艦これ Short Story《完結》   作:室賀小史郎

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軽巡洋艦メイン。

少しシリアス、独自解釈、独自設定含みます。
苦手な方はブラウザバックを!

少し長めです。


艦これSS百九十話

 

 ○○鎮守府、○三○○ーー

 

 軽巡洋艦寮、阿賀野型姉妹部屋ーー

 

阿賀野「すか〜……ん〜……もう、ていとくさんったら〜……うへへ……」Zzz

能代「すぅ……あがのねぇ、それはわたしのすかーとだから……すぅ……」Zzz

矢矧「くぅ……くぅ……くんれんたのしい……」Zzz

酒匂「っ……ん〜……んん〜……」

 

 ーー。

 ーーーー。

 ーーーーーー。

 

『ここは……海の上……?』キョロキョロ

 

 日の出方からして時刻は朝。そして周りには複数の艦娘達が生気無くただただ前を向いている。

 

『矢矧ちゃ〜ん? 能代ちゃ〜ん? 阿賀野ちゃ〜ん?』

 

 名前を呼んでも誰も答えない……いや、反応しないといった方が正しいかもしれない。

 

『あれ……あの娘、どうしたんだろう?』

 

 そんな中、一人だけ目立つ艦娘が居た。

 全身をオレンジ色に塗装した艤装で(まと)い、ただひたすら顔を上げ、目を閉じてた。それは何かを待っているかのように見えた。

 

『ぴゃ〜?』

 

 訳も分からず、とりあえずまた辺りをグルッと見渡す。

 

 すると見慣れた艦娘の背中が見えた。

 

『長門さん? あ、あっちはプリンツちゃんかな?』

 

 数多く居る見知らぬ艦娘達に混じって知った艦娘を見つけた。

 だがどちらも後ろ姿のみで顔までは分からない。

 

 近付こうとしたが体は思うように動かず、ただその場に浮かんで居るのがやっとだった。

 

 ヒューーーン……

 

『?』

 

 すると上空に何が投下された。

 

『何、あれ?』

 

 周りの者達も揃って投下された物に注目する。

 

『ーーーッ!』

 

 すると先程のオレンジ色の艤装を身に纏う艦娘が聞き覚えのない言葉を叫んだ。

 

『?』

 

 どうしたのだろうとまた上を向いたその時だったーー

 

 ほぼ真上で投下された何がピカッと真っ白く光った瞬間、それは真っ赤な炎を纏い容赦なく全身を覆った。

 

『っ!!』

 

 声が出なかった。出したくても出せなかった。それが唯一あの瞬間に感じた事だったーー。

 

 ーー。

 ーーーー。

 ーーーーーー。

 

酒匂「っ!?」ガバッ

 

酒匂「はぁはぁ……っ……はぁはぁ……!」

 

 酒匂は飛び起きた。そしてすぐに自分の周りを見渡し、今のが夢だと実感する。

 

酒匂(そっか……昨日はあの日で今日は……)

 

酒匂(艦娘になって、矢矧ちゃん達と当たり前のように過ごせてるから忘れちゃってた……)

 

酒匂「ぴゃ〜……凄い汗……」

 

 酒匂は自身に纏わりつくように流れる汗を感じた。

 このままでは気持ち悪い。酒匂はシャワーを浴びようと着替えを持って寮室を出た。

 

 

 室内訓練場、シャワー室ーー

 

 この時間では鎮守府のお風呂場は閉まっている。その為、深夜や早朝はドックのシャワー室か室内訓練場のシャワー室をみんな使う。

 酒匂は敢えて遠い室内訓練場のシャワー室を選んだ。

 ここのシャワー室なら今なら誰も居ないからだ。

 

 ジャーー……

 

酒匂「」

 

 暫くもの間、水のシャワーを浴び続けていた。

 

 夢であったとはいえ、艦の時に感じたあの熱さが艦娘である今の身体に降り注いだのだ。あの感覚を忘れさせるかように酒匂はその後も水を浴び続けた。

 

 

 シャワー室の脱衣室ーー

 

酒匂「ぴゃ〜……寒い〜……」ブルブル

 

 酒匂はシャワー室内の時計の針が○四○○を指し、しかもそれを過ぎているに気が付き、慌ててシャワー室から出た。

 

 七月とはいえまだ梅雨。一時間近く水を浴びていた酒匂の身体はひんやりと冷たくなっていた。

 

酒匂(今度は冷たい……)

 

 あの最期の時と同じだと酒匂は思った。

 

 壮絶な爆風と炎上の末、最後は深海へ沈んでいった自分。

 

 ひんやりとした今の自分はあの沈んでいった自分そのものではないかとーー。

 

「誰かそこに居るのか?」

 

酒匂「ぴゃっ!?」ビクッ

 

 突然声をかけられた酒匂は肩を震わせた。

 それと同時にその声の主が分かり、酒匂は心が温かくなるのを感じた。

 

 そして酒匂はすぐに返事をして、制服を着た後でシャワー室の脱衣室から出る。するとそこには道着姿の提督が立っていた。

 

提督「やはり酒匂だったか。声でなんとなく察したよ」ニカッ

酒匂「こ、こんばんは」ペコ

提督「こんばんは……と言ってももう朝の四時を過ぎているから、おはようが正解かもしれないがな」

酒匂「あ……お、おはようございますっぴゃ……////」

 

