BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

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BLEACH El fuego no se apaga.40

 

 

 

 

「さぁ、第2幕の幕開けだ 」

 

 

砂を巻き上げる暴風の中から放たれた言葉は、どこか荘厳な雰囲気を纏っていた。

グリムジョーの視界を覆う砂嵐、その奥から発せられるその声は彼が嫌でも聞き間違えることはない声色。

だがその声に彼が良く知るふざけた印象は皆無、感じるのは硬く、情の無い冷徹さだけだった。

懸離れた印象、しかしこれこそがあの男の本性なのだとグリムジョーは改めて理解していた、そしてそれを理解すると同時に彼の内でナニカがのそりと起き上がる。

だがそれは微々たる感触、嵐の奥から感じる霊圧を前にした彼はそれを掴む事無く立ち尽くすだけだった。

 

 

次第グリムジョーの視界を覆っていた砂嵐が晴れる。

そして砂嵐の奥から現れたのは、おそらく彼がこの虚圏で最も多く戦い、最も多く打ち倒され、そして最も多くのモノを魅せられた男。

第6十刃(セスタ・エスパーダ) ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオという男の本当の姿だった。

 

帰刃(レスレクシオン)』と呼ばれる破面の刀剣解放。

刀の形に封じた己の力の“核”を解放し、自らの肉体に本来の虚としての能力を回帰させた姿。

その姿は正しく千差万別、破面化前の肉体の姿に限りなく回帰する者、人間の(かたち)に虚の身体が混ざる者、そして能力としての力を色濃く回帰させる者。

砂嵐の奥から姿を表したドルドーニの姿は、帰刃前の姿と然程違いはなかった。

額当ての様だった仮面はほんの少し大きくなり、両肩から山羊の様な角が生え、そして脚は足首から膝までを覆う鎧が、そして膝から太腿の付け根辺りまでを巻きつくように別の鎧が覆っていた。

外見的な変化から言えば他の破面に比べ、それほど大きな変化は見受けられない。

しかし、明らかな変化が彼の両脇に聳え立っていた。

 

 

脚を覆う鎧、その両足首の辺りには煙突状の突起があり、そしてそこから噴出し、噴き上げ、逆巻き聳えているのだ、二本の巨大な竜巻(・・・・・)が。

 

 

砂が覆う大地から聳えた二本の竜巻、その竜巻に挟まれる様にして立つドルドーニ。

吹き出された風は彼の霊圧と混ざり合い、質量を持っているかのごとく濃密に見える

その竜巻は正しくその名に恥じぬ暴風、しかしそれは暴風でありながら一つの意思の下に統一され、その姿は見る者に恐れと、一方で優美さという相反した属性を備えているようだった。

 

グリムジョーは初めて見るドルドーニの帰刃に知らず拳を握る。

その姿は、その霊圧は、今も昔も彼の前に立っていたドルドーニとは比べ物にならなかった。

彼の背を冷たい汗が一筋伝う。

いや、背中だけではない、背骨を丸ごと氷柱と入れ替えられたかのような錯覚。

それは畏怖、今までその男から感じた事のない力の奔流を前にグリムジョーが感じる畏怖の念、彼はそれを確かに感じていた。

 

だが彼はその拳を握る。

畏怖は感じる、だが退かない、退かないという覚悟が彼に拳を握らせる。

そしてその拳に握られる覚悟とは“強さ”だ。

恐ろしいものから逃げ出したいという本能を覆す強さ、恐れ慄く己すら打ち倒そうとする強さに他ならないのだ。

 

そして目の前の畏怖を打ち砕いてこそ“王”、その証明なのだ。

 

これこそが彼の求めた戦いの姿、強大な敵が目の前に立ちそれに誰よりも先に挑みかかり打倒する、彼の目指す“王”の姿、王の戦場。

そう、彼が一心に求めた戦場が今目の前にあるのだ。

故に恐れ以上に感じるのは高揚、そしてこの戦場で勝利してこそ始まる彼の王道、強大な敵を打ち倒してこそ始まる王道が。

 

 

 

「ゆくぞ、青年(ホーベン)。 ……避わすなよ(・・・・・)?」

 

 

 

ドルドーニの言葉と共に彼の竜巻に変化が起こる。

聳える竜巻、その根元から一つ分かれる様にして新たな竜巻が、いや、竜巻というよりも風と霊圧の塊のようなものが現われる。

それはただ風の塊ではなく、明確に形を持った存在にも見えた。

蛇のようにしなやかな動き、鎌首を持ち上げたようなそれの先端には鳥の嘴を思わせる意匠が現われ、風塊であるにも関わらず生命を感じさせるような外見。

そしてその風塊の発生と同時に、ドルドーニはその場で片足を振りぬき蹴りを繰り出す。

何の変哲もない蹴り、先程グリムジョーが嫌というほど苦しめられた蹴り、空を切っただけの蹴りが繰り出されると同時にグリムジョーにそれは飛来した。

 

