落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】   作:那珂之川

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というわけでUA100000越えということで、ふと書いてみた番外編です。



EX03 『タケミカヅチ』

時系列は翔が破軍学園に入学する約一年前に遡る。

 

『今のお前ならば、ここに行く価値は十分あるだろう。これが紹介状な』

 

突然送られて来た曽祖父:左之助からの手紙。律儀にも紹介状らしきものが同封されており、中身も紹介状であることを確認している……何せ、破天荒な旅を経験した身としては中身が『果たし状』とか『道場破り』の類という可能性もあっただけに。しかも、この手紙を読む限りではそれに関わる手続きは既に終えているということであった。

 

「―――ということなんだけれど、大丈夫かな?」

「ったく、祖父さんは相変わらずか……まぁ、向こうの方にも確認は取ったから安心してくれ」

 

流石に自身が通う中学にも関わる話になってしまうので、非番ということで家にいた父:武志に相談した所、既に決定事項となっていたことに頭を抱えたくなった。こうなってしまっては無碍にするのも宜しくないということで、翔は二つ返事で住み慣れた東京を離れ……向かった先は日本三大都市の一角である大阪を有する近畿地方。新大阪駅に降り立った翔は道行く人の流れを見やる。

 

「関西地方……ここらだと武曲学園か」

 

ここ数年の七星剣武祭において目覚ましいほどの実績を挙げている騎士学校。ランク評価ではなく実戦力評価による実力主義で競争心を煽り、学園自体のレベルを向上させたと聞いている。翔自身どの学校に行くか決めかねていた。武曲のシステム自体は魅力に感じるが、その学園に在籍している“とある人物”の存在から選択肢から外れた。なので他の六校…選択肢としては両親の卒業校である破軍か巨門辺りを念頭に入れていた。

 

さて、左之助の手紙によれば迎えの人を寄越しているということなので、翔はその人を探そうとしたところ……柱の陰辺りに妙な気配―――まるで特定の人にしか悟らせたくないような雰囲気を感じ取り、ゆっくりと近づく。すると、その陰にいたのは一人の青年。見るからに好青年の印象を受けるが、気配の消し方からして只者ではない、と理解できるほどの実力を有している。迎えに関して何の手がかりもない以上、ダメもとで声を掛けてみることとした。

 

「すみません、貴方が迎えの人でしょうか?」

「ん? おや、僕の気配に気づくとはね……流石は綾華の弟君だね」

「あ、お久しぶりです宗一郎(そういちろう)さん」

「久しぶりだね、翔君」

 

翔が宗一郎と呼んだ人物の言葉からして、どうやらその実力を推し量っていた……それよりも、とりあえず迎えの人がいたことに安堵した翔に苦笑を零しつつ、彼の持っていた荷物を預かると彼の案内で地下駐車場に停めていた彼の車に乗り、目的の場所へ向かいつつ先程の駅でのことについて説明した。

 

「僕の曽祖父、とはいっても翔君なら知っているだろうけれど、寅次郎さんから君を試すように言われてしまってね。これでも自信はあったのだけど、あっさり見破られるとは僕の立つ瀬もないかな」

「いや、見破れたとは言っても、周囲の気配から読み取った結果ですので……会うのは一ヶ月ぶりですか。あの時は本当に吃驚しましたよ」

「はは……僕も早まったとは思ったけど、まさかそちらの両親があっさり許してくれるとは思ってなかったよ」

「まぁ、うちは常識に当てはまらないので……そちらも良く説得できましたね?」

「孫が見れるということと、寅次郎さんが『ええ仕事したのう』という言葉で丸く収まったのさ……それはそれでどうかと僕も思ったのは否定しないよ」

 

南郷宗一郎(なんごう そういちろう)―――<闘神>南郷寅次郎のひ孫にあたり、彼もまた伐刀者の一人である。姉曰く『女泣かせの朴念仁』というほどの超鈍感で、容姿も良く実力も高いのに謙遜しがちな性格だそうだ。とはいえ、ひとたび戦いともなればその実力を如何なく発揮する。現在は翔の姉である綾華と結婚し、子供にも恵まれて幸せな家庭を築いているとのことだ。で、彼は卒業校でもある武曲学園の教員を務めながら、職業柄海外を飛び回ることの多い妻に代わって子育てをしている。

