艦これ Short Story《完結》   作:室賀小史郎

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後編になります。

あの日の空は。の談。


艦これSS二百九十九話 後編

 

 ○○鎮守府、一一○○ーー

 

 中庭ーー

 

木曾「…………」

 

 木曾は自主訓練を終え、中庭に立ち寄り、適当なベンチに腰を掛けて空を見上げていた。

 

 すると複数の足音が木曾の元へとやって来た。

 

「こんな寒空の下で何をしておるのじゃ?」

「何黄昏てんのよ」

 

 そう声をかけたのは工廠帰りの初春、曙だった。その隣には同じく工廠帰りの沖波も一緒である。

 

木曾「おう、お前らか……何、昔のことを思い出してただけさ」

 

 木曾が鼻で笑って答えると、沖波が「お隣いいですか?」と訊ね、木曾は快く頷いた。

 沖波が木曾の右隣にちょこんと座ると、沖波も空を見上げた。

 

沖波「あの日は大変でしたね」

木曾「そうだな」

初春「去年も経験したが、今をこうして過ごせているのは……何とも不思議な気持ちじゃあのぅ」フフ

曙「不思議だけど、それ以上でも以下でもないでしょ。考えてたら切りがないわ」ヤレヤレ

木曾「ふふ、確かにな……」

 

 今朝の黙祷にはここにいる面々も参加していた。

 比叡達とは年が違うが、木曾達もこの日に沈んでしまった艦なのである。

 

 一九四四年のこの日、マニラ湾にて日本軍はアメリカ軍からの大空襲を受け、これにより日本海軍の駆逐艦『初春』が轟沈。更には軽巡洋艦『木曾』、駆逐艦『曙』『沖波』が大破着底となってしまったのだ。

 

 当時の初春は利根、隼鷹達を中心とした緊急輸送任務のために日本へ戻るところだった。

 しかしその道中でマニラ湾へと寄港したところを、アメリカ軍の無数の艦載機に狙われ、容赦ない空襲の中、初春は為す術なく沈んでしまった。

 

 当時の木曾は第五艦隊司令部をブルネイへ送り届けるために待機していたが、同日のアメリカ軍からの空襲によって大破、そして沈没してしまうのだが、その沈没までの期間が非常に長く、ほとんど沈んでいるにもかかわらず、湾内が浅くて甲板がまだ水面上にあったため、「沈没」とすぐに認められなかった。

 そんなボロボロでとても船とは呼べない姿の上で、軍旗の掲揚や降納が行われていたという記録もあり、木曾の『沈みたくない』という執念が、海上にとどまらせていたのかもしれない。

 

 曙は先ず十一月五日にアメリカ軍艦載機からのマニラ大空襲を受け、那智を守ろうとした曙は、直撃弾二発を受けて大破、航行不能に陥ってしまった。

 那智を守ることも出来ず、曙は潮に曳航され、燃え盛る炎は必死の鎮火作業でなんとか消し止め、そして港に戻った曙は沈没を防ぐために擱座させられていた。

 そして十三日の大空襲を受け、曙は至近弾多数を受けて再び炎上。さらに隣で艦首切断の状態で係留されていた駆逐艦『秋霜』からも火の手が上がり、そしてその炎は秋霜の重油に引火して大爆発を起こした。

 やがて弾薬庫にも引火、何度も爆発する秋霜の炎に巻き込まれた曙も共に爆発し始め、丸こげになった艦は半ば転覆した状態で破壊され、戦後に浮揚解体された。

 

 沖波は先のレイテ沖海戦後、すぐに「多号作戦」の第二輸送部隊に加わることになった。そこで霞と共にレイテ島に到着するもアメリカ軍からの空襲に遭い、命からがらマニラへと戻って来た。

 しかしマニラもすでに安全な土地ではなく、そして多くの艦がマニラに逃げ延びていることは当時のアメリカ軍には周知の事実だった。

 十一月十三日にマニラを大空襲が襲い掛かり、次々と被弾、沈没、着底していく仲間達を見ながら、沖波もまたこの惨事から逃れることが出来ず、大破着底してしまった。

 

「ボノボノちゃ〜ん」

「曙ちゃ〜ん」

「曙〜」

 

 すると木曾達の元へ朧、漣、潮がやって来た。きっと曙を迎えに来たのだろう。

 曙は「うわっ」とあからさまに嫌そうに言うが、その表情はにこやかであることは、全員にバレていた。

 

曙「何なの、アンタら?」

潮「曙ちゃんがなかなか戻って来ないから」

朧「だから探しに来たんだよ。今日はあの日だし、何かあったら嫌だから」

曙「心配し過ぎよ」ニガワライ

漣「でもさ〜、去年みたいに知らないところで泣いtーー」

 

