艦これ Short Story《完結》   作:室賀小史郎

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航空巡洋艦、潜水艦メイン。

真面目なシーン、独自解釈含みます。

いつもより長いです。


艦これSS三百十話

 

 ○○鎮守府、一一○○ーー

 

 中庭ーー

 

熊野「…………」

 

 熊野はひとり、中庭のベンチへ腰掛け、空を眺めていた。

 本日は熊野がアメリカ空母『タイコンデロガ』の空襲に遭い、サンタクルーズ沖へ沈んでしまった日なのだ。

 重巡洋艦『熊野』の艦歴である最後の一ヶ月は壮絶な物で、最上型の中でも最も語られていることである。

 

 それは一九四四年の十月二十五日まで遡る。

 

 当時の熊野はレイテ沖海戦のサマール沖海戦にて艦首を一部喪失し、なんとか十四ノットでレイテ沖から離脱していた。しかも乱戦かつ劣勢だったため、熊野には護衛も付けられず単艦で、先ずはマニラを目指していた。

 

 そしてその道中、上空には見慣れた航空機が現れた。

 それは水上爆撃機『瑞雲』と艦上攻撃機『天山』の計四機だったのだが、その四機は熊野に対して攻撃を行った。

 熊野は艦首を失い、更に空襲で形状も変形していたため、パイロットが熊野を味方の軍艦であると認識出来なかったためと記録されている。

幸い被害はなかったものの、最早日本の戦闘レベルが地に落ちていることを熊野の乗員達は身を持って知ることとなった。

 

 その後も熊野は度重なるアメリカ航空機の攻撃に晒された。

熊野は回避行動で奇跡的にはじめの内は被弾せずに済むも、ついには至近弾を受け、機関部に浸水被害が発生。

その後も煙突や艦橋に被害を受け、速度はわずか二ノットにまで低下してしまった。

 首の皮一枚繋がった状態で空襲を耐え抜いた熊野は、応急処置の末に九ノットまで速力を回復し、補給のため、一旦コロン湾を目指した。

 

 その後の空襲も執念で艦を守り抜き、ついに熊野は重巡洋艦『足柄』と駆逐艦『霞』の二隻と合流の末、コロン湾へと辿り着くことに成功した。

 それは十月二十六日の十八時のことだった。

 

 補給を終え、さらに燃料を搭載した熊野だったが、旅はまだ半分も終わっていなかった。

 コロン湾はあくまで燃料補給であり、修理はマニラ、更には本土に戻らなければいけなかった。

 

 十月二十七日の午前零時、熊野はマニラを目指して再び海へ繰り出した。

 道中で駆逐艦『沖波』と合流し、今度は何事もなく無事にマニラへと到着。

 それは十月二十八日の午前七時半到着と記録されてる。

 

 艦首が破壊されているため投錨ができない熊野は、給油艦『隠戸』に横付けして修理を行った。

 ただ、ここで修理出来るのは速力の回復程度で、やはり本土へ戻ることは必須だった。

 その後速度は十ノットまで出せるようになるも、その安らぎの時間は短いものだった。

 

 十月二十九日、アメリカ軍の航空機がマニラを襲ったのだ。

 今度は三百機近い航空機が総攻撃を仕掛け、熊野や同じくマニラにいた重巡洋艦『青葉』や『那智』は苦しみながら応戦し、その結果、熊野はなんとか逃げ切るものの、那智はこの地で力尽き、沈没してしまう。

 

 空襲の恐怖が去り、熊野は再び修理を行い、最終的に十五ノットまで速度は回復。

弾薬が少々不足しているという点があるものの、後は本土まで無事に着くことを祈るばかりだった。

 

 十一月五日、五ノットしか出せない青葉を引き連れ、護衛の船団と共に次の目的地、サンタクルーズ港へ向かう熊野。

 夕方にはサンタクルーズ港へ無事に到着し、次の出発は翌日の朝だった。

 

 しかし、この地は日本にとってはとても危険な海域であり、アメリカ潜水艦の根城のような場所だった。

 案の定、四隻のアメリカ潜水艦が熊野達を待ち受けていて、魚雷が襲い掛かり、熊野は懸命に回避行動を続けるも、ついに二発が艦首と機械室に命中。

 元々損傷している艦首に再度ダメージを負った熊野は、ついに一番砲塔前が脱落。更には機械室が完全に浸水し、航行不能となった熊野は完全に機能を失ってしまった。

 一方で五ノットしか出せない青葉は魚雷の全てをかわし、奇跡的に無傷でこの強襲を切り抜けている。

 しかし青葉に熊野を曳航できる力はなく、青葉はやむなく単艦で日本を目指した。

 

 熊野は満身創痍になりながらもなお、沈むことをよしとせず、海上に浮き続け、十一月七日に応急処置の末、貨物船『道了丸』に曳航されて再びサンタクルーズ港へと戻った。

 

 十一月九日には台風が熊野を襲うも、熊野はそれでも沈まなかった。

 代用錨で沈没を防ぎ、台風の通過まで堪え続けた。

 

 しかし、ここで熊野に新たに深刻な問題が起きた。

日本まで戻るために必要な真水が不足したのだ。

熊野の次の目的地は台湾の高雄であり、そこに向かうまでの真水は五百tが必要だった。

乗員達は応急修理の傍ら、毎日ドラム缶を使って三十tもの真水を熊野まで運び込んだと記録されている。

 

 修理が始まって一週間半の十一月二十一日、ついに熊野は六ノットまでの速力回復を果たした。

 

