落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】   作:那珂之川

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#32 常識外れた実力

破軍学園の闘技場の中でも最大規模を誇る『大闘技場』。その一角から選手入口に向かっていた翔はその入り口側から歩いてくる一人の少女に気付く。

 

外見からすればおっとりとしたような雰囲気を窺わせ、長い髪を途中まで三つ編みに結んでいる。だが、翔は知っている……いや、彼だけではない。この学園に在籍している在校生ならば()()()()()()()()()存在。破軍学園序列一位にして昨年の七星剣武祭ベスト4―――<雷切(らいきり)>の異名を持つこの学園の生徒会長なのだから。すると、その少女―――東堂刀華(とうどう とうか)が翔の姿に気づいて、近づいてきた。

 

「かけ君じゃない。そういえば、次の試合だっけ」

「まあな。というか、刀華は第一試合だったんじゃないのか?」

「あ~、相手が棄権しちゃってね。舞台に上がる前に勝負がついちゃった」

 

本来ならば先輩後輩にして“姉弟(きょうだい)弟子”の間柄なのだが、当の刀華本人がそれを嫌っているためにプライベートの様な時だけ翔は言葉遣いを崩している。まさかの初戦が不戦勝となってしまったことに苦笑する刀華に対し、対戦相手となった生徒に対して“それは恥ではない”と言葉を贈りたいところではある。

 

「仕方ないだろ、刀華はそれだけ強いってことなんだから。このまま生徒会の連中の応援か?」

「そのつもりだよ。ただ、砕城君は気の毒と言う他ないのだけれど」

「お前も何気にサラッときっつい言葉を放つな……というか、『カナタ』の心配はしてないようにも聞こえるけど?」

「あの子は強いよ。かけ君だって、それは知ってるでしょ?」

「……まあな」

 

刀華は目の前にいる翔の実力を目の当たりにしている。その力が伐刀者としては異質、ということも。無論、翔自身とて慢心するつもりなど毛頭ない。そして、翔が口にした人物についても刀華は特に心配していないような口ぶりであった。当然翔もその実力というのは聞き及んでいる。翔は刀華の横を通り過ぎ、扉の前にある機械に生徒手帳のメール画面にあるコードを読み取らせる。

 

彼女(カナタ)は強い……そして刀華(おまえ)()()強い。それは理解してるさ。でも―――」

 

そして選抜戦における注意事項―――<実像形態>を用いるということから、怪我だけでなく命の危険も含んでいるということを説明する最終確認画面。だが、彼はそのアナウンスを全て聞くことなく、承認のボタンが出た瞬間にその承認ボタンを押す。すると開かれる闘技場への扉……その中へと入りつつ、翔はこう告げた。

 

「七星への道に立ち塞がるなら、相手が異性であろうとも遠慮せずに叩きのめさせてもらうさ」

 

その言葉が終わると同時に閉じる扉……彼の言葉を聞き遂げた刀華は笑みを零した。昨年の時は学内であまり見せることのなかった彼の真剣な表情……あの模擬戦の時のような表情に、刀華の心はさながら待ち侘びたかのような心境を抱いていた。

 

「ようやく、だね。私達と同じ舞台……当たるかどうかは解らないけれど、それでもここまで来てくれた」

 

自らの異名―――<雷切>が今まで戦ってきた相手の中で()()()()()()()()()()()()()()使()()

 

学内の今までの模擬戦においては、一輝とのものや先日の<緋凰の皇女>とのものを除けば全て場外負けという戦績……だが、その戦績は彼が“戦っていないから”という理由が付く。しかも、その全てにおいて彼は無傷の敗北をしている。傍から見れば『負け犬』と思うのだろうが、それを何度か見たことのある刀華には理解していた。そのいずれもが、相手に何度か攻撃をさせた上で、その攻撃をわざと大げさな動きで避けようとして場外に落ちた、ということに。

 

破軍学園の生徒で彼の本当の実力の一端を知る数少ない一人である刀華。今日の試合で観客たちはその実力に目を疑うことは明白。それと、同じ生徒会である“後輩”には申し訳ないが、分が悪い……だからこそ、翔と話していた時はああいう言葉でしか表現できなかったのだ。

 

 

―――そして、その時は来た。

 

 

『さぁ、続いての第二試合も注目の対戦(カード)です! 実況は私、月夜見三日月(つくよみ みかづき)が。そして、実況は西京寧音先生です!』

『うぃーっす』

 

