少し真面目なシーン、独自解釈、他作ネタ含みます。
いつもより長めです。
○○鎮守府、一六○○ーー
防波堤ーー
弥生「………………」
弥生は一人、防波堤に座り、夕日が沈んでいく水平線と夕日色に染まる空を眺めていた。
一九四二年のこの日、駆逐艦『弥生』は輸送作戦中にニューギニアのノーマンビー島、東方でアメリカ陸軍とイギリス軍爆撃機の攻撃を受けた。その中で艦の後部に爆弾が命中、それにより舵が故障。それが原因で航行不能となり沈んでしまった日でなのである。
カッターボートに乗り、辛うじて近くのノーマンビー島まで逃れた乗組員もいたが、他の多くの乗組員は駆逐艦『弥生』と運命を共にした。
弥生は艦だった頃の自分と亡くなった英霊達のことを思い、黙祷を捧げようとゆっくりとその場から立ち上がった。
すると、
「弥生」
弥生「?」クルッ
背後からした声に振り向くと、そこには天龍、龍田、第十七駆逐隊の浦風、磯風、浜風、谷風に加え嵐、そして妹である望月が立っていた。
天龍達は当時、弥生とラビ攻略作戦(ニューギニアの戦い)に参加していた艦である。
天龍、磯風、浜風、望月は駆逐艦『弥生』の乗組員救出任務も行っていて、磯風と望月は同月二十二日に友軍と協力し『弥生』のカッターボートを発見、十名を救出。更に二十六日にはノーマンビー島にて約八十名を救出した。
磯風「弥生……」
弥生「?」
磯風「あの時は本当にすまなかった」
磯風は弥生の前に立ち、深々と頭を下げ、深く謝罪した。何故なら駆逐艦『弥生』と駆逐艦『磯風』はあの時、共に輸送任務に就いて『弥生』が空襲を受ける中、『磯風』は回避行動を取ったため現場から離れてしまったからだ。
磯風「助けにも行けず、磯風は……磯風は……!」
弥生「……磯風」スッ
ぎゅっ……
磯風「やよ、い……?」
磯風は思わず間の抜けた声を出してしまった。それは弥生が彼女を優しく抱きしめたから。
弥生「弥生、知ってるよ。弥生が沈んだ後、戻って来てくれたこと」
磯風「!?」
弥生「海の中で磯風の船体が見えたの、薄っすらだけどちゃんと覚えてる」
磯風「それでも……その時は何も、見つけられなかった……!」
弥生「みんな逃げちゃってたし、日没後だったから仕方ないよ」
磯風「しかし!」
弥生「その後もずっとみんなを助けるために探してくれたことも知ってる」
磯風「でも……!」
弥生「これ以上謝ったら怒るから」ギュッ
磯風「うぅ……」
弥生はなかなか折れない磯風を更にぎゅっと抱きしめた。
弥生は怒ってない。勿論、あの時運命を共にした英霊達も。磯風が戻って来てくれたことが嬉しかった。それが伝わるように強く抱きしめ、肩を震わせる磯風を落ち着かせるように背中をぽんぽんと叩いた。
磯風「弥生……やよいぃぃ……」
磯風は弱々しく地面に膝を突いて弥生にしがみついた。それと同時にあの時の思いが大粒の涙となって溢れ出た。
弥生「うん……大丈夫。誰も磯風を憎んでない。それに戦争中だったんだから、あの時の回避行動は正しい判断だよ」ポンポン
磯風「うっ……ぐすっ……うぅっ……」
弥生「ありがとう、磯風」ナデナデ
あの磯風が感情の発露が抑えられない程、あの時ことを気にしていたのだろう。弥生だけでなく、天龍達も磯風の側へ集い、優しく声を掛けた。
暫くして磯風はようやく落ち着いたのか、弥生から離れ、スッと立ち上がった。
その泣き腫らした瞳には何の憂いも無く、いつも通りの力強い瞳だった。
磯風「見苦しいものを見せてすまなかったな。ありがとう、弥生」ニコッ
弥生「」ニッコリ
天龍「さてさて、んじゃ、落ち着いたところで、みんなで黙祷捧げっか♪」
龍田「みんなでしっかり今の私達のご報告をしましょうね」ニコッ
弥生「はい」ニコニコ
こうして弥生は天龍達と共にあの日沈んだ駆逐艦『弥生』と英霊達へ心からの黙祷を捧げた。
天龍達と一分間の黙祷を捧げ、天龍達と別れた弥生は寮へ帰ろうと望月と歩いていた。同じ寮に住む浦風達は艤装の手入れに工廠へ向かったので二人で帰っていた。
部屋に着くまで二人は特にこれと言った会話は無かった。その代わりなのか望月は弥生の手を自分から繋ぎ、その間ずっと弥生の手を離そうとしなかった。
弥生はそれが嬉しくて、ずっとニコニコしながら望月を見つめていた。望月は照れ隠しなのか、気付いているはずなのに弥生の方を見ようとはせず、ずっと前だけを向いていた。
駆逐艦寮、睦月・如月・弥生・卯月部屋、ドア前ーー
弥生「もっちー、ありがとう」ニッコリ
望月「ん」
弥生「」クスクス
望月「〜////」ノシ
弥生に見つめられるのがもう限界だった望月はクルッと背を向け、振り向かずにそのまま手を振って自分の部屋へ戻った。
弥生「」ニコニコ
弥生はそれを見送った後で、自分も部屋へ入った。
ガラガラーー
弥生「ただいま〜」
