艦これ Short Story《完結》   作:室賀小史郎

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軽巡洋艦のみ。

キャラ崩壊、真面目なシーン含みます。

ちょい長めです。


艦これSS百八十八話

 

 ○○鎮守府、二三○○過ぎーー

 

 室内訓練場ーー

 

提督「すぅ……はぁ……」

 

 今宵の私はどうも寝付けなかった。そのため、こうして室内訓練場で汗を流していた。

 愛用の刀を握り、目の前の虚空へ素振りをする。

 

 空を切る音は激しさを増し、それに伴うように外の雨脚も強まる。

 

提督「……ふぅ……」

 

 キリの良い所で刀を鞘に収め、深呼吸をする。

 

 すると訓練場のドアが微かに音を立て、静かに開く。

 

 ガラ……

 

 ドアを開け、室内訓練場へ一礼して入ってきたのは神通だった。

 

 神通は入ってきてすぐに私の存在に気が付き、私の元へ小走りで近寄ってきた。

 

神通「提督、こんばんは」ペコリ

提督「こんばんは、神通」

 

神通「誰も居ないと思っていたので驚きました」

提督「あぁ、電気も一部しか付けてなかったからな。驚かせてすまない。神通も自主訓練か?」

神通「訓練という程のものではありません。ただちょっと走ろうと思いまして」ニコッ

提督「神通らしいな。ちゃんと休んでいるのか?」ナデナデ

神通「あう//// あのっ……ちゃんと休んでますよぅ////」カァー

 

提督「本当か? 通常訓練に加え、今日は出撃もした。私としてはゆっくりと身体を休めてほしいんだが……」

神通「お言葉ですが、提督には言われたくありませんね。提督だって毎日激務に追われている身ではありませんか」

提督「言うじゃないか……神通よ」ニガワライ

神通「提督の指導の賜です」ニッコリ

提督「はは、頼もしいな」

神通「」クスクス

 

 そして私は神通と笑い合った。笑い合った後で私と神通は一先ず訓練場内の窓際に腰を下ろした。

 

神通「汗はちゃんと拭いてくださいね。体が冷えてしまいますから」

提督「あぁ、分かっている。それに女性の前で汗だくでは失礼だからな」フキフキ

神通「訓練の後ですから、そんなに気にしないでください」ニコッ

提督「はは、心遣い感謝するよ」

 

神通「提督はどうして今夜は自主訓練をしていたのですか?」

提督「ん? ただ寝付けなかっただけだ」

神通「寝付けなかったから訓練で汗を流そうと。そういうことですか?」

提督「そうだ。単純だろう?」ニッ

神通「はい」クスクス

 

提督「神通はどうして自主訓練に来たんだ?」

神通「提督と同じ理由です」

提督「そうか」

神通「もう少しで七月……というのも寝付けない理由ですけど」ニガワライ

提督「……来月、再来月は神通だけではなく、皆にとってそれぞれ思うことが沢山ある月になるな」

神通「はい……ですが私を含め、皆さんが暗いことだけを思ったりはしません」

提督「そうか……こう言ってはあれだが、暗いことだけじゃないなら良かった」

 

神通「提督のお陰なんですよ、私達がこうなれたのは」

提督「そうなのか?」

神通「はい。提督が私達一人一人を大切に思ってくれて……提督が私達に明るい思い出を沢山作ってくれたことのお陰なんです」ニコッ

提督「私は当然のことをしているだけだ」

神通「当然のこと……ですか?」

提督「あぁ、そうだとも。今の我々は深海棲艦に制海権を奪われ、戦争を余儀なくしているがその戦線を維持出来ているのは神通達、皆の存在があるからだ」

神通「私達の存在……」

提督「先の大戦……艦だった頃も、そして艦娘となって生まれ変わった今でも、こうして我々を守り、支えてくれている。そんな神通達を思い遣るのは私にとっては当然のことだ」

神通「提督……」

 

