落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】   作:那珂之川

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ちょっとまったり?な巻。


#15 戦い終わって一息

模擬戦も終わり、ヴァーミリオン姉妹は<幻想形態>によるノックアウトで極度の疲労を負ったため、念のために医務室へと運ばれた。天井が木端微塵となった第四訓練場は暫く使用禁止となり、明日から修理が行われるらしい。そのあたりは理事長である黒乃の人脈所以なのだろう。そして勝者である一輝と翔の二人はと言うと……中庭のベンチにいた。

 

「はぁ、流石に疲れたよ」

「右に同じく。流石に今回ばかりはクタクタだよ」

「そういえば、摩琴さんから聞いたよ。<迅雷焦破>のこと」

「あ~、あれな……ま、何時かはばれるもんだし、仕方ないか」

 

一輝からおおよその事を聞いた翔は、その性質を話し始める。八葉理心流動之極<迅雷焦破>―――高密度の『雷』を自身と霊装に圧縮することで超神速機動力と爆発的攻撃力を両立させた“攻めの極致”。全八の式からなり、曽祖父である左之助は陸の式『六道』まで可能としたが、漆の式以上はできなかったという。何せ、肆の式『四天』以降は“生存本能(リミッター)”を自力で解除しなければいけないほどに消費が激しい。それなしでは三分と持たないほどに。なお、リミッター解除なしで『六道』を使用した場合、どれだけ魔力量があっても……使用限界時間は最大でも30秒という有り様だ。

 

この学園に入学するまでは、翔自身『六道』まで教わったものの使用が安定するのは参の式『三線』までであった。何せ、自身のリミッターを解除するというだけでも困難な事なのだ。行き詰っていた翔にとっての救いの手は、黒鉄一輝という存在であった。

全ての力を一分で使い尽くす<一刀修羅>を持つ一輝。その技術の根っこを一輝から学ぶことと引き換えに、翔は魔導制御の技術を一輝に教えたのだ。いわば『WIN-WIN』の取引。

 

「僕も最初は驚いたけどね。<一刀修羅>を学びたいって人なんているわけないと思ってたから」

「普通に考えたら、()()()()()()()()()()()なんて考え、思いついても実行する人自体皆無に等しい……そういった意味では、一輝に感謝してる」

「はは、僕も翔からいろいろ学んだから、おあいこだよ。そういえば、さっきの戦いなんだけど……」

 

ああ、それか……とでも言いたげに、翔は一輝に対して説明する。<万象焼き尽くす鳳凰の翼>における高密度の炎の刃が展開された時点で、『それらを一斉圧縮・起爆させれば強力な広範囲攻撃になる』と踏んだ翔は<迅雷焦破>の状態で攻撃を仕掛け、ある程度まで数を減らす。万が一そんなことが出来なければ御の字ぐらいには思っていた。

 

「で、現時点で発動できる領域―――陸の式『六道』まで一気に開放した。でないと、爆発を凌ぎきれるとは到底思えなかったからな」

 

だが、大方の予測通りになった瞬間、翔はついこの前完成させた領域―――<迅雷焦破>の伍の式『五光』をすっ飛ばして、陸の式『六道』を発動、更には霊装の最大リーチ分だけ自身の周囲に制空権を構築するように秘剣之肆<白露>を超神速で振るい、爆発の余波を弾き飛ばした。そして―――

 

「秘剣之壱<雷鳥>でトドメ、というわけ。その原理はまだ種明かしできないけど。何せ、<雷鳥>に関してはこの学園の序列上位対策として編み出した技だからな」

「見てた印象ではエリスさんですら反応できなかったみたいだからね……でも、いつかは種明かしするんでしょ?」

「まぁな。ちなみに言っとくが、お前がこれを再現するのはかなり厳しいからな」

「だろうね。そんな気はしてたよ」

 

何せこの技、膨大な力の出力制御と精密な魔力制御を同時にこなさなければならない。その辺は言わずとも、一輝は薄々勘付いているようであった。極度の疲労を負ったヴァーミリオン姉妹が目を覚ますのは早くても夕方ぐらいであろう。なお、今の時間帯は昼過ぎ。互いにリミッターを外す技を使ったので、その反動と言う形で軽度の筋肉痛がある程度だが、しっかり体を休めれば問題はないであろう。それよりも問題は、

 

「そういえば、冷蔵庫の中、ほとんどないんだよね」

「かくいうこっちもだけど。ただ、それに関しては()()()()よ」

「???」

 

