落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】   作:那珂之川

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#23 旧友との再会

破軍学園に限らず、騎士学校……いや、大抵の学校に共通して言えることだが、『話が長い』……入学生とてそれは例外ではない。だが、現理事長である黒乃の方針で、必要箇所以外の無駄を全て省くという行動に打って出た。その中で顕著だったのは理事長である黒乃の入学挨拶であった。

 

『まずは入学おめでとうと言っておく。だが、私はランクではなく君たちの努力を期待する。才能があろうとも努力しなければ意味がない……その言葉を胸に刻み、これからの学園生活を送ることを願う』

 

挨拶としては短いが、元世界ランカーにしてAランク伐刀者でもある彼女の言葉は重みが違う。それに、努力によって才能に匹敵するだけの力を手に入れた人間を黒乃は知っている。その言葉をどのように受け止めるかは個々の考えによる……それを承知の上で述べ、入学の挨拶を締めた。

 

 

所変わって一年一組の教室。一輝とステラが隣に座り、その前の席に翔とエリスが座った。座席はあらかじめ決められているのだが、昨年までは一輝と翔が隣同士だっただけに、いろいろ不思議な感覚である。というか、ルームメイトに続いてとなれば何かと縁があるのかもしれない。

 

「そういえばカケル、今日から授業でしょうか?」

「いや、昨年度の時は授業はなかったよ。今日は多分選抜戦に関わる連絡が担任の先生―――“ユリちゃん”が説明してくれると思う。」

「え?先生なのに『ちゃん』付けなんですか?」

「まぁ、そういう先生なんだよ。いい先生ではあるんだけどね。な、一輝?」

「うん、そうだね。」

「それだけでも疲れそうな印象の先生ね……あ、来たわ。」

 

翔と一輝の言葉にエリスは苦笑し、ステラもぼやき気味につぶやくと……その先生が姿を見せた。そしてスクリーンにクラッカーの絵と効果音が教室に鳴り響く。その上で若い女性教師が満面の笑みを浮かべている。

 

「新入生のみなさーん、入学おめでとー!この一年一組の担任、折木有里(おれき ゆうり)でーっす☆ 担任を受け持つのは初めての新米教師なの。『ユリちゃん』って呼んでね☆ 今日は授業はありませんが七星剣武祭代表選抜戦についての大事な連絡があります。」

 

「……ホントに疲れそうな先生ですね。」

「……それは否定しないけどな。」

 

折木先生の言葉を聞いてエリスがぼやくと、翔は冷や汗をかきつつその言葉を否定はしなかった。その間にも折木先生が説明をしている。それを聞きつつ、始業式の黒乃の言葉を思い返していた。

 

昨年度までのランク選抜を廃止、今年度は実戦力選抜―――選抜戦の成績上位『八名』が七星剣武祭代表に選ばれる。更には今年から今まで個人戦しかなかった七星剣武祭に『団体戦』が加わる。これは、選抜代表選手の中から三名が出場する形となり、他の五名と交代は可。突発的に加わった団体戦形式―――少なからずヴァーミリオン皇国の皇女二人の存在所以だろう。まぁ、現時点では何とも言えないが、どちらかが代表に出てくるだけでもそれは話題となる、ということであろう。

 

代表選抜戦は来週から開始される。日程に関しては生徒手帳にメールで配信されるので、逐一チェックするように……とのことだ。まぁ、選抜戦は全員強制参加ではないので、七星剣武祭に興味がない生徒も少なからずいる。ましてや、選抜戦では<幻想形態>ではなく殺傷制限を解除した<実像形態>でやる以上、それに対して尻込みする人も少なくはない。その説明を聞いていたステラは気になる質問を投げかけた。

 

「先生」

「ノン、ノン☆ ユリちゃんって呼んでくれないと返事してあげないぞ☆」

「ユ、ユリちゃん……」

「なあに、ステラちゃん?」

「試合ってどれぐらいあるんですか?」

「詳しいことは言えないけれど、軽く十試合以上はあるかな。そうだね、三日に一回ぐらいは試合があると思ってくれていいよ」

 

その説明を聞いた生徒の中からは不満の声が上がる。その反応自体は何も珍しいことではない。平穏に学園生活を送り、魔導騎士として過ごす。そう望んでこの学園に来ている人間も少なくはない。それとは逆に一輝は安堵していた。自身の伐刀絶技は一日一回限りの大技……三日に一回ならば十分すぎるぐらいの休息となる。それでもトレーニング自体は欠かさずに継続していくことに変わりないが。