提督「それに私は嬉しいんだ、神通」

神通「嬉しい、ですか?」

提督「あぁ……先の大戦で今の我々、そして日本があるのは最前線で戦って守ってくれた沢山の英霊達と艦だった神通達のお陰だ。そんな神通達が戦争中とは言え、こうして艦娘として生まれ変わり再び我々の前に現れ、しかも今は言葉を交わせるんだからな……これは本当に幸せなことだ」

神通「提督……」キュン

 

提督「……本当なら、戦争なんて無い時に生まれ変わって来てほしかった……神通達がまた傷つく姿は見たくないからな」

神通「そう、ですね……ですが、私達艦娘でしか深海棲艦に有効打を与えることは出来ません。それに命の奪い合いですから、こちらも傷を負うのは致し方ありません……」

提督「分かっている……だからこそ非力な私は知略で、あるいはこの刀で、神通達を守ろうと決めている。守られているだけなのは性に合わんからな」

神通「存じています」ニコッ

 

提督「もっと本音を言えば、神通達を戦場へ赴かせたくはないのだ……しかし赴かせなくてはもっと深海棲艦の思う壺となる。本当に自分に力がないのが情けなく思う……!」グッ

神通「そんなにご自分を責ないでください。提督が私達を守るために日々努力してくださっているのを私は……艦隊の全員が存じています」

提督「神通……」

 

神通「提督の下で過ごせている私達だから良い思い出が出来て、戦う日々でも笑って過ごせているんです。提督だから私達の今があるんです。そのことをどうか誇りに思ってほしいです」

提督「……ありがとう、神通」ナデナデ

神通「はい」ニッコリ

 

提督「随分話し込んでしまったな……それにいつの間にか雨も上がっている」

神通「そうですね……気付きませんでした」

提督「皆のてるてる坊主の効果があったのかもしれないな」

神通「ふふ、そうかもしれませんね」クスクス

提督「そう言えば、神通は梅雨の季節が好きだったな」

神通「はい。雨音が心を落ち着かせてくれて……好きです」

提督「あいにく今は晴れているがな」

神通「でも雨の降る夜も今も、今日の夜は静かdーー」

 

『神通〜! 起きてるんでしょ!? どこ〜!? 起きてるなら夜戦訓練一緒にしよ〜!』

 

 神通の言葉を遮って聞こえてきたのは紛れもなく川内の声だった……。

 

神通「…………提督、ちょっと席を外してもよろしいですか?」ニコニコ

提督「あ、あぁ……勿論だとも」ニガワライ

神通「ありがとうございます……すぐに戻るので、戻ったら一緒に訓練場内を少し走りましょう」ニコッ

提督「お手柔らかにな(色んな意味で)」

神通「はい♪」

 

 そして神通は眼光鋭い笑みを浮かべて室内訓練場から出て行った。その手に何処からか取り出したロープを持って……。

 

 出て行ってから数分で戻ってきた神通はやり切った感のある清々しい表情だった。そして手にしていた筈のロープは消えていた。

 

神通「提督、お待たせしました♪ さ、ご一緒に汗を流しましょう♪」

提督「あぁ、そうだな……」

 

 きっとロープは元々持ってなかったのだ。私はそう考え、ロープのことを考えるのを止めたーー。




 
 番外編ーー

那珂「もぉ〜、川内お姉ちゃんも神通お姉ちゃんも居ないだなんてヒド〜い! あれだけ那珂ちゃんが夜更かしはお肌に悪いって教えてるのに〜!」プンプン

 つい先ほど自室にてふと目が覚めた那珂は、部屋に居なかった二人の姉を探しながら一人ぼやいていた。

『神通〜! 起きてるんでしょ〜!? どこ〜!? 起きてるなら夜戦訓練一緒にしよ〜!』

 そうしている矢先に探している人物の声が寝静まった夜にこだました。

那珂「川内お姉ちゃんの声だ♪ 神通お姉ちゃんもこの声ならすぐに駆け付けてくるから、川内お姉ちゃんを少し泳がせて〜、二人が揃ったら『那珂ちゃん登場♪』って流れにしよ♪」キャハ☆

