真面目なシーン、独自設定、独自解釈含みます。
今回は前編・中編・後編で分けます。よろしくお願い致します。
いつもより長めです。
○○鎮守府、○八○○ーー
埠頭ーー
提督「全員気をつけっ!」
全員『』ザッ
提督「黙祷っ!」
全員『………………』
提督「………………」
埠頭に集まった多くの艦娘達が提督の号令で一斉に黙祷を捧げた。
本日、十月二十五日は一九四四年の同日、スリガオ海峡海戦・エンガノ岬沖海戦・サマール沖海戦がレイテ沖海戦で勃発した日である。
この緒戦の中で日本軍はスリガオで扶桑、山城、最上、満潮、朝雲、山雲の六隻。エンガノで瑞鶴、千歳、千代田、瑞鳳、多摩、秋月、初月の七隻。サマールで鳥海、鈴谷、筑摩、野分の四隻を損失してしまう。
そしてこの大きな戦いの影に隠れてしまいがちだが、このレイテ沖海戦よりも二年前の一九四二年、同日は由良がアメリカ軍機から攻撃を受け、沈んでしまった日でもある。
埠頭にはこの日沈んでしまった艦娘達は勿論、その姉妹艦娘達や関わりの深い艦娘達といった多くの艦娘達が黙祷を捧げに参列している。
一分間の黙祷時間を過ぎても、黙祷を続ける者も居た。その者が黙祷を終えるまで、あの日共に戦った者や姉妹が静かに寄り添っていた。
由良「ふぅ…………」
そんな中、黙祷を終えた由良は姿勢を正し、ゆっくりと空を見上げた。
軽巡洋艦『由良』は第四水雷戦隊の旗艦を秋月型駆逐艦『秋月』に譲った後、ショートランド泊地を起点として活動を続けた。
そして日本が陸軍と共にヘンダーソン飛行場の破壊へと踏み切ることになった。
由良が所属していた第二次攻撃隊は、突撃隊からの『陸軍がヘンダーソン飛行場を占領』という報告を受けたが、その報を受けてから六時間後に、『先のヘンダーソン飛行場の占拠は誤報』という不穏な報告が飛んで来た。
第二次攻撃隊は反転し撤退をするが、すぐにアメリカ艦隊が現れた。結局第二次攻撃隊は再反転し、突撃隊と協力してこの艦隊を殲滅に向かうことになった。
しかし敵にはこの艦隊だけではなく、飛行場から飛んでくる攻撃機もあった。対してこちらの突撃隊・第二次攻撃隊には空母すら居らず、共に出撃していた隼鷹は予定通りガダルカナル島の攻撃に参加していたため、こちらは上を見ながら攻撃をしなくてはいけなかった。加えて突撃隊・第二次攻撃隊には対空装備の豊富な重巡洋艦も居なかったため、強いて言うなら旗艦になったばかりの秋月のみが戦力であり、空の敵を相手にするにはあまりにも不利だった。
敵の空襲に、突撃隊と第二次攻撃隊は翻弄され、由良には二発の爆弾が直撃。それにより左舷後部には大穴、そして船体からは大きな炎が上がった。
退避をしようと試みるものの、浸水が始まってしまい速力は低下。それでも尚、敵からの波状攻撃は止むことはなかった。
そしてついに由良は、更に投下された三発の爆弾を受けて航行不能となった。
後はただ沈み行くのを待つだけだったが、元々が浸水に強い設計だった由良はなかなか沈まなかった。
嵐のような攻撃の最中、しかも爆発の危険も伴う中で、駆逐艦『夕立』が懸命に乗員を救助し、最期はその夕立の魚雷によって由良は雷撃処分され、由良は日本の軽巡洋艦で初めて沈んでしまった艦となってしまった。
由良(あの日は上ばっかり見てたっけ……)
由良は当時の記憶を思い出しながら空を眺めていた。すると不意に何者かに右手を握られた。
由良「?」
夕立「えへへ♪」ニコニコ
その正体は夕立だった。
由良「どうしたの?」フフ
夕立の笑顔に由良も思わず笑みを浮かべながらそう訊ねると、
夕立「夕立、由良さんがちゃんと今も元気で居るのが嬉しいの!」
満面の笑みでそう返したのだ。
先にも述べたように、由良の最後は夕立の雷撃処分である。由良と第四水雷戦隊で行動を共にしていた夕立にとって、由良の最後はとても辛く、悲しい過去なのだ。
それが艦娘の今となっては互いに触れ合い、言葉を交わせるのだ。夕立にとってこれ程喜びを感じる瞬間はないのである。
由良「ふふ、私も夕立ちゃんや姉妹のみんな、艦隊のみんなとこうして居られて嬉しいわ」ナデナデ
夕立「わふ〜♪」㌰㌰
そんな夕立に由良は優しく言葉をかけた。その後由良は夕立と共に、今度は今をこうして過ごせている自分の幸せを感じながら空を見上げるのだった。
ーー
扶桑(あの日の朝もこのように晴れていたのかしら……)
黙祷を終えた扶桑はそのまま埠頭に留まり、空を眺めていた。
レイテ沖海戦におけるスリガオ海峡海戦は真夜中に行われたの夜戦であり、空軍が関与せず、戦艦同士の砲撃戦が行われた最後の海戦だった。
艦隊がスリガオ海峡に着いた時、アメリカ軍は既に水上部隊・約四十隻が展開し、扶桑達、西村艦隊を待ち構えていた。そんな中で扶桑達は味方の援護も無いまま、やむなく単独で突撃することとなった。
