艦これ Short Story《完結》   作:室賀小史郎

288 / 330
後編になります! よろしくお願い致します!

いつもより長めです。


艦これSS二百八十一話 後編

 

 ○九○○ーー

 

 中庭ーー

 

鳥海「…………」

 

 鳥海はひとり、中庭のベンチに腰を掛け、空を見上げていた。

 この日はサマール沖海戦があった日である。鳥海は二十三日の前哨戦において、姉達が次々と潜水艦にやられる中で唯一被害が無く、この海戦に参加出来た。

 同海戦で鳥海はアメリカ空母『ホワイト・プレーンズ』の砲撃を受け、それが魚雷に誘爆。その影響で機関と舵が損失し、航行不能となった。その後の爆撃によって大火災が発生し、乗員は総員退去後、駆逐艦『藤波』によって乗組員は救助され、鳥海は雷撃処分となった。

 ホワイト・プレーンズの砲撃とあるが、一方で味方からの誤射だったという記録もある。今でも真相はどうだったのかは分かっていない。

 

「だ〜れだ♪」

 

鳥海「っ!?」ビクッ

 

 そんな時鳥海の視界を塞ぎ、明るく質問を投げかける者が現れた。鳥海ははじめこそ驚いたが、その声はいつも聞き慣れた声だったため、すぐに分かった。

 

鳥海「愛宕姉さん、いきなり酷いですよ〜」

摩耶「ぶぶ〜♪ 残念! 正解は声が愛宕姉で手は摩耶様でした〜♪」ニヘヘ

愛宕「引っ掛け大成功♪」ニコニコ

高雄「貴女達ねぇ……」ニガワライ

 

 視界が開けたその先には、高雄、愛宕、摩耶の変わらぬ笑顔があった。

 

鳥海「司令官さんじゃないんですから、当たりませんよ〜」ニガワライ

摩耶「へへ、悪ぃ悪ぃ♪」

愛宕「ごめんなさ〜い♪」

高雄「ちゃんと謝りなさい」モウ...

鳥海「私は気にしてませんから、大丈夫ですよ」ニコッ

 

 そして摩耶と愛宕が鳥海の両サイドに座って、互いに鳥海の肩へ手を回した。

 

鳥海「?」

摩耶「朝飯から帰るなりフラッと一人で出掛けんなよ〜。寂しいだろ〜」ウリウリ

愛宕「そうよ〜……こんな日くらい、姉妹で過ごしましょうよ〜」ホッペプニプニ

鳥海「ごめんなひゃい」ニガワライ

高雄「私は一人で考える時間も必要だと思ったんだけど、二人が聞かなくて」ニガワライ

 

 高雄の言葉に鳥海は『あ〜』とまた苦笑いを浮かべた。

 するとその一方で、愛宕と摩耶はムッとした表情を浮かべた。

 

愛宕「『鳥海、大丈夫かしら?』」←声真似

摩耶「『一人で泣いてないかしら?』」←声真似

高雄「!?」ウグッ

愛宕「『でも一人で居たいのかもしれないし……』」

摩耶「『あ〜、私はどうしたら〜!』」

高雄「止めてぇぇぇ!////」

 

 部屋での自分の言葉と仕草をそのまま再現された高雄は、顔を真っ赤にして二人を止めた。

 

鳥海「あは……あははは、あはは♪」

 

 そんな姉達を見て、鳥海は思わず大声で笑った。そしてそんな鳥海の笑い声につられたのか、高雄達もその場で大声で笑った。

 その後、落ち着いた高雄型姉妹は揃って日向ぼっこをするのだった。

 

 

 ○九三○ーー

 

 高雄型姉妹が仲良く日向ぼっこを楽しむ一方で、野分達、第四駆逐隊の面々は艤装整備へ向かう途中だった。

 

嵐「のわっち〜」

野分「整備が終わったらね」ニガワライ

嵐「ちぇ〜」

 

 野分の言葉に嵐は露骨に不満の声をあげたが、野分の意見は変わらない。

 

舞風「今日くらい休んでもいいんじゃない?」

萩風「そうだよ。野分」

野分「でもちゃんと自分で整備しないと落ち着かないの」

 

