いつもより長めです。
埠頭、○八○○過ぎーー
瑞鶴「よく晴れてるわね、今日も……」
瑞鳳「そうだね」ニコッ
千歳「今夜はあの日のみんなに献杯と、今を生きる私達に乾杯ね」ニッコリ
千代田「程々にしてよね」ニガワライ
秋月「千歳さんだって今日は大丈夫ですよ」ニコッ
初月「そうだよ。深酒するのは提督が居る時くらいなんだろ?」
多摩「ま、こんな日でも普段通りに過ごせるなら、それ以上幸せなことはないにゃ」ニシシ
埠頭に残って空と海を眺めながら談笑するのはエンガノ岬沖海戦にて沈んでしまった艦娘達だった。
エンガノ岬沖海戦は囮任務の海戦だった。
日本で唯一の機動部隊を有する艦隊であったが、二十四日に機動部隊はなけなしの艦載機を発進させ、アメリカ機動部隊への攻撃を行い、この攻撃が日本海軍機動部隊として最後の航空攻撃となった。
僅か六十機弱の攻撃隊は、一部がアメリカ軍の迎撃網を突破しアメリカ機動部隊への攻撃に成功するものの、戦果は至近弾数発のみにとどまり、攻撃隊は攻撃終了後には囮役の母艦ではなく、マニラの陸上基地へ向かうよう指示されていたため帰投しなかった。しかしそこから陸上基地までの距離は四、五百kmあり、何機辿り着いたかは不明である。
そしてこの決死の総攻撃を持ってしても、アメリカ艦隊は動かなかったがその翌二十五日の早朝にはアメリカ軍の編隊が瑞鶴達の前に現れた。
その数、一三○機。これにより囮作戦は成功となった。
瑞鶴「今日は穏やかな一日になりそうね」
千歳「本当、同じ日だとは思えないわね」
千代田「本当ね……」
同海戦でアメリカ軍の攻撃が始まると、瑞鶴達は残った数少ない直庵機で応戦。しかしアメリカ軍の空母十一隻、戦艦六隻を基幹に総勢五十三隻で機動部隊を殲滅しようとしていた。こうなるともう練度云々の話ではなかった。
更に瑞鶴はアメリカ軍からすると、『真珠湾攻撃』を行った最後の一隻であり、それと同時に『珊瑚海海戦』で沈められたアメリカ空母の初代『レキシントン』の仇であったため、この海戦に参戦していた二代目『レキシントン』は瑞鶴を討つべく攻撃を繰り出したのだ。
爆弾と魚雷が瑞鶴へ次々と直撃し、飛行甲板と機械室が損傷。発着艦は不可能になり、機械室も一部操作不能、速度もどんどん低下していった。
その間も周囲の僚艦は次々と落伍、沈没していく中で瑞鶴は瑞鳳と共に必死に粘り続けた。
発着艦もできない瑞鶴が出来ることは時間稼ぎだけだったが、強固な船体も度重なる雷撃に遂に屈し、艦長は軍艦旗降下の命を下した。
そして瑞鶴が海へ沈んでいくこととなった時、空襲はすでに終わっていたため、瑞鶴の最期に横槍が入ることは無かったという。
一方、千歳はアメリカ軍の第一波空襲の標的になり、早々に沈没してしまうと、千代田は続く第二波の攻撃にさらされて落伍してしまう。その後に炎上、航行不能となった千代田は、千歳の沈没から約七時間後に沈んでしまった。
瑞鳳「なんか不思議だよね〜」
多摩「絶好の日向ぼっこ日和であの日が嘘みたいだにゃ」
秋月「あの日は本当に大変でしたからね……」
初月「……そうだね」
瑞鳳はこの海戦で旗艦である瑞鶴が力尽きてからも必死に回避行動を続けたが、爆弾が容赦なく襲い、じわじわと追い込まれて行く。そして速度が落ちたところに立て続けに魚雷が直撃し、次第に右へ傾斜、その後はついに航行不能となってしまうと、最後は船体が二つに割れ、海へと沈んでいくこととなった。
しかしその際の瑞鳳は穏やかに沈んだため、波が脱出した乗員を優しく船体から離れるように送り出したという記録がある。
