落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】   作:那珂之川

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ひさびさですいまえんでした;;

色々忙しくて……今回はオリジナル展開です。


#42 軽い模擬戦

一輝とステラの進展具合の方だが、ともかくはお互いに話が出来たようで何よりであった。その過程を聞いた翔とエリスは同じ場所にいた訳ではないが、

 

『バカップルの痴話喧嘩か、それは?』

『……あの、痴話喧嘩でもしたの?お姉ちゃん』

 

と似たような発言を思わず発してしまうほどであったが。

 

選抜戦は特にトラブルなどなく既に八試合が消化され、翔は勿論の事であるが一輝やステラ、エリスを始めとした面々が勝ち進んでいる。その中で、ステラにも『紅蓮の皇女』に代わる二つ名がつけられた。その二つ名だと双子の妹であるエリスにも当てはまってしまうからなのだろう…ちなみに、その二つ名は

 

「<紅竜の戦姫(ティアマト)>ねぇ……ま、悪くはないわ」

 

圧倒的力を以て真正面からねじ伏せる絶対強者の剣、その力は竜の如し。Aランクという評価をこの年齢で手にしている人間だからこそ為せる剣術でもあり、それに見合った実力を有しているということだ。

 

「お疲れ、とは言い難いかな?」

「まぁ、また不戦勝だもの。流石にフラストレーション溜まるわよ」

「仕方ない、というか好き好んで突撃する自虐思考の持ち主なんてそうそういないからな」

「それでいくと、真っ先に僕がそうなるんだけれど!?」

 

とはいっても、この学園に来てまともに戦闘したのは………そう考えてステラは一つの結論に辿り着く。

 

(考えてみれば、アタシ…まともに剣を振るった試合ってイッキとの模擬戦位なのよね)

 

並外れた実力を持っているが故の悩み。そもそも、ステラやエリスといったハイレベルの騎士に付いていける人間なんて数えた方が早いレベルだ。とはいえ、このままだと戦闘面でのフラストレーションが溜まっていく一方……そこで、ステラは近くにいた妹の恋人に頼みごとをしてみることとした。

 

「ねぇ、カケル。一つ頼みごとをしてもいいかしら?」

 

 

「―――で、こうなったというわけか」

 

暇だったというのもあって審判をすることとなった黒乃はため息を吐く。模擬戦ではあるので<幻想形態>による戦闘なので命に直接かかわることはないものの、そのストイックさには感心させられる、と思いつつ準備が完了した第四訓練場の対戦する二人を見やる。そして観客席の最前列から二人を見つめる一組の男女―――その心中は流石に穏やかではなかった。

 

「やれやれ、だね。ま、ステラが変に爆発するよりはマシかな」

「イッキの言う通りですね。これでもまだ耐えていた方ですから……」

 

一輝の言葉に同意するエリス。強い相手を求めて遥々遠いこの国に留学してきたのだ……格下ばかりが相手だと本来の実力すら出せずにイラつく気持ちは解らなくもないが、正直言ってここまで早い段階で勝負を挑むとは思ってもいなかった…と言いたげな表情を浮かべるエリスは心配そうな気持ちがこもった様な視線をリング上に向けた。

 

「エリスはどう見る? この勝負の行方」

「短期決戦に持ち込めば、お姉ちゃんに分があるかもしれない……というぐらいですね」

「身内に対して厳しいね、エリスは。でも、そう言いたくなる気持ちは解るよ」

 

昨年度のルームメイトであった一輝ですら、この勝負自体勝敗が見えているも同然であった。幾多にも及ぶ彼との模擬戦でその本質を感じ取った一輝。まだ三週間ぐらいであるが、現在のルームメイトとしてその強さの片鱗を感じ取っているエリス。無論、この勝負自体に関してはステラ自身とて理解しているであろう。だからこそ、ステラは自身に足りないものを探すために彼に勝負を挑んだのだろう。

 

 

「カケル、準備はいいかしら?」

「ああ、何時でも構わない」

 

相対しているのは二人の男女―――かたや規格外の異能を持ち、<閃雷の剣帝>の二つ名を持つ男子生徒。かたや世界トップクラスの魔力量を有する<紅竜の戦姫>と呼ばれる女子生徒。双方共に七星剣王クラスの実力者……さらにこの二人、とある人物の新旧ルームメイトでもある。

 

「―――傅きなさい『妃竜の罪剣』」

「―――蒼天を超え、天元を穿て『叢雲』」

 

