落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】   作:那珂之川

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UA40000突破&お気に入り500突破、感謝です。

同原作の他の人の作品と比べるとかなり鈍足気味な進行具合ですが、
これからも宜しくお願い致します。


#24 これからも苦労は続くよ、どこまでも

翔にとっては久々とも言える昔からの知り合い―――斗真と出会った翔とエリス。中庭で色々話し込んでいると、校舎の方―――渡り廊下から何やら騒がしい様相となっており、これには流石の三人も気付く。何が起こったのか……それを知らせるかのように翔たちのところに駆け出してくる少女が一人。その少女は翔や斗真が知る人物その人であった。

 

「い、いた!翔お兄ちゃん、た、大変だよ!はぁ、はぁ……」

「って、明茜ちゃんじゃないか。久しぶりと言いたいが、何か大事?」

「えと……って、エリス・ヴァーミリオン皇女殿下!?」

「同学年だから呼び捨てでいいですよ。それで、何かあったんですか?」

「えっと……」

 

知り合いや初対面の人もいるが、今はそんなことを考えている余裕はないようだ……明茜は急いで翔達のもとにきた事情を説明する。明茜は同じクラスの子―――黒鉄珠雫と一緒に教室を出て歩いていたところ、彼女は自分の兄である一輝を見つけ、なんとディープなキスを実行するという“常識外れ”のことをしでかしたそうだ。で、一輝のそばにはステラもいて、彼女と言い合いになってしまったとのことだ。こうなると、明茜一人では手に負えないと判断し、止められる可能性がある翔を探しに来て、偶然にも近くにいたので走って来たとのことだ。それを聞いた翔は生徒手帳を取出し、どこかに連絡を取る。

 

『緊急の連絡とは、どうかしたのか?』

「ステラと珠雫ちゃんがどうやら言い争いになっているようで。下手すると甚大な被害が出そうなんですよね。というわけで、『四人分』の許可が欲しいんですが」

『成程な……解った。近くにヴァーミリオン妹がいそうだからお前と彼女の許可は出しておこう。にしても、葛城も随分と甘いことだな』

「面倒事は嫌いなだけですよ、俺は」

 

その相手は理事長の黒乃。翔から事情を聞いた彼女は、ステラと珠雫による『最悪の顛末』を鑑みた上で翔とエリスの霊装使用許可をすぐに出すことに決め、それを翔に伝えた。一通りの手続きを簡潔に済ませて通話を切ると、翔は明茜の方を向いた。

 

「明茜、急いで案内してくれるか?で、エリス。申し訳ないけどステラの方を取り押さえてくれ」

「う、うん!」

「それは構いませんが、その辺りは大丈夫なのですか?確か校則では…」

「それは許可を取ったから安心してくれ。斗真はどうする?」

「ま、遠巻きに野次馬しておくさ」

 

ともあれ、明茜の案内の元、四人はその騒ぎの中心に近づいていく。その騒ぎの中心には、<落第騎士(ワーストワン)>黒鉄一輝、<紅蓮の皇女>ステラ・ヴァーミリオン、<深海の魔女(ローレライ)>黒鉄珠雫の三人。被害を考慮してか野次馬はほとんどいない状況。そして、

 

「安心してください、お兄様。今すぐその戒めを解き放って差し上げます。―――()()け、『宵時雨(よいしぐれ)』」

「―――傅きなさい、『妃竜の罪剣(レーヴァテイン)』」

「珠雫、それはダメだって!というか、何でステラまでやる気なの!?」

 

珠雫とステラは固有霊装を展開する。最早一輝の制止など聞いている様子は微塵にもない。互いに見えているのは眼前の“敵”のみ。それを全力でねじ伏せろと己の本能が告げるかのように……それを瞬時に悟ってしまったのか、一輝は押し黙る他なかった。本来止めなければいけない立場なのだが、流石にこの二人相手では霊装なしで挑むのは無謀。それをしてしまえば校則違反になるのは避けたい。というか、だ……学年主席と三席という成績優秀者がそれぐらい解っていなければいけないのだが……いや、理解はしているのだろう。だが、この時はそんなことをすっぱり忘れているのであろう。

 

「しかし、随分と慎ましい霊装ね。……アンタのその慎ましい胸と同じで」

「そちらこそ、品がないでかい胸の人は霊装も品がないんですね。どちらもただ無駄にでかいだけ」

「あらあら、平民の僻みは聞くに堪えないわね。でも、アタシは器が大きいからそれぐらいは許してあげられるわ」

 

「……デブ」

「……ブス」

 

「「殺すっっっっ!!」」

 

彼女たちの中で何かが切れた音―――互いの敵目がけて振り下ろされる刃。これはもう駄目だと一輝が悟ったのだが、次の瞬間、一輝が想定していた事態が起こることはなく、別の様相を呈していた。

 

――――――ガシャンッ!!