実況:月夜見の紹介に対して西京はやる気のなさそうな声で返事をする。それに対してツッコミを入れていては試合が進まないことは解っているので、月夜見はそのまま入場してくる選手の紹介に移る。まず大闘技場のフィールドに姿を見せたのは裾の長い制服を着た坊主頭の巨漢。

 

『さて、赤ゲートより現れたのは、学内序列第四位<城砕き(デストロイヤー)>の異名を持つ我が校の生徒会役員、二年Cランク―――砕城雷選手だぁ! その佇まいは気合十分と言った所です! その二つ名の如く圧巻の一撃で相手を完膚なきまでに粉砕するのかー!?』

 

そう紹介された砕城。気合は十分、というのはハッキリと見て取れる。その砕城の視線は青ゲートから出てくる人物―――翔に視線が向けられている。

 

『さて、青ゲートからも登場しました! その砕城選手に挑む相手は、なんとEランク騎士! そして、昨年度は()()落第騎士(ワーストワン)>のルームメイト!! 学内における模擬戦ではすべて“場外負け”している彼ですが、先日の模擬戦ではあの<緋凰の皇女>に勝利しています! その実力は果たして本物なのか!? それともただの<道化の騎士(ザ・フール)>なのか!? それが今ハッキリとします! 一年・葛城翔選手!』

 

「……随分とした言われようね」

「はは、まあね。どうやら、翔自身覚悟は固まったみたいだ」

「ええ」

 

観客席の最前列―――実況の紹介に眉を顰めるステラに、一輝は苦笑しつつも翔のコンディションは既に万全となっていることがハッキリと感じ取れ、それにはエリスも軽く頷いた。それは明茜や珠雫、有栖院も………そして、彼を眼前に捉えている対戦相手の砕城にも。それを理解した上で、彼は翔に問う。

 

「どうやら、逃げる気はさらさらないようだな」

「まあね。強いて言うなら『隠すのはもうやめた』というところだけれど―――ま、<道化の騎士>という名もそれなりには気に入っているさ。だって、そうだろ?“道化(ピエロ)”はいわば“切り札(ワイルドカード)”みたいなものなのだから」

「………勝つつもりだと、言いたそうだな」

「でなきゃ、こんな場所に立ってはいない―――それは昨年七星剣武祭に出たアンタなら解るだろ、<城砕き(デストロイヤー)>」

 

その一言一言全てが虚勢などではない―――翔の言葉から感じ取れる意志に偽りは無し。ならば、これ以上の問答は不要であると砕城も察した。

 

「よかろう。ならば全力で圧し通る―――圧倒せよ、『鬼灯(ほおずき)』!」

「―――蒼天を超え、天元を穿て『叢雲』」

 

砕城が顕現させるのは『斬馬刀』と呼ばれる部類の大剣。翔が顕現させるのは蒼穹の鋼の太刀。互いに霊装を顕現させ、試合の準備は整った。

 

Let’s Go Ahead(試合開始)

 

試合開始の合図(コール)が会場に響き渡る。翔は『叢雲』の切っ先を砕城に向けるように左側に構え、力強く踏み出した。小細工なしの真っ向勝負による速攻―――砕城も自身の能力を目の前にいる<道化の騎士>はよく理解していることを解り切っている。だが、一人の男児として負けられない思いがある。

 

「その心意気は褒めてやろう。だが、某の能力を忘れたわけではあるまい!!」

 

そう言って砕城は『鬼灯』を振り下ろす。普通ならばそこに斬馬刀自体の重量が加わるだけの斬撃―――しかし、その『鬼灯』はその勢いが累乗的加速を経て翔目がけて振り下ろされる。無論、そういう展開に()()()()()()と翔は解っていた。それでも、翔はその斬撃に対しての回避行動は取らない。これには流石の砕城も内心驚いていた。

 

(正気か!? どう考えても自分から当たりに行っているようにしか思えない……だが、これも勝負……このまま圧倒する!!)

