艦これ Short Story《完結》   作:室賀小史郎

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戦艦のみ。

少しのシリアス、独自設定、独自解釈含みます。


艦これSS二百十四話

 

 ○○鎮守府、○四○○ーー

 

 戦艦寮、長門型姉妹部屋ーー

 

長門「」パチッ

 

 長門はいつもよりも早くに目が覚めた。

 

 本日は戦艦『長門』があの作戦を耐え抜き、そして沈んでしまった日である。

 

 長門は艦娘として生まれ変わった今でも、その時のことは覚えている。

 

 あの光もーー

 

 あの熱さもーー

 

 あの爆風もーー

 

 あの海の冷たさもーー。

 

長門(少し早いが起きて風にあたって来るか……)

 

 長門は至って落ち着いていた。ただどうしても当時のことが思い浮ぶため、再び寝付ける気がしなかったのだ。

 

長門(陸奥は……)チラッ

 

 起き上がる前に長門は妹の陸奥がちゃんとぐっすり眠っているか確かめた。眠りが浅かったら自分が起き上がる音で起こしてしまうかもしれないと考えたから。

 

陸奥「すぅ……すぅ……」Zzz

 

 陸奥は規則正しい寝息でぐっすりと眠っていた。

 それを見た長門は安心して行動に出た。

 長門は陸奥が起きないよう寝間着(灰地に白のむじな菊柄)のまま埠頭まで行くことにし、ゆっくりと部屋を出た。

 

陸奥「……」

 

 長門が部屋から出た後で陸奥は目を開けた。

 実は少し前に何となく目が覚めたのだが、長門の視線に気が付き、今日は姉の長門にとっては特別な日だと気付き、変な気を遣わせないよう敢えて寝たふりをしていたのだ。

 

陸奥「少ししたら様子を見に行きましょ……」

 

 陸奥はそうつぶやいて長門のベッドの掛け布団を整えた。

 

陸奥「あら……ふふ、こういうことは本当にしっかりしてるんだから」クスッ

 

 長門のベッドの枕元には、長門が個人的に使っている可愛らしいイルカのメモ帳の一枚に書き置きが残っていた。

 

『埠頭に行って少しだけ風にあたって来る。

 心配しないように!

                 長門 』

 

 長門もこういう日くらいは一人で考えることがある。それに今の長門なら変な考えは起こさないと分かっている。しかし陸奥は時間を置いて埠頭に行くことにした。どんなに大丈夫だと分かっていても、たった一人の姉である長門が心配だから……。

 

 

 埠頭ーー

 

長門「すぅ〜……はぁ〜……」

 

 長門は深く深呼吸をした。

 

 深呼吸をした後、長門は水平線の海を眺めた。

 水平線の向こうは微かに白んでいて、日の出が近いことを意味していた。

 

長門「あの時の朝もこのように穏やかだったのだろうか……」

 

 長門自身、沈んでいく時は意識が朦朧としていてはっきりと覚えておらず、その時のことは曖昧なのだ。

 

長門(不思議なものだ……あの日、沈んだ私はあの海の底に居て、私はその長門の艦娘として生まれ変わっているのだからな……)

 

 そう考えると長門は思わず笑みが浮かんだ。

 そして変に考えるのを止め、あの海の底に眠っている、日本が世界に誇る、ビッグセブン・戦艦『長門』へ心からの黙祷を捧げた。一分間の黙祷後、長門は改めて敬礼をし、部屋に戻ろうと振り返った。

 

提督「おはよう、長門」ニコッ

 

長門「」

 

 長門は思わず固まってしまった。

 居ないと思っていた背後に人が居たから。ましてや自分が心から慕っている提督なら尚更である。

 

提督「? 長門?」

 

長門「ん、あ、あぁ、すまん。つい驚いてしまって声が出なかったのだ。おはよう、提督」ニコッ

提督「それは悪いことをしたな」ニガワライ

長門「何、気にするな。私が未熟なだけだ。提督はこれから剣術鍛練か?」

提督「あぁ、でもその前にすることがある」

長門「こんな早朝から……あぁ、だから軍服を着ているのか」

  (しかしこの時期はいつも軍服の上着は着ないはず……まるで何かの式典にでも行くような服装だな)

