落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】   作:那珂之川

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#12 <落第騎士>vs<紅蓮の皇女>②

振り下ろされた一輝の『陰鉄』は阻むものなどなく、ステラの左肩に当たる……はずであった。だが、それは阻まれた。ステラの纏う魔力の壁に。それを見た一輝はすぐに距離を取って霊装を構える。無論、完全に油断していたがため、その部分だけ防御を集中できるわけがない。では、なぜ阻まれたのか。答えは簡単だ。

 

「……やっぱり、か」

 

一輝の魔力が『少なすぎる』のだ。総魔力量は各々の持つ運命の力に比例する、という通説がまかり通っているほどに。それに加えて、世界でも類を見ない魔力量を持つステラ・ヴァーミリオンという少女の存在。正直言って、一輝の今持てるポテンシャルを使えば、先程の一撃で勝負はついていたであろう。だが、彼はその選択肢を選ばなかった。その理由は観客席にいる翔だけが薄々と気付いていた。

 

(Aランク伐刀者の“力”―――その全てをその身で感じるため、といったところか)

 

剣術だけならば既に一輝の勝ちであろう。だが、伐刀者である以上その能力まで破らなければ、本当の意味での勝利とは言えない―――きっと、一輝ならばそう言葉にする。それに、遅かれ早かれ選抜戦か七星剣武祭で戦うことになる相手ならば、その力を肌で感じ取らないと気が済まない性分が出てしまったのだろう。だが、ここからステラが伐刀絶技で決着をつけるだろうが、どのような伐刀絶技であれ一輝が慢心しない限り一輝の勝ちは()()()()()

 

「―――カッコ悪いわね。こんな勝ち方なんて」

「『陰鉄』が君を斬れないと解っていたんだね。()()()()剣撃を挑んだ。」

「ええ、アタシが才能だけじゃないってことを証明するためにもね。本当ならそれだけで勝ちたかったけど……認めてあげるわ。この一戦、アタシが勝てたのは、才能のお蔭なのだと。」

 

一輝の剣術はステラの剣術よりも強い。ただ、一輝には魔術の才能などない。自分が勝てたのはその桁外れた才能によるものなのだと。まだ勝負がついていない時点でこう言い放つということは、誰にも負けない才能を努力によってものにした“力”に敗北などないのだと。そして、一輝に敗北を与えるために、フィールドの淵に立ったステラの周囲に満ちる莫大な魔力の塊。

 

「イッキ、貴方の努力を認めてあげるわ。だから、最大の敬意を以て、倒してあげる。―――蒼天を穿て、煉獄の焔!!」

 

「天井まで軽々ぶち抜く……デタラメな力だね、かけ君」

「これが“Aランク(ばけもの)”ということの証なんだろうな。……一対一の対人戦で使う様な技じゃないんだけれど」

 

立ち昇るはもはや『炎』ではなく『太陽の光』を思わせるような輝き。彼女の周囲から吹き上がるように登る六匹の竜は訓練場のドーム天井中央部をいとも容易く破壊する。そして彼女の『妃竜の罪剣』に形成されるは高密度に圧縮された光。それを食らおうならばたとえかすり傷でも致命的になりうるであろう威力なのは、遠くにいる一輝ですら肌で感じ取れてしまうほどであった。並の伐刀者ならここで逃げ出してもおかしくはない。事実、観客の何人かは逃げ出してしまうほどに。だが、今の一輝は逆に“笑みを零した”。それは人が諦めた時に出てくる笑みではなく、強者に挑めるという嬉しさからくる笑みだった。

 

「確かに、僕には魔導騎士の才能はない。でも、ここから退くわけにはいかない」

 

自身が人より劣っているのは承知の上。自らが魔導騎士として志した“誓い”を曲げることなどできない。一輝が目指すあの人に追いつくためには、()()()()七星剣王にならなければならない。そして……自分よりも才能がありながらも、流される悪い噂などに屈することなく、自分の事を『親友兼好敵手』と呼んでくれた少年(かれ)との約束の為にも。

 

『<天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)>――――!!』

 

ステラの剣から放たれる伐刀絶技。明らかに人一人を倒すには大仰すぎる技。だが、ステラは『最大の敬意を以て』この技を放った。圧倒的才能による常識外れの力で敗北という二文字を与えるために。

 

「でも、黒鉄君は諦めていない」

「ああ。まだ戦う姿勢を解いていない(ついに切るか。一日一回限りの『切り札(ジョーカー)』を)」

 

「だから考えた。最弱が最強に勝つためにはどうすればいいか。そして“至った”。――――<一刀修羅(いっとうしゅら)>!!」

 