 漣が言葉を言い終える前に、曙のノーモーション腹パンが炸裂し、漣はその場に倒れた。

 

曙「何を言いたかったのか分かんないけど、行きましょうか」ニコニコ

潮「う、うん」ニガワライ

朧「漣〜、行くよ〜?」ペチペチ

漣「」チーン

 

 その後、曙は木曾達に「じゃあ」と言って朧達と漣を引きずって戻っていった。

 

木曾「相変わらずだな、あいつら」ニガワライ

沖波「あはは……」ニガワライ

初春「わらわ達にも迎えが来たようじゃ」フフフ

 

 そう言って初春が扇子で指した方向を見ると、子日、若葉、初霜と朝霜、早霜、清霜が手を振っていた。

 

木曾「はは、お前らも行ってやれ。俺はもう少し空を見ていたいからな」

初春「左様か……ではわらわは先に失礼するぞ」ニコッ

沖波「私もこれで失礼しますが、寒いので風邪には注意してくださいね」ニコッ

木曾「おう、またな」ノシ

 

 木曾が手を振って二人を送り出すと、二人は木曾に一礼してその場を後にした。

 それを見送ると木曾はまた空を見上げた。

 

 すると、突然視界が暗転した。

 しかし木曾はこんな子どもっぽいことをする人物はすぐに想像がついた。

 

木曾(球磨姉貴か多摩姉貴か北上姉貴だな……)

  「ワ〜ン、ミエナイヨ〜」

 

 棒読みだが取り敢えず乗ってあげた木曾。そんな木曾の反応に何者かは口で「チッ」と不満の声を出した。

 視界が開けると、そこには球磨の姿があり、背後からは多摩が「つれない反応だにゃ〜」とこぼしながら木曾の前にやって来た。

 

木曾「何子どもみたいなことsーー」

北上「ヘイ、マイシスター。しょぼくれてないで笑えよ」カタポンッ

 

 謎の二段構えだった。木曾はどう反応したらいいのか分からず、その北上の隣に居る大井に『助けて』とアイコンタクトを飛ばすと、

 

大井「受け入れるのよ」ドンッ

木曾(何をだよぉぉぉ!)

 

 全く助け舟にならなかった。

 そしてどんな日でも平常運転の姉達に木曾は笑いが込み上げて来て、我慢出来ず大声で笑った。

 そんな大笑いする木曾を見た姉達はそれぞれ木曾に言葉をかけた。

 

球磨「やっと笑ったクマ」ナデナデ

多摩「辛い日だけど、笑っていてほしいにゃ」ニコニコ

北上「そそ、笑って過ごした方がみんなも喜ぶよ、きっと」ニッコリ

大井「一人で抱え込まないで」ヨシヨシ

木曾「なら普通に言えよ」クフフ

 

 そんな姉達に木曾が笑いを抑えつつ返すと、球磨、多摩、北上がクワッと表情を変えた。

 

北上「普通に言ってもインパクト無いじゃん!?」

球磨「それだとただ『そうか』で終わってしまうクマ!」

多摩「そんな普通ではいけないにゃ!」

木曾「そういうもんかね」ニガワライ

大井「そういうものなのよ」クスクス

 

 そして大井は木曾の手をギュッと握り、グイッと木曾をベンチから立たせた。

 

大井「もうお昼になるから、部屋に戻って姉妹で一緒に御飯にしましょ♪」

北上「大井っちの特製魚介鍋だよ〜♪」

球磨「球磨監修の味噌仕立てにゃ」フッフッフー

多摩「しかも豪勢にメス鱈を一匹丸々使ってるにゃ」

木曾「それって俺の為って言うよりは姉貴達が食べたかったんだろ?」

球磨「そうとも言うクマ!」←開き直り

多摩「寒い日は鍋にゃ!」←開き直り

北上「そうだよ」←便乗

木曾「あっはは! 相変わらずだな、あはは♪」

大井「んふふ、さ、行きましょう」ニコッ

 

 大井の言葉に木曾は笑顔で頷き、姉達に引っ付かれつつ、木曾は寮へ戻った。

 

 辛い過去を乗り越え、受け入れ、またそれぞれの姉妹、そして艦隊は強い絆で結ばれるのであったーー。




後編はマニラ大空襲にて沈んでしまった艦娘達について書きました。木曾さんがメインっぽくなりましたが、ご了承を。
前編同様、この日沈んでしまった多くの艦艇、多くの英霊の方々に心からお祈りします。

本編の情報はWikipedia、『大日本帝国海軍 所属艦艇』より得ました。

そして本編には出せませんでしたが、今日は鳳翔さんの進水日です!
おめでとう、鳳翔さん!

ということで、後編も読んで頂き本当にありがとうございました☆

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