蹴りと同時に竜巻から生まれた風塊はグリムジョー目掛けて猛然と襲い掛かったのだ。

ただの風の塊ではない、超高圧の空気の塊と十刃の霊圧が混ざり合ったそれは、本来触れる事の出来ないものに物質としての存在を与え世界に、そして敵対者を圧殺するだけの質量を与えられていた。

グリムジョーは飛来する風塊に驚きながらもその手に持った刀を使い、それを正面から受け止めようと、いや受け止めるに留まらず弾き返さんとして迎え撃つ。

両者の激突、それは即ち霊圧の衝突であり発生する衝撃は闘技場を覆う結界では受け止めきれず、余波が四方八方に飛散する。

風塊を受け止めたグリムジョー、しかし想像以上の圧力は彼の身体をその場に止まらせることを許さず、再び壁と結界に叩きつけた。

だがそうして壁に叩きつけられたグリムジョーの様子にドルドーニはどこか上機嫌にも感じられる高笑いを上げる。

 

 

「ふはははは! そうだ! それでいいのだよ青年!避ける事とは即ち逃げる事だ、それが悪いとも腑抜けとも言わないが今この場ではそれは悪手。どんな戦場でも敵地に踏み込まねば勝利などありはしない!相手が強者ならば尚の事! 今、青年に必要なのは避わす事ではなく、例え傷を負おうとも踏み込むことさ!」

 

 

先程までの鬼気迫る様子が嘘のように笑うドルドーニ。

だが笑いながらもその攻撃に緩みなどは生まれず、風塊は尚もグリムジョーを押し潰す。

 

 

「グッ…… クッそっ、がぁぁぁぁああああ!!」

 

 

押し潰されていくグリムジョーはその圧力に耐え、そして咆哮と共に霊圧と膂力にものをいわせ風塊を弾き返した。

蛇のようだった風塊はその頭と身体の中ほどまでを吹き飛ばされ、霧散していったが風塊が完全に消えることはなく、残った部分から新たに生えるように、そして失った頭部の辺りの空気を吸い集めるかのようにして再生する。

 

 

「良くぞ弾いた。 ……では次は少々重いぞ。双鳥脚(アベ・メジーソス)!」

 

 

自分の繰り出した風の塊を弾かれたというのにドルドーニに悔しさの表情ない。

あるのは喜色、自分の攻撃が弾かれた事が嬉しくて仕方ないという、普通に考えればありえない感情が今の彼からはありありと見て取れる。

そしてその喜色に彩られた声は更なる攻勢の一手を叫ぶ。

 

ドルドーニの両脇に聳える竜巻、そのそこかしこからグリムジョーが弾き飛ばした風塊と同じものが勢い良く飛び出したのだ。

うねり、或いは荒ぶる様にして生まれ来る風塊達、その一つ一つに込められた霊圧も先ほどの一撃よりも上であり、それがただの蹴りではなく一つの技として完成をみている事をグリムジョーに示すかのようだった。

 

風塊が一斉にグリムジョーに向かい疾風の進撃を開始していく。

その数おおよそ十、その全てがたったひとつの標的であるグリムジョー目掛けて殺到する。

対するグリムジョーはその視界全てを覆う程の猛威の嘴を前にし、しかし退く事はなく前に出た。

彼とてドルドーニに言われずとも判っているのだ、どんな戦いでも前に出ない者に勝利は訪れないと、勝利の果実は常に自らの目の前に、しかし手を伸ばし身体を一杯に伸ばさねば、手が届く事となどないのだからと。

 

風塊が自分にぶつかるよりも早く自らの手に持った斬魄刀を握り締め、それを風塊へと叩きつけるグリムジョー。

先程とは違い圧されることなく拮抗する姿は、やはり気構え、決意の差なのか。

退かぬ、という決意が更なる力を彼に与えたかのように風塊と互するグリムジョー。

だが今回の敵は一つではない。

拮抗するグリムジョーを横合いから別の風塊が強襲する。

刀を横なぎにするようにしてそれにも何とか対応するグリムジョーだったが、現状で数の差はそのまま有利不利を表すものだった。

グリムジョーに襲い掛かる風塊の群れは、彼の迎撃を掻い潜りその膨大な圧力で迫り遂にその身体を捉える。

 

 

「グハッ!」

 

 

腹部に空いた孔、その丁度上辺り、人間で言う鳩尾の辺りに強烈な一撃を見舞われるグリムジョー。

下から突き上げるような風塊の一撃はそのまま彼を上へと弾き飛ばす。

そしてそこに群がるようにして襲い掛かる嘴の群れ、右に左にと弾かれるようにして上空を行ったり来たりするグリムジョーの身体。

その光景は一言でいえば嬲っているとしか見えなかった、強烈な一撃はしかしそれだけで絶命に足るものではなく、まるで親鳥に餌を与えられた雛達が、狩りの真似事でその餌をつつきまわすような、ある種残酷な光景を思わせた。