 

他愛のない会話をしていく中で、ふと翔は質問を宗一郎に投げかけた。

 

「そういえば、『義兄さん』は今回の事に関して何か聞いていますか?」

「半年うちで預かる、とまでは聞いたね。ただ、事情もあるからそこら辺は寅次郎さんに一任されちゃってるみたいだね」

「事情というか、大方うちの曽祖父絡みでしょうね……ということは」

「予想通りだけど、寅次郎さんは意気揚々としてたよ。『左之助の曾孫とならば気になる』とか言っちゃってね」

「やっぱり……」

 

左之助がどういった意図を持ってこんなことしたのかが良く解った……無茶ぶりの一端を経験している翔はただため息しか出なかった。つまりは、翔の実力を磨くためには左之助が良く知る人物の元で修業したほうがいいという結果なのだろう。それを理解しつつ、翔は唐突に言い放った。

 

「―――で、ちゃっかり乗っているのには驚きですよ、<闘神>南郷寅次郎さん?」

「ホッホッホッ、流石は左之助ゆかりの人間じゃ。お前さんと同年代の人間ですら誤魔化したワシの気配をあっさり見破るとはのう」

「はぁ、また父さんに任せて潜りこんでたんですか……弁解はしませんからね?」

 

後部座席に座るのは最高齢の現役魔導騎士―――<闘神>の異名で知られる南郷寅次郎その人の存在に翔はジト目で彼の方を見つめ、運転をしている宗一郎はため息を吐いた。どうやら、気配を消して宗一郎の運転する車に乗り込んだようだ。その行動力は流石というべきなのか判断に困るが……それは置いといて、翔は寅次郎に尋ねた。

 

「で、俺は寅次郎さんの指導を受けることになるんですか?」

「いんや、そこまでせずともお主は十二分に強い。それこそわしが余計な手を加えれば左之助の奴が怒りかねんからの。まぁ、ちょっとした稽古位はつけてやることになるが。あとは、わしの愛弟子たちと戦ってほしい、というお節介ぐらいじゃよ」

「実戦経験を積ませる、ということですか?」

 

いくら中学生のリーグ戦とはいえ、それはあくまでも体力を削るだけの勝負。<実像形態>ともなればそれに対して尻込みする人も少なくはない。寅次郎自身も実戦経験の少なさを懸念しており、そのために翔に白羽の矢を立てた。

 

「平たく言えばのう。左之助からお主の戦闘経験は一通り聞いておるよ……()()()とも剣を交えたそうじゃの?」

「交えたというよりは『教わった』と言う方が正しいですよ……あの境地には至ってませんから」

「その歳で『彼女』と出会って生きて帰ってこれたのが奇跡だね」

「否定しませんよ……知ってるのは?」

「わしと宗一郎ぐらいじゃよ。まぁ、そうでなくともお主の剣術を見てみたい気持ちがあるのは事実じゃが」

 

寅次郎の言葉に翔は安心したのか、ため息を吐いた。左之助との旅を通して様々な伐刀者と剣を交えた……その中には人という枠をはみ出したもの―――左之助曰く<魔人(デスペラード)>と呼ばれる人間にも何人か出会った。左之助が傍にいたお蔭で事なきを得たが、流石に世界は広いと実感すると同時に、自身の力をより研ぎ澄ませる必要があると痛感した。そんなことを思い出しつつ、翔らの乗る車は大阪の大都会を走っていく。

 

 

大阪の街並みから東側に連なる山々……その頂上に建つ立派な和の屋敷。ここが南郷家の屋敷であり、併設されている道場からは剣撃らしき音が外にまで響いてくる。それを聞きつつも翔は荷物を降ろそうとしたところ、その荷物を宗一郎が持った。

 

「じゃあ、荷物は客室に運んでおくよ」

「え? いや、流石に世話になる身としては、それぐらいやりますけど」

「…寅次郎さんが笑顔で威圧してくるからね」

「あー………成程。すみません、お手数おかけします」

 

