落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】   作:那珂之川

22 / 61
えっちなタイトルはいけないと思った結果がコレだよ…


#20 平穏は休暇を取ってベガスに行った

「疲れた……」

 

四人でのちょっとした歓迎会も兼ねた夕食は無事終わり、翔は湯船に浸かっていた。一輝とルームメイトの時は特に気にする必要もなかったので下半身を隠すタオルは必要なかったのだが、今は準備してある。今年度のルームメイトが異性ということもあるのだが、その前のやり取りで“やりかねない”という予測が頭を過ぎる。いや、近い将来絶対にやりかねないと確信できるほどだ。別に嬉しくない訳じゃないが、寿命が縮まるようなハプニング連チャンはやめていただきたいものである。……願ってもその通りにならない可能性が高いとは、現実は非情である。

 

尚、夕食の後片付けに関してはエリスに任せた。というか、彼女に()()()()()()。当初は自分も手伝うと申し出たのだが、

 

『いや、でもなぁ……』

『私はカケルの下僕なんです!ですので、こればっかりはご主人様のカケルにやらせるわけにはいきません!!』

『……諦めなさい。エリスは、一度言い出したら梃子でも曲げられないから。今回に関してはアタシも責任があるわね……ごめんなさい、カケル。』

『あはは……』

 

実の双子の姉であるステラにこうまで言わせるほどに、エリスは自分自身の言葉に対して厳しい。責任感が強いと言えるのかもしれないが、別の見方からすれば“頑固”とも言えるであろう。ただ、そこまで意地を通せる強さは、伐刀者にとって―――いや、あらゆる分野において強くなろうとする原動力の一つだ。あの絶大とも言える力を精密に制御できる人間は、翔の記憶の限りでも数えるほどしかいない。

 

「現時点でもあそこまで研ぎ澄ませているのは末恐ろしく思うよ。……負けてやるつもりはないけど。」

 

だが、翔とて男としてのプライドと意地がある。男女の差別をするつもりはさらさらないが、女性に守られてしまうというのも素直に受け入れられないところだけでも、翔自らも“頑固者”だろうと思い、苦笑を零す。それは置いといて、翔は浴室の天井を見ながら今日の出来事を思い返す。

 

ステラとエリス(+黒乃)の送迎の運転手役、エリスやステラらとの初対面(過去に会ったことはその時点で解らなかった)、一輝の発言でステラが“おちた”、異性同士のルームメイト絡みから端を発した模擬戦、その後の“下僕”絡みの一件。………ギャルゲー並のイベントの濃さに翔はため息を吐いた。エリスは無論だが、ステラも責任感が強い。下僕絡みのことは双方共に頭の片隅に置いて行動することは想像に難くないので、隣室となった親友に同情したくなった。すると、その時浴室の扉が開いて姿を見せた人物―――エリス・ヴァーミリオンの姿に

 

「………」

「え、えと、カケル?」

「いや、何しに……風呂入りに来たってことは解るけど、未婚の皇女がこんなことして良いのん?」

 

翔は一瞬硬直したが、そのまま淡々とした口調でエリスに問いかけた。そのエリスの姿はというと、前をタオルで隠しているだけなので、制服姿でもよくわかったその立派なスタイルが更にはっきりと晒されている。女性らしさが際立つすべすべとしたきれいな肌でありながらも、騎士としてしっかりと引き締まった筋肉を秘めている。

 

単調な口調になっているのは、単純明快。あまりにも魅力的過ぎる女性の一歩間違えれば全裸に近い姿を目の当たりにしている状況だ。彼とて十六歳のごく普通の少年。気にならない訳がない……寧ろ気にするのは当たり前の本能だ。それに加えて元々こうなる可能性を考えていただけに、それを目の当たりにした瞬間、驚きを通り越した境地に立たされることとなった。何というか“悟り”とはいえないものの、無駄に騒いでも労力の無駄遣い以外の何ものでもないと判断した結果の対応であった。そして翔の問いかけに対するエリスの答えは

 

「そ、その、お詫びも兼ねて、一緒に入ってもいいですか?」

「………」

 

答えどころか問いかけが返ってきたことに翔も絶句した。そもそも何に対するお詫びなのかよく解っていないし、このような行動を堂々とできる彼女の胆力に正直言って驚きというかある意味尊敬の念を覚える。流石に断って心証を悪くするわけにもいかない。だが、元々一人がゆったり入れるぐらいのスペースしかない。その浴槽に二人がゆったりと浸かる方法となると……

