艦これ Short Story《完結》   作:室賀小史郎

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あの日の海戦で。の談。

真面目なシーン、独自解釈含みます。

大きな事柄が二つあるのため今回は前編、後編と分けます。
前編のみいつもより大分長いです。


艦これSS二百九十九話 前編

 

 ○○鎮守府、○九○○ーー

 

 防波堤ーー

 

比叡「…………」

 

 提督や多くの艦娘達と黙祷を終えた比叡は、一人で防波堤に腰を下ろし、水平線を眺めていた。

 

 一九四二年の十一月十二日から十五日に渡って第三次ソロモン海戦が勃発した。

 比叡はこの海戦の中、十一月十三日に帝国海軍の戦艦で初めて沈んだ戦艦となってしまった。

 

 この海戦は海戦史上最も乱戦となったものだった。

 それでも比叡はアメリカ軽巡洋艦『アトランタ』を沈めるなどの戦果をあげた。

 しかし比叡は探照灯を照射して敵艦隊に突撃していたため、砲撃の的ともなってしまった比叡は、巡洋艦や駆逐艦からの集中砲火を浴び続けた。更には魚雷も受けてしまい戦闘力はどんどん低下していった。

 浸水によって舵が取れなくなってしまった比叡は旋回を始めるも、夜が明けと同時にアメリカ軍が得意の航空戦が始まり、回避行動は上手くとれない比叡には多くの爆弾が直撃した。

 そして昼過ぎには機関室の全滅が報告された。

 

 復旧を諦めなかった西田正雄艦長(当時大佐)も、この報告によって遂に比叡の航行を断念し、総員退艦命令を出した。

 そんな中、西田艦長自身は比叡と共に自決するつもりで生還を望む部下達の手を払い退けた。

 止むなく乗員は西田艦長を強引に抑えこみ、未来の連合艦隊司令長官を死なせてなるものかと、涙をのんで西田艦長を駆逐艦『雪風』へと移乗させた。

 やがて雷撃処分命令が下され、雪風は比叡から距離を置く。しかしそこに不幸な知らせが舞い込んだ。

 その知らせは「機関室全滅は誤報」とのことで、この知らせに西田艦長は愕然とした。

 雷撃処分の命令そのものは取り消されたものの、雪風が再び比叡の元へ向かうことは無く、比叡はそのまま海へと沈んでいった。

 

 当時のことを思い起こす比叡の側へ、ある艦娘達が近寄った。

 

金剛「比叡、ずっとそこに居ると身体が冷えちゃいマスヨ〜♪」

榛名「部屋へ戻ってお茶にしましょう」ニコッ

霧島「さ、比叡お姉さま」ニコッ

五月雨「比叡さん……」

雪風「行きましょう?」

 

 みんなの誘いに比叡は明るい笑顔を見せた。

 

 霧島も日付けは違うがこの海戦で沈んだ艦の一隻である。

 霧島が沈んだのは十一月十五日の同海戦・第二夜で霧島が対峙したのは、アメリカ戦艦『ワシントン』及びアメリカ戦艦『サウスダコタ』だった。

 この二隻は大和と同時期に建造されたの最新鋭戦艦で、さらに霧島の主砲35.6cm連装砲を上回る40.6cm三連装砲を搭載していた上に、霧島の艦齢は二十七年と、あらゆる面で不利だった。

 しかし霧島は高雄・愛宕と共に、この二大戦艦に挑み、特にサウスダコタに対しては、探照灯を投射して三隻で翻弄し、一気に戦闘能力を奪い、戦場から撤退させた。

 この時ワシントンは戦闘を行っている戦艦二隻のどちらがサウスダコタなのかの判別がつかず、同士討ちを避けるため砲撃を控える他なかったという。

 

 ところがサウスダコタの撤退によって、洋上に残る戦艦が霧島であると確証を持ったワシントンが反撃。

 照明弾を打ち上げて霧島の姿を確認したワシントンは、性能の高いレーダーを駆使し、40.6cm三連装砲から九発の砲弾を立て続けに撃ち込み、正確無比な砲撃によって霧島は瞬く間に被弾、甚大な被害を受けてしまった。