 

提督「大切な用事だ。長門に先を越されたがな」フフ

長門「?」

 

 首を傾げる長門をよそに、提督は海岸のすぐ側まで行き、背筋を伸ばす。

 

 そして脱帽し海へ向かって頭を下げ、微動だにしなかった。そこで長門は提督が何をしているのかはっきりと分かった。そして胸の中が熱くなるのを感じた。

 

 一分後、提督は直り、再び着帽した後、今度はしっかりと海へ向かい敬礼してから、その場から離れた。

 

提督「長門……」

長門「どうした?」

 

 長門が返事をすると、提督は長門の右手をしっかりと自らの右手で握り締めた。

 

提督「我々日本人に勇気と力を与えてくれて、ありがとう。そして艦娘として生まれ変わって来てくれて、本当にありがとう」

長門「っ!!」

提督「生まれ変わった今でも長門達に戦うことを強いているのは心苦しいが、いつも何も言わず、我々のために戦ってくれて本当にありがとう」

長門「て、提督……////」カァー

提督「長門だけでなく、今日は今ここには居ないが三日月にとっても辛い日だ。それでも我々を守ってくれている長門や三日月達には感謝の気持ちしかない」

長門「……////」

提督「私は長門やみんなに会えて本当に幸せだよ」ニコッ

長門「!?////」

 

 長門はある意味で意識が遠のきそうだった。

 恋い焦がれる相手に笑顔であんなことを言われたら、戦艦『長門』と言えど、一人の女性である長門にはこれ以上に無い程の幸福だからだ。

 

提督「では私は朝の鍛練に向かう。長門もそろそろ部屋に戻りなさい。夏とは言え、その格好で長時間潮風にあたるのは良くないからな」ナデナデ

長門「はぅ////」

 

 提督が長門の頭を優しく撫でると、長門は思わず間の抜けた声を出してしまった。何故なら今の長門は乙女モードに入っていて、提督の優しい言葉と撫で撫でにはめっぽう弱い上、今の自分は好きな相手の前で寝間着姿だったことをやっと思い出したから。

 

長門「あ、あぁ、もう戻る//// 陸奥もそろそろ起き出す時間帯だからな////」ドキドキ

提督「あぁ、陸奥も心配するだろうから戻りなさい」ニコッ

長門「う、うむ////」キュンキュン

 

 そして提督は長門に背を向けて訓練場の方へ歩き始めた。

 

 しかし提督は少ししてからまた長門の方を向いた。

 

提督「長門……その寝間着、素敵だな」ニコッ

 

長門「っ!?////」ズキューーン

 

 そう言い残すと提督はまたゆっくりと訓練場へ歩を進めた。

 

長門「////」ポケェ

 

 長門は小さくなっていく提督の背中を暫くの間ただただ見つめた。

 そして長門は提督への想いを更に強め、これからも人々のため、提督のために頑張ろうと決意を新たにした。

 

 

 埠頭側の物陰ーー

 

陸奥「これは見なかったふりをした方がいいわね」ニガワライ

 

 長門を後から追って来た陸奥は提督と長門のやり取りをほぼ全部見ていた。

 