蒼穹の鋼の太刀を持つ<閃雷の剣帝>こと葛城翔。黄金の大剣を持つ<紅竜の戦姫>ことステラ・ヴァーミリオン。互いに八戦無敗という実力者同士の模擬戦が今、幕を開ける。

 

Let’s Go Ahead(試合開始)

 

試合開始の合図が鳴り、互いに霊装を構えたまま一歩も動こうとしない。その理由は単純明快。

 

(どんだけ隙が無いのよ……迂闊に攻められないのが辛いわね)

 

実際に対峙して解る葛城翔という騎士の強さ。両者の距離はざっと7mぐらいだが、そんな距離など()()()()()()()()()だということだ。そして、死角すら見せぬほどの隙の無さにステラの頬を冷や汗が流れる。正直言って、この気迫は今までに味わったことのないもの。だが、こんなところで立ち止まってられるほど諦めが良くない。

 

「……―――<紅竜の鉤爪(フレイムブラスト)>」

 

その拮抗を破るため、ステラは『妃竜の罪剣』を振るう。そこから発せられるように十ぐらいの斬撃が翔を食らい尽くすかのごとく襲い掛かる。自らの霊装の間合いにおいて隙が生じてしまう中距離を制圧するため、『妃竜の罪剣』に纏った<妃竜の息吹>を刃として飛ばすステラの伐刀絶技<紅竜の鉤爪>。

 

「……成程」

 

だが、翔はステラすら驚く行動を見せる。『叢雲』を自らの前に構えたまま、<紅竜の鉤爪>の斬撃に立ち向かっていく。これには流石のステラも正気かと疑ったが、そこからが彼の実力の一端を垣間見ることとなる。

 

「ふぅ………ふっ!!」

 

一瞬息を整えたかと思えば、彼は何とその炎の斬撃を一つずつ的確に叩き落としていく。いわば魔力の塊といっても差し支えの無い代物をリングの床に叩き落とす。これには観客席にいる一輝とエリスも驚きを隠せない。

 

「お姉ちゃんのあの斬撃を躊躇うことなく……」

「訓練場を必要以上に傷つけないように、ということなんだろうね。とはいえ、流石の僕でもあんな芸当はできないよ」

「普通だと無理ですよ。なにせ、あの一発だけでも<妃竜の息吹>を纏った『妃竜の罪剣』の斬撃に相当しますから」

 

(そう、普通ならば無理だ。だが、葛城は自身の持つ力を開放すれば、ヴァーミリオン姉に匹敵するだけのパワーを発揮できる。現に、アイツは“第三段階”開放の状態で戦っている)

 

リミッターの解除自体言葉にせずともそれぐらいは容易に可能とする。先日の模擬戦から暫定計算された彼の評価は同年代という括りにおいて世界トップクラスという事実。それでもなお、翔自身は努力や研鑽を惜しむことはしない。その密度は彼の元ルームメイトとほぼ同等……一体何処を目指しているのだろうかと黒乃はため息を吐き、二人の戦いを見やる。

 

 

「……流石、カケル。やっぱり、エリスが選んだだけのことはあるわね!!」

 

ステラは驚くものの、その表情は笑みを浮かべていた。自身の炎の斬撃を叩き落とすという常識外れの芸当……これが、自身の妹が恋い焦がれたサムライの強さ。そして自身が好きになった人物と切磋琢磨してきた騎士……相手にとって不足は無い。寧ろ、この瞬間を待ち侘びていたかのような高揚感がステラの心に炎を灯す。『妃竜の罪剣』を振りかざし、<妃竜の息吹>の炎を剣一本に収束させる。

 

「ホントはイッキと本気で戦う時に取っておきたかったけど、これは受けられるかしら? ―――<妃竜の鉄槌(フォールバースト)>!!」

 

刹那、直上に振りかざした『妃竜の罪剣』から纏っていたはずの<妃竜の息吹>が綺麗さっぱりと消え、間合いの外にいる翔目がけて『妃竜の罪剣』を振りかざす。その動きを見た翔は『叢雲』を構える……そこで、翔は自身の本能が発する警鐘に気付くも、その次の瞬間

 

―――翔のいた場所が突如爆発した。

 

まるで手品でも披露したかのような芸当に一輝やエリスは勿論の事、審判である黒乃ですら目を見開いた。あのような技をこの短期間で閃き、それを実戦レベルに通用するほどの芸当をやってのけた事実。だが、技を放ち終えたステラの表情は曇っていた。そして、警戒を解くことなく呟いた。

