少し真面目なシーン、独自設定、独自解釈含みます。
○○鎮守府、○二○○過ぎーー
重巡洋艦寮、高雄型姉妹部屋ーー
摩耶「」コソコソ
摩耶は自分のベッドから降り、愛宕が眠っているベッドの方へ向かった。
鳥海(摩耶、何してるのかな?)←物音で起きた
摩耶「」モゾモゾ←愛宕のベッドに侵入中
鳥海(あぁ、今日はあの日だからね)フフ
摩耶「」ギューッ
鳥海(おやすみ、摩耶)ニコッ
摩耶の行動を理解した鳥海は何も言わず、心の中で摩耶に一言かけてから、自分もまた眠りに就いた。
そして、○四三○ーー
愛宕「ん……」パチッ
愛宕はふと目が覚めてしまった。何故なら自身の右腕に違和感を感じたからだ。
摩耶「くぅ……くぅ……」ギューッ
愛宕が寝ぼけ眼を擦りながら自身の右腕を確認すると、そこには茶色いクマの着ぐるみパジャマを身にまとう妹の摩耶の姿があった。
それを見た愛宕はクスッと小さく笑うと、よく眠っている摩耶の肩まで自分の布団を掛け直した。
愛宕(私の右腕を抱きしめちゃって……可愛い♪)
どうして摩耶が自分のベッドに居て、しかも摩耶が大切にしているぬいぐるみを抱くように自分の右腕を抱きしめているのか、愛宕は大方見当がついていた。
それは何故かと言うと、今日という日が十月二十三日だからだ。
一九四四年の今日はレイテ沖海戦の前哨戦とも言える日であり、この前哨戦で重巡洋艦『愛宕』、『摩耶』の二隻はアメリカ潜水艦の雷撃を受け、沈んでしまった日なのだ。
当時の愛宕はレイテ島へ向かう途中で、パラワン水道を通過しようとしていた。愛宕は対潜警戒を行っていたものの、それをすり抜けたアメリカ潜水艦『ダーター』がおよそ九○○mの距離から魚雷を六本放った。その内、四本が愛宕の右舷に命中。そして愛宕は急速に右へ傾いた。左舷注水が行われたが効果は薄く、右舷傾斜増は止まらず、後に転覆した。
このようなことが愛宕にはあるので、摩耶は愛宕がちゃんと生きていると確信するために夜な夜な愛宕のベッドに忍び込んで右腕に抱きついたのだ。
愛宕は摩耶の行動をそうだと考えていた。
それから愛宕はまたクスッと笑い、今度は摩耶の頭を、摩耶を起こさないようにポンポンと摩耶の呼吸に合わせて撫でやった。
摩耶「ん……あたご、ねぇ……」スヤスヤ
愛宕(は〜い♪)ニコニコ
摩耶の寝言に心の中で返事をしながら、愛宕は摩耶の左手を空いている自分の左手で優しく握った。
何故かというと、当時の摩耶は愛宕の沈没により艦隊が混乱する中、アメリカ潜水艦『デイス』による雷撃を受けた。魚雷航跡を発見し、回避運動をとるも間に合わなかった摩耶は、愛宕とは逆の左舷に魚雷四本が命中。摩耶は左舷に大傾斜し艦首から海没を始め、愛宕の後を追うように沈没してしまった。
愛宕はそのことを知っているので、摩耶が安心するように摩耶の左手を握ったのだ。
そして摩耶の穏やかな寝顔を見ながら、愛宕はまた眠りに就くのだった。
ーー
ーーーー
○六○○ーー
高雄「……」パチッ
むくり
高雄「ん〜……」ノビー
高雄は自然に目が覚めた。本日は愛宕、摩耶の特別な日ということで、○七○○から埠頭でレイテ沖海戦へ参加した艦娘全員で提督と共に黙祷を捧げる予定があり、普段よりも少しだけ早い起床となる。
そして高雄は予定通り早くに目が覚めた。
何故なら高雄にとってもこの日は特別な日だからである。
高雄にとって、レイテ沖海戦というのは妹達を失った辛く苦しい思い出の残る海戦なのだ。
更に高雄としては何も出来なかった海戦でもある。
当時の高雄はこの日、愛宕、摩耶、鳥海と共にレイテ島を目指して航行中、愛宕と同じくアメリカ潜水艦『ダーター』からの雷撃を受ける。高雄には二本の魚雷が命中。沈没は免れた高雄だったがその際に第三・第四ボイラー室を破壊され、外軸スクリューも失う大破で洋上に停止してしまったのだ。
その間、高雄は愛宕と摩耶。自分の妹達が沈み行く所を見てしまっているのである。
高雄(愛宕……摩耶……)
高雄は過去のことがふと浮かび、嫌な寒さを感じた。
そして今を艦娘として生きている愛宕と摩耶を見ようと、すぐ左に視線を移した。そうすることでベッドの並びからして高雄は三人の妹を一望出来るのだ。
高雄「………………ん?」
視線を移した先で高雄の目に飛び込んで来たのは自分のベッドから一番側にある愛宕のベッドだった。
しかしそれはいつもと違っていた。どう見ても愛宕一人分の盛り上がりではなかったのだ。
愛宕だけでなく大きなぬいぐるみが愛宕の隣に居たから。
高雄(愛宕ってあんなに大っきいぬいぐるみ持ってたかしら?)
