少しのシリアス、独自設定、独自解釈含みます。
今回はちょっと長くなるので前編後編で分けます。
ご了承お願い致します。
○○鎮守府、○四○○ーー
戦艦寮、伊勢型姉妹部屋ーー
伊勢「」パチッ
むくり……
伊勢「」チラッ
日向「大丈夫か伊勢?」
伊勢「あ、日向も起きたの?」
日向「起きたというか、起きてたに近いな」
伊勢「そっか……」
日向「我々にとっては忘れられない日だからな。他にも同じ様な者達も居るが……」
伊勢「そうね……」
本日は呉軍港空襲が起きた日である。
この日だけでなく呉軍港は三月十九日・七月二十四日にも空襲を受けている。
日向は二十四日の空襲により大破。その二日後に着底。
伊勢はこの日の空襲により大破着底してしまった。
日向「本当に自分が情けなかった……」
伊勢「日向?」
日向「皆が懸命に敵の爆撃機へ砲撃する中、私はただ見ていることしか出来なかった……」
伊勢「私だって殆ど似たようなものよ。私達は燃料不足で浮き砲台だった訳で、回避行動なんて出来なかったから格好の的だったのも……」
日向「」
伊勢「あの日のことは今も忘れないし、忘れちゃいけないって思ってる。でもそれと同じくらい大切なのは同じことを繰り返さないことよ」
日向「伊勢……」
伊勢「だって私達はもうただの艦じゃなくて、艦娘なんだもの」ニコッ
日向「あぁ、そうだな」ニコッ
伊勢「ねぇ、日向〜」
日向「ん?」
伊勢「えいっ♪」
ぼふっ
伊勢は日向の布団へ飛び込んできた。そして日向を抱き抱えるように優しく抱きしめた。
日向「なんだ、いきなり……」
伊勢「こんな日くらいいいじゃない♪ 妹がちゃんと生きてるって感じたいの。日向だって払い除けないんだから嫌じゃないんでしょう?」ニコニコ
日向「……困った姉だ////」プイッ
伊勢「あれれ〜、どうしたのさ日向〜? 大人しいじゃ〜ん?」ホッペツンツン
日向「うるさい////」
伊勢「あはは♪」
日向(まったく……)フフ
伊勢「ねぇ、日向」
日向「今度はなんだ?」
伊勢「今度こそ、みんなを守るために姉妹で頑張ろうね」ギュッ
日向「当たり前だ。もうあの時の私達ではないからな」
伊勢「うん♪」
互いに気持ちを新たにした姉妹は、気が付くと互いの体温を感じながらまた眠りに就くのだった。
そしてその寝顔はとても穏やかな寝顔だったーー。
同日、○六○○ーー
重巡洋艦寮、青葉型姉妹部屋ーー
青葉「〜♪」ルンルン
青葉はいつも通り明日発行予定の新聞記事を書きながら、最近撮った写真の現像をしていた。
青葉にとってもこの日は空襲にあった日である。
当時の青葉は先のレイテ沖海戦にて大破したため、呉で修復する予定だった。
しかし損傷が深刻で修復の見込みが立たず、呉工廠の近くに繋留放置されていた。
青葉は大破している状態でも空襲の時には防空砲台として最後まで奮戦するも、最期は多くの爆撃により艦尾がほぼ切断された状態で右舷に傾き、着底。そのまま終戦を迎えるのだった。
衣笠「青葉〜」
青葉「はい、何でしょう?」
衣笠「今日くらいゆっくりしたら? 今日はその……青葉にとってはあの日でしょう?」
青葉「そうですね〜」
衣笠「そうですねって軽いなぁ」ニガワライ
青葉「あの日のことは忘れません。でも青葉はもう気にしませんから」ニコッ
衣笠「本当に?」
青葉「はい♪」ニッコリ
衣笠「無理しなくていいんだよ? 青葉はいつも本当のところで気を遣うから……」
青葉「今の青葉の顔は気を遣ってる顔ですか?」
衣笠「……」
衣笠は青葉の顔を見た。でも青葉の表情はいつもと何ら変わらない。衣笠はそれを見て少し安心した。
衣笠「ううん。いつも通りだよ」
青葉「ふふん、そうでしょうとも♪」
衣笠「うん……」
青葉「今の青葉には衣笠も古鷹さんも加古さんも鎮守府のみんながついてます。みんなが揃ってこの日を迎えたのに何を気にするんですか?」
衣笠「青葉……」
青葉「艦だった頃の青葉は今日は大変な一日でしたが、艦娘の青葉にとってはみんなと過ごす変わらない一日です♪」
衣笠「そっか」ニコッ
衣笠は思った。これが艦娘の青葉なのだと。青葉は過去を受け入れ、今を笑顔で過ごして居るのだと。
そう考えると衣笠もいつも通り、青葉に最期の最期まで第六戦隊を背負って戦った大切な姉に、変わらない笑顔を向けるのだった。
コンコンーー
青葉「? は〜い!」
ガチャーー
古鷹「おはよう、青葉、衣笠」ニコッ
加古「おっす、お二人さん」ノシ
青葉「おやおや、こんな朝からどうしました〜?」