 那珂は早速作戦実行のため、川内の声がする室内訓練場の方へ抜錨した。


 室内訓練場から近くの道中にてーー

川内「神通〜! どこ〜!? 夜戦訓練しよ〜よ〜!! 起きてるんでしょ〜!! 川内お姉ちゃんと夜戦訓練しよ〜!! YA☆SE☆N〜!!」

 川内は部屋に居なかった神通を求め、大声で神通を探していた。

 いつもなら寝ないと怒られるが、今宵はその怒る人物が起きている。ならば自分と夜戦訓練をするのは当然のこと……そう考えた川内は神通を探し求めていた。

神通「」ニコニコ

 この時、神通は既に闇夜に紛れ、川内を捕縛圏内に捉えていた。

 今宵の神通は先の通り寝付けなかった。寝付けないなら訓練しようと寝ている姉と妹を起こさないよう、訓練着を持ってソっと部屋を出た。

 そして神通は寮の談話室で訓練着に着替えた後、室内訓練場へ赴いた。
 そこで神通は自身が恋い焦がれる提督と夜に二人きりの刻を過ごすことが出来た……ここまでは良かった。
 突如聞こえてきた自分を探す川内の大きな声がする、その時までは……。

 あの声で提督との甘美な刻を切り裂かれ、甘美な空気は神通の中で音を立てて崩れ落ちた。

 そんな空気をぶち壊してくれた姉に神通は心からお礼をしなくてはならなくなった。

 気配を消し、心を無にし、神通は音も立てず、ただただ川内の背後へ一歩、また一歩と忍び寄る。

那珂(あ、二人発見♪)

神通「」スーッ

川内「神通〜! 神通ぅぅぅぅぅ!!」

神通「」

 テシッ……

川内「っ」

 パタリ……
 
 シュバババッ!

川内「」ダラーン

那珂「」ゼック

 那珂は声が出なかった。

 神通が川内の背後に忍び寄り、手刀を放ち、川内を眠らせる。ここまでは普段の姉達だった。

 しかし今宵は違った。何故なら神通は手にしていたロープで川内を縛ってしまったからだ。

那珂(神通お姉ちゃん、すっごく怒ってる……)ガクブル

神通「那珂ちゃん」

那珂「」ビクッ

神通「そこに居るの知ってるよ? 出てきて、那珂ちゃん」

 那珂は素直に神通の前に姿を見せた。怖いからではなく、声が普段の調子と同じで先ほどまでの鋭い眼光も消えていたから。

神通「驚かせてごめんね、那珂ちゃん」ニコッ
那珂「う、ううん。大丈夫……」
神通「実は寝付けなくてちょっと走ろうと思ってたの……そしたら提督が訓練場に居て、せっかくだから一緒に訓練しようとしてたの。そしたら邪魔が入ったから」ニコニコ
那珂「そ、そっか〜」ニガワライ

 那珂は神通のその説明で大体を理解した。

神通「だから那珂ちゃんは先にお部屋に戻ってて。そこに転がってるのもついでに持って行って、布団に入れといてくれないかな?」ニコニコ
那珂「分かった〜♪ 神通お姉ちゃんも提督も夜更かしし過ぎないようにね! これだけは那珂ちゃんとの約束だからね!」
神通「うん、約束するね」ニコニコ

 そして神通は清々しい表情でその場を去った。
 那珂はそんな神通を見送り、気を失い縛られたあげく道に置き去りになった川内に手を合わせた後、起こさないよう、静かにゆっくりと部屋まで運んだーー。


 ーーーーーー

という感じで今回は終わります!
番外編は一つのお話にするには短過ぎるので後書きに書きました♪

此度も読んで頂き本当にありがとうございました!

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