 

「えっ……」

「くっ……!?」

「な、なによ、一体………っ!?」

 

一輝が見た光景―――それは、互いの霊装が地面に落ちる音。互いに霊装の持ち手の甲を攻撃されたのか、そこを押さえている二人の首元に突き付けられている霊装。珠雫に突き付けられているのは蒼穹の刃の太刀、ステラに突き付けられているのは白銀の刃の大剣。一輝はその霊装を持つ人間の登場に驚きを隠せなかった。そう、片方は元ルームメイトでありもう片方は自分のルームメイトの身内だったからだ。

 

「翔にエリス!?」

「まったく、もう少し気張れよ一輝。元はお前の蒔いた種なんだからな」

「いや、うん、そうなんだけれど。というか、そんなことしたら……!」

「心配ない、理事長に許可は取った。……こんな物騒な再会はしたくなかったけどな、珠雫ちゃん……いや、珠雫」

「ええ……お久しぶりです、翔さん」

「まったく、こんなことはしちゃいけないって散々言われたじゃない、お姉ちゃん?」

「はい……仰る通りでございます」

 

翔はため息を吐き、事情を呑み込んだ上でここに来ていることも含んだ発言をしつつ、珠雫に向けた刃を緩めない。一方のエリスも自分の姉が危うく騒ぎを起こすことになりそうだっただけに、笑顔だけど口元が笑っておらず……これにはステラも冷や汗が流れるほどであり、いつもは中々使うことのない敬語を発するほどであった。

 

「『指定された場所以外での霊装の展開は基本的に禁止』という学則は双方共に解っているだろうに……まぁ、ともかく双方共に霊装の展開を解除しろ」

「……解りました」

「……了解したわ」

 

翔のいつもは中々見せることのない強い口調を前に、流石のこの二人も従う他なく霊装を解除する。それを見た翔はエリスに目配せをすると彼女もそれを理解したようで、二人も霊装を解除した。ルームメイトになって僅か数日だというのにこの息ぴったりな連携には一輝も苦笑を浮かべる他なかった。

 

「とりあえず理事長には事の顛末をおおまかに伝えている。一輝、お前も当事者側なんだからちゃんと責任持てよ?」

「う、うん。ありがとう、翔」

 

ともあれ、大きな被害を出すことなく一輝とステラと珠雫の三人を理事長室に送り届けた後、翔とエリス、明茜と斗真は破軍学園のカフェテリア“ぷらっと”で一息入れつつ、明茜の自己紹介となった。

 

「えと、初めましてエリスさん。葛城明茜と言います」

「呼び捨てでいいですよ。同級生ですから敬語もいりません。私はアカネと呼んでもいいですか?」

「あ、はい!じゃなくて、うん。よろしく、エリスちゃん」

「よろしくお願いします、アカネ。にしても、先程ちらっと見たイッキの妹さんより親しみやすいですね」

「まぁ、あれは家庭環境故にしょうがない部分があるからなぁ。詳しくは知っているけど言うつもりはない……折角のコーヒーが不味くなる」

「だろうなぁ……話すだけでも気が滅入るってものだ」

 

翔は当事者側故、斗真は御近所だったので黒鉄家辺りの事情も知っている。明茜もその被害を受けているのでそのことを掘り返すのは宜しくない……それを察してか、明茜もエリスもそれについて尋ねるようなことはしない。ふと、エリスが気になる質問を投げかけた。

 

「そういえばふと疑問だったのですが。カケル、あの時四人の許可と言っていましたが……」

「流石に聞こえてるよな。あれは俺と取り押さえ役、そのついででステラと珠雫の霊装使用許可も取り付けたのさ。流石に訓練場の天井ぶっ壊すことに続いてのトラブルはエリスとて避けたいだろ?」

「その天井を木っ端みじんに壊した側としては何も言えないのですが」

 

