落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】   作:那珂之川

16 / 61
#14 <道化の騎士>vs<微笑の皇女>②

そして、気が付けばフィールドの端にまで後退させられたエリス。絶体絶命かと思ったが……翔はそれ以上の攻撃をせず、エリスと距離を取った。先程の猛攻から一転の“後退”。これには堪らずエリスが問いを投げかけた。

 

「なぜ、攻めを解いたのですか?」

「だって、君自身が異能を全く使わずに受けに徹したからね。最初から異能を使わなかったことも不審に思ってた。もしかしたらこの土壇場で“後の先(カウンター)”される―――そういうことも考えて、一旦距離を“取らせてもらった”というわけ」

「……―――成程、流石というべきですね。カケル」

 

あの状況で攻め続ければどこかしら慢心はする。その隙を逃さずにエリスの異能か<変則軌道剣技(シフトチェンジアーツ)>をカウンターの要領で叩き込むことを片隅において戦っていたエリスの心理まで目の前にいる人物は読み解いた。

 

ここに来るまでの噂など彼を読み解くための何の材料にもなりはしないことにエリスは冷や汗をかいた。正直言って驚かされっぱなしだ。自分の剣技を二度看破したことといい、ここまで防戦一方に徹さざるを得ない彼の攻めといい……そして、そのいずれもが“魔力を感じない”ことにも。

 

―――何が問題児だと……負け犬だと……愚か者なのだ、と。

 

彼女の眼前にいる彼―――葛城翔という人物は紛れもなく“強い”。初めて見るであろう自分の剣技を容易く看破して見せた。それどころか彼女すら圧倒するほどの攻めを見せた。そして、霊装を構える彼の姿はさながら『侍』の如き佇まい。これにはエリスも思わず笑みを零した。そして、『緋凰の魔剣』の剣先を翔に向けるように構えた。

 

「お姉ちゃんのように剣技だけで勝負をつけることで努力を証明しようとしましたが、どうやら貴方相手ではそれも厳しいですね。カケル、貴方は本当に強い。なればこそ、私は貴方に『最大の賛辞と敬意』を以て、貴方を圧倒させていただきます」

 

その言葉と共に、彼女の周囲に舞い上がるのは炎の渦。その火の粉一つ一つが形を成す。その形は言うなれば“羽根”。それは一つや二つ、いや、最早数えるというレベルではないほどの膨大な数の羽根。それを見た翔は流石に冷や汗を流す。何せ、その羽根は『超高密度に圧縮された炎の刃』といってもいい。だが、それに対して彼の口から出た言葉は、賛辞の言葉であった。

 

「ホント、Aランクの人間ってすごいと思うわ。いや、この場合はエリスさんが凄いというべきなんだろう。こんなの、才能だけでどうにかなる代物じゃないし」

 

ざっと見ただけでも()()()()()()()()()数の炎の刃。ステラ・ヴァーミリオンが具現するのが“竜”ならば、彼女が具現しうるのは“不死鳥(フェニックス)”。その羽根は既にフィールド全体に張り巡らせている。普通に考えれば逃げ場などない。

 

「でもな、一輝だってこれに近い状況に立ち向かったんだ。アイツより才能がある人間として、背を向けるという選択肢はないんだよ。―――他の誰でもない、アイツの好敵手として。<微笑の皇女>エリス・ヴァーミリオン……俺の“規格外(さいきょう)”を以て、君の“最強(さいきょう)”に挑ませてもらう!!」

 

だが、翔には諦めるということも逃げるという選択肢もない。―――今まで信頼できる人以外には明かさなかった『力』を、殆どの人がそれを『まやかし』などと言ってもおかしくはない……その異能(ちから)を解き放つ。翔は『叢雲』を構え、彼女に向けて駆け出す。

 

「これで終幕です―――<万象焼き尽くす鳳凰の翼(クレイエルドラント・フェニックス)>!!」

 