 

その決意に応えるかのごとく、『鬼灯』は更に加速を増す。この状況では翔に回避は不能……砕城も周囲の観客もそう思っていた。いや、その観客の中で一人だけは違っていた。それは―――他ならぬ明茜であった。

 

「使うんだね、<瞬雷>を」

 

そう呟いた瞬間―――衝撃音が訓練場に響き渡るが……翔は平然と立ち、砕城の振り下ろした『鬼灯』の刃は彼から見て翔の左側の床にめり込んでいた。無防備になるのは拙いと判断し、すぐに立て直して『鬼灯』を構える砕城。突っ込んだはずの翔が無傷ということに周囲の観客が騒然となり、一体何が起きたのかが分からないといった困惑の声が聞こえる。そんな中、明茜のその言葉に対して疑問を投げかけたのは、他ならぬ一輝であった。

 

「明茜ちゃん、あれが翔の言っていた『見せたかったもの』ってことかな?」

「うん。理心流静之極<瞬雷顕衝(しゅんらいけんしょう)>―――<迅雷焦破>と並んで、その習得を成したものは例外なく理心流にその名を刻む奥義の一つです」

「奥義って……どう見ても、カケルはそんな素振りさえ見せていないのだけれど?」

「無理もないです。何せこの奥義、『発動したことさえ相手に悟らせない奥義』なんですから」

「……そんな奥義、初めて聞きましたよ」

「いわば『影の切り札』と言う感じね」

 

明茜の言葉にステラは翔の様子を見て首を傾げ、更に放たれた明茜の言葉に珠雫と有栖院が冷や汗をかきつつ、リング上を見やる。正直解らないのも無理はない……この奥義をハッキリと見ることができるのは同じ奥義を習得したものに限定される。その奥義の全捌の式の内、伍の式『五光』まで開放している明茜だからこそ、翔がその奥義を使っているのだと解ったのだ。

 

「というか、明かしていいんですか?」

「いいんですよ。何せこの奥義、同じ雷属性の異能使いであっても()()()()()()()()()()()んです」

 

一輝とて明茜の言葉があったからその存在に気づけた……リング上では、本来当たるはずの『鬼灯』が本来の軌道から逸らされたことに驚きつつも、再び眼前に『鬼灯』を構える砕城。そして、真剣な表情で『叢雲』を構える翔。だが、砕城の内心は穏やかではなかった。

 

(間違いなく当たるはずだった……だが、その直前で何かに弾き飛ばされた……まさか、眼前にいる者が何かしたというのか!?)

 

完璧な軌道での唐竹割り。そこで手の動きが鈍ったなどと言うことは砕城自身『それは断じてない』とハッキリ言えるほどであった。自身の持てる全開の力ではないにしろ、食らえばただでは済まないその斬撃が逸らされたのだ。一体何をしたというのか……そんな心を見透かすかのように、翔は真剣な表情を向ける。

 

「どうした?まだ勝負は始まったばかりだぞ?」

 

そう言い放つと、翔は先程よりも更に体を沈み込ませるかのごとく低い姿勢を取り、一気に砕城の元へ駆け出した。先程よりも低い姿勢―――この状況で二度同じ攻撃は流石に通じない。そう判断した砕城は横薙ぎを放つ。無論、『鬼灯』の速度は()()()()()()()()()。これならばいくらなんでも逸らすことは不可能。

 

「なるほど、いい判断だな。悪くない選択だと思う。―――でも、悲しいかな……俺の狙いは()()()()()()()()

「!?」

 

翔がそう言い放った直後、砕城の姿が()()()()()()()()()。そして、同時に大闘技場の壁面が突如爆破されたかのような衝撃が闘技場全体を襲う。これには実況の月夜見も思わず目を丸くするほどであった。

 

『な、なんと!? リング上から砕城選手の姿が消えたぁー!? 先程クリーンヒットしたかのように見えた砕城選手の一撃を躱したことといい、一体何が起きているのでしょうか!? 西京先生、一体何が起こっているのでしょうか!?』

 

常人の動体視力では何が起きているのかさえ解らない―――だが、西京には当然この程度の攻防は瞬時に理解できる。

 

『あれは後の先(カウンター)による一撃。ま、その基本理論は武術を齧っている者ならだれにでも解る代物なのよ』

 

相手の力と技を利用し、己の力と技を“倍加”させる―――これが、カウンターの基本理論。先程の攻防は砕城が消えたのではなく、翔のカウンター技によって砕城は大闘技場の壁に叩き付けられたのだ。しかし、単純にカウンターと言ってもこれを成功させるのはそう簡単なことではない。相手の動き、力、速さの要素を全て見切った上で、それに即した一撃を放つというのは非常に難しい。しかも、立ち止まっているならばまだしも、自ら動いた上でカウンターを成功させるにはかなりの技巧が要求されるだけでなく、相手を見切れるだけの動体視力が不可欠となる。

 

『相手の力を受け流すというのは、それだけでも武術にとって最も高度な技。とりわけ、かけ坊の相手でもある<城砕き>のパワーは学内髄一。それを全て受け流すというのは並大抵の努力で得られるものじゃあない。だから、かけ坊は伐刀絶技でそれを補った。しかしまぁ、受け流すどころかそれを()()()()()()()()()()()()()()()芸当は驚きさぁね』

