シリアス、独自設定、独自解釈含みます。
同日、一一○○ーー
防波堤ーー
利根「……」
利根は一人、鎮守府の防波堤の上であぐらを掻き、穏やかな海へ向かって静かに黙祷を捧げていた。
利根もまた呉軍港空襲にて至近弾や直撃を受けた。
転覆を防ぐために注水作業をするも、翌日の二十九日には大破着底してしまった。
当時の利根はレイテ沖海戦後、海軍兵学校練習艦として呉に停泊していた。
利根(……吾輩はこうして艦娘として生まれ変わった。艦だった頃の経験を糧に、今度こそは人々を守り抜いて見せる……)
黙祷を終え、今度は眼前の穏やかな水平線を真っ直ぐに見つめ、利根は誓いでもするかのように敬礼をするのだった。
「利根さんも黙祷ですか?」
利根「?」クルッ
ふと声をかけられた利根が振り向くと、そこには大淀が微笑みを浮かべて立っていた。
利根「うむ……お主もか?」
大淀「はい」ニコッ
利根に短く返事をした大淀は利根のすぐ隣に立ち、手を合わせ、静かに黙祷を捧げる。
大淀もこの日の空襲により大規模な浸水が起き、その後も数多くの爆撃を受け、最期は右舷方向に横転してしまい、そのまま終戦を迎えた。
大淀「」フゥ
黙祷を終えた大淀は大きく一息吐くと、隣であぐらを掻く利根が大淀に声をかけた。
その手には黒塗りの小さな盃が一つ握られていた。
利根「どうじゃ?」ニッ
大淀「分かりました」ニッコリ
大淀は利根のすぐ隣に腰を下ろした。
それから利根は大淀に盃を渡し、その盃へ少しだけ日本酒を注ぐ。
大淀「頂きます」ペコリ
利根「うむ♪」
大淀は利根と海にそれぞれ一礼した後、こくっと喉を鳴らして盃を空にする。
大淀「次は私がお注ぎしますね」ニコッ
利根「あぁ♪」
大淀に注がれた利根も大淀と同様に一礼した後、ぐいっと天を仰いだ。
そして最後は徳利に入った酒を海へ向かって注ぎ、注ぎ終わるとその場に大の字で仰向けになった。
利根「深海棲艦に負けぬよう頑張るぞ、大淀♪」
大淀「はい♪ 利根さん程、戦力にはなりませんが私も私なりに頑張ります!」フンス
「お〜い!」
声をかけられた二人は声のした方を向くと、そこには筑摩、鈴谷、熊野、明石が二人に向かって手を振っていた。
鈴谷「とねとね〜! 演習行くよ〜!」ノシ
熊野「準備してくださいまし♪」
筑摩「行きましょう、利根姉さん」ニコッ
明石「大淀、今回はこの編成で演習だってさ♪」
利根「これは早速頑張らねばいかんな」フフフ
大淀「頑張りましょう」ニコッ
こうして利根と大淀は立ち上がり、もう一度海を見た後でみんなの元へ歩み寄るのだった。
そして自分で持ってきた徳利を防波堤に忘れた利根が筑摩に注意されていたのは、ここでは詳しく触れないでおく。
同日、一四○○ーー
埠頭ーー
榛名「」ボーッ
榛名は埠頭から空を眺めていた。
呉軍港空襲のことを思い浮かべながら。
ーー
ーーーー
ーーーーーー
あの日の空も変わらず蒼かった……。
でもそんな蒼さに無数の黒い影があった……。
雨雲なんて無かった空から、雨の様に降り注いできたのは……
爆弾だったーー
ーーーー
ーー
榛名(榛名がもっとちゃんとしていれば……)
この日のことは鮮明に覚えている。
榛名はこの日、空襲を受けても激しく抵抗した。しかし多数の爆撃により大破し、浸水。後に着底。
着底はしたものの砲撃は可能だったが、その砲を使うことは二度と無かった……。
そしてそのたった九日後、その時を榛名は呉軍港の海から見てしまったのだ。
榛名(砲は撃てたのに榛名はあのまま
榛名(榛名があの時、自分の意思で動けたなら……)
艦娘となり、意思を持った今だからこそ、榛名はあの時のことを思い浮かべ、人々を守れなかった自分を責めた。
あの時、呉軍港の海から見えた大きな雲のことをーー。
「こんなところに居たんデスネ、榛名」
「探したんだよ、榛名?」
「せめて書き置きでもしていってほしいわね」
背後から聞こえた声に榛名は振り向いた。
そこには自分の姉妹である、金剛、比叡、霧島が立っていた。
榛名「ご、ごめんなさい……」ペコリ
榛名は透かさず三人に謝り、頭を下げた。
頭を下げたのは今の自分の顔はきっと酷いと思い、三人にこれ以上心配を掛けたくなかったから。
金剛「榛名は悪い子デ〜ス」
榛名「っ!!」ビクッ
金剛の言葉に榛名は思わず涙が溢れ出す。
しかしーー
ふわっ
突然、視界が真っ暗になり、それと同時に温かさが伝わってきた。
金剛が榛名を優しく抱きしめたのだ。
金剛「榛名はどうしようもないくらい悪い子で優等生ネ……こんな時でもワタシ達に気を遣うことは
比叡「こんな時まで強くあろうと思う必要無いんだよ。榛名」
