快に思われた方が居られましたら、申し訳ありませんでした。

では今回は真面目な回でしたが、読んで頂きありがとうございました!

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