 

「完全に初見だったはずなのにね……どんだけ固定概念に囚われないのよ、アンタは」

「霊装のリーチ外から『知覚させない』攻撃する手段は何度か経験済みなんでな。偶々勘が当たって助かっただけだよ」

 

その呟きに反応するかのように、ステラの後ろから聞こえてくる声。そう、先程までステラと相対していたはずの翔がステラの背後にいたのだから、互いに背中合わせの状態……距離はおおよそ5m。ステラには解る、()()()()()()()()()()()()()()()と。だが、翔は攻めを急ぐことはしない。パワーこそ目立つもののステラの本分はオールラウンダー……急いた攻めは隙を生みかねないことを誰よりも理解している。ステラもそれを警戒した上で次の行動に移るための余力すら残した状態だ。

 

「ま、さっきの技に関してはネタバレするのも嫌だろうし黙っておく。 ―――あまり疲労を残して試合に響くのも御免なんでな。次で決めさせてもらう。いくぞ、ステラ」

「やってやろうじゃない、カケル」

 

そう言って翔が取った構えは刺突の構え。対するステラの構えは唐竹割りの様相。互いに相手を負かすための構えを取った直後、先に動いたのはステラの方であった。先程のそれとは比べ物にならないほどの速さの斬撃。

 

「アタシのフルパワー、受けてみなさい! ―――<妃竜の鉄槌>!!」

 

先程のそれとは比べ物にならないほどの衝撃が訓練場全体に響き渡る。さながら高震度の局部地震でも起きたかのごとき衝撃に、流石の一輝とエリスもとっさに足を踏ん張らせてこらえつつ、勝負の行く末を見守ろうとする。審判役の黒乃も流石に自身の伐刀絶技でその衝撃を抑え込みつつ、その相手の様子を見守る。とはいえ……

 

(獅子の子は獅子、というわけか……)

 

そう心の中で呟いた黒乃。その当人は何と、ステラの<妃竜の鉄槌>を真正面から受けていた。そして、次の瞬間に彼はその名を呟く。

 

「―――秘剣之弐『雪風(ゆきかぜ)』」

 

彼がその名を呟いて太刀を振るい、<妃竜の鉄槌>をいとも簡単に弾き飛ばした。しかし、それだけではなかった。翔が先程のステラと全く同じ軌道の斬撃を繰り出した瞬間、ステラの周囲が爆発するように煙が巻き起こり、先程と同レベルの振動が訓練場全体に響き渡ったのだ。それで手ごたえはあったものの、一応警戒は緩めないまま、ステラがいた場所にゆっくり近づく。煙が晴れると、リングに叩き付けられた形であおむけに倒れているステラの姿があった。意識を失っていなかった辺り、何とか防ごうとしたのだろう。それを悟りつつ、翔は尋ねた。

 

「どうする? まだ続けるか?」

「いいえ、アタシの負けよ。まさか、イッキとは別の意味でアタシの技を盗むだなんて驚いたわよ」

「ま、真似できない訳じゃなかったからな。流石に炎自体は真似できないが」

「そこまで真似されたらアタシの立つ瀬がないわよ……あー、カケル。申し訳ないんだけど、立たせてくれないかしら?」

「……了解したよ」

 

互いに霊装を解除した上で話す二人。ステラの頼みに翔は手を差し出し、ステラもその手を取って立とうとするが、<幻想形態>によるダメージでふらつくステラに翔は両肩を掴んで何とか支えた。

 

「っと、あんま無理すんなよ。エリスもそうだけど、それ以上に一輝が心配するからな」

「え、ええ……ねぇ、エリスが怪訝そうな表情で見てるのだけれど?」

「はぁ、今夜は荒れるな……」

「その、御免なさい」

 

自身の妹絡みで苦労している彼に対し、流石のステラも謝罪の言葉ぐらいしか言うことができなかった。まぁ、その後は各々恋人同士で話すことになったのだが、

 

「今夜はやっぱりキャストオフぴょん!?」

「やめろっつーの」

 

……15歳で成人扱いとはいえ、一線だけは死守しよう……その約束がいつ破られるのかと思うと、ため息しか出なかった翔であった。

 




UA100000……恐縮です。
その記念という形で番外編一本書いています(遅れた原因がコレ)
もしかしたら文字数の関係で増えていくかもしれません(ぇ

ステラの二つ名はこれでいきます。元ネタは、まぁ、そうねぇ(遠い目)

まぁ、次回もオリジナル展開なのですがw

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