留学生が入学式前の模擬戦であれだけのトラブルを起こしておいて、入学式当日に停学騒ぎになるのは拙い……そう考えた翔の言葉にエリスは感謝しつつも、申し訳ない感情を抱きながら翔に話す。それを聞いた斗真が苦笑を浮かべつつ翔に話しかける。

 

「あの模擬戦絡みの噂か。というか、翔も良く生きてたな」

「俺も正直そう思う。『六道』まで使ってなかったら確実に俺が倒れてた。」

「お兄ちゃん、もうそこまで開放できるんだ。凄いなぁ~」

「そういう明茜だって、自力で『五光』まで開放できているだろうに」

「それは<瞬雷>のほうだけだよ。<迅雷>はまだ『二重』までだし」

 

そう話す明茜だが……翔にしても明茜にしても、わずか十代で生存本能(リミッター)解除まで踏み切れる時点で技を研ぎ澄ませているのは最早才能が為せるレベル。翔については身近に()()()()()()()()を使うことのできる人間の存在が大きかったのも事実だが。ふと、そこにエリスが言葉を投げかける。

 

「カケル、<迅雷>や『六道』とは、ひょっとして私との模擬戦で使ったあの力のことですか?」

「そ。『雷』の力を使うことを()()()()()総合武術―――葛城八葉流・裏、すなわち『八葉理心流』のこと。うちの母さんは使えないけど、父さんや二人の姉さん、俺に……明茜が使うことができる」

 

あやうく“彼”のことを口に出そうとしたが何とかこらえた。これには翔自身『まだ完全に吹っ切れていない』ということを自覚し、心の中で苦笑を零した。そもそも、翔としてはあの時のことをそう簡単にも忘れることなどできないのだから……

 

「トウマは驚かなかったようですが、どうしてです?」

「翔とは結構手合わせしてたからな。それに、表の八葉流は俺も習ってるわけ。その関係で裏もそこそこは知ってるのさ」

「斗真さん、よくお兄ちゃんに負けてましたからね」

「嫌な事を思い出させないでくれー、明茜ちゃん。こいつに異能使っても、制空権入った時点で俺の負けが決まるってチートだと思う…」

「動きがパターン化してるからな。それさえ押さえてしまえば対処は可能」

 

翔自身そうは言うものの、超一流の剣士さながらの第六感でなければ対処が難しい斗真の捌きをいとも容易く看破する……しかも異能抜きでそれを成し遂げるのは容易ではない。それほどまでに、翔は己に対して厳しい鍛練を課した上でそれをやりぬいたのだ。そんな会話をしているところに、近づいてくる三人の人影。一輝と、ステラと珠雫の三人だ。一輝はともかく、ステラと珠雫に至っては互いに嫌っているような状態であった。これには翔達四人も苦笑ものであったが。

 

「お、一輝。それで理事長からの説教は?」

「説教前提って……まぁ反省文(400字原稿用紙5枚びっちり)を書くことで落ち着いたよ。その辺りは翔にも迷惑掛けちゃったね。ごめん」

「ま、俺のルームメイトにも関わることだからな。それで面倒事になってこっちにも『とばっちり』が来たら困るから、手を打っただけだし」

「そうだとしても、また借りを作っちゃったわね。ありがと、カケル」

「そうですね。皇女殿下と同意見というのは癪ですが。感謝します、翔さん」

「ア、アンタって奴は……」

「まぁ、まぁ……」

 

流石に今後このようなことはないにしろ、一輝にとって付きまとってくるであろう問題に翔は頭を抱えたくなった。いや、自らに降りかかってくる問題ではないにせよ、これが後々何かしらの形で面倒事を引き起こすだろうということを率直に感じていた。ともあれ七人で色々と交流を深め……それぞれ用事があるということで解散した後、翔は校舎の屋上に足を運んでいた。そう、彼はメールによる呼び出しを受けたのだ。その相手は元ルームメイトの身内という存在。

 

「まさか、とは思っていたけどね。珠雫」

「ええ。明茜さんから貴方がお兄様のルームメイトであったことを聞いたときは驚きました。そして、黒鉄の家を出た絢菜さんの息子だということも……」

「ま、珠雫はあの場所にいたわけだし、知ったとしてもおかしくはないと思ってた。一応言っておくけど、明茜とは直接血が繋がっていない。母さんと血が繋がってるのは、綾華姉に摩琴姉、俺に……“健”の四人。今は三人になったけれど……いや、()()()()()()()()()と言うべきか。別に珠雫が悪いわけじゃないけど」