その絶対的な力に対し、一輝は『陰鉄』の切っ先をステラに向けるように構える。そして彼を纏う光。それは属性の光ではなく高密度にまで圧縮されたことによる“可視化された魔力”。その光を見たステラも、傍で見ていたエリスにも感じ取れた。その光は間違いなく先程破れなかった魔力の壁を破れるだけの力を持つのだと。だが、そんなのは関係ない。この限られたフィールドは既にステラにとって射程内も同義。有象無象関係なく焼き払ってしまう<天壌焼き焦がす竜王の焔>に死角などないのだと。その焔が一輝を巻き込もうとした瞬間、一輝の気配が“消えた”。その直後、ステラの背後に感じる先程の魔力。そう、それは紛れもなく一輝本人である。

 

「在り得ない!魔力も、上がってる!?」

「上がったんじゃない。なりふり構わずに『全力で使ってる』んだ!!」

「だからって、そんな急激に身体能力が上がるわけなんてない!!」

 

ステラの言葉も間違ってはいない。一輝の魔力量からするならば二倍にすることすら、時間制限が付くであろう。そこまでが一般的な人の思考だ。だが、彼女の目の前にいるのは黒鉄一輝という“常人ですら思いもつかない様な思考”の持ち主。

 

「それもそのはずさ。だって僕は、『その文字に偽りなどない全力』を使っているのだから。」

 

“全力”―――普通に考えれば、持てる力全てを使い尽くすこと。だが、本来人間は文字通りの全力を使うことなどできない。使えたとしてもせいぜい30%程度が限界だ。それは人間の生命維持に大きくかかわる“生存本能(リミッター)”の存在。その限界を越えれば、その負荷に耐え切れずに負傷、最悪死に至る。人間は稀に『火事場の馬鹿力』という現象があるが、あれは“生命の危機”という非常事態により無意識的に生存本能を解除することで普段以上の力を発揮できる現象。そんなことなど日常的に起こりうるはずなどない……もし、それを()()()()解除することができるならば……文字通りの“全力”を発揮できるようになるのだと。一輝はその点に目を付けたのだ。

 

天才とは言え少なからず努力する。才能は磨かないと錆びついていくことも一輝自身は理解している。だからこそ、才能が優れていても才能だけで戦っているだなんて言うつもりなどまったくない。そう思うこと自体冒涜という他ないのだから。そのことを自分の親友という存在が示しているように。

 

劣ってるならば、優れている人に勝つためにはどうするか……努力で埋められない“才能”という決定的差。となれば、一輝はまともな考えをすることを“捨てた”。普通でいても勝てないならば<修羅>になるしかない。足りないのならば集めればいい、ちっぽけな力ならば束ねて強い力にすればいい。贅沢なんて言わない。

 

―――せめて“一分間”だけでも、誰にも負けない様にしよう。

 

一輝の伐刀絶技<一刀修羅(いっとうしゅら)>―――伐刀者にとって“最弱”の能力である身体能力強化を、己の持てる文字通りの全力―――自らの生存本能を強制的に解除し、己の持てる“力”のありったけを一分間に凝縮して使い尽くすことで()()()()()()()()()()を可能とした技。文字通りの“最弱(さいきょう)”の伐刀絶技。

 

初めは本当に一分間しか持たなかった。だが、自分の親友との研鑽による魔力制御の向上により、魔力ロスをなくし、全力を出しつつも必要な箇所に必要なだけ割り振ることでその持続時間自体を最大三分半にまで伸ばすことに成功した。元々“全力を一分間に凝縮する”という無茶苦茶なことをしていたが故に、魔力制御の基本を教えただけでその能力自体が研ぎ澄まされることに驚いたのは他でもない一輝自身であった。とはいえ、流石に手の内を晒すのは宜しくないとして、表面上は『最大一分』ということにしている。

 

例えるならば『力任せでも偶にホームランできていた打者にスイングの技術を教えたら、ホームラン量産できるようになった』という塩梅だろう。元々やっていたやり方に基本を教えれば混乱する恐れもあったが、そこは<模倣剣技(ブレイドスティール)>における心構え―――『元のものの欠点を潰し、上位互換を生み出す』が役に立った。今まで独学でやってきた制御方法に魔力制御の基本を上手く取り入れ、独学で学んできたものの『上位互換の魔力制御』を手にしたのだ。

 

(使うごとに一々ぶっ倒れられたら、心配通り越して不安だったんでな。)

 

魔力制御関係の技術をトレーニングに組み込むことは、翔自身魔力量と魔力制御の因果関係が良く解っていなかったため、正直賭けでもあった。少しぐらいは魔力の無駄遣いを減らす位でも一輝にとっては無駄にならないであろう………だが、その結果は“いい意味で裏切ってくれた”。とはいえ、持続時間自体が伸びても『一日一回限りの大技』という点は変わらない。下手に二度目を使おうとすればそれこそ本当に命に係わる自爆技。以前一回だけ試しにやった所、たった10秒間の発動でも本気で命に関わる事態になったためにそれを禁じ手とし、一輝もそれには納得した。