 

 

「どうしたね青年!いいようにやられてばかりじゃないか!それでは勝利は掴めんぞ! 身体を満たせ! 気構えで!決意で! 勝利の意志で確信で! そして“新たに得たその力”で!いつまで微温湯の延長(・・・・・・)でいる心算だ!此処は戦場、互いの存在を喰らいあう殺し合いの場だという事を自覚しろ!この馬鹿弟子がぁぁあ!!」

 

 

まるで嘲うかのようだったドルドーニの言葉は次第熱を帯び、最後には叫びへと変っていた。

そう、ドルドーニはこの戦いが始まってから感じていたのだ、最初の数合打ち合っただけでグリムジョーの内にある違和感を。

何故か押さえ込んでいる、それがドルドーニの感じた感触、何をなのか、そして何故なのかという事をドルドーニは既に理解していた。

それは彼がグリムジョーと向き合った時間と、彼の内にもあったある種予感めいた感覚。

 

だが、ドルドーニはそれが気に入らない。

彼が数年もの間待ち望んだこの戦場に、それは何にも増した不純物(・・・)なのだ。

 

ドルドーニは自身の感じた予感に従い、一方的とも言える攻勢に出ていた。

それは勝利するための手段、負ける心算など誰にだって無くそれ故の攻勢であり、そうしなければ恐らく自分は勝てない(・・・・)という予感がドルドーニにはあった。

だがそれでも戦いが進むにつれてドルドーニには自らの勝利も然ることながら、目の前で燻る様な男の姿に我慢ならなくなっていった。

あれほど清々しく濃い殺気を滲ませる男が何故か悩んでる、押さえ込んでいる、そんな姿はドルドーニにとって不快でしかないもの。

故にドルドーニは声を発し導き、そしてまた今、声を荒げたのだ。

 

 

彼にとって最高で不出来な弟子の為に。

 

 

叫びと共に数本の風塊が更なる上空からグリムジョーへと襲い掛かり砂漠へと叩きつける。

それは風塊であるが、同時に男の鉄拳でもあった。

優しく語り聞かせる事など出来ない、言葉とは常に足らないもの、故に一言よりも一撃の拳を見舞うのだ。

 

いい加減に目を覚ませ、と。

 

立ち上がる砂煙、グリムジョーを叩きつけた風塊は鎌首を持ち上げるようにして砂漠からその頭を引き上げる。

観覧席から見ている数多くの破面達、彼等にとって先程から続く完全な死を思わせる場面の数々。

恐らく自分があの場に立ち、あの一撃を食らったならば確実に死んでいるという確信を持たせてならない、そんな場面が次から次に彼等の眼前では繰り広げられる。

それが彼等と闘技場に立つ二人の違い。

立っている場所、見ている景色が違いすぎる、それを如実に物語る光景。

しかし彼等に死を思わせるそんな光景の中でも、その光景の中の人物は死ぬ事はなく再び立ち上がってくるのだ。

 

 

「……弟子に、なった、覚えは…… 無ぇ…… 」

 

 

砂煙が晴れる砂漠、上空からの爆撃のような攻撃の爆心地にあってグリムジョーは膝を折るギリギリといった状態で立っていた。

最早意地、膝はつかない、屈さないという意地が彼を支える。

そしてその口から発せられる言葉もまた彼の意地、弱音など吐かない、吐けない、そういった意地を感じさせる言葉が零れる。

 

 

「フン! あくまでそう言うかね…… だが今はそんな事はどうでもいい。どうだね、ここまで痛めつけられればいい加減判っただろう?青年が勝つには“解放”するしかない、ということが」

 

 

そう、全ての違和感はそこに集約される。

何故グリムジョーはここに至るまでその真の力を解放しないのか、何故帰刃しないのか、それがこの一方的な状況を作り出した最たる原因。

身体は痛めつけられ、満足に反撃も出来ない状況、それにも拘らず何故か帰刃しない。

圧倒的な光景の前にそれを多くの破面が忘れていたが、グリムジョーはまだ帰刃、刀剣解放をしていないのだ。

 

ドルドーニの言葉にグリムジョーの顔が一瞬曇る。

彼とて判っている、その重要性、その必然性、だがしかし、しかしと彼はドルドーニの言葉に迷いを見せるのだ。

そんなグリムジョーの様子にドルドーニは更に言葉を続ける、そして語られるのはグリムジョーの迷いそのもの。

この男の頑なさであり不器用な生き方、そして僅かな隙そのものだった。

 

 

「それほどまでに与えられた(・・・・・)力という事が不満かね?吾輩に情けをかけられた(・・・・・)という事が不快かね?それとも……その内に生まれた力が、吾輩を既に凌駕してしまっている(・・・・・・・・・・)ということが後ろめたいのかね!!」