同海戦での多摩は四方八方からの来る攻撃に苦しめられ、被雷し大破してしまう。一時は五十鈴からの護衛があったものの、多摩は同じく被弾している千代田の護衛に向かうように五十鈴に指示出した。更に五十鈴の代わりとして護衛に入った霜月にも、孤軍奮闘している瑞鳳の護衛に回るように伝え、多摩は大破した船体で単独の海域離脱しようとした。しかしアメリカ軍はその傷ついた多摩を逃しはしなかった。アメリカ潜水艦『ジャラオ』は艦首と艦尾から二回に分けて魚雷を発射させ、その艦尾から放たれた四本の内の三本が多摩に直撃、更には二本が爆発し、多摩は海へと沈んでいった。
秋月と初月は同海戦で瑞鶴達を護衛する任務に就いていた。
しかし秋月は後方から来た急降下爆撃が艦中央部に直撃。この衝撃でボイラー室の缶が破裂して高温の蒸気が一気に噴出し、多くの機関兵が死亡。更にその中央部から今度は黒煙と炎が上がり始め、今度は大爆発が発生。それにより大穴が空いた秋月は軋みながら停止してしまう。
総員退艦命令が出されたが、暫くもしない内に秋月は真ん中で断裂して沈没してしまった。
一方の初月は艦隊に所属していた五十鈴、若月と共に空母乗員の救助にあたっていたが、アメリカ軍の攻撃は激しさを増す一方だった。
そしてアメリカ軍の次の狙いはこの三隻となり、初月らは至急この海域の離脱を図り、初月は煙幕を張ったが、アメリカ軍は既にレーダーが標準装備となっていたため、煙幕だけでは攻撃を掻い潜ることは不可能だった。
初月達を沈めんと迫り来るのは、重巡・軽巡各二隻と駆逐艦十二隻の計十六隻だった。射程の長い重巡と速度のある駆逐艦、対してこちらは疲弊しきっていたため、逃げることは不可能だった。
そして初月は一つの決断をした。進路を逆へ転換し、単艦で十六隻の群れに突撃したのだ。
五十鈴と若月を守るべく、救助した瑞鶴達の乗員達と共に覚悟を決め、初月は最大戦速で勝負を挑んだ。
時刻は十九時をまわり、暗くなっても、飛び交う砲弾を必死にかわし、迫り来る魚雷を回避し、闇夜に紛れて初月は最後の囮として奮戦した。
ところがアメリカ艦隊との距離が五○○○mを切ったところで照明弾が照射され、初月の船体を照らした。そのことにより正確に砲弾が打ち込まれ、初月は徐々に力を失い、突撃からおよそ二時間後、爆発炎上しながらも砲撃だけは止まなかった初月は、ついに最後の時を迎えたが、最後の囮作戦を成功させるのだった。
瑞鶴「さて! みんな、朝食を食べに行きましょ♪ 今は今の私達の使命があるんだから♪」
千歳「そうね♪」
千代田「あの人達に恥じないように、今日も頑張りましょう!」
瑞鳳「しっかりしないとみんなに怒られちゃうもんね♪」
多摩「怒られるのは勘弁だにゃ」ニガワライ
秋月「はい! あの日のことを胸に、今日も一日頑張ります!」
初月「艦隊のみんなと力を合わせて頑張ろう!」
全員『えい・えい・お〜!(にゃ!)』
翔鶴「ふふ、みんな笑顔で良かったわ」
祥鳳「はい……提督も心配されてましたが、あの笑顔ならきっと大丈夫かと」ニコッ
笑顔溢れる瑞鶴達を少し離れた場所で見守っていたのは、この二人だけではなかった。
伊勢「うんうん、いいじゃない♪」
日向「本当に頼もしい奴らだな」フフフ
球磨「球磨の妹なら当然だクマ」フッフッフー
五十鈴「どういう理屈なのよ、それ」ニガワライ
北上「と言うか、多摩っちがアンニュイとか似合わないよね〜」ケラケラ
大井「お魚追い掛けるか日向ぼっこしてる方が多摩姉さんらしいですならね」クスクス
木曾「ま、ブレないのが姉貴の強さだよな」フッ
大淀「あ、皆さんが来ましたよ」ノシ
照月「お〜い、みんな〜♪」ノシ
その後、瑞鶴達と合流したあの日の戦友達とそれぞれの姉妹達は、いつもと変わらない笑顔で快晴の元を歩き出すのだったーー。
中編終わりです!
中編はエンガノ岬沖海戦でのことについて書きました。
本編中の情報はWikipedia、ピクシブ百科事典、『大日本帝国海軍 所属艦艇』、『空母 瑞鶴|連合艦隊』という記事から得ました。
読んで頂き本当にありがとうございました!