 

「す、すみません、カケル。」

「いや、別にいいけど……こういうことは心臓に悪いから、できれば控えてくれるとうれしいかな。(落ち着け、落ち着け……СOOLになるんだ、葛城翔!)」

 

翔の足の間に挟まるような形でエリスが湯船に浸かる。ステラよりも長い紅蓮の髪は結い上げられており、うなじがはっきりと見えるほど。まるで大理石の彫刻品をそのまま持ってきたかのように綺麗な背中。足の側面に時折彼女のヒップが当たり、その心地よさに興奮しないよう翔は理性を強く保った。その理性自体薄氷になりかけてはいるのだが……それでも必死とも言える状況だった。

 

翔は、混浴の経験がないわけではない。ブラコンの姉に連行される形で浴室に連れ込まれることがあった。妹とのんびり混浴の露天風呂に入ったこともある。だが、そのいずれもは“家族”とのものだ。今回は“気になっている異性”との入浴……これが翔の動揺に拍車をかけている。ここから体を洗うなどと言うものならば、真っ先に脱出する覚悟をするほどに。

 

………まぁ、何とか耐えきることには成功した。体を洗うことに関しては『先に洗ったから大丈夫』ということで何とか矛を納めた。とはいえ、先程の光景と入浴の際の感触のせいで興奮が冷め止まない状態なのには変わりない。油断をすれば“欲望の化身”が目を覚ますので深呼吸をする。翔は先に上がり、エリスはもう少し風呂に浸かるということで、お開きにすることには成功した……とは思う。

 

「七星剣武祭どころか、選抜戦開始前に死なないよな?俺……」

 

男としては冥利に尽きることだろうが、こんなことが毎日続かれても困るため……風呂をあがってネグリジェ姿のエリスにどぎまぎしつつも、翔は最低限のルールを“命令”と言う形でエリスに伝えた。これにはエリスも納得してくれたようで、一安心だった。なお、ルールというのは食事当番とか生活する上での役割分担的なものを平等になるよう負担すること。料理に関しては先の事もあるので基本はエリスが担当となった。一番ネックとなる入浴に関しては、別々に入るということで何とか決着をつけた。その代りに彼女が提案したのは、

 

「一緒に寝るならいいですよね。」

「何を言っているんですか、エリスさんや。」

 

時折一緒に寝るということであった。翔は速攻却下したかったのだが、そうなると一緒に入浴することを交換条件に引き出す可能性があったので泣く泣く飲むことにした。どちらにせよ、未婚の皇女が命の恩人とはいえその相手にすることではない。その辺りはいいのかという質問をすると、エリスは彼女の姉にしてステラの姉―――“第一皇女”からのメールを翔に見せた。その内容は、

 

『最近の男子はシマウマなんだから、こっちから積極的にいかないと駄目だよ☆あ、お母様にはバッチリ報告したら『孫早く見れないかな』だって。』

 

既に外堀が埋められつつある状態だった。なお、エリス曰く父親―――ヴァーミリオン皇帝陛下に対しては報告していないらしい。理由は『以前そのことを話したら、国軍挙げてでも翔を捕まえようとしたから』だそうだ。これにはドン引きの翔だったのは言うまでもない。すると、翔の生徒手帳の“電話の着信音”が鳴り、翔はエリスに断りつつその電話の通話ボタンを押すと、聞こえてきた声は翔にとって一番聞き覚えのある声でもあった。

 

『ハロハロー、いとしい息子♪』

「久しぶり母さん。正月は富士山に登ってたんだっけ?」

『そうそう。あの人も興奮しちゃって、久々にハッスル三昧しちゃった。』

「惚気を聞かせたいだけなら切るよ?」

 

翔が会話している相手、その会話の内容から察するに相手は翔の母親であるとエリスは察する。一方、翔は聞かされる惚気にジト目をしつつ辛辣な言葉を言い放つ。これには通話相手―――翔の母親も慌てて取り繕った。

 

『あ~、ごめんごめん。にしても、面白いもの見せてもらっちゃったよ♪』

「面白いもの?見せてもらった?」

『ヴァーミリオン皇国第三皇女、エリス・ヴァーミリオンさん。その子と同棲するんでしょ?』

「ルームメイトだよ。というか、何で知ってる……まさか、理事長経由?」

『それもあるけど、窓を見れば解るんじゃないかな?』

「窓……?」

 

