落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】   作:那珂之川

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完全勢い任せの投稿です。


#00 プロローグ

現代のこの世界、その中には一つの職業が存在する。

 

『魔導騎士』―――“異能”と呼ばれる特殊能力を用い、あらゆる事件解決を担うれっきとした職業だ。昔でいう所の魔法使いや魔女と言う類の人間。強大な力は単独でも軍隊や国家すらも脅かす異質な存在。己の魂を(ぶき)に変えて戦う現代の魔法使い―――人はそれを『伐刀者(ブレイザー)』と呼ぶ。この世界において警察も軍隊も彼らの存在なくしては成り立たない。

 

まぁ、超常的な力の存在と言うのは……良いことに使おうとする人間もいれば、その逆を考える人間がいる。それに対する抑止力および拘束力を担うのが『魔導騎士』である。実際のところ、現代の世界で魔女狩りまがいのことなんぞやれば他の伐刀者の怒りを買うことに他ならず、国家の存亡すら危うくなる。それならば身分を保証すると同時に責任を負わせる『魔導騎士』という形で目の届く範囲に置く……ということなのだろう。

 

父曰く『下手に油を注ぐよりかは、マシな方法』と皮肉たっぷりに言っていた。立場が立場なだけに愚痴を吐きたいという気持ちも分からなくもないが……まぁ、身内の愚痴は置いておこう、と思いつつ一人の少年はとある場所の門の前に立っていた。その門の片方に立派なプレートが設置されており、その場所を指示していた。

 

“破軍学園”

 

『魔導騎士』というものは、国際機関の認可を受けた騎士学校を卒業することで『免許』と『魔導騎士』の認可を受けることができる。日本においては七つの騎士学校が存在する。無論、誰しもが簡単になれる職業ではない。そこに立ちはだかってくるのは“才能”という言葉。門の前に立つ少年とてそれは重々承知していることだ。だが、彼に迷いなど微塵も無い。今考えるのは無事に入学試験に合格することだけであった。

 

「次の人、どうぞ」

「失礼します。」

 

試験官に呼ばれ、少年はその試験官の前に立つ。だが、試験官の表情があまりいいものだとはないことと驚きが混じっていることを少年にはすぐに察した。その理由も大体は察する。

 

人の身でありながら人という枠を超えし力を持つ伐刀者の存在は貴重。ましてや魔導騎士という存在を一人でも多く輩出したとなれば国家としてもそれは大きな誇り。故に基本的には騎士学校に試験はない……だが、この破軍学園は違う。全寮制・衣食住の保障・学費全額免除という特典故、それに見合った能力を持つ伐刀者を選別するために入学試験を課している。

 

この少年もそれを知っている。自分の魔力量自体“常人よりも劣っている”ということを。ここに来ている入学志望者の大半よりも『魔術』に関しては低い評価で見られても何らおかしくはない。それでも、彼には不合格というビジョンなど見えていないということを。そして試験官からアピールしてほしいとの言葉に、少年は袋を試験官に見せるように取り出した。これには不思議がる試験官であったが、少年はこう言った。

 

『これを私の上目がけて投げてください。何でしたら中身を確認してもらっても構いません。』

 

試験官、ひいては騎士学校の教員は皆Dランク以上。そして、いくら袋の中身が重かろうとも、伐刀者にとって基本中の基本である『身体能力強化』であれば問題ない。試験官が中身を確認すると、それは石が大量に詰めてあった。そのどれもが明らかに比重の高いものを選りすぐりで。正気なのかという試験官をよそに、少年は更にこう言い放った。

 

『高さなどに関係なく、その石が全て落ちる前に全て破壊させます。』

 

よく見ると、袋がある程度上がった段階で破けるように細工がされていた。本来ならば止めるべきなのだろうが、少年はそれほどの覚悟と自信を持って言い切るような口調。常人よりも劣った魔力量しか持たない彼が、だ。こうなれば彼が万が一怪我したとしても、彼が言いだしたことなのだから……そう割り切る様に試験官は彼の頭上高くに袋を放り投げ、彼の様子を見守る。

 

袋が破け、零れ落ちるように石が降り……それは重力と言う加速を以て少年に降りかかる。だが、この程度の事で少年はまったく動じていなかった。そして、彼は自らの魂を具現した剣の名を呟く。

 

「天を衝け、叢雲(ムラクモ)

 

そう呟いたときには彼の頭上に迫る石……だが、彼がその太刀を抜いた瞬間、眩い光が彼の周囲を包み、試験官もこれには思わず手をかざしてその眩さの先にある彼の様子を見続ける。一瞬ではあったが、まるで長い時間光り輝いていたかのような錯覚を感じつつも試験官が見た光景は、驚愕そのものであった。

 

そこにいたのは、傷など一つとしてない蒼穹の太刀を持った少年。そして、降ってきていたはずの石は……すべて粉砕されて、目に見えるレベルではなくなっていた。だが、驚くのはそこではない。固有霊装(デバイス)と先程の“技”と思しき現象、そしてその余波で彼の身体を伝う『雷』の力。そのどれもから『魔力』を感じないのだ。

 

単純に今の試験を魔力云々で語らずに評価をすれば、紛れもなく“Aランク”。新入生の殆どはDかEで、BとCはいれば幸運、新入生の時点でAに至っては破軍学園史上一人もいない。彼の魔力評価をすれば“Eランク”であるのは疑いようもない。だが、彼のやってのけたことを見た試験官にしてみれば、“在り得ない”光景を見たような表情そのものであった。ふとそこで試験官は履歴書を見て、改めて彼の素性を知ることとなる。

 

 

―――葛城家。黒鉄家と双璧の存在であり、古くは平安時代から歴史にその名を刻むと言われる“異能”の一家。その能力のみならず様々な分野において活躍してきたその一族の特徴は『雷』の力。そして、試験官の目の前に立つ少年もまた葛城の名と力を継ぐ者の一人。

 

 

『魔力』という概念に縛られない“規格外の雷(オーバー・ザ・ライトニング)”を持つ少年。

 

 

彼の名は 葛城 翔 (かつらぎ かける)

 

 

後に破軍学園最強の一角を担い、すべての騎士から注目されることとなる人物である。

 




少し設定に触れましたが、原作の設定に関してはその都度触れていく予定です。

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