 

 

ドルドーニの叫びにグリムジョーはその眼を見開いた。

彼が語った言葉はどれもがグリムジョーの内側を見透かしたかのように、的確に射抜いていたのだ。

そして最後に叫ばれた言葉、凌駕してしまっていると、ドルドーニがそう口にしたことがグリムジョーがこの醜態とも言える状況を曝している理由そのものだった。

 

不満ではあった、どこまでも先達として自分を子ども扱いするその男が。

不快ではあった、まるでそうしなければ自分の相手としては不足だというようなその男の態度が。

だが、だがしかし、その男の計らいによって得た機会、あの黒い宝玉によって齎された力はグリムジョーにとって想像を超えるものだった。

今までの、この瞬間に至るまでの全てが嘘だったかのように増大した己の力、地道に積み重ねるのではなく抜け道のように上昇した力。

あり得ない、力を何よりも欲したというのにあり得てはいけないとすら感じるような、そんな力。

そしてなにより彼はその力を得た瞬間に確信めいた予感を得ていたのだ、既に超えてしまっている(・・・・・・・・・)、と。

 

自惚れでも無く、自画自賛でもなく、純然たる事実としての感覚。

あれほど高く見えた壁を自分はまるでなんの努力もせずに飛び越えてしまったような錯覚、グリムジョーにとってそれは恥にも似たものだった。

故にグリムジョーはそれを解き放つことを躊躇ってしまうのだ、与えられて掴んだ力、自らが労する事も研鑽することも無くまるで安易に手に入ってしまった力に頼ることが恥だといわんばかりに。

 

 

だが、ドルドーニにとってはそれこそが何よりも屈辱的だった。

 

 

若造(ホベンズエロ)! お前はいつからそんな“優しさ”を身に付けた!その優しさは向けられた者にとってこれ以上無い“哀れみ”だ!手に入れたのならそれはもうお前のモノだ!手段も、経緯も、そんなものは何一つ関係ない! お前が目指すのは誰にでも救いの手を伸ばす優しき王か?違うだろう!お前が…… お前が目指すのは! 」

 

 

ドルドーニの叫び、それは何よりも真っ直ぐな言葉。

煙に巻くでもなく、おどけるでもなく、ただ戦士としての彼が発する魂の叫び。

彼の知るグリムジョーはこんな残酷な優しさなど持ち合わせない、哀れみなどみせない、強さと力を純粋すぎるほどに求めるのが彼の知るグリムジョー・ジャガージャックであり、今彼の目の前に居るのはその紛い物。

故にドルドーニは叫ぶ、彼の目を覚まさせるために、彼に解き放たせるために。

彼が求めて止まない目指す姿を。

 

 

「お前が目指すのは戦いの王(・・・・)だろう!敵を薙ぎ倒し、差し伸べられた手すら斬り落し、眼前の全てを破壊する戦いの王だろう!その王に優しさは要るのか? 哀れみは要るのか?そんな筈は無い! 必要なのはそんなものではない!必要なのは! 唯一お前に必要なのは! その内に眠った荒ぶる獣一匹だけだ!!」

 

 

叫ぶ彼の姿は常日頃の彼が求める紳士としての振る舞いからは逸脱したものだった。

しかし、彼をそうさせるほどの思いが今の彼からは伝わるだろう。

誰よりもこの瞬間を待ち望み、誰よりも入念に準備を重ね、己を最高の状態に高めて舞台へと上がった彼だからこそ、相手の不甲斐なさに我慢ならなかったのだ。

 

その不甲斐なさを突けば呆気なく勝てる。

それこそドルドーニが決着をつけようと思えば、その場面はいくらでもあっただろう。

だが彼はそれをしなかった。

おそらく最初はそうする心算だったのだろう、彼の中にあった予感めいた感覚、崩玉による再破面化はドルドーニにそれほどの力は齎さなかった。

それは崩玉との相性なのか、それとももっと別の要因なのかは定かでは無い、しかしドルドーニが思い至ったのは別の要因、気構え、いやもっと素直な“想い”といった部分だった。

 

勝つ、勝てる、勝って当然、だがしかし(・・・・・)

グリムジョーとの戦いを前に彼の内にあったのはそんな想い。

十中八九、九割九分九厘自分は勝つ、だがしかし、その一厘を埋める事を彼はどうしても出来なかった。

グリムジョーという男の才能、その力が彼にそれを許さなかったのだ。

そのほんの少しの不安、自らの力に対する不安、それを崩玉という物質は見透かしたのだと再破面後、ドルドーニは一人理解した。

 

自らを信じられない者に力など得られようはずもない、と。

 

