落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】   作:那珂之川

54 / 61
#49 海の向こうより来たりし人

~武曲学園~

 

雄大の案内という形で四人が訪れたのは関西地方の武曲学園。日本に七つある騎士学校の一つで、実戦力に重きを置いた“実力主義”の学校。破軍学園が取り入れたシステムのモデルケースはこの学園でもある。雄大が彼等を送り届ける手筈を知る人物を探すと、それはあっという間に見つけることが出来た。

 

「さて、話によるとこの辺りにいるっちゅう話なんやけど…お、おったな」

「あら、諸星君。それに、久しぶりですね」

「久しぶり、綾華姉」

「話には聞いてたが、本当にこの学園に赴任したとはな……」

「えと、その節はお世話になりました」

「って、綾華さんだけか? 真っ先にここにいそうなアイツの姿が見えないんだが?」

 

そう、四人を送り届けるのは翔の姉である綾華。今の彼女の置かれている立場からすると解りやすい人選にはありがたかった。ふと、綾華以外の人……とりわけ、ここにいそうな人物の姿がないことに気付いた斗真が綾華に尋ねた。すると、彼女の事を知っている故なのか、綾華は苦笑を浮かべていた。

 

「あー、待ちくたびれて『ちょっと模擬戦してくる』とか言っちゃってね…そこに見える訓練場にいますよ」

「やっぱりか……翔?」

「何しに行くんですか?」

 

その言葉に納得したのか、斗真はため息を吐いた。すると、荷物をその場に置いて訓練場に向かおうとする翔の姿を見て、斗真のみならずエリスもいつもなら面倒事に自ら首を突っ込まない性格の彼にしては珍しい行動に対して尋ねる。その問いに彼はこう呟いた。

 

「ほっとくと夕方通り越して深夜になりかねんからな……場合によっては割って入ることも考えるさ。あ、悪いんだけど斗真。荷物頼めるか?」

「了解した。なるべく早く頼むぜ?」

「善処はする」

 

斗真とのやりとりを交わした後、翔は綾華の指さした訓練場に向かって歩を進める。それを暫く黙って見つめていた面々だったが、綾かは気を取り直して残った面々に話しかけた。

 

「さて、先に荷物だけ積みましょうか。諸星君はどうするの?」

「ワイは翔の後を追うで。もしかしたら、アイツの実力を拝めるやもしれんからな」

「そういや、優紀の奴は誰と模擬戦してるんだ?」

「えっと、確か……」

 

訓練場の中に入り、観客席の方へ足を進める翔。この建物から入った時から感じていたが、とてつもないほどの魔力の衝突。片方の魔力の感覚は紛れもなく幼馴染というか腐れ縁の人物だということに違いはない。だが、もう一方から感じる魔力は、この学園に在籍しているAランクの“例の人物”でないことに妙な違和感を抱く。

 

(王馬、じゃないな……とすると、昼に雄大が話していた人物か?)

 

距離があるとはいえ、肌で感じられる魔力は紛れもなく“Aランク”と言っても過言ではないほどの圧迫感。一歩ずつ歩を進めるごとに感じる魔力の衝突によって生じたであろう幾重もの衝撃波。そして翔が扉を開いてその根源ともいえる訓練場の中心部―――観客席に辿り着くと、そこから見える薄暗いリング上で膨大ともいえる魔力を発する二人の人物。

 

「―――はぁ、こうなることは解っていたが、凄惨という言葉でも出てきそうな光景だ」

 

その二人は共に女性で、互いに武曲学園の制服を纏っている。片方は斗真と同じ色の腰位まであるであろう長い髪を三つ編みにし、両手に銃剣を構える人物。もう片方の女性はアッシュブロンドに近い様な髪を靡かせ、『妃竜の罪剣』や『緋凰の魔剣』にひけを取らぬほどの大きさを持つであろう両刃の騎士剣を振るい、襲い来る魔力の雨を薙ぎ払っている。その影響はリング上のみならず訓練場のあちらこちらに空いた穴がその激しさを物語っていることを察しつつ、翔はため息しか出なかった。すると、その来訪者の存在におぼろげながら気付いたのか、銃剣を構えている少女は翔に対して

 

「誰かは知らないけど、折角だから相手しなさい、よねっ!!」

「ユウキ!?」

 