 

「参加自体は強制じゃないから、『実行委員会』にメールで不参加の意思を送れば、自動的に抽選から弾かれます。……でもね、確かに大変だと思うけど、この平等に与えられたチャンス―――つまり、誰にでも『七星剣王』を目指せるチャンスがあるってこと。先生としては、ぜひ参加して頑張ってほしいの。それは、かけがえの無い経験になると思うから」

 

ランクではなく実力が試される―――すなわち、ランクを問わず代表に選ばれるチャンス。無論、この学園には昨年の七星剣武祭代表メンバーが残っている……彼等に勝てなくとも、その経験を糧として自らの力を見つめるきっかけとしてほしい、と。その説明を聞いているエリスだったが、難しい表情をしている翔に気づき、問いかける。

 

「あの、どうしました?何か引っかかることでも?」

「いや、ユリちゃんな、あの調子だとそろそろ………」

 

「じゃあ、みんな。これから一年全力全開で頑張ろう。えいえい、おブファーーーーーーーーーーーーーーッ!!(吐血)」

 

「やっぱりか。」

「い、いや、何でそんな反応なんですか!?」

「先生、ああいう体質なんだ。一日1リットルは吐血する」

「ええーーーーーー…………」

「一輝、先生を医務室に運んでくれ。後始末はこっちで引き受けるから。」

「うん、了解したよ」

 

折木先生の事情を知っているだけに慌てない翔と一輝に対し、ステラとエリスは変わった学園だなぁという揃った意見を思ったに違いないであろう。一輝とステラは折木先生を連れていくことになり、翔とエリスは速やかに折木先生の血を片付けることとなった。ホームルームに関しては先生からお開きという連絡をしてあるので、それで各自解散となった。

 

 

翔とエリスは揃って早めに教室を出た……いや、翔が急ぐかのように出ていく感じだったので、それにつられるようにエリスが教室を後にした。横に並んで歩きつつ、エリスがそのことについて尋ねた。

 

「カケル、何か気になることでも?」

「いや、こないだの模擬戦に来ていた生徒の中に同じクラスの子がいたからね。もしかしたら絡まれる可能性もあったけど、それは奇遇に終わった………」

「カケル?」

 

折木先生の説明中にも感じた興味津々な視線。それを躱すべく早めに出たと説明している最中に感じる視線……それに気づいた翔は黙り、エリスは首を傾げる。そして翔はその人物に対して言葉を発する。

 

「そこにいるのは()()()()んだぞ、斗真(とうま)」

「いや~、流石に翔相手じゃあ分が悪すぎるわな」

 

柱の影から姿を見せたのは黒い短髪なのだが、くせっ毛なのか半ば逆立つような印象の髪型をしている人物―――翔が斗真と呼んだ男性はバツが悪そうな表情で翔の方を見やる。これにはエリスも首をかしげている。

 

「えと、どちらさまです?」

「失礼しちまったな。俺の名は滝沢斗真(たきざわ とうま)。そこにいる翔とはダチの関係だよ。よろしくな、ヴァーミリオンさん」

「名前を呼び捨てで構いませんよ。多分お姉ちゃんと混同しちゃうので。よろしくお願いします、タキザワさん」

「俺も斗真で良いぜ。よろしく、エリス」

 

滝沢斗真―――滝沢優紀とは双子の関係(優紀が姉と言い張っている)であり、彼もれっきとした伐刀者の一人。中学生(シニア)では全国大会入賞を果たしたこともある人物なのだが、本人は『周りが出ろと五月蝿かったから、バックレてやった』という理由でそれ以降の公式戦には出ていない。評価ランクは“C”……実質的には“B”に入る。二人が挨拶を交わしたところで、三人は中庭のベンチに座って話をすることにした。

 

「それにしても、この学園に入って翔の噂を聞いたときは驚いたぜ。悪い噂ばかりで<道化の騎士(ザ・フール)>とかいう二つ名まで付いてるときた。あいつらはお前の本当の実力を知らないからこそ好き勝手言えてるんだろうけれど。それを知ったら、アイツらは土下座で済むレベルじゃないってことに気付くのかねぇ……」

「好き勝手やってたのは否定しないけどな。それに、おいそれと見せびらかせるものじゃないし……でも、一年間を棒に振った甲斐は十二分にあった」

「というか、初日なのに随分と詳しいんですね。もしかして、トウマの異能ですか?」

「はは、ご明察。属性で言えば『音』ってところだな」

 