衣笠「加古ちゃんがちゃんとしてる……」キョウガク
古鷹「今日は青葉にとっても私達第六戦隊にとっても大切な日だから」ニコッ
加古「こんな時くらい、あたしだってしっかりするさ」
青葉「古鷹さん、加古さん……」
古鷹「最期まで守ってくれてありがとう。青葉」ギュッ
加古「お疲れ、青葉」ナデナデ
青葉「ちょ、ちょっとお二人共〜!」アワワ
衣笠「」ニコニコ
古鷹「あれ〜? 去年は青葉、とっても寂しそうだったのに〜……」
加古「去年はずっとあたしらに謝ってたのにな〜」ニヤニヤ
青葉「過去は過去! 今は今です!////」
衣笠「説得力ないよ、青葉〜?」ニヤニヤ
青葉「〜////」プシュー
古鷹「何年経っても私達は青葉が頑張ったことを忘れないよ」ナデナデ
加古「今日くらい素直に甘えとけよ、青葉」ギューッ
青葉「も、もぉ〜////」
衣笠「ねね、今年はこれから呉の方角に向かってみんなで黙祷しよ!」ニコッ
古鷹「賛成♪ 去年は青葉が落ち込んでてみんな揃って出来なかったもんね♪」グイッ
加古「つぅワケだ、青葉。朝飯前に行くぞ♪」グイッ
青葉「分かりました! 分かりましたからそんなに引っ張らないでください!」ハワワ
衣笠「レッツゴー♪」グイグイ
青葉「衣笠まで〜!?」
こうして青葉は古鷹達に急かされながら鎮守府の裏山へ連れられて行った。
その時のみんなの表情はいつもと何も変わらない、青葉が愛するみんなの笑顔だったーー。
同日、○九○○ーー
中庭ーー
天城「」
天城は軽い朝食を終えた後、一人ふらふらと中庭へやって来た。
天城「」フゥ
天城はこの日の空襲により飛行甲板に爆撃を受け、それにより左舷機関室の艦底から浸水。当時は人員不足ということもあり応急処置もろくに出来ず、更なる爆撃を受け、翌日の二十九日に左舷方向に横転しそのまま終戦を迎えた。
天城(あの日はもう少し雲が多かったかしら……)
あの時のことを思い浮かべながら空を見る天城。しかし、天城の心はとても落ち着いていた。
天城(あの時は何も出来なったけど、今の私は艦娘。それに雲龍姉様も葛城も、艦隊も皆さんも、心優しい提督も居るもの……)
そう、天城は天城なりにあの時のことを受け止めて今を過ごしているのだ。そして今、空を見ているのはあの日亡くなった人々のことを思い、空を眺めているのだ。
そんな天城を少し離れた所にある木の上から見る者が居た。
雲龍「……」
姉の雲龍だ。彼女自身は第一次・呉軍港空襲(一九四五年・昭和二十年・三月十九日)が起こるより前に沈んでしまっている。
姉として残された妹の辛さを分かっているからこそ、敢えて今は声をかけずに見守ることにし、今に至る。
「雲龍姉〜! 天城姉〜! どこ〜!?」
雲龍「?」
天城「?」
それぞれの姉の名を呼びながら中庭のそばを歩くのは一番下の妹、葛城だった。その声はどこか泣きそうな声だった。
葛城も天城と同じように空襲により中破した経験がある。葛城はあの当時、天城と三ツ子島で共に係留されていた。
そして葛城は目の前で姉である天城が横転するのを見てしまっているのである。
二人はすぐさま葛城の元へ向かった。
雲龍「葛城、どうしたの?」
天城「何かあった?」
葛城「どうしたもこうしたもないよ〜! 二人して気が付いたら食堂から消えちゃってるんだもん! すっごく探したんだよ!?」
雲・天『ごめんなさい』ニガワライ
葛城「今日くらいずっと一緒に居てよ……怖いから……」ギューッ
雲龍「そうね、本当にごめんなさい」ナデナデ
天城「私達はもう葛城を一人にはしないわ」ナデナデ
葛城「……うん」
雲龍「天城も葛城も勿論、私も。誰一人欠けることは無いわ」
天城「はい、雲龍姉様」ニコッ
葛城「うん!」ニパッ
そして雲龍型姉妹は改めて中庭のベンチに座り、あの日とは違う穏やかな空を見上げながら、あの日亡くなった人々へ心から黙祷を捧げたーー。
前編終わりです!
あの時は今で言えば戦争も終盤で人員不足や資材不足、燃料不足。更にはアメリカ軍の機雷封鎖で行動不能な状態のまま多くの艦と近隣地域が空襲を受けました。
それでも高射角砲を中心に抵抗し、幾つかの敵機を落としましたが、結果は悲惨なものでした。
伊勢はこの時の主砲発射が奇しくも日本海軍戦艦の最後の大口径砲の発砲となったという話もあります。
なお、この空襲とは別に
1945年5月5日に隣接地域にある広工廠空襲。
同年6月22日に軍港内の呉工廠造兵部空襲。
同年7月1日深夜から2日未明にかけて、呉市街地が戦略爆撃を受けています。
それでは後編に移ります!