真面目なシーン、独自解釈、独自設定含みます。
○○鎮守府、一八○○ーー
埠頭ーー
五月雨「…………」
五月雨はひとり埠頭で水平線へ沈む夕日を眺めていた。
一九四四年、昭和十九年の八月二十六日のこの頃、駆逐艦『五月雨』はパラオ近海のガルワングル環礁で座礁したまま、アメリカ軍の潜水艦による雷撃を受けて沈んでしまった日なのである。
五月雨自身、あの時の記憶が今でも残っているが、彼女なりに受け入れており、五月雨本人としては明日……つまり未来の方を見ているのだ。
そんな五月雨が何故ひとりで埠頭に立っているのかと言うと、あの日に沈んだ駆逐艦『五月雨』と亡くなってしまった英霊達に黙祷を捧げる為に来ていたのだ。
五月雨(あの日の私はずっと一隻であの海に居たけど、今は皆さんが常に一緒に居てくれます。ですから、ゆっくりと休んでください……亡くなってしまった乗組員の皆さんも心穏やかに休んでください……)
駆逐艦『五月雨』は八月十八日に座礁した。当時共に行動していた軽巡洋艦『鬼怒』と同型駆逐艦『時雨』の乗組員達も協力して離礁作業をしたが、五月雨がかなりの速度で座礁してしまった為に作業は難航。更には離礁作業中にアメリカ軍の空襲に
五月雨「…………」人
五月雨は両手を合わせ、しっかりと黙祷を捧げた後、また姿勢を正して今度は海に向かって敬礼をした。
五月雨(海の平和を守ります……どうか見守っていてください!)
五月雨は敬礼を終えると、寮へ帰る為に身を翻した。
するとーー
五月雨「え」
提督「やぁ、五月雨」ニコッ
鬼怒(本日秘書艦)「
白露「五月雨〜!」ノシ
五月雨「みんな……」
そこには提督、鬼怒に加え、白露を始めとした白露型姉妹が勢揃いしていた。
五月雨がその状況に困惑していると、時雨がゆっくりと五月雨に近寄り、声をかけた。
時雨「今日は僕達にとっても特別な日だよ。だからみんなで黙祷をしに来たんだ」ニコッ
五月雨「時雨……」
そう、白露型姉妹が勢揃いしているのは時雨が言ったように白露型姉妹にとっても特別な日なのだ。白露型姉妹のみんなにとって、五月雨は時雨に次いで長い期間で戦闘、輸送と奮闘、活躍した誇り高い存在なのだ。
知名度や武勲から言えば時雨、夕立がトップクラスではあるが、姉妹や五月雨に関わってきた艦達は五月雨の頑張りを知っているのだ。そして提督も五月雨の頑張りと功績をちゃんと理解しているのである。
そして提督と鬼怒、白露型姉妹は揃って埠頭へ横並びに整列し、静かに黙祷を捧げた。
五月雨はその光景を見て、胸が熱くなり、そして思わず涙が溢れ出た。そして自分もまたみんなと同じように整列に加わり、今度は深々と海に向かってお辞儀をして黙祷を捧げた。
一分間の黙祷の後、時雨は透かさず五月雨の肩を抱き寄せ、
時雨「もうひとりにはしないからね」
と優しく五月雨に言った。
それを聞いた五月雨はもう堪えることが出来ず、声をあげて泣き、時雨の胸にぎゅうっとしがみついた。そんな五月雨を時雨は優しく受け止め、落ち着かせるようにゆっくりと背中をぽんぽんと撫でた。
それを見ていた他の姉妹達は揃って五月雨に近寄り、優しく声をかけたり、優しく頭を撫でたりと五月雨を気遣った。
鬼怒「どうしよう、提督……貰い泣きしちゃいそうでパナイんだけど」クスン
提督「何も恥じる必要はない。こんなに綺麗な姉妹愛なのだからな」
鬼怒「うん……」グスッ
五月雨「ぐすっ……ねぇ、時雨……」
時雨「ん、なんだい?」ニッコリ
少し落ち着いた五月雨が顔を上げて時雨を呼ぶと、時雨は優しく微笑んで返した。
すると五月雨は涙を拭き、今度は強い思いが篭った眼差しで時雨に言った。
五月雨「今度こそ、姉妹揃って戦い抜こうね」
時雨「五月雨……」
そう、この日の駆逐艦『五月雨』の喪失により、白露型駆逐艦は十隻建造した内、駆逐艦『時雨』の一隻のみとなってしまったのだ。
時雨「ありがとう、五月雨……でも今なら大丈夫だよ。こうして姉妹だけじゃなくて艦隊のみんなが揃ってるし、何より頼りになる提督が僕達を指揮してくれているんだから」ナデナデ
五月雨「うん……」
白露「今度はあたしが一番頑張るんだから、大丈夫だよ!」ニカッ
村雨「みんなで力を合わせればなんだって乗り越えられるわ」ニコッ
夕立「夕立だってあの頃よりいっぱいいっぱい頑張るっぽい♪」
春雨「あの頃とは何もかも違う……春雨達が、頑張ればきっと未来は明るいはずだよ」ニコッ
海風「海風達は誰一人も沈んだりしません。勿論、艦隊の皆さんも」ニッコリ
江風「江風達に加えて全員が揃ってれば怖いモノなンて何も無いぜ♪」
涼風「過去は過去、今は今! 慢心さえしなけりゃ、あたい達は誰にも負けないさ!」
五月雨「みんな……うん、そうだよね!」ニパッ
鬼怒「(´;ω;`)」ブワッ
提督「お〜、よしよし」ナデナデ
五月雨達の美しい姉妹愛に心を打たれた鬼怒は提督の隣でボロボロと涙を流した。そんな鬼怒の頭を提督は優しく撫でやり、五月雨達の美しい光景を見ていた。
すると不意に時雨が提督の方を向いて満面の笑みで言った。
時雨「大丈夫だよね、提督?」ニコッ
提督「あぁ、誰一人として沈めさせたりはしない。みんなで笑ってあの水平線に勝利を刻むぞ」ニカッ
時雨の問い掛けに提督は胸を張って答えると、その場に居た全員が提督の元へ駆け寄り笑顔の輪が出来た。
そんな美しい輪を夕暮れの空に浮かんだ下弦の月が優しく見守っていたーー。
今日は駆逐艦『五月雨』が沈んでしまった日ということで、今回は真面目な回にしました。
駆逐艦『五月雨』と亡くなった方々に心からお祈りします。
本編での情報はWikipediaと大日本帝国海軍 所属艦艇より得た情報です。
そして今日は春雨ちゃんの竣工日でもあります!
春雨ちゃん、おめでとう!
では此度も読んで頂き本当にありがとうございました!