 霧島もすぐに反撃するもワシントンが追撃に出ることなく撤退したため、ここで第二夜の海戦は終わった。

 しかし霧島は一度鎮火した火災が再び起こり、回復や曳航も不可能となった。

総員退艦命令が下った霧島は比叡のあとを追うように海へと沈んでいった。

 

比叡「はい♪ 気合! 入れて! 飲みます!」

五月雨「比叡さん」ニコッ

雪風「手繋いで行きましょう♪」

比叡「勿論♪」

 

 そして比叡は五月雨達の手では無く、二人をギューッと抱きしめて大好きな姉妹達と笑顔で寮へと戻るのだった。

 

金剛「霧島はワタシ達と手を繋ぎマスカ?」ニコニコ

榛名「遠慮する必要ないよ」ニッコリ

霧島「ふふ、ではお言葉に甘えさせて頂きますね♪」

 

 霧島も金剛、榛名と仲良く手を繋ぎ、仲良く比叡達を追いかけるのだった。

 

 

 ○九三○ーー

 

 重巡洋艦寮、青葉&衣笠部屋ーー

 

衣笠「…………」

 

 衣笠は困っていた。何故なら、

 

青葉「…………」ギューッ

 

 先程から青葉が抱きついてきて離れないのだ。

 

衣笠「青葉〜、私は大丈夫だかrーー」

青葉「やです! 今日は離しません!」ヒシッ

衣笠「もぉ〜……」ニガワライ

 

 衣笠もこの海戦で沈んでしまった艦の一隻であり、第六戦隊では衣笠だけが唯一出撃した海戦だった。

 衣笠はこの海戦の前の十月十三日、十四日に金剛・榛名達と共に、ヘンダーソン飛行場を徹底的に破壊し、壊滅状態に陥れ、その一ヶ月後の十一月十三日にも攻撃を加えて復旧を妨害する作戦に参加していた。

 しかし、この時の日本軍は重要な事に気が付かないでいた。それはヘンダーソン飛行場の滑走路は、一本だけではなかったということだ。

 そのことに気付くこともなく翌十四日、日本軍の目から無傷で残った滑走路から多くの航空機が飛び立ち、戦場にはアメリカ空母『エンタープライズ』も現れ、戦況は一気に逆転されてしまう。

 そして各艦が被害を出す中、特に衣笠には攻撃が集中し、艦橋付近に爆弾が直撃して炎上。更に多数の至近弾により浸水が止められなくなり、ついに衣笠は沈没してしまった。

 

 青葉はそんな衣笠の最後を知っているので、今日、明日ばかりは衣笠から離れないと心に決めたのだ。

 自分が大破し修復している最中に妹が沈んだのだから、青葉としても辛い日なのである。

 

衣笠「青葉〜」

青葉「どうしたんですか?」

衣笠「せめて手にしてくれない? ずっと抱きつかれてるとなんか熱くって」ニガワライ

青葉「むぅ……仕方ないですね。衣笠が迷惑するのは不本意なので手にします」ギュッ

衣笠「うん、ありがと♪」

青葉「今日は後で古鷹さん達も加えて、衣笠のためにケーキ作りをしますから楽しみにしていてくださいね」ニコニコ

衣笠「嬉しいなぁ♪ でも青葉ってケーキ焼けたっけ?」

青葉「失敬な! これでもお料理は得意なんですからね!」キリッ

衣笠「んふふ、じゃあ楽しみにしてるね」ニコッ

青葉「はい♪」

 

 その後、古鷹と加古も加わり青葉を中心にケーキ作りをしたが、結局衣笠も見ているだけというのは性に合わず、第六戦隊でケーキを作ることになったとか。

 

 

 一○○○ーー

 

 駆逐艦寮、談話室ーー

 

夕立「むぅ〜、退屈っぽい〜」

綾波「ふふ、仕方ないよ」ナデナデ

暁「こんな日こそ、穏やかに過ごすべきよ。せっかく司令官がお休みをくれたんだから」

夕立「夕立、活躍して提督さんに褒めてもらった方がいいっぽい」

暁「」ヤレヤレ

綾波「」クスクス

 

 綾波と暁、夕立の三人は談話室で敷波と響、春雨を加えた組み合わせで穏やかに過ごしていた。

 綾波達三人もまた同海戦で沈んでしまった艦である。

 