睦月「あ〜、弥生ちゃ〜ん♪ おかえり〜♪」ヒシッ
卯月「おかえりぴょん♪」トビツキ
弥生「うぅ……」
如月「二人共〜、弥生ちゃんが倒れちゃいそうじゃない」クスクス
睦月と卯月の『おかえりハグ』を喰らい、何とか踏み止まる弥生。それを見て如月が二人に注意すると、睦月と卯月は「ごめんね♪」と少しだけ離れた。
弥生「? みんな、どこか行くの?」
弥生は部屋のちゃぶ台の上に睦月達の手提げ袋が置いてあることを不思議に思った。訓練や外で御飯を食べる時くらいしか普段は手提げなんて使わないからだ。
すると如月がニッコリと笑って答えた。
如月「えぇ、行くわよ♪」
睦月「弥生ちゃんも行くよ〜♪」
卯月「だから準備するぴょん♪」
如月に続いて笑顔でそう言う睦月達。状況が把握出来ずにいる弥生を見て、睦月が口を開く。
睦月「今日は弥生ちゃんにとって特別な日でしょう? だから今夜は大部屋で姉妹みんなで過ごそ♪」
弥生「え」
卯月「しれいかんも来てくれるぴょん♪」
如月「みんなで過ごしましょ……せっかくみんないるんだもの」ナデナデ
弥生「うん」ニパー
そして弥生は大部屋へ行く準備をし、夕食を食べた後で、その夜は提督も加えた睦月型姉妹みんなで過ごしたーー。
おまけーー
駆逐艦寮、大部屋、二一○○ーー
弥生「はい」つトランプ
皐月「…………」グヌヌ
睦月達は大部屋で布団を敷いた後、トランプ大会をしていた。
そして今は弥生がババを含めた手札二枚。皐月がラスト一枚という、最終局面。
皐月「こっち?」
弥生「…………」ポーカーフェイス
皐月「こっちだったり?」
弥生「…………」ポーカーフェイス
皐月「にゃ〜!」←無駄に叫ぶ
弥生「皐月、早く」ポーカーフェイス
皐月「くぅ……」タジタジ
提督「こうなると弥生の方が有利だな」
睦月「皐月ちゃん、ファイト〜♪」
文月「どっちも頑張れ〜♪」
如月「うふふ、罰ゲームはどっちがするのかしら〜?」
卯月「罰ゲームは一発芸だぴょん」
既に抜けた提督達は自由だった。
睦月は一位として提督があぐらを掻いた脚の中に座り込み、文月は二位として提督の背中に登り、如月は三位として提督の左肩にもたれ、卯月は四位として提督の右太ももを枕代わりにと、提督を堪能しつつ二人の攻防を眺めていた。
長月「早くしろ、皐月。次の勝負が出来ないじゃないか」
水無月「さっちん、往生際が悪いよ〜♪」
三日月「いつもみたいにスパッと行ってください♪」
菊月「そうだ、女らしく決めろ」
望月(女らしいから迷ってるんじゃ?)
長月達は二人にそれぞれヤジを飛ばして楽しんでいた。
皐月「こっち!」スパッ
弥生「っ!?」
皐月「…………」チラッ
ジョーカー……デデーン!
皐月「ぎにゃぁぁっ!」
弥生「じゃあ、これね」スッ
悲鳴をあげる皐月をよそに弥生はシレッとババではない方を引いて勝負が終わった。
皐月「負けた〜」orz
弥生「(*´ー`*)v」
卯月「うっふっふ〜♪ じゃあ〜、皐月ちゃんは罰ゲームの一発芸だぴょ〜ん♪」
皐月「……分かった////」スクッ
立ち上がった皐月はタオルケットを手にした。みんな何をするのか皐月に注目する。
皐月「さ、さ……さっつき〜ん!////」バサッ
皐月は自分の名前を叫びながらタオルケットに包まった。
おそらくは某アニメの『アッ○リーン』のつもりなのだろう。
長月「じゃあ、次の勝負に移るか」スルー
望月「……了解〜」
菊月「次もババ抜きか?」
卯月「次は七並べにするぴょん♪」
弥生「くふふ……賛成……」プルプル
がばっ!
皐月「スルーはいくにゃいんじゃにゃい!?////」カミカミ
睦月「あはは、もうダメ〜!」ケラケラ
如月「うふふ、ごめんね、皐月ちゃん」クスクス
水無月「カミカミだよ、さっちん♪」アハハ
文月「恥ずかしかったんだね〜♪」フミィ
三日月「ふふふ、皐月姉さん、ごめんなさい……ふふふふっ♪」
皐月「うわ〜ん、司令か〜ん!////」トビツキ
提督「可愛らしい芸だったぞ、うん……」ナデナデ
皐月「司令官まで笑うの堪えてる〜!////」テシテシ
提督「すまぬ……すまぬ……」ナデコナデコ
皐月「むぅ〜!////」←恥ずかしいけど撫でられて嬉しい
その後もトランプ大会は盛り上がり、睦月達はいつもより少し夜更かしをし、気がつけば姉妹仲良く眠りに就いた。
そんな睦月達にそっとタオルケットを掛けた提督は姉妹の幸せそうな寝顔を眺めつつ、自分も床に就くのだったーー。
ーーーーーー
本日は本編に書きました通り、駆逐艦『弥生』が沈んでしまった日です。今回は少し真面目に書きました。
この日に沈んだ駆逐艦『弥生』、そして亡くなってしまった乗組員の方々に心からお祈りします。
おまけはほのぼのっぽく仕上げました。
こんな風に心穏やかに過ごしてほしいです♪
それでは此度も読んで頂き本当にありがとうございました☆