とどのつまり、『宗一郎はそやつの荷物を運んでやれ』と言わんばかりの威圧を向けられている以上、それに従うしかなかったようで…翔は詫びの言葉を述べた。そういうことで荷物を運んでいく宗一郎を見送った後、残った翔は寅次郎の案内で道場の方に向かうこととなった。

 

「しかし、今日は打ち合いの予定にしたつもりはなかったのじゃが」

「やんちゃな弟子が難癖付けて、誰かに喧嘩吹っ掛けたんじゃないんですか?」

「それが濃厚、と言った所かの」

 

来て早々にトラブルになりそうな案件が起こっていそうな雰囲気に、翔と寅次郎は同じ意見を述べる羽目となった。ともかく状況把握をしようとした矢先、固く閉じられていた道場の扉が吹っ飛んだ。

 

「……的中しましたね。当たってほしくなかったのですが」

「はぁ、あやつは一体何をしとるんだか……」

「で、吹っ飛んだ相手は………え?」

 

予想が現実となったことに、流石の寅次郎も苦虫を噛み潰したような表情となっていた。ともあれ吹っ飛ばされた方は無事なのかと翔がその方向を見やった瞬間、自身の目を疑った。なぜなら、その吹っ飛ばされた方の人物というのが……翔にとって知らない人間ではなかった、ということであった。

 

 

「くぅっ!?………やりますね、椛(もみじ)」

「あったりまえでしょ。いくら先を読めても、無意識を閉じることができない以上刀華(とうか)に勝ち目はないよ? いくらその抜刀術が優れていたとしても、ね?」

「なら、せめて一矢報いさせていただきます!!」

 

共に高まる魔力……互いに戦う相手しか見えていないため、周囲の状況などお構いなしの状態……そして互いに最高潮になった瞬間、互いに同時に駆け出す。これは模擬戦とか打ち合いとかのレベルではなくなっている……互い目がけて振るわれる二つの刃。だが、

 

――――ガキンッ!!

 

「くぅっ!?」

「きゃっ!?」

 

それが相手に届く直前で、突如互いの持ち手に鈍い痛みが襲う。これには椛や刀華と呼ばれた少女たちも持っていた霊装から手を離してしまう。更には次の瞬間、互いの霊装が首元に突き付けられた状態となる。だが、それは相討ちなどではなく……いつの間に割り込んでいた一人の少年によるものであった。

 

「少しは場所を考えろ……と、お前らの師匠が言いたそうにしてるぞ?」

「な、何よアンタ!? 部外者がいきなり……刀華?」

「え……かけ君?」

「6年ぶりだな、刀華。まさか寅次郎さんのところで会うとは思ってなかったぞ」

 

意外すぎる再会に翔のみならず刀華も驚き、事情をいまいち呑み込めていない椛は首を傾げたが……視線を横に移した瞬間、椛の表情が一気に青褪めた。そこにいたのは、

 

「やんちゃなのは結構じゃが、ここでやらずとも七星剣武祭で相見えるじゃろ?」

 

満面の笑みを浮かべている寅次郎の存在に、椛はおろか刀華ですら蛇に睨まれた蛙の如く動くことさえできなかった。どうやら、昨年の七星剣武祭で実現できなかったケリをつける意味で模擬戦を行うことにしたらしい。ともあれ寅次郎による笑顔の説教を一通り受けた後……翔と刀華は道場の中央で対峙する。

 

「で、早速という訳なんだが……俺は構わないが、いいのか?」

「ええ、構いません。かけ君がどれだけ強いか、見極めさせてもらうね」

「見極める、ねぇ……恥じない程度には頑張らせてもらうさ」

 

どうしてこのよう流れになったのかといえば、寅次郎の説教の後で翔に真っ先に食って掛かってきた椛との模擬戦……翔はあろうことか無手で霊装を持つ椛を圧倒せしめた。その間わずか『10秒』という短さで。それを見た刀華は、自身の力を確かめたいという思いと寅次郎の元で半年ほど住み込むことを聞き、寅次郎に翔との対戦を希望したのだ。そもそもなぜ面識があるのかというと、それは翔の双子の弟に関わる話になる。

 

『……迷子?』

『いきなりひどくないですか!?』

 

