一二一○ーー
赤城からの報告を最後に本日の前半が終了した。
提督「赤城達に特に何もなくて良かった。時間が少し過ぎてしまって悪かったな、朝潮」
朝潮「いえ、これくらい大丈夫です」
提督「ありがとう。本当に朝潮は良い子だな」ナデナデ
朝潮「あ、あぅ////」テレテレ
提督「よし、朝潮はみんなと休憩に入りなさい。私は大本営に報告しなくてはならないことがあるからね」
朝潮「分かりました! では、お先に休憩に入らせていただきます!」
朝潮は礼儀正しく頭を下げた後、ゆっくりと執務室を後にした。
鎮守府本館内・廊下ーー
所用を済ませ食堂に向かっていると、突き当たりから丁度阿賀野と矢矧と酒匂が姿を見せた。
一番初めに私のことに気がついた阿賀野はパァっと明るい笑顔を見せて駆け寄ってきた。
阿賀野「こんにちは~、提督さんも今からお昼?」
提督「あぁ、そうしようと思っている」
阿賀野「じゃあじゃあ、阿賀野達と一緒に食べよ? ね?」グイグイ
そう言って腕を引っ張られ、それと同時に腕に柔らかい感触が伝わってくる。
彼女は軽巡洋艦の阿賀野型一番艦で長女だ。
周りからはよく『だらし姉』と言われているが、妹達を思いやる良い姉だ。
因みに本日の第一艦隊に所属している能代は阿賀野型二番艦の次女で、姉の世話を良くしていて阿賀野と同じように姉妹思いの良い艦娘だ。
矢矧「阿賀野姉さん、提督が困っているじゃないか。すみません提督」フカブカ
提督「いやいや、気にしなくて良いよ」
まるで床に頭をぶつけるかの如く謝罪するのは、阿賀野型三番艦、三女の矢矧。
礼儀正しく、しっかり者で大和と仲の良い艦娘だ。
酒匂「ぴゃん♪ 司令、こんにちはー!」
阿賀野型四番艦末っ子の酒匂は人懐っこく、甘え上手。三人の姉を心から慕っている。
提督「あぁ。今日も酒匂は元気だな、関心関心」ナデナデ
酒匂「ぴゃ~~♪」トローン
阿賀野「むぅ、提督さん阿賀野にはしてくれないの?」プンスコ
提督「あ、あぁ、すまん。これで良いか?」ナデナデ
阿賀野「えへへ~♪」クネクネ
矢矧「……本当すみません」フカブカ
そんな矢矧に「大丈夫だ」と言って、頭を二人と同じように撫でると矢矧は恥ずかしそうにしながらも笑みを返してくれた。
阿賀野と酒匂に押しきられ、そのままの流れで一緒に昼食を取ることになった。
阿賀野「提督さんと一緒~♪」
酒匂「ぴゃ~♪」
矢矧「阿賀野姉さんが強引にすみません……」
提督「気にしなくて良いよ。寧ろ私のような者との昼食をこんなに楽しんでくれて嬉しく思う……しかし、ね……?」
阿賀野「ん?」クビカシゲ
酒匂「??」クビカシゲ
提督「こうも両腕をホールドされていると食べられないんだが……」
そう、昼食を運んでテーブルに着くと同時に私の両サイドに座った阿賀野と酒匂に腕を組まれ、私は身動きがとれないのだ。
矢矧「阿賀野姉さん! 酒匂も! 提督が困っている! そもそも公の場なのだから少しは慎め!」
阿賀野「んもぅ、堅いなぁ矢矧は。そんなんじゃ提督さんに飽きられちゃうよ?」
矢矧「んなっ!? そんなこと……そんな……」ドヨーン
阿賀野「あ、意外と気にしてた?」アセアセ
提督「矢矧はそのままで十分良い艦娘だ。私が保障するぞ」
矢矧「提督……はい、ありがとうございます!」
酒匂「矢矧ちゃんキラキラしてる~♪」
矢矧「う、うるさいっ////」
仲の良い姉妹を微笑ましく眺めていると、不意に阿賀野が私の口元へ料理を運んできた。
阿賀野「提督さん、あ~ん♪」
提督「あ、あぁ、ありがとう……うん、美味いな」
酒匂「ぴゃん♪ あたしもやる~♪」アーン
提督「う、うむ……こちらも美味いな」
二人のご厚意を受けると二人は嬉しそうに腰をくねらせている。
矢矧「………………」ゴゴゴゴゴゴ
そんな姉妹の様子を絶対零度の鋭い視線で見つめる矢矧。
それを見て二人は身の危険を感じ、苦笑いを浮かべて私の腕から離れた。
四人『ご馳走さまでした』
阿賀野「かき揚げうどん美味しかった~! デザートのぜんざいも最高~♪」
酒匂「ぴゃ~♪ ナポリタンもプリンも美味しくて幸せ~♪」
提督「酒匂、口元にケチャップが付いてるぞ」ゴシゴシ
酒匂「えへへ~♪ ありがと、司令♪」
矢矧「……良いなぁ」ボソ
提督「ん? 何か言ったか矢矧?」
矢矧「い、いえ!////」カオマッカ
提督「そうか……では私は一足先に失礼するよ」
酒匂「ぴゃ~……もう行っちゃうの~?」シュン
提督「執務室へ戻る前に一服したいからね。楽しい昼食だった。三人共ありがとう」ニコ
阿賀野「んふふ♪ また一緒に食べようね、提督さん♪」
酒匂「ぴゃん♪」ノシ
矢矧「午後も頑張ってください!////」カオマッカ
三人に見送られ私は食堂を後にした。
阿賀野「矢矧~、顔真っ赤にし過ぎ~」ニヤニヤ
酒匂「まるでゆでダコみた~い♪」ニコニコ