 しかし運命の十一月二十五日、アメリカ空母『タイコンデロガ』率いる連合艦隊がサンタクルーズ港に侵攻。

 熊野は必死に上空目掛けて砲撃戦を開始するも、残弾が少なく、また速力も六ノットでは、集中攻撃を掻い潜れる時間は長くなかった。

 

 艦橋後部と右舷に魚雷が立て続けに命中、左舷にも二発、加えて爆撃が二番砲塔付近に集中。

やがて熊野の船体は、ゆっくりと左舷へ傾き始め、十五回もの空襲に耐え抜いた熊野は、ついに本土への帰還叶わず、サンタクルーズ沖へと沈んで行ってしまった。

 

「く〜まのちゃん!」

 

 するとふと声を掛けられた。

 熊野が前方へ視線を移すと、そこにはイクが立っていた。

 

熊野「あら、ご機嫌よう」ニコッ

イク「ご機嫌ようなの♪」

 

 熊野の挨拶にイクも真似て挨拶を返すと、イクは熊野の隣へ腰を下ろした。

 

熊野「お一人で珍しいですわね」

イク「それは熊野ちゃんも同じなのね」

熊野「それもそうですわね」フフフ

イク「イクも今日ばっかりはセンチメートルなの」

熊野「センチメンタル、でしてよ?」

イク「そうとも言うの!」

熊野「全然意味が違いますわ」クスクス

イク「伝わればいいの〜!」プンスコ

 

 イクも熊野と年は違えど、この日に沈んでしまった艦なのである。

 

 それは一九四三年。潜水艦『伊十九』は十月十七日、第一潜水隊司令潜水艦としてトラックを出港。

 そして十一月十七日に真珠湾を飛行偵察後、敵哨戒機の出現により搭乗員のみを収容し、翌十八日に『真珠湾内に空母一、戦艦一、巡洋艦一、戦艦か空母一、その他若干』と報告。

 その翌十九日にギルバート諸島方面への急行を命ぜられ、一○三二に状況報告後、消息を断った伊十九は、十一月二十五日にマキン島近海でアメリカ駆逐艦『ラドフォード』の爆雷攻撃を受け、全乗員と共に海の底へと消えた。

 

イク「今日は辛い日だけど、提督やみんなと黙祷出来てなんだか嬉しかったのね♪」

熊野「ふふ、それは良かったですわ」クスッ

 

 空を見ながらイクがにこやかに言うと、熊野もそれにつられて笑顔を浮かべて返した。

 

イク「作戦中でも提督はいつもイク達のことを忘れないでいてくれるから、好きなのね♡ 熊野ちゃんもそんな提督だから好きなんでしょう?」

熊野「わ、(わたくし)は別に……////」モジモジ

 

 イクの急な問い掛けに熊野は思わず顔を真っ赤にして俯いた。

 それを見るとイクは「好きな気持ちは隠さない方がいいの♪」と言って熊野の手を握った。

 

熊野「そ、それはそうかもしれませんけど……////」ウゥー

 

 そう言って掴まれていない右手で、赤く染まった頬を押さえる熊野を見たイクは「まだまだ先は長いのね」と苦笑いを浮かべた。

 

 すると、

 

『熊野〜!』

『イク〜!』

 

 大声で熊野達を呼ぶ声がした。

 二人がその方へ目をやると、そこには最上、三隈、鈴谷の三隈の姉達と、ニムを含めた潜水艦達が二人に手を振っていた。

 

最上「艦隊が帰って来たよ〜!」ノシ

三隈「提督がお二人にお昼御飯をご馳走してくださるそうですわ〜♪」ノシ

鈴谷「提督が待ってるよ〜!」ノシ

ニム「お姉ちゃ〜ん!」ノシ

潜水艦ズ『早くおいで〜♪』ノシ

 

イク「提督が待ってるの! 熊野ちゃん、行こ!」グイッ

熊野「ちょ、そんなに引っ張らないでくださいまし!」ハワワ

イク「早くしないと提督待たせちゃうの〜!」グイグイ

熊野「それは分かりましたから、もっとゆっくり〜!」ヒャァー

 

 そして熊野はイクに引き摺られるように最上達の元へ行き、食堂ではそれぞれ提督の隣に座って締りのない顔で幸せな昼食を過ごしたーー。




今日は本編に書きました通り、重巡洋艦『熊野』と潜水艦『伊十九』が沈んでしまった日です。
そして艦これでは実装されてませんが、
1943年・同日
セント・ジョージ岬沖海戦で夕雲型駆逐艦五番艦『巻波』、七番艦『大波』、綾波型駆逐艦四番艦『夕霧』がアメリカ駆逐艦部隊と交戦し、沈んでしまった日

1944年・同日
ブルネイ湾へ向かっていた途中のシンガポール東方沖で秋月型駆逐艦七番艦『霜月』がアメリカ潜水艦の雷撃により沈んでしまった日。
と多くの艦が沈んでしまった日でもあります。

この日に沈んだ多くの艦。そして亡くなられた多くの英霊の方々に心からお祈りします。

そして今日は悲しいことばかりではなく、長門さんの竣工日と浜風ちゃんの進水日でもあります!
本編には登場させられませんでしたが、おめでたいですね♪

本編中と後書きの情報はWikipediaと『大日本帝国海軍 所属艦艇』より得ました。

では此度は説明文の方が多くなってしまいましが、読んで頂き本当にありがとうございました!

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