 第三次ソロモン海戦・第一夜戦にて暁は先陣を切って奮闘した艦である。

 比叡・霧島達を率いて先頭にいた暁は、眼前にアメリカ、オーストラリア連合艦隊を確認し、勇敢に連合艦隊の先頭にいたアメリカ軽巡洋艦『アトランタ』へ向けて探照灯を照射、戦闘の開始を知らせた。

 しかし探照灯は諸刃の刃であり、暁はたちまち集中砲火の的となってしまう。

 それでも負けじと暁はアトランタへ向けて主砲、さらには魚雷も発射し、アトランタに致命傷を負わせた。

 しかし暁は砲撃の嵐に見舞われて分断寸前で航行不能に陥り、やがてその船体は二つに割れ、海へと沈んでいった。

 

 それでもこれは乱戦となった第三次ソロモン海戦の序章に過ぎなかった。

 

 同海戦に参加していた夕立は春雨とアメリカ艦隊を発見すると、遮二無二突撃した。

 この時、夕立は既に七隻の艦影を確認していたと言われ、つまりは駆逐艦二隻で七隻以上の艦隊に挑んだのだ。

 夕立と春雨の行動に混乱した敵艦隊。その中でアメリカ戦艦『サンフランシスコ』は味方に誤射してしまう事故も起き、更に混乱が広がった。

 そして夕立はとにかく徹底して撃ちまくった(この時、春雨は魚雷装填のため夕立とは距離を置いていた)。

 夕立はここから狂った様に暴れ回り、比叡の探照灯から放たれた光が夕立に獲物の存在を知らしめ、夕立は主砲を轟かせ、魚雷も片っ端から発射した。

 

 相手は比叡の相手で手一杯だったこともあり、夕立は再びこの艦隊から抜け出るまで一発も被弾せず、アメリカ駆逐艦一隻を大破させ、続いて至近距離で魚雷を叩き込んで新たにアメリカ軽巡洋艦、駆逐艦を立て続けに沈め、更にはアメリカ重巡洋艦、軽巡洋艦と損害を与えるといったずば抜けた戦果をあげた。

 

 しかしアメリカ艦隊の攻撃は夕立に集中し、体躯が小さな駆逐艦『夕立』はその集中砲火に耐え切れず大炎上し、とどめは夕立が砲撃を喰らわせた敵重巡洋艦『ポートランド』によってソロモン海にその身を沈めていくことになった。

 

 そして綾波も暁達とは日にちは違うが同海で沈んだ一隻である。

 第三次ソロモン海戦・第二夜が始まった十一月十四日。

 前日に日本海軍は比叡を失い、三水戦旗艦川内と浦波・綾波・敷波は難攻不落のヘンダーソン飛行場砲撃に際して哨戒活動を行っていた。

 そして三水戦は川内・綾波と浦波・敷波の二手にわかれ、小さなサボ島を両側から哨戒することになった。

 

 やがて川内は東側に回っていた浦波・敷波組から敵艦隊発見の報を受けた。

その正体は後に霧島や高雄達が戦うこととなるアメリカ戦艦『ワシントン』と『サウスダコタ』と駆逐艦四隻からなる艦隊だった。

 川内は西側を綾波に任せ、自身は北側をまわって浦波・敷波を援護、綾波は南側から東側にまわって合流し、双方から敵艦隊を撃退することになった。

 やがて川内・浦波・敷波は敵艦隊と交戦を開始、その際に「敵艦隊発見」と通信をしたが、綾波にはサボ島が障害となってその通信が届いてなかったと記録されていて、綾波は距離8,000m先に同じ艦隊を発見した。

 三隻が既に攻撃を行っていると思った綾波は、臨戦態勢をとって敵艦隊へと突撃するも、川内達はこの戦いを形勢不利と捉えて一時撤退、戦場から離脱してたのだ。

 

 その離脱を知らない綾波は、単艦で戦艦二隻を含む六隻の艦隊に立ち向かうことになってしまった。

 

 距離にして5,000mに詰め寄った時、アメリカ艦隊は綾波に気付き砲撃を開始。

 それとほぼ同時に艦長作間英邇中佐も砲撃を下令すると、その初弾がいきなりアメリカ駆逐艦『プレストン』と『ウォーク』に命中し、二隻は瞬く間に炎に包まれた。

 アメリカ艦隊も反撃を行い、綾波は一番魚雷発射管が故障し、内火艇が損傷してガソリンに引火してしまい火災が発生した。

 不幸なことにその炎が一番魚雷発射管の魚雷を包み、近い内に爆発することは誰が見ても明らかとなった。

 