彼女の意思に従うように舞う羽根。傍から見れば無数と言わんばかりの数が翔に襲い掛かる。その刃が届こうとしたその刹那、翔の姿が()()()。先程の懐に飛び込んできた光景を思い出し、羽根は幾重にも彼女の周囲を覆い尽くす。その一つ一つが高密度の刃である以上、迂闊に飛び込めば怪我だけでは済まない。無論、翔とて無闇に飛び込むほど愚かではないことは、先程の一手で理解していることだ。

 

問題はその彼がどこに行ったのか。―――彼はいた。なんと、その場所は前の試合でステラが空けた天井の穴の淵に沿う形でだ。体感的には『三秒でフィールドからその天井にジャンプした』という所業。桁外れた倍率での身体能力強化……先の試合で一輝が見せた<一刀修羅>に近い能力なのかと、エリスは警戒する。翔は息を整え、そして高密度に圧縮された『雷』を纏う。それを見た摩琴は彼のすることに気付いた。それに続くかのように、翔はその名を呟く。

 

「どうやら、やるみたいだね。理心流における“奥義”―――その一端を。」

 

霊装上限(デバイスリミッター)“第三段階”開放……八葉理心流動之極――――――<迅雷焦破(じんらいしょうは)>弐の式『二重(ふたえ)』」

 

そして、穴の中へ重力に従うかのように飛び込む翔。この好機(チャンス)を逃すまいと、彼に向かって舞い上がる数多の羽根。その全てを視界に捉えた翔は『叢雲』に高密度の『雷』を集約した。太刀に集うその光はさながら轟く稲妻の如く。目にも止まらぬ速さで振るわれ、襲い来る羽根を弾き飛ばしていく。だが、それでも次々と襲い来る炎の羽根に、翔は意を決した。

 

「参の式『三線(さんしん)』開放」

 

足を止めては炎の羽根の餌食になる。それを誰よりも感じた翔は更に“ギアを上げた”。その光景を離れた距離で見ながら<万象焼き尽くす鳳凰の翼>をコントロールしているのだが、正直驚愕を通り越して信じられない光景を目の当たりにしている感情が渦巻いていた。エリスの伐刀絶技は広範囲攻撃(ワイドレンジアアタック)―――この程度のフィールドならば逃げ道など与えずに倒すことなど容易い。彼に対してもそれは同じであった。いや、同じ()()()()()なのだ。それを彼はすべて弾き返す、という形で生き残っている。だが、そんな発想で戦っても先に彼の方が力尽きるであろう。そんなエリスの発想は、次の瞬間に()()()()()()()

 

「まさか、正直ここまでとは思ってなかった。流石はエリスさん。でも、ここからは()()()()()()()()。肆の式―――『四天(してん)』開放」

 

翔がそう呟いた瞬間、翔の速度は信じられないほどの速度で『叢雲』を振るい、そこから放たれる高密度の“雷”の刃は確実に炎の羽根のフィールドを削り始めている。それを肌で感じ取っているのは紛れもなくエリス自身。今まで破られたことのない絶対無敵の障壁を、彼の振るう刃が確実にそれを捉えるだけでなく、破壊している。それも、急激なスピードを以て。これを見ていた一輝は彼の使っている<迅雷焦破>がどういう性質を持つのかを理解した。

 

「力を周囲に展開するのではなく、自身と霊装に集約させることで超速的な運動能力と爆発的な攻撃力を得る。身体能力強化だけで言えばさしずめ<一刀修羅>に近いですね」

「まぁ、力の全てを使い尽くすような奥義じゃないんだけどね。少なくとも、()()()()()()

「え……じゃあ、翔が今使ってる肆の式は!?」

「文字通り<一刀修羅>の領域に足を踏み入れるという訳か。それをこの若さで習得している葛城(あいつ)黒鉄(おまえ)共々“常識外れ”だな。まったく……」

 

正直、参の式だけでもエリスを圧倒せしめることはできるであろう。だが、翔は敢えてその領域に踏み込んだ上で彼女と戦うことを選んだ。それは翔自身の『最大の敬意』を示すため。彼の放つ斬撃の雨は止むことなどない。確実にジリ貧……いや、圧倒的不利に立たされたのはエリスの方だ。それを理解し、彼女は決死の覚悟を以て、言葉を叫ぶ。

