落第騎士の英雄譚~規格外の騎士(アストリアル)~【凍結】   作:那珂之川

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UA10000越え&お気に入り100越え感謝です。

これからも鈍足ではありますが頑張っていこうと思います。

そして地味に初の戦闘シーン。やっぱ難しい、というか原作の文章量半端ないorz


#11 <落第騎士>vs<紅蓮の皇女>①

第四訓練場で突如決まった<落第騎士(ワーストワン)>黒鉄一輝と<紅蓮の皇女>ステラ・ヴァーミリオン、<道化の騎士(ザ・フール)>葛城翔と<微笑の皇女>エリス・ヴァーミリオンの模擬戦の情報は瞬く間に広がった。尚、あくまでも模擬戦なので<実像形態>ではなく<幻想形態>で相手の体力を削り切った方が勝ちとなる。流石に春休み中なのでそれほど多くはないが、訓練場には来年度の七星剣武祭候補の一角を見に来る実力者もちらほら―――既にリングの中央で準備運動を始めている一輝と、審判として黒乃が会場のセッティングを始めている。で、その様子を観客席から静かに見ている翔の元に、一人の女子生徒が近づいてくる。

 

「すみません。ここよろしいでしょうか?」

「いいですよ。って、生徒会長さんじゃないですか。差支えなければどうぞ」

「別に刀華でもいいんですけれど…そういう所は変わりませんよね、『かけ君』は」

 

この学園の生徒会長にして学園序列一位、<雷切(らいきり)>の異名を持つ東堂刀華(とうどう とうか)。年齢は一つ離れているが、翔が留年しているので学年は二つ上の三年。そして、昨年の七星剣武祭ベスト4という実績の持ち主。翔とは少なからず関わりがある人物の一人だ。別に困るようなことでもないので構わないと答え、刀華もそれを聞いた上で翔の隣に座った。<雷切>と<道化の騎士>という傍から見ればおかしい組み合わせだが、この二人は時期が異なるとはいえ『同じ人物に師事』している(いた)共通点を持つ。

 

「うた君からかけ君の存在を聞いたときはもしかしたらって思ったけど……今年は出るんよね?」

「無論だよ。チャンスが巡ってきたのだから、それを生かさない手はない……ところで、あのじいさんは元気にやってるのか?」

「相も変わらず、と聞いてるよ。椛ちゃんなんか『借り返すんだから、剣武祭に出てこないと承知しない!』って伝言頼まれたし」

「会長さんを伝言板扱いするぐらいなら直接言いに来いよ。俺は別に逃げも隠れもしないんだから」

 

翔の言葉に刀華は苦笑を零しつつ、少し前の事を思い出した。破軍学園のランクによる選抜―――これによって自動的に弾かれた翔に対し、刀華は複雑であった。何せ、二年前―――目の前にいる翔と一度だけ手合わせしたことがある。結果は刀華の完敗。そして、刀華の言葉の中に出てきた人物に対しては異能抜きの近距離戦で圧倒したため、何かと根に持たれているようであった。

 

「そこは照れとるんよ、かけ君に」

「訳が分かりません……で、その<雷切>さんは今年の七星剣武祭候補になるであろう一年の視察か?他の生徒会役員―――泡沫あたりでも来るかと思ったんだけど」

「それもあるけど、本命はかけ君の実力をこの目に焼き付けときたいからね。だから私が出向いたの」

「おお、怖い怖い。せいぜいがっかりさせない程度に頑張りますよ」

 

刀華が翔を目に掛ける理由は単純明快。翔が持っているのは異質の力といえ、葛城家は『雷』に特化した一族。雷属性の異能を使う生徒もいなくはないが、この学園の生徒の中で言えば、紛れもなく一番の雷使いであると刀華自身がその実力を認めている。ランクという概念を取っ払えば、最も七星の頂に近い存在ということも。そうして話していると、リングに姿を見せる<紅蓮の皇女>ステラ・ヴァーミリオン。そして、双子の妹である<微笑の皇女>エリス・ヴァーミリオンはステラが出てきた場所の柱に寄りかかり、相対する一輝とステラの試合を見つめていた。

 

「あれが<紅蓮の皇女>ステラ・ヴァーミリオン……成程、確かに桁違いですね。…かけ君?」

「ステラさん、完全に一輝の事を舐めてる。ありゃ、外野の噂に信じきり過ぎてる表情だ。かく言うエリスさんの方もだけれど」

「そう言うてることは、かけ君は黒鉄君が勝つと?」

「普通に考えればFランクがAランクに勝つというのは『広大な砂漠から一本の針を見つける』位の確率だろう。―――けど、アイツには『誰にも負けないための武器』がある。短期決戦に持ち込まない限り、ステラ・ヴァーミリオンは()()()