敵からおびただしい数の魚雷が放たれ、扶桑の右舷中央部に直撃。それにより扶桑は艦隊から落伍し、その後も容赦なく襲いかかる魚雷に耐えられるはずもなく、やがて三番・四番砲塔の弾薬庫が大爆発を起こし、扶桑は真ん中から真っ二つに折れてしまう。
バランスを取る手段がなくなった扶桑は混戦の中で救助もままならないまま、ゆっくりと大きな艦橋を横たえていくこととなった。
これが戦艦『扶桑』の最初で最後の海戦となった。
時雨「扶桑……」
扶桑が昔のことを思い浮かべていると、時雨から声をかけられた。それに扶桑が振り返ると当時の多くの仲間達が扶桑に笑顔を向けていた。
扶桑「みんな……」
山城「みんな待ってますよ、姉様」ニコッ
戦艦『山城』は西村艦隊の旗艦として同海戦に臨んだが、扶桑が落伍してすぐに山城にもアメリカ駆逐艦が放った魚雷が次々と命中。
そんな中、艦長の西村祥治中将は各艦に『我魚雷を受く。各艦は我に省みず前進し、敵を攻撃すべし』と下令した。西村中将はこの時、もはや生き残るための戦いではないことを確信していたのだ。そして攻撃の限りを尽くすことを僚艦に通達した。
船体が火災による炎に包まれ、第一・第二主砲が使用不能となり、更なる集中砲火を浴び、最後には四本目の魚雷を受けてついに山城は大きく傾いた。
そしてたった三分後、山城は転覆し、そのまま海へと沈んでいく。その際、山城の砲塔はその身が海中に沈むまで火を吹き続けていたいう。
満潮「何いつまでも湿気た面してるのよ」ニコッ
山雲「朝御飯、食べに行きましょ〜」ニコニコ
朝雲「そんなに暗いとみんなに怒られるわよ」フフフ
扶桑が魚雷によって爆沈、山城と最上が大炎上し、最上は航行不能寸前となり、時雨と共に反転離脱する中、敵魚雷の標的は駆逐艦となり、その結果として『満潮』・『朝雲』・『山雲』が相次いで被雷。
山雲はそれにより敢え無く轟沈してしまい、満潮は左舷機関室に被雷して航行不能になってしまう。
その後、満潮はなんとか修復し自力航行は可能になり、朝雲と反転して海域を脱しようと試みたが、そこへアメリカの駆逐艦『ハッチンズ』が襲い掛かった。
扶桑と山城を襲撃し、本隊へと戻るところだったこの『ハッチンズ』は満潮へ向けて魚雷を発射。
そしてこの魚雷が満潮を沈めることとなった。
一方の朝雲は被雷により、艦首が吹き飛ばされる大損害を負い、急いで反転離脱を試みるが速度が出ず、同じく離脱しようとする最上と時雨を追い掛けることが叶わなかった。やがて朝雲は一隻だけ取り残される形になったが、朝雲は沈むその瞬間まで絶対に砲撃を止めることはしなかった。艦首が水没してからも三番砲塔からは砲弾を発射し続け、海へ沈んでいった。
最上「今日はあの日だけど、今のボクらはちゃんと生きてる。だから思い詰めないで」ニコッ
そして最上。山城・時雨と共に敵へ挑むも、山城共々大炎上となった。山城はそれでも敵に突撃し、尚も砲撃を続けたが、最上は更に被弾し、これにより艦橋に居たほぼすべての乗員が死亡してしまった。
辛うじて舵を反転させた最上は戦場からの離脱には成功するがこれで終わりではなかった。
支援にやってきた那智が最上の前を通り過ぎたのだ。那智は戦場へ突入しようとしていて、最上がゆっくり航行していたこともあり、気付くのが遅れ、回避しようにも間に合わず、加えて最上は誰も舵を握って居なかった。これにより最上と那智は衝突、那智は大破し、戦場への突入を諦めることになる。
この衝突での最上の損傷は大きくはなかったが、それでも大惨事には変わりなかった。
その後、最上は那智と一緒に戦場に赴いた曙に付き添われ、ゆっくりと離脱を開始するも、後にやって来たアメリカ軍の空襲により遂に航行不能となってしまった。火災は止まらず、注水弁も破壊され、もはや打つ手なしとなり、生き残った乗員は曙に移乗し、最後は曙の魚雷によって雷撃処分となった。
那智「こんな日こそ、笑顔で過ごそう」ニッ
足柄「私達は今を艦娘として生きているんだもの♪」
阿武隈「あの日亡くなった方々の思いを胸に、今日も一日頑張りましょう!」フンス
更に扶桑へそう声を掛けるのはあの日を駆けた戦友達。更には不知火、霞、潮、曙の四人も扶桑へ笑顔を向けていた。
そんな頼もしい仲間達に扶桑も笑顔で応え、みんなで手を繋いで食堂へと向かうのだった。
扶桑(あの日の空はどうだったか分からないけど……)
扶桑はまた空を見上げ、
扶桑(今のこの空はとっても蒼いわ♪)
空へ笑顔を向けるのだったーー。
前編終わりです。
最初はレイテ沖海戦に隠れがちの由良さんのこと、そしてスリガオ海峡海戦について書きました。
この日沈んでしまった多くの艦艇、そして多くの英霊の方々に心からお祈りします。
此度は説明文が多く誠に申し訳ありません。前、中、後と説明文が多くなりますので、どうかご了承のほど、よろしくお願い致します。
本編の情報はWikipedia、ピクシブ百科事典、『大日本帝国海軍 所属艦艇』より得ました。
読んで頂き本当にありがとうございました!