艦これ Short Story《完結》   作:室賀小史郎

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重巡洋艦メイン。

少し真面目なシーン、独自設定、独自解釈含みます。


艦これSS二百九十一話

 

 ○○鎮守府、○五三○ーー

 

 埠頭ーー

 

那智「………………」

 

 那智は早朝に一人で埠頭に立ち、まっすぐと夜明け前の空を見つめていた。

 今日は重巡洋艦『那智』がマニラ湾でアメリカ空母から攻撃を受け沈没した日である。

 

 一九四四年の同日。那智は先のスラバヤ沖海戦で起きた最上との衝突により大破し、マニラ港へ一時撤退した。

 那智はそこで再起をかけるも、アメリカ軍はそんな猶予を与えてくれるほど甘くはなく、この日にマニラへやってきたのはアメリカ空母『レキシントン』(二代目)だった。

 艦載機による度重なる空襲により、弾薬庫に火が回り大爆発。那智は艦体が三つに割れ、海へと沈んでいった。

 

那智「………………」

 

 那智は当時のことを思い浮かべ、海へ深くお辞儀をし、そのままの姿勢で静かに黙祷を捧げた。

 あの日共に戦い、運命を共にした英霊の人々に、心からの敬意と感謝。

 そして今ある自分のことをあの日の英霊の人々に報告した。

 

 那智が黙祷を終えて姿勢を直すと、思わず小さく笑ってしまった。

 何故なら目の前の水平線は明るく白んで日の光が波に反射していたからだ。

 黙祷をしていた時間がこれ程長く過ぎたのかと思うと、那智は笑わずにはいられなかった。

 

 それから那智はしっかりと敬礼をした後、海に背を向けると、

 

「那智」

「姉さん」

「那智姉さん」

 

 そこには妙高を始めとする姉妹艦。関わりの深い戦友達とその姉妹艦。そして提督が那智を笑顔で出迎えていた。

 

那智「何だみんなして……////」

 

 みんなが居る理由は分かっていた那智だったが、照れ隠しでわざと知らない振りをした。

 そんな那智に潮や早霜が駆け寄った。

 

潮「今日は那智さんにとって特別な日ですからね♪」

早霜「みんな、あの時の那智さんや英霊の方々に黙祷を捧げに来たんです」フフフ

那智「そ、そうか……なら早く捧げるといい……////」プイッ

 

霞「何照れてんだか」クスッ

曙「いつもはクールなくせにね」クスクス

 

那智「〜〜////」

 

提督「はは、そこまでにしてやれ。我々は整列だ」

最上「しっかり黙祷しなきゃね!」

子日「お〜♪」

初春「前に進み過ぎて海へ落ちるでないぞ」フフフ

 

初霜「若葉はちゃんと起きて!」ユサユサ

若葉「二十四時間、寝なくても大丈夫……」ウツラウツラ

不知火「寝惚けながら言うセリフではないわね」

初雪「私はちゃんと起きた」ホッペズキズキ

阿武隈「あはは……」ニガワライ

   (曙ちゃんと霞ちゃんが叩き起こしたらしいんだけどね……)

 

 こうして綺麗に整列した提督達は揃って黙祷を捧げた。その光景を見た那智は目頭を熱くさせるのだった。

 

 

 重巡洋艦寮、妙高型姉妹部屋、一一○○ーー

 

神風「………………」ムッスー

那智「」ニガワライ

春風「」クスクス

 

 那智は困っていた。

 つい数分前、神風と春風が部屋を訪ねて来たかと思ったら、神風がずっとこの調子なのだ。一方の春風は口を押さえて笑い声を堪えながらいるので、どんな状況なのかさっぱりだった。

 妙高や妹達は神風達が訪れる前に酒保へ買い物へ行ってしまったため、助け舟も求められない状況だ。

 

那智「どうしたんだ、神kーー」

神風「聞いてくださいよ! 那智さん! みんな酷いんですよ!?」クワッ

那智「う、うむ……」

 

 神風は身を乗り出して那智に説明を始めた。

 

神風「今日は那智さんの大切な日なのに、みんな私には声をかけてくれなかったんですよ!? 酷いと思いませんか!? あ、勿論後で私もしっかり黙祷しましたけどーー」

 

 説明し始めた神風は機関銃のように次から次へと言葉が出て来る。数分間の間、那智はそれを聞いてウンウンと相槌を返すことしか出来なかった。

 

神風「確かに夜遅くまで遠征任務でしたけど、それとこれとは違うのに……」ブツブツ

 

 神風としてはみんなと一緒に黙祷をしたかったのだ。

 神風は妙高型姉妹を心から尊敬していて、こういう大切な日に除け者にされたのが悔しいのだ。

 そんな神風に那智はクスッと小さく笑った後で、神風の頭をポフッと優しく叩くように撫でた。

 

神風「那智さん?」

那智「そこまで考えてくれてありがとうな。あの頃の私も、この日亡くなった者達も、お前の思いにきっと喜んでいるだろう」ポフポフ

神風「そんな……」

那智「そう謙遜するな。重巡洋艦『那智』としてお礼を言わせてくれ」ニコッ

神風「はい!」ニパッ

 

 やっと落ち着いたところで今度は春風が口を開いた。

 

春風「神風お姉様としては納得行かないことかもしれません。ですが、今年だけしか出来ない訳ではありませんよ」ニコッ

 

 春風の言葉に神風はまだピンと来ていない様子で小首を傾げた。すると今度は那智が神風に分かるように説明した。

 

那智「要するに、我々にはまだまだ時間があるということだ。今年は一緒に黙祷を捧げることは出来なかったが、また来年になったらその時は共に黙祷を捧げよう」

神風「……はい!」

那智「今でも我々は戦場へ身を投じてはいるが、我々は有能な指揮官の元にいる。慢心さえしなければ必ず来年、そして再来年と同じ時を迎えることが出来るだろう」

神風「その時はしっかり黙祷します!」フンス

春風「ふふ、毎日を英霊の方々やあの戦争で沈んでしまった艦船に感謝と敬意を払いましょうね」ニコニコ

神風「勿論! みんなに恥じないよう頑張るんだから!」

那智「その意気だ」ニカッ

 

 その後酒保から妙高達が戻り、みんなで仲良く過ごした。

 那智はそんな穏やかな日に感謝しつつ、これからもこの日々を守ろうと誓うのだったーー。




今日は本編に書きました通り、重巡洋艦『那智』が沈んでしまった日です。
重巡洋艦『那智』と英霊の方々に心からお祈りします。

そして今回本編には出せませんでしたが、今日は朝雲ちゃんと巻雲ちゃんの進水日です!
二人共おめでとう♪

では今回も読んで頂き本当にありがとうございました☆

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