だからこそ彼は決着を急いだ、短期決戦による決着、勝つためにはそれしかなくそれには解放の(いとま)すら与えないと。

その為に彼は入念な準備をし、この場に立ったのだ。

体調を整え、技を磨き、余念なく身体を創り、温め、臨んだのだ。

だがどうだ、目の前の男はそんな自分の覚悟を前にしてもなにやらくだらない事で悩んでいる。

だからドルドーニは方向を変えた、短期決戦ではなくこのどうしようもない馬鹿弟子の十全を引き出してやろう、と。

その上でなんとしても勝ってやるのだ、と。

 

故に彼は叫ぶのだ、グリムジョーという男を解き放つために。

 

 

「解き放て青年! 全てを! 全てを吾輩に魅せてみろ!お前が望んだ戦場だ! 余所を見るな! 気を裂くな!解き放ち、“獣”となるのだ!」

 

 

ドルドーニのぶつける言葉の一つ一つが、グリムジョーの頭を横合いから殴りつけるように響く。

“優しさ”と“哀れみ”、目指すべき姿、その為の力。

崩玉によって一足飛びで手にしてしまった力だと思っていグリムジョー。

しかしそれは誤解なのだ。

崩玉とはその者の内側から(・・・・)力を引き出す物質、その者に元から力がなかったのならば引き出される力などありはしない。

だがグリムジョーにはそれがあった、そしてそれはただ眠っていた訳ではなく、引き出されたそれを受け止められるだけの器と、引き出せるだけの才覚と、そして弛まぬ研鑽の上に成り立った確固たる彼が持つべき力なのだ。

それを誰に咎められる事があろうか、誰に後ろ指差される所以があろうか。

ありはしない、彼が手にしたのは彼だけが手に出来る力、彼が腹の底から望み、声張り裂けるほど望んだ力なのだから。

 

「ハハッ……」

 

(そういう事か。 結局俺はまだ微温湯に浸かったままだった、って事かよ。口でデカイ事喚こうが結局は中途半端なチンピラだ…… )

 

 

気構えも、決意も、あるものだと思っていた。

だが実際はこの体たらくとグリムジョーから小さく自嘲が零れる。

目の前の男はこれ程までにこの戦いに備えていた、だがその男の前に自分が曝したのは不様だけ。

そしてさらに不様にもこうしてまたあの男に教えられる始末、と。

何という不義、そしてそれにもまして何という侮辱かと。

 

 

(あのオッサンの言う通りだぜ、 優しさ? 哀れみ? ……要らねぇんだよそんなもんは! 一度敵と定めたなら、そいつをブッ殺す為に手段なんぞ選ばねぇ!俺を舐めたヤツは殺す! 俺の邪魔をするヤツも殺す!俺の前に立ちはだかるヤツは! 全力でブッ殺す!!俺はそうやって生きてきた! 今までも!これからも!! )

 

 

グリムジョーは刀を持っていない空いた手を握り締め、そして拳をつくると力いっぱい脚を殴りつける。

今まで折らぬ様に必死だったその脚は、その一撃によって膝を着くどころか再びしっかり根を張りグリムジョーを支えていた。

俯いていたグリムジョーの顔が正面を見る、彼の前に立つドルドーニはその顔を見て満足そうに、そして嬉しそうに壮絶な笑みを見せた。

 

その瞳にはもう迷いは見えない。

雑多な感情も無い。

あるのは一念、ただ一念、目の前の敵を喰らい殺すという殺意の一念だけだった。

息は浅く、心臓は早鐘を打つ、グリムジョーはここへ来て己の昂ぶりと、己がうちで解き放たれる事を待つ“獣”の存在を自覚した。

檻に爪を立て、牙を立て、必死にその檻から抜け出そうとするかの様な獣の存在。

だがそれは檻から逃げ出すためではなく、ただ殺す為にここから出せというグリムジョーの殺意の塊。

 

獣を自覚したグリムジョーは笑う。

なら出してやると、その檻から出してやると、そして存分に殺してやろうと笑みを浮かべる。

手に握った刀、力の核を封じ込めた斬魄刀を鞘の上辺りで刃をねかせ腰だめに構えるグリムジョー。

そして斬魄刀の鍔元辺りに、爪を立てるようにして片手をかざした。

 

瞬間彼を纏う雰囲気が変る。

グリムジョーの纏う雰囲気は先程とは明らかに違っていた。

迷い無く、ただ殺すという一念だけを背負った彼、本来黒い筈のその感情は何故か今だけは清々しさすら感じる。

そしてドルドーニがその内の“暴風”を呼び起こしたのと同じように、グリムジョーもまた呼ぶのだ。

内に荒ぶる“獣”の銘を。

 

 

 

(きし)れ! 豹王(パンテラ)ァァァア!!」

 

 

 