彼が出場した大会で応援に来ていた翔…そこで迷子になっていた少女を案内してあげたことがあった。それが東堂刀華だということには流石に驚きを隠せなかったが。その過程で彼女の関係者と知り合いになった経緯がある。それがまさかこんな形での再会になるとは…世の中は意外と狭いものだ。

 

まぁ、そんな昔話はさておくとして……翔は息を吐いて対峙する相手を見やる。その相手はいつも身に着けている眼鏡を外した上でこの場に立っている。剣士にとって最も重要とも言える視覚を限定した意味……それを察した上で、翔は息を吐く。

 

「成程ね……でも、その判断が功を奏するのかどうかは、この試合の結果で示すよ。――――天元を衝け『叢雲』」

「……負けませんよ。――――轟け『鳴神』」

 

互いの周囲に巻き起こる『雷』。翔は蒼雷から蒼穹の鋼の太刀を、刀華は紫電より黄金色の鋼の太刀を顕現させる。翔は抜身でそれを構え、刀華は同時に展開した鞘に自身の霊装である『鳴神』を納刀し、抜刀術の構えを取る。互いに準備が整ったのを見て、審判役として引っ張り出される羽目となった宗一郎が合図を出す。

 

「それでは………はじめっ!!」

 

互いに『雷』を使役する剣士……その戦いが幕を開ける。開幕早々仕掛けたのは刀華のほう。納めた『鳴神』を抜き放ち、閃光とも言えるような速さの雷―――三日月形の雷を飛ばす遠距離の伐刀絶技<雷鷗(らいおう)>を繰り出す。無論、それぐらいは承知の上で翔は『叢雲』を構え、刀身に走る稲光―――そして袈裟切りの要領でその技を放つ。

 

「―――切り崩させてもらう。<朝霜>」

 

放たれたのは蒼雷の斬撃。それは刀華の放った<雷鷗>をやすやすと切り裂いた。そしてそのまま刀華の方へと走る刃。無論刀華とて迎撃の構えを取り、いつの間にか納めていた『鳴神』を抜き放ち、翔の放った衝撃波を斬り割くことに成功する。それを見た翔は少し驚くものの、これぐらいは許容範囲内だと思いながら『叢雲』を構えた。

 

「ま、これぐらいは普通にやってのけるよな……けど、その判断に後悔しないことを祈るよ」

 

そう言って翔は息を吐き、『雷』を自身の足裏に収束して一気に加速する。周囲から見れば翔が刀華に対して真っ向から勝負をかけたと見てとれるだろう……だが、

 

「っ!? (どうして!? どうしてこんなにも攻撃の可能性が思いつくの!?)」

 

当の刀華本人にはその考えに集約することすら許されない状況に陥っていた。襲い掛かる翔の攻撃に刀華は防戦を強いられることとなっていた……最初の一合では互角に見えた試合だったはずなのにだ。その原因が気になる椛は自身の師に尋ねる。

 

「師匠、刀華が攻めあぐねてるけど、なんでなの?」

「簡単な事じゃよ。あやつは二つの戦いを同時にこなしているも同然なんじゃ」

「二つ?」

「うむ。刀華の能力は知っておるじゃろ?」

「まぁ、それぐらいはね」

 

刀華の能力の一つである<閃理眼(リバースサイト)>―――『雷』の属性の力を応用し、相手に流れている電気信号を読み取ることで相手の動きや思考を掌握する。人間はいわば生きた精密機械であり、如何に技巧で誤魔化そうともその電気信号を読み取ってしまえば相手の次の行動すら手に取るようにわかる。それを攻略するというのは中々に骨の折れることだというのは刀華相手に勝ち越している椛自身が良く解っている。

 

「確かに<閃理眼>の強さは絶大じゃ。だが、戦っておる(あやつ)はそれを見抜き、更には相手に『大量の選択肢を与える』という芸当をしておる。最初に放った一撃はその布石じゃろう」

「―――つまり、視覚では解っていても脳の思考回路がそれ以外の選択肢にもリソースを振り分けちゃうせいで対処しきれない、ってこと? そんな芸当ができる雷使いだなんて聞いたこともないんだけど……」

