落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】 作:那珂之川
リアル事情によっては不定期になるやもしれませんのでご了承ください。
(DOGEZA)
#01 下には下がいる
『上には上がいる』……という言葉がある。とりわけ『魔導騎士』においては何ら不思議ではない。今は最強と言われようとも、それが簡単に覆ることもある。そういった意味においては、伐刀者としての才能が大きなウェイトを占める。さて、何が言いたいのかと言うと……常人の平均よりも劣った魔力量しか持っていない少年―――葛城翔は、『下には下がいる』という言葉もあるのだと思い知らされることとなった。その理由は、彼の目の前に映る一人の少年の存在だ。
「葛城君、これからよろしく。」
「翔でいいよ。これから衣食住を一緒にするわけだし、黒鉄。」
「それなら僕の方も一輝で構わない。改めてよろしく、翔。」
「こちらこそな、一輝。」
無事破軍学園への入学を果たした翔のクラスメイトにしてルームメイト、黒鉄一輝(くろがね いっき)。その感じる魔力は微弱と言う他なかった。単純なランク評価で言えば最低である“Fランク”と言っても差し支えない程度に。だが、それを補って余りある何かを翔自身感じ取っていた。互いにそれほど荷物は多くなかったのですぐに片付いたのだが、休憩する流れで互いの話となっていた。
「にしても、まさか<風の剣帝>に弟がいたなんて初耳だったんだけど。」
「え、王馬兄さんを知ってるのかい?」
「一応。顔見知り程度でしかないけどな。」
葛城家と黒鉄家は何かと因縁がある……いや、正確に言えば『黒鉄家が一方的に因縁を吹っ掛けてきている』という表現が正しい。実際のところ、翔自身黒鉄家の人間とも手合わせしたことがある。ただ、そのせいで一時期家族内がヤバいことになりかけたため、出来るだけ避けるようにはしてきたつもりだ。とはいえ、『魔導騎士』を目指す以上は避けて通れない問題なのは百も承知の上だ。だからと言って一輝を敵対視するつもりはない。少なくとも、翔が知っている黒鉄家の人間のそれとはかけ離れているというのが主な理由になるが。
「にしても、翔も大概にすごいんじゃないかな。」
「いや、唐突に何を言ってるんだ?」
「噂に聞いたけど、巨大な雷を試験官や他の受験生の前で降らしたそうじゃないか。それでいて首席じゃないというのは“おかしい”ってね。」
「………」
あれでも校舎自体に被害がいかないよう一応加減したのだが、それでも目立つものは目立ってしまったようだ。それも葛城家が代々使役する『雷』という特性上致し方ない。それを踏まえたとしてもEランクと言う評価はおかしい……という噂のようだ。翔は諦めつつも、この目の前にいる黒鉄一輝と言う人物に自らの能力を話す。
「それについてこれから話すが、できれば誰にも言わないでほしい。」
「それは構わないけど、理由を聞いてもいいかい?」
「簡単に言えば、他の人が聞いたところで『在り得ない』『何を言っているんだ』ということで片付けられるから。」
「はは……成程ね。解った、約束するよ。」
どうやら、そういった経験をしてきたからなのか、一輝は素直に頷く。それを確認してから、翔は自らの力について話す。
「まず、これが最も重要な事なんだが…俺の
「えっ……本当かい?」
「ああ。」
『
「通常の伐刀者は自らの意思で『魔力』と引き換えに『魔術』―――『伐刀絶技』を使う。これが普通だろう……だが、俺の場合は魔力を使用しない。いや、
「ちょっと待って。じゃあ、君の異能の源は何なんだ?」
「すまん、それに関してはよく解らないんだ。何せ、この力自体偶発的に発現したに近いからな。ただ、制御自体は幸いにも『魔術』と同じだったのがありがたかった。」
翔自身嘘は言っていない。それは一輝にもはっきりと解っていた。このことに関して嘘をつく道理などないし、そもそも翔が力を手にした過程において『黒鉄家』も関わっている以上はその家系でもある一輝に話すことが翔にとっての義理立てみたいな節もあった。とはいえ、他の黒鉄家の人間にはおいそれと話せたことではないが。
ただ一つ言えることは、翔の使う力自体も『魔力』と同様の運用ができること。そして、もう一つ……その力の源は使用していく毎に許容量の上限が伸び続けること。力そのものは解らないが、それが増していく感覚と言うのは解ってしまうようで…この現象自体まったく気にしてはいなかったが、放置していたがために一時期ヤバい状況になったことはある。