 

ステラは負けじと<天壌焼き焦がす竜王の焔>を振るう。だが、<一刀修羅>による身体能力強化に加え、先程見せていた超人的な動体視力でその悉くを一輝は回避せしめた。一度や二度ではなく、その振るわれた竜の牙の全てを彼は躱しつつ、ステラに接近する。次第に焦りが彼女の中を渦巻きはじめ、一輝に放った一撃に僅かなブレが生じた。

 

「しまっ……!?」

 

無論、その僅かな隙を一輝は見逃さず、『陰鉄』を頭上に構える形で力一杯踏み込んで空中に飛びあがった。その着地先にいるのは無論、一輝が戦っている相手―――ステラその人だ。先程の攻撃によって次の攻撃を構える余裕などなく、完全な無防備。そこに

 

「僕の“最弱(さいきょう)”を以て、君の“最強(さいきょう)”を打ち破る!!」

 

『陰鉄』の撃ち下ろしによる完全なクリーンヒット。無論、<幻想形態>なので実際に傷をつけることはなく、ステラの魔力の壁のみを斬った。その一閃によって、ステラの意識は<幻想形態>による致命的な一撃に伴う特有の現象―――急激なブラックアウトを起こしてフィールドに倒れ込んだ。

 

「そこまで!勝者、黒鉄一輝!!」

 

審判である黒乃が試合終了の合図を告げる。<落第騎士(Fランク)>が<紅蓮の皇女(Aランク)>に勝つという“大番狂わせ”に、観客の殆どが動揺を隠せない様であった。ひとまずはハプニングもどうにかなって、一輝が退学するような事態は避けられたことにほっ、と胸を撫で下ろした翔。ふと隣にいる人物―――刀華を見やると、その表情は明らかに戦いを求める表情となっていた。

 

「……戦いたがっているのは結構だけど、顔に出てるぞ」

「そ、そげなことなかとよ!? コホン……いつか彼と戦ってみたいですね」

「アイツも選抜戦に出る。早ければそこで戦えるだろう……さて、後片付けと準備も兼ねて、動きますかね。そんじゃ」

「うん。って、そこから行くん!?」

 

この後の試合と今の試合の事も兼ねて席を立った翔は観客席からそのまま飛び降りた。これには流石の刀華も驚きを隠せなかった。まぁ、普通の手順を踏めば後片付けに支障が出てこの後の試合にも影響するという翔自身の判断の結果なのだが。翔はフィールドに降りたつと、一輝のところに来た。

 

「大丈夫か?まぁ、今回はあれで済ませたからまだ大丈夫だろうが」

「お陰様でね。……翔の試合、見させてもらうよ」

「ああ、別に構わないさ。あんないい試合を見させてもらったんだ。その権利位ある」

「話に割り込んですまないが……黒鉄に葛城。セッティングを手伝ってくれ」

「僕は構いませんけど」

「準備運動がてらになりますし、構いません」

 

二人が話しているところに黒乃が次試合の準備の手伝いを頼み、二人はこれを了承した。なお、ステラに関しては摩琴が医務室に運んでいった。その付き添いということでエリスも同行した。姉のこういった所は本当に手際がいい、とは思う。フィールドの床はほぼ修復完了。ステラが空けた天井の穴は後々直すということで放置となった。次の試合―――<道化の騎士(ザ・フール)>葛城翔と<微笑の皇女>エリス・ヴァーミリオンの試合まであと5分。準備も完了した翔に黒乃が言葉をかけた。

 

「葛城。お前が自分で掛けている<霊力上限(デバイスリミッター)>、それを解除しても構わない。流石に“最終制限”の解除なんかしたら止めに入るが」

「……相手が相手だから、ということでしょうか?というか、知っていたんですね」

「お前の入学試験の時の映像、そして寧音から聞いた話を基に推測した結果だ。『入学試験時の出力』で寧音の禁技を止められるとはとても思えなかったからな。」

「ま、勘付きはしますよね。流石に全四段階制限のうちの“第二段階”位で止めますよ。……場合によっては“第三段階”にまで踏み込みますが。」

 

相手が相手だけにその辺りも勘案していた翔。そんな会話を聞いている一輝も特に驚きはしない。なぜなら、翔とルームメイトであった時にその辺りの話も聞いていたからだ。そして、先程翔の姉に同行したエリスがフィールドに姿を見せる。それを見た一輝はフィールドの外側の壁にもたれかかるように座った。流石に先程の試合で消耗しているので仕方のないことだが。エリスの姿を見た翔は『やれやれ』と思いつつも、彼女と相対する形でフィールドに立った。

 




地味に強化?されている一輝の巻。

次はいよいよ主人公とオリヒロインの対決です。

頑張ります(吐血)

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