霊圧が爆発を伴うように弾ける。

砂煙が生まれ、しかしその砂煙すら中心から発せられる霊圧と衝撃の波濤によって直に掻き消された。

その中心に立っていたのは蒼い男。

腰よりも遥かに長く伸びた蒼い長髪は猛獣の鬣を思わせ、右頬の牙を模した仮面は無くなり代わりに口元から覗く鋭い牙が猛獣の印象を強くさせる。

身体を覆うのは線に合った細身の鎧、身体全体を覆うそれは装飾などの飾り気は一切無く、ただ白一色で防御だけを目的としていた。

手の爪は延び鋭く曲がり、そして何よりその下半身は人間ではなく、長くしなやかな尾を持った獣のそれであった。

 

多少猫背で立つグリムジョー。

そして次の瞬間その状態から天を仰いだ彼の口から、咆哮放たれる。

 

 

「ウォォオォォオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

その叫びは解き放たれた歓喜の叫び。

内側に閉じ込められていた“獣”は今、その全ての楔と檻から解き放たれ咆哮しているのだ。

まるで地響きのような叫びに揺さぶられる闘技場。

だがその只中で獣の咆哮を嬉々として見つめるのはドルドーニ。

遂に彼が望むモノは出揃った、これこそが彼の求めたものであり求めた戦場、手に入る勝利を一度預けてまで求めたものだった。

故に最早何を待つ必要も無い。

 

先に仕掛けたのはまたしてもドルドーニ。

脚の一振りと共に待機していた風塊の一つがグリムジョーへと突撃する。

それは様子見ではなく必殺の意を乗せた一撃、それに対しグリムジョーは正面からそれに対峙し、片手で受け止めるとそれを無造作に払うようにして消し飛ばしてしまう。

だがそれはドルドーニも予想していた事、解放すればその力が遥かに上昇するなどということは想定済みであり、それによる動揺は彼には無かった。

 

そう、それによる動揺は。

 

 

一払いで風塊を消し飛ばしたグリムジョー、その姿が瞬時に消える。

ドルドーニにとってそれはありえない事、視線を切ったわけでもなく相手が消えるなどということはありはしないと。

しかしそんな思考の余裕など彼には残されていなかった。

 

ドルドーニの頭部、正確には頬に未曾有の衝撃が奔る。

そのまま何が起こったのかも判らず一直線に壁に叩きつけられるドルドーニ。

パラパラと外壁を崩しながら立ち上がった彼が見たのは、先程まで自分が立っていた場所に蹴りを撃った体勢のまま立つグリムジョーだった。

 

 

(なんと…… 吾輩は蹴られた……のか?)

 

 

グリムジョーの姿を確認するまで、自分が殴られたのか蹴られたのかすらドルドーニには判らなかった。

それ程の速力、獣の下半身が生む人間体など比べるにあたわぬ爆発的加速力。

そうして壁際でドルドーニが見ている景色は、開始直後にグリムジョーが見ていた景色と似通っていた。

 

 

「ふふっ…… ふははははは!! いいぞ青年!これこそ吾輩が求めた戦いだ! 君が求め、吾輩も求め!互いを打倒する事だけを目的にした最高の舞台!然らば酌み交わそう! 血の杯を!!」

 

 

攻撃を喰らったというのにドルドーニは燃え上がる。

だがそれは当然、これこそ彼が望んだものなのだから、血沸き肉踊るとはよく言ったもの、正しくドルドーニは今その状態だった。

昂ぶりはとどまるを知らず、だがしかし頭の芯は逆に冷えていき敵対者たるグリムジョーを倒すことだけを考える。

 

噴出し、逆巻く竜巻は更にその暴威を加速させ、生まれる風塊もまた更なる霊圧によって硬度を増すかの様。

だが、グリムジョーに怯んだ様子はない。

決意の眼差しだけがドルドーニを睨みつける。

 

動いたのは二人同時だった。

グリムジョーはその身一つで、ドルドーニは風塊の全てと自らも共に駆けていた。

程無くしての激突、そこに策などありはしなかった、あるのは真正面からの激突だけ、それ以外の選択肢は彼等二人には最早存在しなかった。

風塊とグリムジョーの爪が激突する。

霊圧同士の衝突は拮抗を生みしかしそれは一瞬のことで、風塊はグリムジョーの指の間を抜けるようにして四つに裂かれながら消えていく。

風塊を裂きながらもグリムジョーは止まらず、ドルドーニに向かって駆け続ける。

再び襲い来る風塊のこと如くを払い、叩き潰し、切裂きながら駆け抜ける。

 

それは何時かの光景、来る日も来る日も繰り返した光景。

あの時は結局届かなかった、だが今度こそ届いてみせる、越えてみせると、その為に手にしたこの力で手段も経緯ももう関係なく、全力をもって倒してみせると。

ドルドーニもそのグリムジョーの気概が届くからこそ、己の求める戦いだからこそ退かない。

己が風塊の悉くが容易く壊されようとも怯まない、それは結局は能力の成す技、彼が極めたのは己が身一つで相手を蹴り倒すことなのだから。

 