矢矧「う、うるさいうるさいっ//// そんなに元気があるなら午後の鍛練はいつもの倍にするからね!」
二人『それは嫌~』アオザメ
鎮守府内・中庭ーー
食堂を出て鎮守府内の中庭に来た。
ここは艦娘達みんなの交流場であり、憩いの場だ。
そんな中庭の端にある白いベンチ。ここが喫煙所だ。
他のベンチは青で統一し、喫煙するのは私だけなので、私の軍服に合わせて分かりやすいようにしたのだ。
ベンチに座り、辺りを見回すと鎮守府の艦娘達が和気藹々と時を過ごしている。
話に花を咲かせる者、芝生に寝そべり昼寝をする者、読書をする者、瑞雲を散歩させている者、カメラを片手に何かを追う者、猛スピードで走る者とさまざまだ。
提督「ふ~~……」
(みんな楽しそうで何よりだ……)
皆の様子を見ながら一服していると、不意に視界を阻まれ真っ暗になった。
○○「だぁ~れだ♪」
提督「……手は高雄だが、声は愛宕だな?」
視界を阻まむ手がどかされると、二人の艦娘が姿を見せた。
愛宕「ぱんぱかぱーん♪ 大正解~♪」
満面の笑みでそう言うのは重巡洋艦高雄型二番艦の次女、愛宕。
包容力があり駆逐艦の娘達に慕われている。
高雄「お見事です。流石は提督ですね」
お淑やかな笑みを見せるのは重巡洋艦高雄型一番艦で長女の高雄。
しっかり者でいつも駆逐艦の娘達の面倒をよく見てくれている。
提督「ははは、君達とは付き合いが長いからな」
そう、我が艦隊で最初に配属された重巡洋艦が高雄、そして次が愛宕だ。今は他の重巡洋艦達の指導係に任命している。
愛宕「んふふ~♪ それなら私の今日の下着の色は?」
提督「ぶふっ! ゴホゴホっ!」
高雄「あぁ、提督大丈夫ですか!? 愛宕っ! 提督を困らせないのっ」
愛宕「あら、ごめんなさ~い♪」テヘペロ
高雄「まったく~。提督、愛宕がすみません。大丈夫ですか?」サスリサスリ
提督「あぁ、大丈夫だ……」ナミダメ
愛宕は時々こうした冗談を言って私が困るのを楽しんでいるように思う……。
二人に悪いので火を消そうとすると、高雄が慌てて止め、愛宕が「大丈夫」と言ったように笑顔を向ける。
愛宕「お酒があまり飲めない提督の楽しみだもんね~。気にせず吸ってて良いわよ」
高雄「もうその香りは提督の香りですからね。吸い過ぎはいけませんけど」
提督「そうか、ありがとう」スーハー
愛宕「私はこの匂い嗅ぐと落ち着くわ」
高雄「それは何となく分かるわ。火をつける時とか私は好きよ」
愛宕「あぁ、分かる分かる~。なんかこう大人の魅了って言うか」
私の居る前でそんな話をしないでもらいたいと思ったが、二人の笑顔に何も言えなかった。
「……~~!」
遠くから聞こえてくる声に私達は声がする方を見る。
摩耶「高雄姉~! 愛宕姉~!」ブンブン
そこには大きく手を振って二人を呼ぶ、重巡洋艦高雄型三番艦の摩耶と、
鳥海「…………」ニコ
微笑んで小さく手を振っている、重巡洋艦高雄型四番艦鳥海が居た。
摩耶「高雄姉、午後の訓練メニュー忘れたから教えて!」
鳥海「ま、摩耶、先に司令官さんに挨拶をするべきよ! 司令官さん、こんにちは」ペコ
摩耶「お、そういやここは提督のベンチだったな! よう、提督!」ニカッ
提督「こんにちは鳥海。摩耶は相変わらず元気で清々しいな」
摩耶は口調や行動は雑だが、二人の姉に似て面倒見が良い姉御肌の艦娘だ。
鳥海は末っ子の性なのか三人に比べたらとても大人しいが、戦場に出れば三人を凌駕する程の実力者だ。彼女に憧れている駆逐艦の娘も多くいる。
二人も高雄、愛宕に次ぐ古参の重巡洋艦で改二になったのを期に、二人と同じ重巡洋艦達の指導にあたってもらっている。
高雄「はぁ、またなの? ちゃんとメモしておいてって言ってるのに……」
摩耶「だってメモ帳小さくて書けないんだもんよ~!」
鳥海「愛宕姉さん、ちょっと午後の訓練のことでご相談が……」
愛宕「えぇ、良いわよ~」
バラバラに見れば姉妹っぽさは無いが、こうして揃えば仲の良い姉妹だと染々思う。
摩耶「提督~! 高雄姉が怒る~!」
高雄「当たり前でしょ! ああ言えばこう言って!」
提督「まあまあ、高雄。そんなに叱らないでやってくれ」
高雄「提督まで……!」
摩耶「さっすが提督、話が分かる~!」
提督「だがな、摩耶。お前の訓練がそのままみんなの戦闘に生かされるんだ。命を懸ける以上、教える側もそれ相応の責任を自覚しなくてはな?」ナデナデ
摩耶「う~ん……提督がそう言うなら次からちゃんとメモするよ~」シュン
高雄「提督の言葉だと素直になるのね……」ハァ
それから高雄達は午後の訓練の為、一礼してその場を後にしていった。
私も立ち上がり伸びをして気持ちを改めて、執務室へ戻った。
ここまで読んでくれて本当にありがとうございました!
今回は阿賀野型姉妹と高雄型姉妹を登場させました!