ぬいぐるみ大好きっ娘の摩耶ならいざ知らず、愛宕まであのような大きなぬいぐるみを持っていることを高雄は知らないので、思わずマジマジと見てしまった。
しかし高雄の記憶は正しい。この時、愛宕が抱えていたのは大きなぬいぐるみではなく、愛宕のベッドに侵入した着ぐるみパジャマを着ている摩耶だからだ。摩耶のそのパジャマはクマ耳が付いたフードも付いていることに加え、摩耶はそのフードもキチンと被っていた。更に摩耶は高雄には背を向けているため、高雄から見たら大きなクマのぬいぐるみにしか見えなかったのだ。
高雄(まぁ、愛宕だってそうところもあるわよね。どこに隠してたのかは知らないけど……)
誰にだって意外なところは一つや二つはあるものだと考えた高雄は、フフッと笑って身支度をするためにベッドから降りた。
高雄「っ」ビクッ
その瞬間、高雄は驚いて思わず小さな声をあげてしまった。
それは摩耶のベッドに摩耶の姿が無かったからだ。
先に述べたように今日は高雄にとっても特別な日。そんな日に妹である摩耶の姿がないのだ。
ベッドにはいつも一緒に眠っているぬいぐるみ達しか居らず、それを見た高雄は音を立てないよう素早く摩耶のベッドに向かった。
高雄(冷たい……)
温かければ摩耶がベッドを出た時間帯が分かるが、高雄が触れた摩耶のベッドはもう冷たかった。
高雄(もしかしてあの娘、怖くなって何処かで泣いてるんじゃ!?)
もしそうなら一大事である。そう思った高雄は急いで愛宕を起こそうとしたが、
高雄「っ!!!?」ビククッ
また驚いてしまった。
摩耶「くぅ……くぅ……」Zzz
愛宕「すぅ……すぅ……」Zzz
高雄「は〜……」
高雄は思わず大きな息を吐いて、その場に力無くペタンとしゃがみ込んでしまった。
自分の勘違いだったことと、摩耶が無事だったことに安堵したからだ。
高雄(どうして私、朝からこんなに振り回されてるのかしら?)
そう思うと自分が何処となく間抜けに思え、笑いが込み上げて来た。高雄は愛宕と摩耶の寝顔を見ながらクスクスクスと声を我慢して笑った。
その後、愛宕と摩耶、そして鳥海の頭を優しく一撫でした後、高雄は身支度に取り掛かったのだったーー。
おまけーー
一五○○、重巡洋艦寮、談話室ーー
高雄「ーーということが、今朝ありまして」クスクス
妙高「ふふふ、それはそれは……賑やかな朝になったわね」クスクス
高雄は今朝あった出来事を妙高に話しながらお茶を楽しんでいた。
妙高「でも着ぐるみパジャマって人気よね。私の姉妹にはいないけど、同じ重巡洋艦寮の中では鈴谷さん、利根さん、プリンツさんもそうよね」
高雄「古鷹さんや衣笠さんも持ってるって本人達から聞いたことがあります」
妙高「そうなの……個人的にだけれど、利根さんがリスの着ぐるみパジャマを着てたのは驚いたわ」ニガワライ
高雄「それ、前に筑摩さんから聞いたんですけど、利根さんにそれとなく勧めて、利根さんがそれを着てみたら思いの外着心地が良くてお気に入りになったそうですよ」クスクス
妙高「まぁ、利根さんらしい」フフフ
ガラガラーー
愛宕「パンパカパカパカパンパカパ〜ン♪」
那智「邪魔するぞ」
摩耶「お〜っす!」ノシ
足柄「お邪魔するわね♪」
鳥海「こんにちは♪」
羽黒「こんにちは、です♪」
高雄「あら、みんな揃ってどうしたの?」
妙高「?」
愛宕「次女同士でケーキを焼いたの♪」
那智「皆でおやつにどうだ?」ニッ
二人は大きなケーキを妙高と高雄に見せた。
高雄「あら、美味しいそう」ニコッ
妙高「那智が料理を……しかもお菓子作り……」
那智「私だってたまにはな」フフン
足柄「姉さんはお酒のつまみくらいしか普段は作らないからね」ニガワライ
愛宕「でもとっても手際良かったわよ?」
摩耶「こんなに美味そうなんだから大丈夫だって♪ それより早く食おうぜ♪」ワクワク
鳥海「摩耶ったら」ニガワライ
羽黒「」クスクス
高雄「なら早速頂きましょうか。今みんなのお茶を淹れるわね」ニコッ
妙高「私はテーブルを出すわ」ニコッ
摩耶「テーブル出すなら、この摩耶様も手伝うぜ♪」
足柄「なら私は座布団を用意するわ」ニッコリ
羽黒「私達はお皿とフォークを並べましょうか」ニコッ
鳥海「そうですね♪」
こうして妙高型姉妹と高雄型姉妹は今日という日を穏やかに過ごしたーー。
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今日は本編に書きました通り、重巡洋艦『愛宕』そして『摩耶』が沈んでしまった日です。
この日沈んだ愛宕と摩耶、そして亡くなった多くの英霊の方々に心からお祈り致します。
この日から本格的に始まったあの有名な海戦、レイテ沖海戦。比島沖海戦もしくはフィリピン沖海戦とも言います。
本編中の情報はWikipediaと『大日本帝国海軍 所属艦艇』から得ました。
おまけは少し明るくしました!
読んで頂き本当にありがとうございました!
最後に予約投稿が反映されてなかったので投稿が遅くなってしまいました。申し訳ありませんでした。