そして激突の時は来た。

上から振り下ろすようにその長い脚を叩きつけるはドルドーニ、それを下から迎え撃ち、逆に蹴り殺さんとするのはグリムジョー。

両者の脚はそのまま何の細工も無くただ力任せに振るわれ、それ故に純粋に蹴りだけの威力が優劣を決する。

 

 

「ヌォォォオオオオオオオオ!!」

 

「うらぁぁあああああああ!!」

 

 

叫び、そして鈍い音が闘技場に響く。

霊圧を纏った蹴り同士は押しつぶし、或いは吹き飛ばさんとして鬩ぎ合うのだ。

数瞬の拮抗、そして蹴りよりもぶつけあった霊圧は互いの圧力に耐え切れず反発し、二人の身体もそれと同時に弾かれる。

闘技場の端と端まで弾かれる二人は再び突進しぶつかり合うかと思われたがそうではなかった。

 

 

「ふっふははははは!! やはり最高だよ青年!吾輩の鎧に罅が入る(・・・・)とは思わなかった。 ……どうだね? こうして何時までも甘美な闘争を味わっていたいのはやまやまだが、それでは些か芸が無い。ここは一つ、お互い最強の攻撃を持って雌雄を決する……というのは」

 

 

片膝を折るようにして足を持ち上げたドルドーニ、その脚を覆う鎧の脛には先程まではなかった大きな罅があった。

ぶつかり合った蹴り、弾けたとしてもその衝撃は凄まじく、ドルドーニの鎧にはその爪痕として罅が入ったのだ。

だがそれに驚愕はなく、更に昂ぶりを増すドルドーニ。

そして放たれた言葉は決着の提案だった。

互いに己がもつ最強の技を、それをもって互いの優劣を、雌雄を、勝敗を決そうと彼は言うのだ。

 

 

「……なんだっていい。 勝つのは……俺だ!!」

 

 

対するグリムジョーもドルドーニの申し出を受けた。

勝つ、その一念がグリムジョーを動かし、殺戮を求める性が退くことを許さない。

決着の方法など些細な事なのだ、今の彼にとっては尚の事、どうあっても、どんな方法でもただ勝利だけしか彼には見えていないのだから。

 

 

「ならば決そう! この長きに渡る我等の道を!どちらかが地に伏し! またどちらかの命が消えようとも構わない!この一瞬に生きられるのならば! 吾輩の生涯に何一つの悔いなど無い!!」

 

 

ドルドーニの叫びを皮切りに二人から膨大な霊圧が吹き上がる。

それが語るのは本当にこの一撃が最後だという証、何一つ残さず、その全てを搾り出し、搾りかすを絞って最後の一滴まで出しつくすという気概。

その最後の一滴が決着を分けるであろうという確信。

これが決着、彼等の決着の時なのだ、誰も邪魔する者無くただ二人だけの、二人だけが引き寄せる決着の時なのだ。

 

ドルドーニの脚の鎧から更なる暴風が巻き上がり、それに乗ってドルドーニ自身も上空へと舞い上がり始める。

対してグリムジョーはそのまま、地上で霊圧を噴き上げ両手を合わせるようにして下へと向けていた。

ドルドーニの竜巻は地上を離れ、彼を追うようにして上空へと昇る。

そして二つだった竜巻はドルドーニを挟み込むように次第一つとなり、ただ合わさるのではなく掛け合わせるかのようにその勢いの凄まじさも増していった。

最早彼自身が一つの巨大な竜巻、そう表現して過言ではない状況にあって尚加速し、尚込められる霊圧は必殺の構え。

対するグリムジョーもいよいよその最強の技の片鱗を見せ始める。

噴き上げ、纏っていた霊圧は彼の五指、爪の先へと加速度的に集約し、超高密度の塊へとその姿を変えていく。

爪の先から、指、手の甲、腕へと次第伸びて行くその塊は更に長く、そしてそれは彼の野生の象徴たる獣の爪、敵を引き裂き、喉を掻ききるための武器となっていく。

 

上空には巨大な竜巻が、地上には十本の光の柱が。

激突は避けられず、誰も止める者は無い決着が訪れる。

 

 

「ゆくぞ青年! 我が全霊をその身に受けよ! 嵐巨嘴鳥脚(トウカン・トルメンタ)!!!」

 

「喰らいやがれ! 豹王の爪(デスガロン)!!!」

 

 

螺旋の先端をグリムジョーへと定め巨大な竜巻は一息に砂漠へと、対する光の柱はその十の爪光をもってその竜巻を砕断せんとする。

衝突する螺旋と曲線、互いを削りあうようにしている様は正しくそれを操る二人そのもの。

自らの命を削り、相手の命を削る、そうして戦いの中に生きなければ息すら出来ない、そんな彼等。

故に激しく燃やすのだ、誰よりもその命を。

 

 

「「うぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」」

 

 

重なり合う叫び、重なり合う気勢、だが重なり合う中でも自分が上だと譲らない、そんな叫び。

永遠に続くかのような相克はある種彼等二人の望みなのか。

この時間が、この戦いが、この戦場が瞬間が、永遠に続けばどれだけ満たされていられるだろうかと。

 