自分たちが食べる量は各々解ってはいるが、それぞれルームメイトが今日から加わるのでその分も考えなければならない。ただ、それに関しては問題ないと言い放った翔に対し一輝は首を傾げた。すると、翔の生徒手帳にメールの着信を知らせる音が鳴り、翔はポケットから生徒手帳―――手のひらサイズの液晶端末を取り出して操作する。

 

破軍学園の生徒手帳は、普通の学生が持つ身分証明・学則の確認のみならず、財布・携帯電話・インターネット端末の機能も取り入れられており、『スマートフォンに生徒手帳の機能を持たせた』という言い方の方が手っ取り早く理解できるだろう。翔は送られてきたメールの内容をすばやく確認すると、その内容に関して難しい表情を浮かべつつも一輝に話しかけた。

 

「一輝、摩琴姉がそのあたりをやってくれたみたいだから、ついてきてくれるか?とはいっても寮の前だけど」

「何か申し訳なく思うよ……翔?何かあったの?」

「ああ、いや、気にしないでくれ。いつもの無駄に考えてしまう癖だよ」

 

翔の言葉にどこかしら疑問を感じつつも、一輝は翔の後を追う様な形で二人は寮に向かって歩き出した。

 

 

「まったく、留学絡みのみならずこっちまで書類が増えるとはな……ん?どうぞ。」

 

一方その頃、理事長室で黒乃は先程の模擬戦の後始末―――とりわけ天井全破損した第四訓練場絡みで発生した書類の確認に追われていた。すると、扉をノックする音が聞こえたので黒乃が入室を促す。その声を確認した扉の向こうの人物は失礼します、と断りつつ扉を開けて中に入ると、扉を閉める。

 

「おや……これはまた()()()()()だな。」

 

黒乃はその入ってきた人物の姿を見て目を丸くした。何せ、黒乃にしてみればその人物―――誰の眼から見ても身長は150cmにも満たないが、その分の身長を圧縮したかのようなスタイルをした美少女の容姿を持つ人物は、彼女の『親友』と言っても差し支えない存在に他ならない。

 

「お久しぶり~黒ちゃん。ちゃんと頑張ってるようで何よりだよ」

「いい加減な寧音とは違うからな。お前も流石に“子ども達”の様子が気になって見に来たのか?」

「それもあるけれど、そっちはついでだよ。本題はこっち」

 

やりとりの内容が彼女とはおおよそ似つかわしくないが、黒乃と話す彼女の左薬指にはシンプルなデザインの指輪が填められている。そう、彼女もれっきとした既婚者なのだ。そんな彼女は一つの封筒を取り出すと黒乃に差出し、黒乃は素直にそれを受け取って中身を確認する。時間を取らせるわけにもいかないため、素早く目を通した黒乃は……一つため息を吐いた。それが意味するところは、また一つ懸案事項が増えたということだ。黒乃は煙草に火をつけて一服すると、彼女に問いかけた。

 

「まぁ、お前の様な『実績を持つ魔導騎士』が破軍(ウチ)に入ってくれるのは心強いし、葛城の件の手前“頭が上がらない”のも事実なんだが……アイツらにこのことは?」

「え?言う訳ないじゃない。だって……その方が驚いてくれるじゃない♪」

「そんなところだろうとは思った。ったく、ヴァーミリオン姉妹の件で忙しいところに加えて、また一個増えるってわけか。何にせよ丁度いい。お前にも手伝ってもらうぞ、<神風の魔術師(アウトレイジストーム)>?」

「それぐらいはお安い御用だよ、<世界時計(ワールドクロック)>」

 

<神風の魔術師>―――破軍学園卒業生の一人で、学生騎士時代は<世界時計>や<夜叉姫>と文字通り“鬼気迫る”戦いを繰り広げた実力者。そして、彼女はとある人物と関わりがあるのだが、それは後に解ることとなる。

 

 

所変わって学生寮の翔の部屋―――いや、今日からは翔とエリスの部屋となる406号室。今朝支度していった朝食は綺麗に片づけられていて、おそらくはルームメイトになるであろう彼女が片付けたのだろう。一通りの荷物を片付け終わった翔の表情は疲れ切っていた。というのも、冷蔵庫の中身絡みで姉に頼んだら、とんでもない量の食材を届けられる羽目となったのだ。しかも、しれっと冷蔵庫自体も最新式の家庭用大型冷蔵庫に変わっている始末。先程一輝とステラの部屋である405号室の冷蔵庫も406号室に置かれたのと同型のものになっており、手際の早さに頭を抱えたくなったが、これも彼女らの特性を考えれば“必要投資”とも言える。つまり『そういうこと』なのだと。