彼女の言葉に翔とエリスは揃って窓の方を見やると、窓の外のベランダに立っている一人の少女。満面の笑みを浮かべて手を振っていて、ちゃんと携帯電話が握られていた。しかも、時間はもう夜。軽いホラーもいいところの様相だ。これにはエリスが悲鳴を上げて翔を盾にする様に窓の外を見やる。

 

「きゃああああああ!?お、おお、お化け!?」

「……大丈夫、そこの人は生きてるから。というか、鍵かけてても普通に入ってこれるだろ?」

『………ふふっ』

 

しがみついているエリスの柔らかい感触に気を奪われそうになるが、我慢しつつ翔は真面目な口調でそう話すと……少女は一瞬消えたかと思いきや、部屋の中に微風が吹いて少女が“姿を見せた”。その様相に翔は電話を切り、今日何度目か解らないため息を吐いた。

 

「え、えと、この子は……」

「エリス、言っておくけどこの人『俺より年上』だからな。」

「えっ!?」

「ふふ、初めましてエリスちゃん。葛城絢菜(かつらぎ あやな)と言います。そこにいる翔の母親ですよ♪」

「はいっ!?妹じゃないんですか!?」

 

驚いたとしても不思議ではないし、無理もない。だが、これは紛れもない現実である。絢菜は驚きを隠せないエリスに話があると言って、翔と距離を取ったエリスと絢菜。無論、聞こえないように小声で話す。

 

「ねぇ、聞かせてほしいんだけれど……翔のこと好きなの?」

「えっ、えと、その……実は、初恋なんです。」

「あら、初々しいね。実は、エリスちゃんのお母様と知り合いなの。まさか、うちの翔とねぇ……」

「その……今はまだはっきりとしてませんが、その時になったら挨拶に伺います。」

「そこまでぞっこんなんだ……摩琴に認めてもらうのは大変だけど、私は応援してるからね、エリスちゃん。」

「は、はい!」

 

女性同士の会話を聞くのも申し訳ないと思ったので、翔はあらかじめ沸かしておいたお湯をカップに注ぎ、コーヒーの粉を溶かす。更には牛乳を別のカップに注いで電子レンジで温める。翔自身は豆から挽いたものを買ってくるタイプなのだが、母親に関してはインスタントのブラックしか飲まないのだ。これは本人曰く『贅沢すると“身内”を思い出すから嫌だ』との理由らしい。会話も終わったのでエリスにホットミルク、絢菜にブラックのインスタントコーヒーの入ったカップを手渡す。

 

「ありがとうございます、カケル。」

「お、ありがとね翔。……うん、やっぱこの味が落ち着く。」

「どういたしまして。というか、母さんは何でこんな時間にいるんだ?身内とはいえ校内への立ち入りは制限されるはずじゃ……まさか、母さん。」

 

そう、翔の身内とはいえこの時間に来るのは“規則違反”のはずだ。とはいえこの人物に限って捕まることなど()()()()()が。ましてや今はまだ春休みであり、態々その愚を犯す意味などない。となれば……“残された可能性”は一つ。そして絢菜の言い放った言葉は、“残された可能性”そのものであった。

 

「そのまさか、だよ。今年度から、破軍学園の教員に採用されました♪」

「「はいっ!?」」

 

葛城 絢菜(かつらぎ あやな)―――翔の母親にして、嫁ぐ前……“旧姓”の家では“一族の天邪鬼(あまのじゃく)”とも呼ばれ、<世界時計(ワールドクロック)>新宮寺黒乃とは旧知の仲。そして彼女自身優秀なAランクの魔導騎士であり、その能力と戦闘スタイルから名付けられた二つ名は<神風の魔術師(アウトレイジストーム)>と謳われる。その彼女が教員となることに翔とエリスは揃って驚きを口にしたのであった。

 




やっとアニメ一話目分終了。なげぇよ!!(自業自得)
まぁ、オリジナル要素入ってるのでしゃーないとは思ってますw

あれ以上のパニック起きたら、主人公がもたない(確信)

ステラさんより頑固なオリヒロイン。そしてキーパーソンとも言える人物の登場。主人公の明日は何処に(マテ


言い忘れていましたが、新しい登場人物が出るごとにEX00の部分も更新しますのでご了承ください。

追記)『COOL』ではなく『KOOL』としているところに関しては、誤字ではなくワザとそうしておりますのでご了承ください(以前、同じ質問をされたことがあったので、こちらにも書いておきます)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。