『え、伐刀絶技を葛城選手が使ったというんですか!? しかし、そんな素振りは見せていませんが』

『ま、そういうことを前提とした伐刀絶技なんだろうねぇ』

 

西京の説明に月夜見が尋ねるも、西京ははぐらかすように答えた。いや、はぐらかすような答え方()()できなかったというべきであった。何せ、砕城と戦っている人物は“ほんの僅かな魔力しか放出していない”のだから。

 

「―――成程、そういうことか」

 

その一方、観客席にいた一輝は先程の一瞬の攻防を持ち前の動体視力で見切っていた。一体翔はどのようにして砕城を吹っ飛ばしたのか―――その答えを呟く。

 

「多分だけど、明茜ちゃんが言った<瞬雷顕衝>……それを攻撃に用いたんだね」

「それで合っています。というか、そもそもその奥義は()()()使()()()()()()()()()()()()()もの……本来の用途は防御特化なんです」

 

静之極<瞬雷顕衝>―――術者の周囲に斥力を放出するように発生させることで、襲い来る攻撃を全て強制的に逸らしてしまう防御・回避特化の奥義。それを纏った状態で突撃するという攻撃補助的な使い方も可能……とはいえ、それをするぐらいならば動之極<迅雷焦破>を発動させて一気に圧倒した方が早い位だ。

 

翔は何と、その<瞬雷顕衝>を『叢雲』の刃に収束させて砕城の『鬼灯』に叩き込んだ瞬間に斥力を解放―――弾き飛ばされる『鬼灯』に巻き込まれる形で砕城が吹き飛ばされたのだ。だが、その芸当は理屈が解っていても簡単にできることではない。ただでさえ放出する斥力の制御だけでもかなり困難を極めるのに、それを一か所に凝縮するのはかなりの労力を有するのだ。

 

彼はその際に八つある秘剣の一つ―――固有霊装の間合いに入った敵を無想の刃で叩き落とす秘剣之肆<白露>……それを合わせて用いることで、砕城の振るった『鬼灯』を自身の間合いに引き込んだ上でカウンターを見舞った。

 

「……もし試合が長引いていたら、あの技が飛んできたと思うとゾッとしますね」

「うん。多分相手がステラの剣であっても、その気になればさっきみたいなことになると思う」

「常識外れにも程があるじゃないの……ホント、末恐ろしいと思うわ」

 

明茜の口振りであれば、さっきの様なカウンター技でなくとも純粋な攻撃手段として使用できる可能性が高い。それを察したエリス、一輝、そしてステラは内心冷や汗が流れた。間合いに引き寄せられて叩き伏せられる……いくら武器のリーチが長くとも、懐に入られればそこは翔の射程圏内(テリトリー)と化す。斗真が彼のことをチート呼ばわりしているのはこの辺りの強さを指している。そうでなくとも翔の剣術は達人級であることも一輝は知っている。

 

壁に激突した砕城―――無事、とは言えないが戦えないというほどでもない。まだ力は籠められる―――それを確認した砕城はリング上に戻り、息を整える。

 

『おおーっと、砕城選手がリング上に戻りました! しかし、外見上の差は歴然!! 一体誰がこんな状況を予測できたのでしょうか!? いまだ無傷の<道化の騎士>! そして傷だらけの<城砕き>! これが、Aランクを破った実力だというのでしょうか!?』

 

そう叫ぶ月夜見を知ってか知らずか、砕城は自身の中にあった慢心を呪った。たかが“Eランク”……そう思っていた節はなくもない。だが、現実はどうだ。傷だらけの自分に対し、相手は無傷。しかも、二回の攻撃を彼は凌ぎきった。全力ではないにしろ、押し潰すように放ったその攻撃を……この時点で砕城は悟った。

 

 

―――なにが<道化の騎士(ザ・フール)>だ。彼は紛れもなく、<七星剣王>を目指せるだけの実力を持った人物だ。

 

 

事ここに至っては、無駄な小細工など一切不要。いや、下手な小細工程度の手など通用するはずもない……そして、砕城は意を決するかのように、その場で『鬼灯』を振り回す。それを見た翔も『叢雲』を眼前に構えた。

 

『おおーっと、砕城選手!頭上で自らの固有霊装を振り回したぁー!!』

 