斗真の異能は“音波操作”。音そのもの―――“音波”を自在に操る力を有する。なので、小声の噂も彼にとっては『音波を拾う』ことなので、あらゆる声を拾うこと自体容易いのだ。その気になれば相手の心臓音や脈拍の音まで聞き取れる精密さや壁越しの会話まで聞き取れる力を併せ持つ。まさに、情報収集に関してはうってつけの能力である。

 

「というか、エリスとお前が一緒にいるってことは、ひょっとして付き合ってるのか?」

「いんや、同じルームメイトってだけだからな」

「違いますよ。私はカケルの下僕じゃないですか」

「まだ蒸し返すつもりか、お前は!?それはもういいって言ったでしょうに!!」

 

斗真の問いかけに当たり障りなく答えた翔に対し、サラッと爆弾発言したエリスに翔が叫ぶように言いはなったが、既に遅し。この風景を見た斗真は自分の親友でもある翔を哀れむような目で見ていた。

 

「……昔から思ったけど、翔の女運って捻じ曲がってるよな」

「サラッと納得したようなこと言わないでくれるかなぁ!?俺自身もそう思ってたけどね!!」

「まぁ、あれだ。ガンバ☆」

「(イラッ)あ、そこに季節外れの蚊が!」

「グハアッ!!」

「殴った!?」

 

調子に乗った斗真に対し、容赦なく飛ぶ翔の握りこぶし。それは見事な腹パン……これにはエリスもビックリであったのだが、それに対する斗真の反応はというと、

 

「流石ダチ公。威力も数段上がってやがる……これでこそ、翔だよ」

「それで納得されるのがどうにも納得いかないんだが」

「あはは………」

 

すんでで『音』を操作して衝撃自体を和らげたのだろう。そんな芸当をあっさりと出来る斗真に翔は頭を抱えたくなり、エリスもここまでのやり取りに苦笑を零すことしかできなかった。いや、そういうやり取り自体異常だとしても、そこまでしてもお互いに笑いあえる信頼関係を築いていることにエリスはちょっと嫉妬するほどに。ふと、翔は気になる質問を投げかけた。

 

「そういや斗真。お前何で破軍に?まぁ、家はこっちにあるから納得はできるけど。優紀とは一緒じゃなかったのか?」

「ああ、それな。アイツ『翔に伝えて。絶対剣武祭代表にならないと承知しないからね!』とか言い放ってな……俺と一緒の進学先は嫌だと言って武曲学園に行ったのさ」

「アイツの事といい、どうして人の事を伝言板代わりにするんだか……それこそ破軍に来て真正面から来いと言いたいけど」

「あれでプライドは人一倍高いからな。中学生(シニア)リーグ()()()()()()()としては、負け越している相手に一矢報いたいんだろうよ。」

「カケルにトウマ。その人はもしかして<絶対の女帝(インビジブル)>のことでしょうか?」

「ああ、正解」

 

斗真の双子の姉である滝沢優紀(たきざわ ゆうき)―――能力抜きの戦いでは翔に惨敗していたものの、三年連続中学生(シニア)リーグ戦において無敗、そして三年間世界王者の座を守り続けた<絶対の女帝>。ランクは中一の時点でB、現在はAランクにその名を連ねる。

 

とはいっても彼女曰く『<浪速の星>と<風の剣帝>がいないリーグ戦で王者になっても面白くない』とのことだ。やはり彼女としてはその二人を打ち負かして本当の意味での王者となりたいその意欲に感心したいところである。更に言えば、この学園にいる同じランクのステラとエリスという存在も彼女の負けず嫌いに拍車をかけたのだろう。

 

「そう言っている斗真は何も言われなかったのか?優紀(アイツ)のことだから、お前にも発破掛けてると思うけど」

「言われたよ。一応選抜戦は出るけど、相手は強いからなぁ。万が一代表になって優紀と当たったら洒落にならんし……」

「勝っても負けても、ということでしょうか?」

「まぁ、正解だよエリス。あの姉相手は本当にかったるい……」

 

万が一対戦することになって、勝ったとしても面倒……負けたとしても面倒……どちらにせよ面倒くさい。斗真の言葉には彼女の事をよく知っている翔のみならず、エリスも苦笑を浮かべてしまうほどにその苦難がよく伝わるぐらいに感情がこもっていたのだから。

 




またオリキャラ追加でございます。
とはいっても、かがみんポジションみたいな立ち位置ではありますが。

次回、妹回。

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