霧島「寧ろ、私達があなたを一人残してしまったから、榛名には辛い思いを多くさせてしまって……辛い時に側に居てあげられなくて……」
榛名「そんな! 榛名は……榛名はそんな風に思ってほしくありません! 金剛お姉さまも、比叡お姉さまも、霧島も……最後の最後まで頑張ったじゃないですか!」
金剛「ふふふ……榛名はとことん悪い子デスネ〜♪」ナデナデ
榛名「え?」
比叡「私達は榛名が最後まで頑張ったの、ちゃんと知ってるよ」ナデナデ
霧島「……私達は最後の最後まで人々を守ろうと戦ったあなたに、この日まで気を遣ってもらいたくないのよ」ナデナデ
榛名「……でも……は……るなは……うぅっ、うわぁぁぁ、ああぁぁぁんっ!」
榛名は金剛にしがみつき大声で泣き出してしまった。
そんな榛名を金剛達はなだめるように抱きしめる。
榛名「……ひっく、ひっ……はる、なは……ぐす……ま、まもれな、うぅっ……くてぇ……」
榛名「まもるべき……ひとたちを……まもれっ……ぐす……なくてぇ……。ひっく……た、ただ……み、みてる……ことしか……、でき……なくて……ぐすっ」
金剛「その気持ちは痛いほど分かりマス。でも今を生きるワタシ達は未来を見なくてはイケマセン。今もワタシ達は色んな人達を守るために深海棲艦と戦争をしているんデスカラ……」
比叡「過去を振り返って己を顧みるのは大切だけど、それに縛られちゃ駄目」
霧島「榛名は私達の誇りよ。だからこんな時まで自分を責めないでほしいの」
榛名「……ごめん、なさい……」ポロポロ
金剛「許しマセン♪ 榛名がちゃんと甘えるように、今日はこれからずっと一緒に過ごして監視しマ〜ス♪」ギューッ
榛名「……金剛お姉さま……」
比叡「私だって榛名のお姉さんなんだから、しっかり甘えてね」ギューッ
榛名「……比叡お姉さま……」
霧島「姉を支えるのも妹の役目……それに双子なんだもの。無理はしないで」ギューッ
榛名「……霧島ぁ〜……」
金剛「さぁ、榛名。部屋に戻ってtea timeの準備をするヨ〜♪ そしてテイトクに突撃ネ〜!」
比叡「そんな泣き腫らした顔だと司令もびっくりしちゃうから、行く前に顔も洗おうね♪」クスッ
霧島「行きましょ、榛名」ニコッ
榛名「うん!」ナキワライ
榛名は金剛達に手を引かれ、部屋に戻って行った。
その表情は埠頭に来た時とは違い、とても晴れやかで、今の蒼い空に負けない程だったーー。
そして、一五○○ーー
執務室ーー
提督「今日は千客万来だな」ハハハ
伊勢「いいじゃないの♪ モテモテで♪」ニコニコ
利根「きょ、今日くらい良いではないか////」ヒシッ
榛名「榛名は提督のお側に居たいです!」ニパニパ
天城「わ、私も少しだけ////」カァー
こんな日だからこそ、それぞれの艦娘達は提督の休憩時間を狙って執務室に集結した。
提督は嫌な顔一つせず、来た艦娘達一人一人に声をかけた。その言葉のお陰で、この日辛い思いをした者達がキラキラ状態になったのは言うまでもない。
青葉「皆さんいい顔してますね〜♪」パシャパシャ
大淀「提督は本当に凄いですね」ニコニコ
日向「まぁ、そうなるな……」ニガワライ
金剛「紅茶が甘いネ〜♪」ニコニコ
比叡「榛名嬉しそう♪」ニコニコ
霧島「これは暫くはキラキラですね」クスッ
衣笠「青葉が『スクープのニオイ!』って言うから連れられて来たけど、凄い場面に出くわしちゃった」ニガワライ
筑摩「今日ばかりは皆さんに譲りましょうか」クスクス
鈴谷「まぁ今日は仕方ないよね〜♪」ニシシ
熊野「今日はそういう日ですからね」フフフ
明石「私は酒保に戻るわ。甘くて見てられないから////」ニガワライ
雲龍「葛城、金剛さんが紅茶くれたわ」ニコッ
葛城「雲龍姉ってこういう場面でもブレないのね」ニガワライ
鳳翔(本日秘書艦)「ふふ、今日も鎮守府は賑やかですね」ニッコリ
そんなこんなで本日は多くの艦娘達がそれぞれの過去と向き合い、そして未来を見つめる一日となった。
提督もそんな彼女達を心から労い、生まれ変わって来てくれたことに感謝しながら、時は過ぎていったーー。
本日は呉軍港空襲で多くの艦、乗組員、民間人が亡くなってしまった日です。
この空襲により亡くなった方々、そして沈んだ艦に心からお祈り致します。
呉軍港空襲についてはWikipediaやピクシブ百科事典に詳しく載っているので、気になった方は読んでみてください。
話は変わりますがこれを書いている間、艦これとは関係ありませんが、
ペルソナ3のED曲『キミの記憶』
ハガレンのED曲『RAY OF LIGHT』
をずっと聴いてました。
では今回は前編後編と分けましたが、読んで頂き本当にありがとうございました!