BLEACH El fuego no se apaga.   作:更夜

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BLEACH El fuego no se apaga.3

 

 

 

 

紅い景色、見渡す限りの紅、紅い炎の海が辺り一面に広がっている。

 

その紅い海は命を生み出し育む母なる青き海とはまさしく逆、近づくもの全てに等しく死を与える生命の終焉、それは言うなれば冥界の海。

海は明確な殺意を持って命に敵対し、その波は触れるもの全てを焼き尽くし、呑み込み、灰にしようとうねり荒ぶる。

 

その海の上を人影が駆ける。

襲い来る荒波を避け、時にはその手に握った刀で波を切裂きながら炎海の上を駆け巡る。

放たれる斬激はその一太刀一太刀の全てに必殺の威力が込められた一撃、しかしその一撃は未だ相手を傷付ける事叶わずにいた。

だがそれは海とて同じ事であり、彼の炎の波は触れるものを全てを焼き尽くし一瞬のうちに灰へと変える筈が、その悉くは避けられ、また切裂かれ、未だ相手に掠り傷一つ負わせることが出来ないでいた。

 

 

フェルナンド・アルディエンデとティア・ハリベルの争いは、互いに有効な一撃を与えられぬまま時だけが過ぎていた。

 

 

 

「ハッ、何時までもチョロチョロと逃げ回ってんじゃねぇよ!デカイのは霊圧とその乳だけか? オラ! もっと俺を楽しませろ!」

 

 

膠着状態の中、フェルナンドから放たれる言葉と共に、ハリベルに向けて幾つもの炎の波が四方八方から押し寄せる。

それは最早波というより壁と表現した方が良いほどの高さ、ハリベルの何倍もの高波が彼女を押し潰し、海へと引きずり込まんと迫り来る。

しかし、ハリベルはそれを難なく避けまたは刀で切裂き、その炎の包囲網から脱出するのだ。

 

 

「貴様こそこんな単調な攻撃ではいつまで経っても私を捉える事など出来はしないぞ。それともこれが全力か? ならば連れ帰る価値も無い」

 

「言ってろ! せっかくの暇潰しなんだ…… いきなり全力出す馬鹿が何処にいるよ。アンタは自分の心配だけしてな!俺は加減が苦手でねぇ…… 焦がす程度なんて器用な真似は出来ねぇぞ?一発当たればアンタは死ぬが、いくら斬られても俺は死なねぇよ(・・・・・・・)!」

 

 

フェルナンドの炎を斬り裂きながら語るハリベルの攻撃を、まったく意に介さずにフェルナンドは炎をハリベルに向ける。

そう、互いに有効打がないという状況でありながら、二人の立場には明確な差が存在していた。

今や炎の海と形容出来るほど膨張したフェルナンドの炎は、半霊里に届くほどにまでになり放つ炎の波は触れればその命を瞬く間に焼き尽くす業火。

呑み込まれてしまえば、ハリベルとて無傷では済まないと判断できる。

代わってハリベルの放つ斬撃は確かに威力として必殺の一撃といえるだろう。

炎すら切裂くそれは、しかしフェルナンドに致命的な一撃とはならなかった。

炎をいくら斬ろうとフェルナンドはさして怯む様子を見せず、まして負傷した様子など皆無なのだ。

攻撃が当たれば相手は傷つくフェルナンドと、攻撃をしても相手は無傷のままのハリベル、このままの状況が続けばどちらが優勢といえるかは一目瞭然と言えるだろう。

 

 

「まァいいかげん避けられてばっかりってのは面白くねぇ…… 少しばっかり本気でいくぜ? 避けるんなら上手く避けるんだな!」

 

 

フェルナンドがそう言うやいなや、ハリベルの足元の炎に変化が現れる。

ただ燃え盛っていただけの炎の一部が各所で渦を巻くように収束し、その渦の中心から太い円錐状の槍のように姿を変えた炎がそこかしこからハリベルを串刺しにせんと奔ったのだ。

炎の海から奔るまるで太い木の幹のような槍状の炎、それは今までのように”面”として相手を押し潰そうとする炎ではなく”点”として相手を貫こうとする攻撃。

波を起していた炎をそのまま太い円錐状の槍の形に変化させることで、炎と込められた霊圧は凝縮され、相手を貫くための速度と殺傷力を上げた攻撃だった。

 

その速度に眼を見張るハリベル、そしてそれに込められた霊圧を察知すると今までの様に切裂くことは今のままでは困難と判断し、その場を飛退いて回避する。

直後ハリベルの元居た位置をフェルナンドの複数の炎の槍が交錯するように通過し、貫く。

炎の槍同士は標的を捉える事無く交錯しぶつかり合い、拉げた様に形を変え折れ曲がりながらようやく止まった。

 

