艦これ Short Story《完結》   作:室賀小史郎

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潜水艦メイン。

少しシリアス、独自設定、独自解釈含みます。


艦これSS二百八十三話

 

 ○○鎮守府、一八○○ーー

 

 埠頭ーー

 

提督「…………」

 

 提督は埠頭で直立不動のまま艦隊の帰りを待っていた。

 しかし、その表情は険しく、不安な気持ちを必死に押し殺していた。

 

 今行っているのは出撃任務ではなく、捜索任務なのである。

 約三時間前、執務室へ出撃任務へ向かった今回の第一艦隊旗艦のイクからの一つの知らせ入った。

 

『ニムとの通信が途切れた』

 

 その知らせを受け、提督は五十鈴、由良、鬼怒の三名。そして残りの各潜水艦を緊急招集した。

 招集理由を説明した提督は直ちにニムの捜索隊として、第二・第三・第四艦隊の編成を発表。

 

 第二艦隊   第三艦隊  第四艦隊

 旗艦:五十鈴 旗艦:鬼怒 旗艦:由良

    神通     川内    那珂

    秋雲     朝潮    伊八

    夕雲     大潮    伊四○一

    巻雲     満潮    呂五○○

    風雲     荒潮    まるゆ

 

 三隊は即座にイク達との合流地点へ急行した。

 

 そして更に提督は鎮守府から扶桑達を中心とした瑞雲隊をニムの通信が途切れた場所やその周辺へ発進させた。勿論五十鈴を始めとした軽巡洋艦の者達には九八式水上偵察機(夜偵)とソナーも装備させた。

 

提督「…………ニム……」

 

 提督は自分の今回の采配を悔いた。

 何故なら本日は伊号第二十六潜水艦にとって重要な日なのだ。

 レイテ沖海戦に参加した伊号第二十六潜水艦はこの日を最後に十一月二十一日に亡失認定が取れるまで消息不明となったのだ。

 

 提督もそのことは当然分かっていた。なので当初は編成から除外していたが、ニムの『任務へ赴きたい』という進言があった。そしてイク、ゴーヤ、イムヤからも『私達が一緒だから』と言われた提督はニムを編成に入れた。念のため応急修理要員を乗せたが、戦いの中では何が起こっても不思議ではない。

 提督は悔いたが、それではニムが帰って来ないと自分で認める形になると思い、埠頭でニムの無事を祈り、艦隊からの連絡を待った。

 

 すると海の方から一機の瑞雲が飛んで来た。

 

 瑞雲は提督の近くへ着陸すると、提督へ報告するため提督が差し出した手の上に乗った。

 

瑞雲妖精「報告致します! 通信が途絶えた点から五十キロの所で無事に伊二十六を発見! 小破していますが命に別状無し! 只今艦隊に護衛されて帰投中です!」

提督「そうか……ご苦労だった。引き続き大淀にこのことを報告しに向ってくれ」

 

 提督の言葉に瑞雲妖精は「はっ!」と敬礼して返し、また瑞雲に乗り込んで大淀が待つ伝令室へと瑞雲を飛ばした。

 それを見送った提督は透かさず無線を取り出し、各瑞雲隊の指揮を執る扶桑達へ声をかけた。

 

提督「皆、聞こえたな?」

 

扶桑『はい。こちらにも先程各瑞雲妖精さんから報告がありました』

山城『小破とありましたが、無事で何よりでした』

伊勢『私達も今から提督の元へ向かいます』

日向『念のためタンカーとバスタオル、それと毛布も持っていく』

 

提督「あぁ、よろしく頼む」

 

 提督がそう言うと扶桑達は『了解』と返した。

 

提督(良かった……本当に……)

 

 心底安心した提督だったが、ニムの姿をこの目で確認するまでは気を緩めんとし、提督はまた海へ視線を移してその帰りを待った。

 

 その後、扶桑達が提督の元へ到着。

 それから暫くすると海の方から多くの人影が見え、こうしてニムは無事に帰投することが出来た。

 

 

 一九○○、執務室ーー

 

 ニム達がドックで修復作業や精密検査に入った後、提督は五十鈴、由良、鬼怒から報告を受けていた。

 