 この日、野分はシブヤン海海戦に続いて同海戦へ突入。しかし野分が所属する部隊は重巡部隊が相次いで攻撃を受け、鈴谷の沈没、更には熊野と筑摩が大破してしまう。

 その中で野分は筑摩の乗員の救助へ向かうことにり、筑摩の元へ到着した野分は、乗員を自分へ移した後、艦隊へ合流するため方向転換する。

 しかしその野分を捉えた部隊がいた。それはあの『トラック島空襲』を行ったアメリカ戦艦『ニュージャージー・アイオワ』を有する部隊だった。あの時は辛くも逃げ切った野分だったが、二度目の生還とはいかなかった。

 レーダー射撃により野分は集中砲火を浴び、最後には駆逐艦の魚雷を受けて大炎上の末に海へ沈んでいくことになり、その時に筑摩から救助された乗員も含めた全員が野分と運命を共にすることになった。

 また同海域では別の日に鳥海の乗員を助けた駆逐艦『藤波』も沈められたため、二隻で四隻分の命が失われてしまった。

 

 野分はあの時、自分と共に沈み行く英霊の人達の声が、姿が、艦娘となった今でも色濃く残っている。

 だから、どんな日であっても自分で出来ることはちゃんとやっておきたい。あの日運命を共にした人達に恥じないように……と、その思いがあるのだ。

 

嵐「ま、のわっちの真面目は今に始まったことじゃねぇしな」ケラケラ

舞風「終わればゆっくり出来るしね♪」

萩風「うん♪ 今日は野分としては辛い日だけど、今はあの時と違うもんね♪」

野分「みんな…………えぇ、そうね」ニコッ

 

 そして野分達は工廠でいつも通りに艤装の整備を仲良く開始した。

 

 

 一○○○ーー

 

 重巡洋艦寮、利根型姉妹部屋ーー

 

利根「こらこら筑摩! 今日は吾輩が全てをやってるのだからお主は座っておれ!」

筑摩「でも……」

利根「でもではない! いいから大人しくしておれ! 今茶を淹れてやろう♪」

 

 利根は筑摩に有無を言わさず、上機嫌でお茶を淹れに向かった。

 

利根「え〜と、お茶っ葉は〜……?」キョロキョロ

筑摩「下の戸棚にあります」

利根「お〜、ここだったか♪」カコッ

筑摩「」ニコニコ

 

利根「むむ、いつも何杯入れておったかのぉ……」ウーム

筑摩「二杯ですよ、姉さん」

利根「お、お〜! 今思い出したぞ!」アセッ

筑摩「お湯をポットから注いだら、一分置いて、そこに氷を一つ入れてくださいね」ニコッ

利根「わ、分かっておる!」アセアセ

筑摩「」ニガワライ

 

 筑摩もこの日のサマール沖海戦にて沈んでしまった艦である。

 金剛や羽黒と共にアメリカ空母『ガンビア・ベイ』に攻撃をしかけた筑摩は、最も近くまで接近して撃沈寸前まで追い詰めるが、追撃中に反撃へ出たアメリカ航空機の魚雷が艦尾に直撃。それにより火災が発生し、速力も低下し、戦隊から一時落伍してしまう。

 応急処置によって速力は少し回復するも、最大船速の半分ほどの速力までしか回復しなかった。そしてその速力が筑摩を大きく苦しめる結果になってしまった。

 再びアメリカ航空機の空襲にあった筑摩は、演習弾すら使用して応戦。しかし複数の爆撃や魚雷によって左舷へ大きく傾き、総員退艦命令が出されることとなった。乗員は野分に移乗した後、その野分の雷撃によって筑摩はサマール沖へ沈んでいった。

 

 妹である筑摩の特別な日だからこそ、利根は甲斐甲斐しく世話を焼こうとしているのだが、普段から筑摩にほぼおんぶに抱っこ(本人は認めない)のため何事もスムーズには行かなかった。それでも筑摩は利根の気持ちを尊重し、大人しくそれを見守っていた。

 

利根「よし、出来たぞ!」ドヤァ

筑摩「ありがとうございます」ニコッ

利根「どうだ? 美味いか? 美味いよな!?」

筑摩「ま、まだ飲んでません」ニガワライ

利根「む、そうであったか。熱かったか? ならば吾輩が冷ましてやろう♪」

 