 

葛城絢菜―――旧姓黒鉄絢菜は現当主である黒鉄厳の実妹。無論黒鉄本家との関わりは完全に断っているのだが、血の繋がり自体は完全に断ちきれない代物。厳の子である王馬、一輝、珠雫の三人…そして絢菜の子である綾華(あやか)、摩琴、翔、そして健の四人には従兄弟・従姉妹という関係が成立する。だが、現状において一輝はその事実を知らない。いずれは知ることになるが……周りの生徒がそれを騒ぎ立てないのは『黒鉄』の力のせいである、とだけ付け加えておく。

 

「それもそうですが、葛城家にお父様がしたこと……」

()()()()()()()ってわけね。でも、そのことを一輝には伝えていない。というか、言えない」

「どうしてですか?」

「アイツはまだ心のどこかで『父親に認めてもらいたい』と思っているのだろう。幼い頃に『何もできない人間は何もするな』とか言われたんだろうとは思う。……人間、誰しもが誰かにそういう気持ちを抱いている。珠雫が知った事実はそれを壊すようなこと……それを一輝に言えば確実に心が折れる。ああ見えて結構繊細なメンタルだからな、一輝(アイツ)は」

 

一年間ずっとその背中を見て来たからこそ、解ってしまったこと。気丈に振る舞ってはいるが、実際には他の誰よりも傷ついている一輝。親族のみならず実の親から冷たい仕打ちを受けながらも耐え続けてきた。それに対して弱音の一つも吐かずに。いや、吐かないのではなく“吐きたくても吐けない”というべきなのだろう。今までそうやって来ただけに、今更誰かを頼るということに慣れていない……それを理解していたからこそ、翔は半ば押し付けるような形で一輝に対して世話を焼いてきた。

 

「……お兄様の事、よく見てらっしゃいますね。翔さんは。」

「そりゃあ、一年間周りの生徒から見放されながらも一輝のルームメイト続けた変わり者ですから、俺は。……珠雫、もし一輝に黒鉄本家が妨害に入ったら、俺も含めて葛城家は本気で動く。今更『敵討ち』という言葉は似つかわしくないし、する気もないけど……俺の親友を辱める気なら、『バカと言った奴がバカを見る』という行動も辞さない。身内のお前には申し訳ないけどな」

「……いえ、気にしないでください。そうなったとしても、身から出た錆の様なものですから」

「そっか。さて、そろそろ部屋に行かないとお前のルームメイトも首を長くして待ってると思うぞ」

「ですね……改めてよろしくお願いします」

「こちらこそ。明茜とはよき友でもあり競争相手になることを祈っているよ」

「言われるまでもなく、ですよ」

 

交わされる握手。彼の言い放った言葉には確かなる決意に満ちていた……耳にした珠雫もその言葉だけで葛城家の“本気”を感じ取れてしまうほどに。

 

表面上は黒鉄家程の権力などない……だが、葛城家は国内にとどまらず、海外にもその力を隠し持っている。それは内向きの黒鉄家に対し、内外を問わず“両向き”の方策を重視している。翔の海外旅行の際左之助が権限でゴリ押し出来たのもその関係が大きい。連盟に加盟している国だけではなく、非加盟国に対してもその影響力を有するほどに。それは黒鉄本家の娘でもある珠雫も理解している。

 

だが、その力を振るうことは今までになかった……いや、あったのだろうとは思うが、それでも振るうことをしなかった。翔の言葉は『振るう可能性がある』ということを示唆しているに他ならないということ。その『雷』がどのような影響を与えるのかは、恐らく思慮深い珠雫にでも『予想を遥かに超えた程度』位にしか予想できないほどであった。

 




一応アニメ2話分消化。次はようやく3話です。
原作とは異なる進行の仕方となりますのでご了承ください(今更感満載)

で、今冬のアニメである無彩限を見てから

摩琴 →水無瀬小糸
翔  →一条晴彦
エリス→川神舞
斗真 →諸橋翔介

というイメージで固定されてしまいました
瞳とか髪の色とか体格とか設定が異なる部分は多々ありますがね!(笑)

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