 

「……これが貴様の本気か? 残念な事だ…… このような騙し討ちが本気などと言うのならば程度が知れる。この程度の実力ならば用は無い、貴様に殺された同胞達への手向けとして此処で散るがいい。」

 

 

フェルナンドの炎の槍を避け、フェルナンドの仮面へと向き直るハリベル。

そして放たれた言葉は落胆だった。

 

確かにこの炎の大虚は強いとハリベルは感じていた。

だが今までの攻撃を鑑みるに、それは霊圧に限ったこと“だけ”なのではないかとも思っていた。

一撃の威力は高く、面での攻撃によって敵を制圧するという戦いならば高い戦果も上げるだろう。

しかしその攻撃は単調なもので、毎回同じようなタイミングで迫ってくる波を避けることはハリベルにとっては余りに容易なことだった。

そしてあの炎の槍、速さ、込められた霊圧は見事なものだったが所詮は騙し討ち、少なからず本気を出してあの程度ならば戦力としては不合格だとハリベルは判断したのだ。

 

蛮勇を奮うだけの獣など必要ない。

 

その程度の存在であったかとハリベルはフェルナンドへと哀れみの視線を向ける。

そして戦力として不合格ならば消す。

実際ハリベルにとって斬れない相手だからといって苦戦しているという事はなく、フェルナンドを倒す手段など彼女はいくらでも持っているのだ。

これ以上何も出ないのならば、彼に玩具として殺された同胞達にせめてもの手向けとしてこの炎の大虚の亡骸を捧げようと、ハリベルは刀を握る手に力を込める。

戦士として散れなかった者への手向けとして、この大虚を捧げる為に。

 

 

「ハッ! 騙し討ち、ねぇ…… 戦いは正々堂々ってか? ……まったく呆れるぜ。 じゃぁなにか? 正々堂々戦って死んだらそれもやむ無しってか?くだらねぇな、まったくもってくだらねぇ…… 化け物同士の戦いにそんな考えはクソほどの価値も無ぇ!!死んだらそこで終いだろうが! 真正面から潰しても後ろから串刺しにしようと!殺された方が間抜けなんだよ!!」

 

 

叫び、仮面の下の炎が割れ巨大な口のように開かれる。

ハリベルの言葉を真っ向から否定するフェルナンド。

燃え盛る炎はより一層その勢いを増し、それはフェルナンドの感情と同期しているかのように荒ぶっていた。

片や戦いとは戦士と戦士が誇りを賭けて戦う真向勝負と捉え、たとえ倒すべき敵においても戦士の矜持と誇りを持って正面からぶつかる事を由とするハリベル。

片や戦いとは愉しむもの、そして持て余すほどの時間を消費するための遊戯、そこには綺麗も汚いもなく、最後に戦場に立っていた者こそが正しいと、その過程で戦いを楽しみ快楽を得るフェルナンド。

 

戦うという行為の捉え方がまったく違う二人、故に相容れない、だがそれ故にその戦いは自然と熱を帯びる。

 

 

「それに俺の槍を避けてずいぶんいい気になってるみたいだがなぁ…… あんなもんは避けられて当然(・・・・・・・)なんだよ!本番はこっからだ!」

 

 

フェルナンドの言葉と共に、ハリベルの目の前で交差して拉げた炎の槍に変化が現れる。

何本もの炎の槍が爆ぜるといたる所から更に枝分かれするように幾つもの円錐の槍が、彼女目掛けて飛び出したのだ。

急な展開にハリベルが後ろに飛び退くと、槍は更に枝分かれしながらその本数を増し、ハリベルを追い更には眼下に広がる炎海からも無数の槍がハリベルを貫かんと飛び出す。

避けても避けても迫り来る無数の炎の槍、それに追われるハリベルを見てフェルナンドが叫ぶ。

 

 

「だから言ったろうが”上手く避けろ”ってよ!アンタが俺の力の底を探ってるのなんてこっちはお見通しなんだよ!この炎はまさに俺自身! 俺の意思でどんな形にも姿を変える変幻自在の炎だ!アンタが見たかったもんは見れたかよ!それじゃぁアンタはコイツで詰みだ! 」

 

 

ハリベルを囲むように迫る槍の大群。

遂に避けきれず、かえってその手に持つ刀で切り裂く事もせず遂にハリベルは刀で槍を受け止めた。

しかし槍の勢いを止めることが出来ずそのまま後方へと押され、槍は今尚ハリベルを貫かんと更にその勢いを増す。

 