 

「一輝は体を休めるとか言ってたし、俺も夕方ぐらいまで仮眠でもしときますか。っと、そうだ。」

 

流石に<迅雷焦破>の反動の筋肉痛は翔でも堪えるほど……ふと、翔は自分の机の棚から一冊のアルバム―――先日一輝に見せていた、翔が世界旅行という名の『常識は投げ捨てるもの鍛練旅行』の記録が収められたもの……今にして思うと、我ながらよく生きて日本に帰ってこれたと思うほどだ。そんなことを思いつつ、翔はあるページ ―――ヴァーミリオン皇国の記録のページを開いた。

 

そこにあるのは数枚程度の写真。流石に強行軍的なものだったので、一つの国に滞在していた時間は約十数時間前後。なので、その大半は風景画なのだが……そのアルバムに収められた数少ない『自分や同行した曾祖父以外の人物が写った写真』に視線を移す。季節は冬なので服装は完全防寒装備、目尻に涙が浮かんでいるが表情は笑顔を浮かべている。そして……まるで燃え盛るような炎を連想させるような紅の瞳と、帽子に隠れているものの、はみ出す程度に見える紅蓮の髪を持つ少女。

 

「懐かしいな……この子が成長したら、今頃は丁度ステラさんやエリスさんぐらいの歳になってるだろうな。元気にしてるといいんだけれど」

 

そう言葉を零しつつ、翔は首にかけていたチェーン―――インナーの内側にしまっていた括り付けられていたものを手に取る。それは写真に写った少女が『お礼』ということで翔に渡したものであった。見るからに立派な意匠のデザインに加え、光り輝く紅玉(ルビー)がその指輪の完成度を際立たせている。

 

「急いでいたから、名前も聞けずじまいだったんだよな……『あの言葉』には流石に内心吃驚したし、左之助さんにはからかわれるし」

 

何せ、強行軍的なノリだったのものだから、まともな国境越えなんてそれこそ両手で数えるぐらい()()()()。パスポートはもっていたが、そこに本来押されるはずの国のものなんてないのがザラであった。……本来ならば犯罪なのだが、左之助が魔導騎士の権限でゴリ押ししたのだ。それを傍から見ていた側からすればドン引きものだが。

 

それはともかく、ヴァーミリオン皇国も滞在時間は約半日程度だった。少女と出会ったのも、ある意味成り行きから来るものであった。そこに貼られている少女の写真もその滞在中に撮ったもの。……そして、別れ際の彼女の言葉と、彼女を見つけて駆けてきた彼女の姉であろう少女の言葉。

 

『また会えたら、その時は――――――』

『妹を助けてくれてありがとうございます!いつか恩は返します!』

 

その際に出身を聞かれて『日本で待ってる』という言葉を投げかけた訳なのだが、本来ならば『男から会いに行くのが筋なのではないか』とその言葉を言った後に考え、本気でやらかしたと頭を抱える羽目となり、左之助は笑いながらも『いい出会いをしたじゃないか。それで十分だ』とからかい半分励まし半分の言葉を貰う羽目となった。にしても、ステラといいエリスといいこの少女と同じ色の髪と瞳をしているので、どうしてもそういう想像をしてしまいがちになるが、翔は笑みを零した。

 

「やめだやめ。そんなどこぞのギャルゲーみたいな展開、流石に俺みたいなひねくれ者に起こるなんて宝くじが当たるより低いでしょ。ラッキースケベやらかした一輝じゃあるまいし……ちょっと寝るか」

 

翔はそう言ってアルバムを閉じてテーブルに置いたままにし、指輪をインナーの内側にしまいこんで二段ベッドの上に潜りこんで、瞼を閉じた。

 




気が付けばお気に入り200越えとか……

((((((( ;゚Д゚))))))))

恐縮です(DOGEZA)


展開の補足ですが、アニメと原作本を織り交ぜて、そこにオリジナル要素をぶち込む“男の料理”みたいなスタンスで書いています。なので、他の方の小説より展開は遅めとなりますのでご了承ください。

さぁ、原作9巻に追いつくのが先か、私の精神が尽きるかのチキチキレース、はっじまるよー(棒)

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