不幸中の幸いにも近くにそういったことを少なからず知っている人物のお蔭で何とかなり、それによる暴走を避けるべく普通の人間ならば課さない様なトレーニングを続けている。尤も、そのトレーニングも翔がちょっと昔にやっていたことからすれば準備運動程度のものなのだが。
「第一、『魔術』の全てを現代で把握しているわけじゃない。把握できてるんなら、俺の力の原理だって解るわけだし。」
「一理あるね。」
「で、だ。俺の異能は『雷』。そもそも葛城家はその属性に特化した一族でな。それに関する技巧はかなり叩き込まれたよ。」
資質如何問わず、翔の両親はともに優れた伐刀者である。確かに優れてはいる。その点に関してだけ言えば、尊敬はしている。しているのだが……いや、ここで愚痴を言うのはよそう。相手が相手と言うのもあるが、会って初めてのルームメイトに愚痴をこぼすのは流石に宜しくないので心の中に留めた。
「話を聞いているだけでも羨ましいね。君の両親も翔の資質は見抜いていたはずでしょ?」
「『力』が発現する前にもかかわらずな。そういう先見の明だけは本当にずば抜けてる。そこまで来ると逆に末恐ろしくもあるが。……っと、そろそろ食堂が閉まるから、急ぐか」
「あ、もうそんな時間だったのか。そうだ、翔。よければ明日から朝練でもどうだい?」
「朝練か……ま、拒否する理由もないからな」
一言目に朝練と言う言葉が出てくるあたり、このルームメイトは常人ですら考えもしないような努力を積んできたのだろう。とはいえ、その努力の量において翔もまた“負けず嫌い”なのか、笑みを零した。その表情を見た一輝は、翔も自身と似たような人生を歩んでいることに少し驚きつつも、笑みを零した。
「これは、明日からの学校生活が楽しみだね。」
「違いない。」
そう言いつつも、翔の心の中では何かしら只事ではないことが起きるのだろう……その予想が悪い方向に当たったと知るのは……そう時間はかからなかった。
『実戦授業受講の際、魔力量Eランク以上の最低能力水準が必要。』
というありもしない規定が突如理事長から発令された。幸いにも翔の魔力量は常人よりも劣っていたものの、Eランクを確保していたので問題はない。翔はこんな規定を作った時点でその規定自体が『どういった意味合いを持つのか』を瞬時に悟った。
(……家の面子の為に規定まで作るだなんて、下衆の極みだろ。)
表立って言葉や表情には出さないが、明らかに『黒鉄家』絡みであると悟った。魔術という観点から見れば、常人よりも遥かに劣った能力しか持たない“
『授業を受けさせるのを拒否させる』のならば、『授業の内容全てを彼に教えてしまえばいい』と。どの道、形式上授業を受けることができない一輝は当然自主鍛錬に時間を割くだろう。
そもそも、魔力制御自体は魔力量の大小に関係ない技術の一つでもある。例えば武術において力の移動というコントロールは基本中の基本。達人級ともなれば『0-100%』の制御を簡単にこなす。これは魔術にも同様の事だ。例えば二人の同系統能力者が同じ魔力量を用いて相手にダメージを与えようとした場合、そこで差となってくるのは魔力制御の差。一輝自身元々の魔力量が少ないとはいえ、その限られた魔力を自在にやりくりできるようになれば戦い方の幅を広げることにもつながる。それは魔導騎士にとって基本的な能力である『身体能力強化』であっても同じことだ。とはいえ露骨にするのも後々面倒なので、朝練のトレーニングの中で魔力制御を同時に行うやり方を一輝に提案し、彼もそれに同意した。
「同じ25km走でも結構きついね、これは……」
「まぁ、急にやるのはあまりお勧めしないけどな。」
翔がそう言ったトレーニング法を知っているのは、二つ年上の姉がそういったトレーニングを積極的にこなしており、暇つぶしにでもと無理矢理付き合わされた経験からであった。今となってそれが生きてくることに翔自身は苦笑を浮かべたのだが。当初は20kmの予定だったのだが、一ヶ月経った頃には翔が本来こなしている25kmに一輝が合わせる形となった。とはいえ、一ヶ月後にはさらに増やす予定なのだが。
とりあえず触り程度の原作主人公登場。
時期としては原作(零)のちょっと後になります。この後色々オリ展開組み込むので、原作一巻に入るのはもうちょっと後の予定です。キャラ設定はその直前辺りにまとめます。