艦これ Short Story《完結》   作:室賀小史郎

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駆逐艦メイン。

真面目なシーン、独自解釈含みます。


艦これSS二百九十七話

 

 ○○鎮守府、○七○○ーー

 

 埠頭ーー

 

 埠頭では提督と艦娘達が海へ向かって黙祷を捧げていた。

 一九四四年の同日。レイテ島増援輸送作戦(多号作戦)中、オルモック湾でアメリカ軍艦載機の攻撃を受け、駆逐艦『島風』と『長波』が海へ沈んでしまった日なのだ。二名の他にも駆逐艦『浜波』や『若月』。輸送船が多く沈められた。

 この対空戦闘で駆逐艦『朝霜』を除く護衛部隊と船団は全滅してしまった。

 

 此度集まった面々は島風、長波、朝霜、潮、初春、霞、大和、長門、金剛、榛名、羽黒、矢矧、浦風、雪風、浜風、磯風と並び、更には各姉妹艦が整列している。

 

 島風から霞までは多号作戦に参加した面々であり、残りの大和達は作戦の掩護のためブルネイ湾から第一遊撃部隊の戦艦部隊として出撃していた面々だった。

 

島風「…………」

 

 早々に黙祷を終えて姿勢を正した島風は、まっすぐに水平線を見つめた。

 

長波「」ギュッ

 

 すると次に黙祷を終えた長波が島風の手をギュッと握りしめて、微笑みを見せた。

 島風はそんな長波に笑顔を返して、自分からもギュッと長波の手を握り返すのだった。

 

 多号作戦に参加した島風と長波は、島風は第三次輸送部隊、長波は第四次輸送部隊に組み込まれた。

 

 先のマニラ大空襲の影響で出遅れた第三次輸送部隊よりも早くに行動を開始した第四次輸送部隊は空襲を受け、輸送船を失いながらも兵員輸送には成功。

 しかしその帰りの最中で長波・朝霜・若月は第三次輸送部隊の護衛任務に就くことになり、無事に合流を果たすもオルモック湾に進入する直前に事態が急変した。

 日が高くなった時、その空に黒い点が移り始めたのだ。

 アメリカ軍艦載機が凡そ三五○機で空を埋め尽くしたのだ。

 司令部は輸送船に揚陸を急がせるも、アメリカ軍はこの輸送船を集中攻撃。煙幕を張ったものの、ここで戦闘能力を持たない上に低速の輸送船は艦載機によって全滅。

 そして島風や長波達に集中攻撃が襲い掛かった。

 

 二水戦司令官の早川幹夫少将は島風の誘爆を防ぐために魚雷を投棄させ、身軽になった島風は上井宏艦長の巧みな操艦で攻撃を掻い潜り、島風は最後の時まで直撃弾や雷撃を受けることなく、その快速性がいかに有能であったかを証明した。

 しかし至近弾や機銃掃射による被害は絶え間なく続き、小さな傷によって島風は徐々に蝕まれていった。

至るところで浸水が発生し、さらに早川司令が機銃を受けて死亡。他にも幹部が相次いで死傷していき、沈没しないだけで被害は甚大だった。

 

 そこに機関から突如として蒸気が勢いよく噴出し、機関回転数が急激に低下。あまりの過負荷に機関が悲鳴を上げ、オーバーヒートしてしまったのだ。

 あれだけ縦横無尽に走り回っていた島風は、その要求に耐え切れずについに航行不能。

救助のために朝霜が接近するも、集中豪雨のように降り注ぐ機銃掃射に阻まれた。

 島風の生存者は最後に被害を免れたカッターに移り、辛うじて退避することには成功するも、他の内火艇やカッターは次々と破壊され、殆どの乗員が死亡してしまった。

 そして島風は冷却機能も停止し、暴走する機関が最後は大爆発を起こして沈没してしまった。

 

 一方の長波は弾薬が底をついしまったため、その後、艦橋付近に被弾、右舷に至近弾を受けた長波は右に傾きながら沈んでしまった。

 

 島風と長波が仲良く手を繋いでいると、その後ろから朝霜が二人の肩に手を回して二人の間に顔をヌッと出した。

 

朝霜「な〜に二人して仲良くしてんだよ♪ あたいも混ぜろよな♪」ニシシ

島風「勿論♪」

長波「除け者になんてしねぇよ」ニコッ

朝霜「よっし、なら許す♪」

 

 朝霜はそう言うと二人の肩に回した手にまたグッと力を入れた。

 この日の空襲で唯一朝霜だけがこの空襲を生き延びた。二人が沈むのを目の当たりにした朝霜にとって、二人がこうして立っていることがとても嬉しいのだ。

 そして彼女が夕雲型最後の一隻として「天一号作戦」の一員として名を刻むこととなったのはここに居るみんなが知っている。

 

清霜「朝霜姉さん、嬉しそう♪」

霞「あいつはいつだって能天気じゃない」フフフ

清霜「あはは、そうかも♪」

初春「この日に亡くなった英霊達はさぞ愉快に眺めていることじゃろうて」クスクス

潮「こんな日に笑ってるなんて何て奴らだ〜ってお酒飲んでるかもね」ニコニコ

足柄「亡くなってしまったみんなが守ったから、今の世があるんだもの。湿っぽいよりはきっと今の方が喜んでくれるわよ」ニコッ

 

 島風達の賑やかな光景を見ながら、黙祷を終えた面々は揃って微笑みを浮かべるのだった。

 

提督「では全員、最後に水平線へ敬礼!」

 

 そして提督の最後の号令で全員はピシッと美しい敬礼をした。

 それから敬礼をし終えると、

 

島風「提督〜、朝御飯一緒に食べよ〜♪」

 

 島風が提督の胸にダイブしながら言った。

 提督は「勿論だ」と言って島風の頭を優しく撫でると、他のみんなも「私も!」「ワタシも!」と提督の周りに集まった。

 

長波「相変わらず提督は人気だな〜」ニガワライ

朝霜「なはは♪ でもいつもの光景だろ♪」

長波「ま、変わんないのがここの強みだからな〜」

 

島風「二人共〜! 早く早く〜! 置いてっちゃうよ〜!」ノシ

 

長・朝『今行くよ〜!』ニコッ

 

 そして島風のすぐ側に駆け寄った長波と朝霜はそれぞれ島風の手を握った。

 

長波「こういう日くらい焦らずに歩こうぜ?」

朝霜「そうそう♪ あたい達はみんなで一つなんだからさ♪」

島風「うん!」ニパッ

 

 こうして島風達を中心に一同は仲良く食堂へ向かうのだったーー。




今日は本編に書きました通り、艦これでは島風ちゃん、長波ちゃんが沈んでしまった日です。
この日失くなった多くの英霊の方々、駆逐艦『島風』や『長波』『浜波』『若月』、そして輸送船に心からお祈りします。

因みに長波ちゃんは夕雲型で最も長いこと活躍していた艦で、夕雲ちゃんから清霜ちゃんまで、すべての姉妹艦と戦うことができた唯一の艦でもありました。
更に戦時中の第二水雷戦隊所属日数が804日と、2位の陽炎と黒潮の517日を大きく引き離しての最長記録保持者でもあります。

本編内と上記の情報はWikipediaと『大日本帝国海軍 所属艦艇』から得ました。

そして最後に本編に出せませんでしたが、本日は江風ちゃんの竣工日でもあります!
おめでとう☆

では後書きが長くなりましたが、今回も読んで頂き本当にありがとうございました!

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