 それでも綾波は攻撃を止めようとはせず、サウスダコタに対しても命中弾を記録し、これによってサウスダコタは電気系統損傷によって副砲とレーダーが使えなくなったとの記録もある。

 この影響はこの期に行われる霧島との戦いでも大きく現れ、サウスダコタは早期撤退を余儀なくされた。

 

 また損傷していない二番、三番魚雷発射管から魚雷が次々と放たれ、その魚雷はまたも正確に敵艦隊を襲撃し、炎上中のウォークにとどめの一発を食らわせ、弾薬庫に引火して大爆発を起こしたウォークは沈没。

 更に駆逐艦『ベンハム』の艦首にも致命傷を与え、その場こそ逃げ切るものの、翌日にベンハムも沈没。

 

 そこへ別働隊である長良と四隻の駆逐艦が合流し、砲撃は休むことなく繰り広げられた。

 炎上中だったプレストンは格好の獲物となり、電の苛烈な攻撃によって沈没。

 また駆逐艦『グウィン』も白雪の砲撃によって中破し、ベンハムと共に戦線離脱した。

 

 しかしそこへ二隻の戦艦からの攻撃が綾波に直撃、二番砲塔は沈黙し、機関室にも甚大な被害を負った綾波は遂にその足が止まってしまった。

 

 勇猛果敢に敵艦隊挑んだ綾波は、至るところで火災が発生する大惨事に見舞われたが、浸水はすることなく、爆発前に総員退艦命令が下り、浮遊物を投げ捨て、それに掴まって脱出する乗員達は、自身の乗る船がもたらした大戦果を前に興奮が収まらず、軍歌を歌いながら漂流する者もいたという記録が残っている。

 

 乗員の脱出が完了後、綾波はそれを確認したかのように大爆発を起こし、そして乗員達に見守られて沈んでいった。

 

夕立「あの時は夕立とっても頑張ったぽい♪」

春雨「そうですね」ニコッ

暁「暁だって頑張ったんだから」フンス

響「そうだね」フフ

綾波「綾波も頑張りましたよ〜♪」

敷波「綾波と夕立はずば抜け過ぎだと思うけどね」ニガワライ

 

 当時のことを思い出し互いの生き様を称え合っていると、夕立が目をギラギラさせて立ち上がった。

 

夕立「やっぱり提督さんの所に行って出撃させてもらうっぽい! それで褒めてもらう!」キラキラ

暁「だかrーー」

響「じゃあ行こうか。出撃出来なくても何かしら司令官のお手伝いをすれば、きっと褒めてくれるだろうから」フフリ

暁「響まで!?」

綾波「敷波も行きたいよね」ニコッ

敷波「あ、あたしは別に……////」プイッ

春雨「」ニガワライ

 

響「来たくなければ来なくてもいいよ。私と夕立達で行くるから」ニヤリ

夕立「そうそう。穏やかに過ごしたいんでしょう?」

暁「あなた達だけじゃ司令官に迷惑かもしれないわ! だ、だから私達も行く! 敷波達も行くわよね!?」

春雨「え? はい、お供します」ニコッ

敷波「し、仕方ないな〜////」エヘヘ

響(結局こうなるんじゃないか)クスクス

綾波「素直じゃないですね〜」クスクス

夕立「えへへ♪ 最初から素直に言えばいいのに〜」クスクス

暁「ほ、ほら行くわよっ////」

 

 こうして綾波達は敷波達と共に提督の元へ赴き、提督の書類仕事を手伝うのだった。

 そしてそのお礼に頭を撫でてもらい、みんな揃って笑みをこぼすのだったーー。




前編は第三次ソロモン海戦について書きました。
第三次ソロモン海戦でも多くの艦が沈んだので、この日にまとめました。
そして説明が多くなってしまったことも重ねてご了承お願い致します。

この海戦で亡くなった多くの艦、そして多くの英霊の方々に心からお祈りします。

本編中の情報はWikipedia、『大日本帝国海軍 所属艦艇』から得ました。

では前編はかなり長くなってしまいましたが、読んで頂き本当にありがとうございました!
後編もよろしくお願い致します。

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