 

「<万象焼き尽くす鳳凰の翼・終曲(フィナーレ)>―――<灰燼に帰す天翔の炎(エターナル・フレアガーデン)>!!!」

 

その言葉と共に炎の羽根は極限にまで圧縮された炎の珠となり、その瞬間――――――フィールド全体を完膚なきまでに爆破させるほどの大爆発を起こす。これには流石に黒乃・寧音・摩琴が瞬時に個々の伐刀絶技で観客を守るための防御を行う。まぁ、流石に天井にまで防御の手は回らず、天井が木端微塵となった。

 

「ったく、ヴァーミリオン姉妹共々、訓練場を壊す技を放つとは……はぁ、ヴァーミリオンの皇族はある意味問題児のようだな」

「危なかったねぇ、黒坊。うちらがいなかったら黒焦げだったよ?」

「しょ、正直助かりました。って、翔は!?」

「う~ん、流石にフィールドが炎に包まれちゃってるからねぇ。目視じゃ無理だよぉ……」

 

先程の試合で<一刀修羅>による反動が残っているので、正直一輝は黒乃たちがここにいたことに感謝した。でなければ、間違いなく黒焦げ病院送りコースまっしぐらだっただろう。観客も含め、フィールドの中の状況は立ち昇る炎で見えていない。流石にこの炎でエリス自身が自滅するようなことはないのだが……その焔の中でエリスは息を整える。流石に魔力を使いすぎたのもあるが、<万象焼き尽くす鳳凰の翼>を削り取られるという今までにない体験が思った以上の影響を及ぼしていた。

 

「(流石に、この爆発ではどれだけ速く動けようとも巻き込まれるのは必定……まさか、ここまで強いとは……感謝)」

 

対戦相手の“侍”に心の中で感謝を述べようとした次の瞬間、エリスの身体を何かが通り抜けた。

 

「えっ……」

 

そして訪れるのは<幻想形態>による致命的一撃を貰った際に起こる現象―――急激なブラックアウトによって、エリスは次第に意識を手放していく。そして、その意識を手放す直前に彼女が見たもの……それは、フィールドの正反対側で霊装を床に振り下ろしたかのような格好で佇む一人の“侍”の姿であった。

 

「―――― 秘剣之壱『雷鳥』。っと、はぁ、はぁ……(よもや『覚えたばっかの領域』まで使う羽目になるとは……末恐ろしいよ)」

 

彼女が倒れたことにより、炎も自然と消え―――フィールドの床に倒れたエリス・ヴァーミリオンと膝をついて肩で息をしている葛城翔の姿。そこで観客たちもその試合が決着したことを知ることとなる。

 

「そこまで!勝者、葛城翔!!」

 

黒乃の合図により、模擬戦は終結した。その結果に殆どの者は驚きを隠せずにいたが、その中で<雷切>東堂刀華は笑みを零していた。

 

「黒鉄君も凄いけど、かけ君もかなり強くなった。……選抜戦で戦えるのを、楽しみにしてるね」

 

<二人の天才騎士>を破った<二人の落第騎士>―――<落第騎士(ワーストワン)>黒鉄一輝と<道化の騎士(ザ・フール)>葛城翔。互いに第二次大戦を勝利に導いた英雄の血を継ぐ者。この日を境に、二人はその才覚を発揮することとなる。

 




ステラがパワー重視なら、こういうのもありかと思ってエリスの能力を決めました。力の1号、技の2号みたいな(オイ 無茶苦茶な剣の軌道も“身体能力強化”で解決させるというゴリ押しみたいなものですがねw

エリスの伐刀絶技もさしずめB○EACHの“千○桜景厳”みたいなイメージですね。主人公とオリヒロインの戦闘シーンもそれを意識したような感じに仕上がっちゃいましたがw

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。