「あやつの家―――『葛城家』は他の雷使いとは異なる。それから比較すれば、他の雷使いなど『電気で遊んでいる』程度のものなんじゃ」

 

一度に大量の『攻撃予測』を脳に流し込まれたら、常人はまずオーバーヒートするのが目に見えている。ましてや相手の電気信号を読み取れる状況にしている<閃理眼>を使っている刀華には最低でもその数倍の負荷がかかっているも同然。効力を弱めれば対処は出来るが、そうなると今度は翔の動きに対処できなくなる可能性がある。現に刀華は負荷の軽減か、対戦している相手の動きを読み取るかの二択を迫られた状態で防御に徹している。

 

「しかも、あやつは刀華の間合いすら完全に把握しておる。例え<抜き足>を使っても返す刃の如く、というところかの」

「<閃理眼>に<抜き足>、更には<雷切>ですら封じられた状態での戦い……これは、私があっという間に負けても仕方ないって思うよ」

 

たった一合で相手の『切り札』すら封じてしまう強さ……正直言って同年代の伐刀者とは思えない、とでも言いたげに椛は呟いた。少なくとも、感じられる魔力はここにいる人間の中ではずば抜けて低い。しかし、それを補って余りある彼の実力は……どう低く見積もろうが<七星剣王>クラス―――全国トップクラスの伐刀者にその名を連ねることになるだろうと。

 

このままでは確実に敗北するという事実を突き付けられた刀華。恐らく<疾風迅雷>を使ったところで同じ結果にしかならないだろう。ならば、決死の覚悟で真正面から打ち崩すしかない―――その結論に至った刀華は『鳴神』を抜き放って切っ先を翔に向け、刃を水平に構える。自身に迸る稲妻……そして、一気に駆け出した。

 

「一矢報わせていただきます――――<建御雷神(たけみかづち)>!!」

 

その技はあまりにも完成には程遠い捨て身の技だということは、翔はおろか寅次郎や椛、そして審判である宗一郎も気付いて止めようとしたが、既に刀華は磁力の空間を抜けて翔目がけて突撃する。それを見た翔は一息吐き、瞬時に『叢雲』の刃を自身の背後に向けるように構えた。そして彼が放つのは、彼女のその勝ちたいという思いに敬意を表するための技。奇しくも同じ名を冠する彼が編み出した剣技を。

 

「これで決めさせてもらうぞ、刀華」

 

――――<蒼天斬り裂く刹那の神雷(タケミカヅチ)

 

その瞬間、武道場全体に閃光が走る。それはほんの一瞬であったが、その閃光が収まる間に何かが床に倒れる音……そして閃光が収まると、立ち位置が入れ替わっている翔と刀華。立っている翔に対し、刀華は『鳴神』を手にしたまま武道場の床に倒れ込んでいた。それを見た宗一郎が試合終了と宣言し、模擬戦は終了となった。

 

 

「……負けちゃったか」

「勝ちたいからって危険技使ってくるとは思ってなかったけどな……おかげでこっちも使うはずの無かった技使う羽目になったし」

「ううっ……」

 

元々<幻想形態>を使った模擬戦ということだったが、一応急所を外したお蔭で模擬戦終了後から三時間経って目を覚ました刀華。そしてそこから寅次郎のお説教コースが三時間となり、足が痺れて動けない状態になっている刀華であった。その説教の後に様子を見に来た翔が呆れたような表情を浮かべたことに刀華は反論もできない様子。

 

「ホント、強くなったよね。ねぇ、かけ君は来年破軍(ウチ)に来るの?」

「特には考えてなかったけど……まぁ、武曲はちょっと厄介な奴がいるから、多分そうなるかもしれん」

「ふーん……その時は、リベンジさせてもらうからね? 『カナちゃん』や『うた君』も会いたがってたし……あと、お墓に花あげて来たんだ」

「中々濃い面子だなぁ、それは…あと、ありがとな。尤も『そんなことやってるぐらいならもっと強くなれ』とか奴なら言いかねん」

「あははは………たけ君なら、そう言っちゃうかもね」

 

この約一年後、翔が破軍学園に入学し、その更に一年後には<閃雷の剣帝>という二つ名がつくということなど、当の翔本人は知る由もなかったのであった。

 

 


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