だがそれを押し留めようとするハリベルに瞬間影が射す。

 

天に座す月の燐光を遮る影、直感的に視線を後ろへ送るハリベルの目に飛び込んできたのは今までで一番大きな炎の壁だった。

槍を受け止めたままのハリベルは槍の成すがまま一直線にその壁へと向かう、そして次の瞬間にはハリベルはその炎の壁へと無数の槍と共に突き刺さり、その姿は壁へと埋没し見えなくなった。

 

 

「クッ!」

 

 

壁へと埋没する一瞬、ハリベルの口からそんな苦渋の声が漏れた。

それは自分の浅はかさを恨む声、戦士としてあるまじき行為をした自身への叱責。

ハリベルは理解したのだ、目の前の大虚が演じていた(・・・・・)のだという事を。

力を持ちながらもその使い方を知らない愚かな大虚を、そうする事でハリベルのほんの少しの油断を誘っていたのだと。

単調な攻撃も容易く切裂けた攻撃も全ては考えられたものだった、そしてあの槍を、本気を出すと言った後のあの槍を避けた瞬間確かにハリベルは愚かにもフェルナンドを侮ったのだ。

 

 

蛮勇を奮うだけの獣と

 

 

しかし、その実全てはフェルナンドの計画。

愚かを装い、手を抜いて攻撃を避けさせハリベルに自分を侮らせ、相手が此方を侮った瞬間喉に研ぎ澄ませた短剣を突きつける。

避けた攻撃、終わった攻撃と注意の逸れたその槍からの奇襲めいた二段攻撃、その枝分かれする槍を避けるハリベルを槍によって誘導し、前面と足元に意識を集中させることで背後の壁の発見を遅らせ、前面を槍、後ろを巨大な壁で覆い挟撃する。

それがフェルナンドが敷いた勝利への道だったのだ。

 

 

 

そしてその壁はハリベルを呑み込み、今は静かにまるで彼女の墓標のように聳える。

 

 

「ハッ! これで仕舞いだ、ティア・ハリベル…… アンタは強い、だが俺が勝つ! 一瞬でも侮ったアンタの負けだ…… 俺の炎に焦がされて、塵一つなく消えちまうといい。 俺を侮った自分を呪いながらな!アンタにとっちゃ不本意だろう…… だがそれでも、勝ったのは! 俺だ!」

 

 

その墓標に向かってフェルナンドは自分の勝利を叫ぶ。

今はもう絶命したであろう相手にそれでも宣言する、いやそうせずには居られなかったのだろう。

暇潰しにはちょうど良かったと、しかしほんの少し残念だともフェルナンドは思っていた。

彼女、ティア・ハリベルの力はこんなものだったのだろうか。

こんなにも簡単に殺せてしまうような存在だったのか。

最初に彼女を見た時、彼女の霊圧を感じた時、フェルナンドは直感的に感じていた、最高の殺し合いができるという確信を。

だが結果は不完全燃焼と言わざるをえない。

フェルナンドは自分の直感が外れたことに、言い知れない不快感を感じていた。

自分の空虚を満たすのは、きっと彼女だと感じていたが故に。

 

 

 

 

だが次の瞬間異変は唐突に起きた。

 

 

 

 

彼女を押し込めたはずの炎の墓標から一条の光が空に向かって飛び出す。

それは天の月を射抜かんばかりの黄金色の光の柱、そしてその光のが収まると炎の墓標は真っ二つに割れていた。

そしてその黄金色の柱が放たれたであろう場所には、同じく黄金色の霊圧を纏った人影が浮かぶのだ。

 

 

「何・・・だと!?」

 

 

その人影を見たフェルナンドから自然と驚嘆の声が零れる。

信じられないと、有り得る筈が無いと、自らの炎に巻かれ貫かれ押し潰されたはずの人物がそこには立っていたのだ。

今までこんなことは一度たりとも無かった、何故生きているのか、どうやって自分の炎を防いだのか、フェルナンドには理解できなかった。

 

そう、そこには彼の理解を超える存在が確かに居る。

 

そんなフェルナンドに対し黄金色の人影、ティア・ハリベルはゆっくりと口を開いた。

 

 

「侮ったことは詫びよう、フェルナンド・アルディエンデ…… これは私の不徳以外あり得ない。そしてお前がただの愚かなだけの大虚ではないことが判った。此処からは私も相応の力をもって戦おう、それが戦士としての礼というものだ…… 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

炎海驚愕す

 

炎に焼かれ尚死ぬ者

 

炎に沈められ尚蘇る者

 

未知との遭遇

 

それが運ぶのは恐怖か

 

それとも……

 

 

 

 

 


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