だがそれすらも幻想だった。

 

そんな想いは幻想、そして永遠を望むのは二人ではなく一人(・・・・・・・・)だけ。

おそらく片方はこの永遠を望むか、と問われればこう答えることだろう。

「俺は、永遠なんぞいらねぇよ」と。

 

そしてそれが全て。

今、この瞬間の戦いを望んだ者とその先の自分を望んだ者、今という瞬間を求めた者と未来を求めた者。

そして世界は進化し続けるものであり、その中で生きる者は常に未来を見続ける者だけなのだ。

螺旋に爪光が食い込む。

そして爪は食い込むに留まらず、遂に巨大な竜巻は砕断され爆発を伴って周囲へと四散した。

それが結末、竜巻が爪に敗れた、それは即ちグリムジョーがドルドーニに勝ったという事実を示すのだ。

 

 

 

砂煙が立ち込める闘技場、その砂漠に立ち、僅かに肩を揺らすのはグリムジョー。

文字通り霊圧の全てを込めた最強の技、それを放てば如何にグリムジョーとて平静で居られる筈もない。

だが、未だグリムジョーはその“気”を納めてはいなかった。

確かに竜巻は斬った、手応えもあった、だがまだ終わりではない、あの男が地に伏す姿を見るまでは終わりではないと。

決着の光景は技を破ったことではなく、あの男を倒したと確信できるものであるべきだと。

 

砂煙は次第に晴れ、それによってグリムジョーの視界も晴れる。

その先に居るのはやはりあの男、未だその脚で大地に立つあの男、ドルドーニ。

見れば既に帰刃状態ではなく通常の状態、再刀剣化したのかそれとも帰刃状態を維持出来なくなったのかは定かでは無いが、それは今重要な事でもない。

グリムジョーにとって重要なのは、ドルドーニが未だその脚で砂漠に立っているという事、ならばこの戦いは終わりでは無いという事だけなのだ。

 

 

「ふはは。 まったくもって……見事なものだ、こうも容易く吾輩最強の技が破られるとは……ねぇ。 ……だがそれでいい、それでいいのだよ青年。君に“優しさ”は必要ない、必要なのは強烈なまでのその本能だ。 “獣”を抑えるな、全ては壊して進むがいい。それが君の決めた“王道”ならば……」

 

 

語るドルドーニ。

その身体からは最早戦えるだけの霊圧は感じられず、無理に平静を装い話しているのは明らかだった。

だがグリムジョーはその霊圧を納めない。

それは臆病でも恐れでもなく、まして優しさなどでもない。

最後まで”敵”として立ち会う事、それが彼に示せる精一杯、言葉には出さず出す心算も無い彼に示せる師への敬意。

 

 

「ふん、一丁前に気など使いよって…… だが悪い気はしないがね。吾輩に悔いは無い、全てが満ち満ちている…… 君の勝ちだ、グリムジョー(・・・・・・)ジャガージャック(・・・・・・・・)

 

 

最後の言葉を口にするなりドルドーニの胸が袈裟懸けに裂け血が噴き出し、、そして膝から崩れるドルドーニ。

倒れる間際のドルドーニの顔には笑みが浮かんでいた。

そしてグリムジョーを青年でも若造でもなくその名を呼び倒れたドルドーニ。

 

 

それは一人の男が一人の若者を男として認めた瞬間(・・・・・・・・・)だったのだろう。

 

 

膝から崩れ、その身体を投げ出すように砂漠に倒れるドルドーニは、暗さを増す視界と思考の中にいた。

 

 

(本当は判っていた…… こうして正面から対峙すれば吾輩は負ける、と。だが今はそれでよかった…… あのまま勝っていればきっと悔いが残る。何故あの時という悔いが一生残る…… そんなものは御免被るよ、 例え負けたとしても悔いだけは残さん。最後の一撃、吾輩に最早余力は無かった、故に全力を出し切って君と打ち合えた事は吾輩の誇りだよ……ありがとう(グラシアス)、グリムジョー。 我がたった一人の弟子(アプレンディス)よ…… )

 

 

地に伏すドルドーニ。

それは決着の光景、しかし闘技場は静寂に包まれていた。

誰もがその壮絶な戦いに魅入られ、声を発することが出来ずに居る。

その中心で未だ砂漠に立つのはグリムジョー。

 

見下ろす先には地に伏している自分が目指した男の姿。

それを確認して彼は漸く自分の勝利を確信した。

そしてこみ上げる想いは、言葉にはならぬ想いはその内に留まりきらず咆哮となって色を持った。

 

静寂に響く咆哮。

暫くの間、その咆哮だけが闘技場に響き続けていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王の黒き笑み

 

背中合わせの三日月

 

戦舞

 

全てはその掌中に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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