提督「……つまり、戦闘中に通信機がやられたことにより、味方とのコンタクトが取れず、その場に留まらずに敵からの索敵範囲外へ退避していた、と」

五十鈴「えぇ。戦闘が終わったことは分かったみたいだけど、どうなるか分からないから単独帰投は避けて索敵範囲外で留まってたみたい」

由良「捜索中、二回敵艦隊と交戦がありましたが、どちらも川内さんや神通さん、那珂ちゃんのお三方のお陰でこちらは全く被害がありませんでした」ニガワライ

鬼怒「パナかったよ〜! あの三人が動いたらもう敵は沈んでたもん!」

提督「…………そうか。とにかくニムの捜索、ご苦労だった。捜索にあった皆には後日、改めて私からお礼をしよう。各自補給をしてその後は休んでくれ」

 

 提督の言葉に五十鈴達は敬礼し『はいっ!』と返すと、執務室から退室して行った。

 提督はその背中に『本当にありがとう』と胸の中で感謝をし、イク達が来るのを待った。

 

 

 一九三○過ぎーー

 

 コンコンーー

 

提督「入りなさい」

 

 提督の言葉で執務室のドアがガチャっと開くと、始めにゴーヤとイムヤ、そしてイクに手を引かれる形でニムが入室した。

 四人は提督の座る机の前に横並び、提督の言葉を待った。この時、ニムは勿論だが、イク達も提督からどんなことを言われるか気が気ではなかった。

 

 すると、提督が静かに立ち上がり、ゆっくりとニムの元へ歩み寄った。普段は優しい提督が無表情のまま自分の方へ真っ直ぐと向って来るのを見て、ニムは恐怖で思わず目をギュッと瞑って俯いた。

 

 ふわっ

 

ニム「?」

 

 その次の瞬間、ニムは温かい感触に包まれた。

 提督がニムを優しく抱きしめていたのだ。

 

提督「良くぞ、無事に戻って来た……」ナデナデ

 

 提督はニムにそう声をかけながら何度もニムの頭を撫でた。そして何度も何度も「すまなかった」とニムへ謝った。

 

ニム「てい……とく……提督……ごっ……ごめんなさぁぁぁい!」ギューッ

 

 するとニムも提督へ大声で謝り、安堵からか提督の腕の中で大粒の涙を流した。そんなニムを提督は落ち着かせるように、ニムの背中をポンポンとあやすように優しく撫で、「謝らなくていい」、「君が生きてさえいてくれれば」とニムへ温かい言葉をかけた。

 

提督「イク達も良く無事で帰って来た。そしてニムの捜索、ご苦労だったな。見つけ出してくれてありがとう」

 

 そして提督はニムをあやしながら、今度はイク達へそう言葉をかけた。

 

イク「ごめんなさいなの〜!」

ゴーヤ「てーとく、ごめんなさい!」

イムヤ「ごめんなさい!」

 

 提督の言葉にイク達も謝りながら提督の背中や腕に抱きついた。イク達は今回のことは自分達の責任と考え、責任を問われるものだと思っていた。

 それでも提督から出た言葉は労いと感謝の言葉だった。

 

提督「皆が謝る必要はない。私の慢心が招いたことだ。責任は全て私にある」

ゴーヤ「でもぉ!」

イク「イク達が大丈夫って言ったの!」

イムヤ「私達が悪かったの!」

提督「皆はちゃんとその後も捜索し続けた。誰も皆を責める者はいない。もし居るなら私がその者を許さん」

 

提督「もしそれでも納得がいかないのであれば、次から気を付ければいい。ちゃんとこうして皆が無事で帰って来たんだ。我々にはまだ改善の余地がある」

 

 提督は自分にも言い聞かせるようにニムやイク達へ言葉をかけると四人は泣きながらも『はい!』と力強く返事をし、それから暫くして四人は泣き止み、落ち着きを取り戻した。

 

 その後、イク達が心配で執務室の外で様子を伺っていたはち、しおい、ろ、まるゆに気が付いていた提督が四人に声をかけ、後に提督は八人に遅めの晩御飯を食堂でご馳走した。

 食堂で間宮達の料理を美味しそうに食べるニムやイク達を提督は優しい眼差しで見つめ、もうこのようなことは起こさないと誓うのだったーー。




今回は少しシリアスな回にしました。
そして本編に書きました通り、本日は伊二十六潜水艦が消息不明となってしまった日です。
伊二十六潜水艦とその乗員である英霊の方々に心からお祈りします。
そして前回に書きましたが、本日は駆逐艦『不知火』そして、艦これではまだ実装されていない『藤波』が沈んでしまった日でもあります。
この二隻と英霊の方々にも同じく心からお祈りします。

立て続けでほのぼのから程遠い回になりましたが、どうかご了承を。

では今回も読んで頂き本当にありがとうございました!

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