有無を言わさずにその少女は翔に対して十数発の魔力の塊を撃ち放つ。強さに対する貪欲さは一番よく知っているだけに……強さを追い求めているときは周りが見えなくなるのも……()()()()()()()。別に関わりたくないのに向こうから舞い込んでくることには文句の一つでも言ってやりたいのは否定しないことだが。

 

「……やれやれ、だな。仕掛けたのはそっちが先なんだから、文句言うんじゃねえぞ」

 

そう呟き、翔は構える。その姿はさながら抜刀術の構え。彼女の放った魔力の弾が翔に到達するであろうその瞬間、十数発の魔力の弾が炸裂したかのごとく爆発する。その光景を横目で見て少し面白くなさそうな表情を構えたが、次の瞬間にはそんな思考すら遥か彼方へ吹き飛んでいた。その理由は、攻撃を仕掛けた少女の首元までわずか数cm―――頸動脈あたりに突き付けられた刃。対戦相手が『ユウキ』と呼んだ少女はその出来事に加えて背後から感じる怒りのようなオーラを感じ取り、全身がまるで凍り付きそうな位に硬直している。その少女にとって、刃を突き付けた人物は単なる知り合いというレベルではない。

 

「強さの探求は結構だが、誰彼かまわず喧嘩を売るのは女性として如何なものかとは思うぞ?」

「は? え? カ、カケル=サン!? ナンデ!?」

「ドーモ、ユウキ=サン。O☆SHI☆O☆KIデス」

「アイエエエエエエエェェェェェ!?」

 

結論から述べると、気絶させると面倒事が増えるために説教程度にとどめた。まるで先程激しい戦闘をしていたとは思えないほどの変わりように、翔に勝負をけしかけた優紀が先程まで戦っていた少女が展開に付いていけずにいたが……ようやく流れを把握したのか、翔に対して質問を投げかけた。

 

「えと、貴方は破軍学園の生徒さん、ですよね? どうして武曲学園にいるのですか?」

「ん? ああ、ここに来たのは雄大―――諸星の案内でな。っと、いけない……初めまして、とはならないけど……破軍学園一年、葛城翔です。クレーデルラント第一王女、メルエス・ヴェル・クレーデルラント殿下」

「……成程、いつぞやの少年が貴方でしたか。その節は私どもの騎士たちがご迷惑をおかけいたしました」

「ああ、気にしてませんよ。元々騒ぎになるようなことをしたのはこちら側ですので」

「むーーーー………」

 

アッシュブロンドの少女―――ヴァーミリオン皇国の隣国であるクレーデルラント王国の第一王女であるメルエスは翔の言葉に目を見開くも、翔が昔出会った少年の面影と重なり、すぐに納得したように微笑みつつも申し訳なさそうに呟いた。それに対して翔は苦笑しつつ言葉を返す。そのやり取りを見て面白くないと言わんばかりの表情を浮かべながら二人を見つめる先程翔に対して攻撃を放った少女―――滝沢優紀が唸り声を聞いた二人は彼女の方を見やる。

 

「ちょっと、翔。どうして王女殿下と知り合いなのよ!?」

「左之助さん主導の旅行での過程で知り合っただけだ。というか、何でお前に怒られなきゃいけないんだ……」

「人の気も知らないで……翔、今度は正々堂々」

「やらせるか、阿呆が」

「あいたっ!?」

 

そして怒りを翔にぶつけるが如く激しい口調で言い放ち、手に持っていた霊装の銃口を翔に向けようとした瞬間、彼女の頭上に突如衝撃が加わり、彼女は痛みのあまり霊装を落としてその場に蹲る。姿を見せたのは槍の霊装『虎王』を手に持って困ったような表情を浮かべる人物―――雄大の姿であった。

 

「こらまた派手にやらかしたモンやなぁ……先生に報告せなアカンと考えただけで頭痛がしてきそうや」

「ありがとな、雄大」

「ありがとうございます、ユウダイ」

「あー……何か、感謝の言葉が今ごっつ身に染みるで……」

 

―――優紀が武曲学園の先生に連行される様子を見届ける翔とメルエス、そして雄大の三人。ともあれ、優紀の説教が終わるまでの合間、外にいた面々と合流してカフェテリアへと足を運ぶ流れと相成った。

 