「よかろう、ならば某の全力を受けて見よ。貴殿にその力が受け切れるか!?」

「………いいだろう、<城砕き(デストロイヤー)>。その心意気に、俺も相応の礼を以て応じよう。」

 

その振り回した『鬼灯』の“チャージ”が完了すると、砕城は力強く踏み込み『鬼灯』を頭上に構える。その軌道は最初の時に見せた唐竹割りの軌道。無論躱すことも容易いが、そのようなことはしないと翔はハッキリと述べた。その上で『叢雲』の握る手に力を込める。翔の身体を纏うかのように高密度の力が収束していく。それに付随するように彼の周囲に起こる稲光……観客席で見ていたエリスには翔の纏っているものが自身も経験した理心流動之極<迅雷焦破>であるとすぐに理解した。

 

「受けよ、クレッシェンドアックスーーー!!」

 

砕城の異能は“斬撃重量の累積加算”。その全力を以て相手に叩き付ける伐刀絶技<クレッシェンドアックス>―――その軌道を翔は既に見切っている。構えたまま動かない翔……迫りくる最大重量10トンの斬撃……それが寸前に迫ったその時、突如リングから発せられる閃光。そして、翔はその名を呟く。

 

 

―――秘剣之壱<雷鳥>

 

 

その眩い光に誰しもが目を覆う……その光が収まったその光景は、殆どの人が驚きという他なかった。背中合わせに立つ翔と砕城……すると音を立てて粉砕される砕城の『鬼灯』。それと同時に砕城はリング上に倒れ込んだ。

 

『―――砕城雷、戦闘不能。勝者、葛城翔』

『な、なな、なぁんと!? 当初の下馬評をあっさりと覆して勝利したのはEランクの<道化の騎士>!! 学内序列第四位<城砕き(デストロイヤー)>相手に無傷で勝利し、公式戦初白星をあげましたー!!』

 

試合終了のアナウンスを聞くと同時に力の展開を解除し、霊装も解除して静かにその場を去る翔。月夜見は驚きの声をあげ、西京は興味ありげな表情で去っていく翔を見つめていた。その一方、観客席はまるで見たことのないものを見たような雰囲気に包まれていた。

 

「……ホント、凄いと思うよ翔は。さて、僕も行ってくるよ」

「ええ、頑張ってねイッキ」

「応援していますよ、お兄様」

 

元ルームメイトでもある親友が無傷で勝ったことに対し、自らに活を入れられる形となった一輝の表情に緊張の様子は一切見られない。その表情を見たステラと珠雫が励ましの言葉を贈る。すると、明茜は隣にいたはずのエリスの姿がないことに気付く。

 

「あれ、エリスちゃんがいないようですけど……」

「ま、大方の予想は付くわね。にしても、この試合で彼の力を目の当たりにした人は信じられないでしょうけれど……」

「今日の試合で確信したわ。カケルは強い。それこそ、七星の頂を狙えるだけの実力を持っているということに」

 

明茜の言葉に有栖院は彼女の行き先を察しつつ、未だ驚愕に包まれている他の観客を見やる。確かに彼の実際の実力を一目だけでは信じられないかもしれない。だが、れっきとした強者でもあるステラは率直に感じた―――葛城翔という規格外の騎士の存在を。

 

「……僕も負けないよ、翔」

 

そう言葉を零して、一輝は自分の試合の為に観客席を後にした。

 

そして、この日を境にネットの片隅で、<道化の騎士(ザ・フール)>に代わる二つ名で呼ばれることとなる。閃光の如き速さと<城砕き>すら赤子扱いした尋常ならざる力……“常識からかけ離れた力(アストレイ)”と“絶対的な剣術(インペリアル)”を振るうその姿、更には彼の元ルームメイトの二つ名に準える形で彼は以後こう呼ばれることとなる。

 

 

―――<閃雷の剣帝(アストリアル)

 

 

それはつまり、翔自身が単なる<道化の騎士>に戻れないことを意味する。

当然の帰結だ。なぜならば、彼は七星剣武祭代表候補の一角にして、学内序列一桁―――生徒会執行部役員を下したのだから。

 

 




次は斗真……の戦闘はダイジェスト風味に簡略化します。
というのも、一人でここまで時間かかると一輝の戦闘モチベに関わるのでorz

いきなり戦闘ではなく、回想が入ります。
まぁ、一輝絡みなのは間違いないですが、フラグにはなりませんのでご安心をw

あと、砕城の固有霊装名はオリジナルです。
やっぱ固有霊装の名乗りってかっこいいのでw

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