 その後、陸奥は長門が戻ってくる前に部屋へ戻り、キラキラというかギラギラして帰って来た長門の話をずっと聞きながら、長門を思い遣るのだったーー。




 おまけーー

 一一○○過ぎーー

 戦艦寮、談話室ーー

長門「それでな提督がなーー♡」ペラペラ
大和「いいな〜! いいな〜!」キラキラ←ノリノリ
武蔵「」ペラッ←構わず読書中
陸奥「」ニガワライ

 ガラガラーー

アイオワ「あの〜……」コソッ
大和「アイオワさん?」
武蔵「ん、アイオワか。どうした、そんなに縮こまって?」
陸奥「あ〜……」

 アイオワは何か言いたそうにしながら長門達が座るテーブルへ近寄る。

アイオワ「ナガトー、あの、あのね……」オズオズ
長門「謝罪を聞き入れるつもりはないぞ、私は」
アイオワ「っ!?」ビクッ

アイオワ「そう……よね……今更よね……」
長門「お前個人はあの作戦で私に何もしてないだろう。それにお前自身は共に戦った仲間達があの作戦に参加し、心を痛めているのを私は知っている」
アイオワ「でも……」
長門「あれは過去の話で今の話ではない。それに今の私達は艦娘で目的は同じだろう」
アイオワ「ナガトー……」
長門「私は今更アメリカにどうこう言う気もないし、アメリカ艦だろうとなんだろうと仲間であるお前を信頼している。だから仲間から謝罪されるのは嫌なんだ」
アイオワ「Thank you……ありがとう……ございます……」ポロポロ
長門「戦艦がそう簡単に泣くもんじゃないぞ、全く」ナデナデ
アイオワ「ナガト〜……」ヒシッ
長門「大丈夫だ。今の私達なら……」ギュッ

陸奥「」ニッコリ
大和「(良かったわね)」コソッ
武蔵「流石は我らがビッグセブンだな」フフフ

 その後アイオワを加え、長門達は何ら変わらぬ時を過ごしたーー。

 おまけ・その二ーー

 一五○○ーー

 食堂ーー

阿武隈「さぁみんな、提督から任務大成功の報酬で間宮さんのスペシャルパフェ券貰ったからみんなで食べよう♪」
名取「ちゃんとみんなの分あるからね」ニコニコ

睦月「はわ〜!」キラキラ
文月「わぁ〜!」キラキラ
長月「おぉ〜!」キラキラ
皐月「おっき〜い!」キラキラ

 /アマーイ! オイシー!\

阿武隈「」ニコニコ
名取「今日は頑張った甲斐があったね」ニコッ
阿武隈「えへへ♪ うん!」ニパッ

卯月「あ〜! みんなもスペシャルパフェ食べてる〜!」
弥生「私達もこれからスペシャルパフェ食べるでしょ……主に三日月のお陰で」
三日月「殆どは司令官におねだりしたうーちゃんのせいなんですけどね」ニガワライ
卯月「でも今日はミカちゃんには大切な日だぴょん! だからみんなでスペシャルパフェを食べたいって言っただけだぴょん!」プップクプー

阿武隈「とりあえず一緒のテーブルで食べようよ」ニガワライ
卯月「食べるぴょん!」キラキラ
弥生「お邪魔します……」
三日月「後から睦月姉さん達も来るんですけど、いいですか?」
名取「勿論。みんなで食べよ♪」ニコッ
阿武隈「みんなで食べた方が美味しいから♪」
弥生「ありがとうございます……」キラキラ
三日月「ありがとうございます♪」ペコリ
卯月「早く食べるぴょん!」ワックワク

 その後、睦月、如月、菊月、望月も合流し、みんなでスペシャルパフェを仲良く食べ、三日月は笑顔でこの日を過ごしたーー。

 ーーーーーー

前にも書きましたが戦艦『長門』が海へ沈んだのは28日深夜から29日未明なので、今回は長門さんをメインに書きました!
そして本編ではあまり書けませんでしたが、この日は三日月ちゃんがアメリカ陸軍の戦闘機による爆撃でパプアニューギニアのニューブリテン島西端の北側にあるグロースター岬の沖に沈んでしまった日でもあります。

戦艦『長門』、駆逐艦『三日月』と英霊達に心からお祈りします。

そして更に本日はあのキスカ島撤退作戦が完了した日でもあります!

おまけでアイオワさんを出したのはアメリカを許す許さないとは別として、共に戦う仲間として今のアイオワさんが居るのだ。と私個人の気持ちを書きました。
不快に思われた方々には申し訳ありませんでした。

最後はちょっと複雑な話題になってしまいましたが、今回も読んで頂き本当にありがとうございました!

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