「お久しぶりですね、メルエス殿下。留学したと聞いたときは流石に耳を疑いましたよ」

「久しぶりですエリス殿下。ステラが強い人を求めたとあらば、私も負けるわけにはいきませんでしたから」

「おや、意外やな。エリス殿下とはそないな風に話しとるのに」

「まぁ、これには彼女の性格にも関わってくることなのですが」

 

何かしらの因縁がある隣国の王族・皇族とはいえ、親しげに話しているエリスとメルエス。その一方でステラに対して対抗意識を持っていることを仄めかす様な発言に雄大は首を傾げ、メルエスも笑みを零しつつ説明する。まぁ、ようはステラの負けず嫌いな性格故だろうとは思う。その影響を強く受けているせいか、今や伐刀者の一人となったメルエスもステラに対して『ただで負けるつもりなどない』と言わんばかりの覇気をちらつかせつつ、表情を崩すことなく言葉を紡ぐ。

 

「聞けば、Fランクの人間に敗れたと聞きましたが、それは本当なのですか?」

「本当といえば本当ですが……彼女を負かした騎士は、一般的なFランクと同じではありませんよ」

「それは薄々気づいてます。彼女とてランクに胡坐をかく様な人間ではありませんから……それと、ここでは王女の前に一人の学生騎士ですので、敬語は必要ありません。というか、命令してでも従ってもらいますよ?」

「……何と言うか、いろいろ型破りにも程度があるんじゃねえのか? 雄大先輩よぉ」

「先輩いうなや! ほらみてみぃ、鳥肌立ったやないか!!」

「やれやれ……」

 

とまぁ、そんな出会いの後、寮に戻るということで雄大は優紀を引っ張っていく形と相成った。尚、こちらの部屋割りは雄大と優紀が相部屋だそうだ。あのじゃじゃ馬というか凶暴な獣と言っても過言ではない彼女を相手していることに、翔と斗真は揃って手を合わせたくなった。別に雄大はこれから死地に向かう訳ではないのだが……そして、メルエスはというと

 

「南郷邸に、ですか?」

「ええ。休みの間は先生に稽古をつけていただいているので」

「……フラグ?」

「おい馬鹿やめろ」

 

彼女も王家代々伝わる剣技を習っていたとはいえ、伐刀者としては『駆け出し』の部類。そのため、世界屈指の伐刀者兼非常勤講師でもある綾華に修行を頼んでおり、この休みの間は集中修行ということで南郷邸に泊まりこんでいるらしい。学園に来ていたのは、送迎の同伴のためということだったそうだ。後は、知り合いでもあるエリスに早く会いたかったというのもあったようだ。

 

道中は特にトラブルもなく、翔らは南郷邸に辿り着く。そして到着した彼らを待っていたかどうかは定かではないが、玄関の前に一つの大きな箱が置かれていた。

 

「宅配便?」

「にしては、伝票が貼られていませんね………危険物はなさそうですが」

「………まさか」

 

翔の中に一つだけ心当たりがあり、もしやと思ってその箱のガムテープをはがし、箱を開けて中身を確認すると………まるで、何も見なかったかのごとく、静かに箱の蓋を閉じた。そして、

 

「はぁー………やりやがったよ、母さん……」

「え……何が入ってたの?」

「あ、翔の見たものの予想、大体察しがついたわ」

「えっ、えと、一体どういうことなんでしょうか?」

 

盛大に溜息をつく翔、首を傾げる明茜、冷や汗が流れ引き攣った表情を浮かべる斗真、事態が全く呑み込めないエリスにメルエス、そしてその一連の流れで察した綾華はその箱を持つと、道場へと運び始めた。そして道場の前に立つと

 

「そぉい!!」

(なげたぁっ!?)

 

伐刀者自体常識外れだというのに、それに拍車を掛けるが如く常識外れの行動に、翔を除く面々は付いていける気がしなかった。それを察してしまったのか、翔から出た言葉は一言だけであった。

 

「無理に慣れんでいい」

 

正直言って、その言葉以外にこの状況を説明できること自体無理だったという他なかった。

 

 




結構鈍足更新ですみません(トリプルアクセルDOGEZA)

このオリ展開は次回~次々回位の予定です。アバウトなのは私のモチベ次第。

そして、この後の展開ですが……ああやっていたぶられる一輝を個人的に見たくないので、かなりテコ入れします。とりあえず、豚は飛ぶ(ぇ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。