提督「あぁ、おはよう。今日の酒匂は早いな」ナデナデ

酒匂「えへへ……ちょっと嫌な夢見ちゃって……」

提督「嫌な夢……そうか、今日はそうだったな」

酒匂「」コクン

提督「どうだろう酒匂。嫌じゃなければこれから少し一緒に外を歩かないか?」

酒匂「ぴゃ〜?」クビカシゲ

提督「どうかな?」ニコッ

酒匂「ぴゃん♪ お供するっぴゃ〜♪」

 

 突如朝のウォーキングに誘われた酒匂は提督の笑顔を見てすぐに頷いた。何故ならその優しい笑顔に提督なりの気遣いを感じたから。

 

 二人はすぐ外に出て準備運動をした後、特にゴールも決めずにウォーキングを開始した。

 

 ーー。

 ーーーー。

 

 てくてく……てこてこ……

 

提督「今日は雲があるが、青空も見えて良い天気だな」

酒匂「うん♪ とっても気持ちいい♪」

 

提督「早起きは三文の徳とは良く言ったものだな」

酒匂「三文っていくらなの〜?」

提督「今で言えば百円くらいだろうな」

酒匂「百円の徳か〜……」

提督「……今、ちょっと微妙だと思ったな?」

酒匂「あぅ……えへへ、ごめんなさい////」

提督「素直でよろしい♪」

 

提督「そもそも『早起きは三文の徳』とは早起きを促す為の言葉なんだ」

酒匂「へぇ〜」

提督「早起きは健康に良い。そして早起きすれば時間に余裕が持てて、ゆとりのある行動が取れる。これはとても徳があると思わないか?」

酒匂「そう言われるとそう思う!」

提督「ふふ、だろう?」

酒匂「うん♪」

 

酒匂(こうして司令と二人っきりで歩くことが出来るのも早起きのお陰なのかも♪)

 

 そんな他愛もない話をしながら二人はウォーキングを続け、気がつけば埠頭まで来ていた。

 

提督「ふぅ……今日の海は穏やかだな」

酒匂「うん……とっても穏やか……」

 

提督「酒匂」

酒匂「ぴゃ〜?」

 

 ぽふっ←提督、酒匂の頭を軽く撫でる

 

提督「生まれ変わって来てくれてありがとう……」

酒匂「え」

提督「艦だった酒匂はこの日あの作戦により海へ沈んだ……しかし今はこうして艦娘として私の目の前に来てくれた。それはあの過去があったからだ」

酒匂「」

提督「酒匂、手を出してごらん」

酒匂「?」スッ

提督「こうするとどうだ?」

 

 提督は酒匂が出した右手を両手で優しく包み込んで、そう酒匂に訊ねた。

 

酒匂「……温かい」ニコッ

提督「これが今を生きている証拠だ……だから何度でも言おう。生まれ変わって来てくれてありがとう」ニッコリ

酒匂「司令……はい♪」ピャン

提督「ああ……っと、来たみたいだぞ」フフ

酒匂「?」

 

阿賀野「あぁ〜! 酒匂が提督さんと手を握って見つめ合ってる〜! ズル〜い!」

能代「阿賀野姉ぇ、ちょっと黙って……やっぱり提督と一緒だったわね」

矢矧「酒匂〜!」ノシ

 

提督「みんな、酒匂を探していたみたいだな」ナデナデ

酒匂「っ……みんな〜!」ピョンピョン

 

 そして酒匂は阿賀野達の方へ満面の笑みで駆け寄ると、三人を思い切り抱きしめた。そんな酒匂を三人も揃って優しく抱きしめた。

 

提督(生まれ変わって来てくれて本当にありがとう、みんな……)

 

 そんな心温まる光景を見た提督は、心の中で今度はそっと艦娘のみんなへ向けて感謝を伝えるのであった。

 

阿賀野「提督さ〜ん! 阿賀野の手を取って、阿賀野とも見つめ合いましょ〜?」ギューッ

能代「阿賀野姉ぇ! 提督になんてお願いしてるの!」

矢矧「(わ、私も提督となら……////)」ゴニョゴニョ

酒匂「それより酒匂お腹空いた〜!」ピャー

提督「あはは!」

 

 そして今日も鎮守府は賑やかに幕を上げるのであったーー。




酒匂は目標艦ネバダの約500~600m地点に配置されていた。だが爆心地点がずれ、ほぼ上空で原子爆弾が爆発した。その強力な爆風により艦橋より後方の構造物は、前方へなぎ倒された。艦尾部分は24時間近く炎上し、また艦尾にも亀裂が生じて浸水がはじまった。酒匂は7月2日、浅瀬への曳航作業中に左舷へ傾斜し始め艦尾から沈没しその艦歴に幕を閉じたのであった。現在は水深60mの海底に眠っている。Wikipediaより。

酒匂とは日が違いますが、この作戦により二度の被爆しても耐えた戦艦・長門も海へ沈み、同じく二度耐えたドイツ艦のプリンツ・オイゲンも座礁し転覆しています。
先日、クロスロード作戦の事が書かれた記事を見つけ読んでいたら今回のお話が浮かびました。
何度読んでも本当に凄まじいです。

これからも世界が平和であることを心からお祈りします。

今回はちょっとシリアスでしたが、ご了承を。
読んで頂き本当にありがとうございました!

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