 そう言うと利根は筑摩の湯呑をゆっくりとフゥフゥしてやった。

 筑摩は『もう姉さんったら』と思いながら利根に感謝しつつ、その優しいお茶を飲んだ。

 

 ガチャーー

 

鈴谷「とねちっく〜! やっハロ〜♪」ノシ

熊野「ちゃんとノックなさい! すみません、出来の悪い姉で」フカブカ

三隈「お邪魔しますね」ペコ

 

 突如の三人の訪問だったが、利根達は笑顔で迎え入れた。

 

筑摩「お好きな場所へどうぞ」ニコッ

鈴谷「あ〜い♪」ストン

熊野「脚を閉じなさい」マッタク...

鈴谷「あ〜い……」スッ

三隈「」クスクス

 

利根「今日は最上が居らんな」

三隈「もがみんは扶桑さん達と一緒ですわ」ニコッ

利根「あ〜、左様か……まぁ取り敢えず、お主達の茶を淹れてやるかのぅ」スクッ

筑摩「」ニコニコ

 

 三隈達は利根の行動に驚いたが、筑摩が理由をこっそりと教えると『なるほど〜』と言うように微笑みを返した。

 

 鈴谷も筑摩達と同じ海戦で沈んだ艦である。

 戦闘中の至近弾により燃料タンクに浸水。この影響で速度が低下することになったが、鈴谷はそのまま戦闘を続行。しかし再び至近弾の被害を受け、今度は魚雷発射管付近から火の手が上がった。

 当然その近くには魚雷があり、やがて炎は魚雷に引火、そして誘爆。空襲を受けながら右舷に傾いた鈴谷は、炎が艦内の至るものに引火するという大爆発の末、沈没するという最後だった。

 

利根「で? お主達は何用で吾輩達の部屋に来たのじゃ?」

 

 お茶が入った湯呑をそれぞれに置きながら利根が訊ねると、鈴谷が笑顔で返した。

 

鈴谷「あのねあのね! 提督がお昼に食堂でみんなにご馳走してくれるって!」

利根「なんと!」キラキラ

熊野「貴女がしつこく言うからですわ」フゥ

鈴谷「違いますぅ〜、提督が自発的にしてくれたんですぅ〜」

熊野「」ヤレヤレ

三隈「まあまあ」ニガワライ

 

利根「経緯はどうあれ、提督がそういう風に筑摩達を気遣ってくれるのは嬉しいことだな」ウンウン

熊野「そうですわね……本当、どこまでもお優しい方ですわ」フフフ

鈴谷「それを本人の前で言えばきっと喜んでくれるのにね〜」ニヤニヤ

熊野「あ〜、緑茶が美味しいですわ〜////」←無視

筑摩「ふふっ、こうして皆さんが揃っているのも、こうして笑って過ごせているのも、全て提督のお陰なんですよね」ニコッ

三隈「そうですわね……提督あってのこの艦隊ですから、三隈達は本当に恵まれた環境に居ますわ」ニッコリ

鈴谷「当の本人は『いや、みんなが頑張った結果だ』って言うだろうけどね〜」ニガワライ

 

 鈴谷の言葉にその場に居る全員が『確かに』と頷き、笑い合った。そして利根達はお昼になるまでガールズトークに花を咲かせた。

 

 お昼になると鎮守府全体に提督からの放送があり、食堂に全艦娘が勢揃いした。

 そしてあの壮絶なる海戦を経験した者達は、それぞれの戦友達や姉妹達と笑顔の花を咲かせながら、あの日のことを胸にこれからも頑張ろうと誓ったーー。




後編終わりです!
後編はサマール沖海戦のお話に触れました。
この後もこの一連の海戦がきっかけで沈んでしまう艦もあるのですが、今回のところはこれにて終わります。

本編の情報はWikipedia、ピクシブ百科事典、『大日本帝国海軍 所属艦艇』から得ました。

とてつもない海戦があった日ではありますが、この日は黒潮ちゃんと矢矧さんの進水日でもあります!
二人共おめでとう!

ではでは長編となりましたが、今回も読んで頂き本当にありがとうございました!

前編でも述べましたが、この日に沈んでいった多くの艦艇、そして艦と運命を共にした英霊の方々へ心からお祈りします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。