 

一年間同じルームメイトだったからこそ、黒鉄一輝という人物の本当の強さを翔は誰よりも理解している。そしてそれは、翔を知る刀華にも理解できた。<落第騎士(ワーストワン)>と並ぶ<道化の騎士(ザ・フール)>と呼ばれながらも、悪い噂を流されながらも、それに反応することもなく淡々と自らの力を磨き上げる姿勢と胆力には驚嘆すら覚えるほどに。

 

 

「しかし、まさか()()()()()()とは思っても見なかったぞ」

「いずれ戦わなきゃいけない相手でもあり、勝たなきゃいけない相手ですから」

 

翔と刀華の会話から少し遡り……セッティングをしている黒乃は笑みを零しつつ、この模擬戦自体実現するとは思っても見なかったことだったと。そして、それをすんなり認めた一輝の言葉に黒乃はアドバイスでもするかのように述べる。

 

「勝つ、か。彼女は強いぞ?」

「解ってますよ。理事長室で見せたあの力だけでも、相当のものを感じましたからね。―――ですが、僕にも負けられない理由はある。『七星剣武祭で優勝すれば、能力値が低くても卒業資格を与える』と、そう約束したのは他でもない理事長でしょう?」

 

Fランクの人間が魔導騎士として大成した例などない。だが、その実戦力が認められれば、否応にも黒鉄一輝という存在を認めることとなる。故に、黒乃は一輝にそのような条件を課したのだ。彼女の提示された条件に対して、一輝は『それはそれで望むところ』と言わんばかりであった。寧ろ、それぐらいでなければ一輝の目指す“あの人”に到底追い付けないのだと。

 

「それに、七星剣武祭には間違いなく翔も、彼女の妹も、そして彼女も出てくる。戦うのが遅いか早いかの違いですよ」

 

才能に溢れた二人の天才騎士、そして自分よりも遥かなる高みにいる親友。その三人は間違いなく七星剣武祭代表候補に名乗りを上げるであろう。そして、将来的にはその三人のいずれか、あるいは全員と刃を交える可能性がある。七星剣王になるためには、その三人を越えなければならないのだと一輝はそう感じていた。するとそこに姿を見せたのはステラ。その後ろのほうにはエリスの姿も見えた。エリスに関しては純粋に二人の試合を観戦するためにいるのだと、一輝は少なからず感じた。フィールド中央に来たステラは、唐突に口を開いた。

 

「―――噂は聞いたわ。正直言って、魔導騎士になるのを諦めた方がいいんじゃないかしら?」

「確かにそうなのかもしれない。だからと言って、この勝負を降りる気はないよ」

「アンタも『努力すれば才能に勝てる』ってクチかしら?」

()()()()()()とは思っているよ」

 

『努力すれば才能に勝てる』―――それはステラが嫌というほど聞いてきた言葉だ。それは無論、エリスにも同じことが言える。そして彼女らに負けた人間は口を揃えてこういうのだ。『いくら努力しても才能には勝てない』、と。それを聞くたびに二人は嫌気がさした。いくら剣術を磨こうとも、いくら努力しても、努力ではなく才能ばかりを言われて、その努力を正当に評価してくれない。才能があっても努力がなければ開花しないし、ただの『宝の持ち腐れ』になる。だが、やはり目立ってしまう力に注目が集まるのは自然の流れだし、目立つことのない努力が影を顰めるのは当然の事だ。単純な努力ならば誰だってこなしてきただろう。だが、ステラの眼前にいる黒鉄一輝という人間の努力はそれこそ“常軌を逸した”ものだということを知るのは、この中においては理事長である黒乃と元ルームメイトである翔以外知らない。そんなことも知らないステラはこうつぶやいた。

 

―――『まるでこっちが努力してないみたいじゃない』と。

 

そして、黒乃の合図で互いに<幻想形態>の霊装(デバイス)を展開する。

 

「―――来てくれ、『陰鉄』!」

「―――傅きなさい、『妃竜の罪剣(レーヴァテイン)』!」

 

一輝が構えるのは黒き鋼の太刀、ステラが構えるのは黄金の大剣。リーチ差で言うならばステラが有利、取り回しで言うならば一輝が有利……というのはこれが実際の金属を用いた戦闘でいう所の評価。霊装というのはその気になれば重さも()()()できる。互いに霊装を展開して構えた。そして鳴り響く試合開始のアナウンス。

 

Let’s Go Ahead!(試合開始)

 

それと同時に仕掛けたのはステラ。『妃竜の罪剣』に炎を纏わせ、頭上から叩き潰すようにその剣を振るう。一輝は『陰鉄』を横に構えようとしてそれを受け止めようとしたが、彼はその判断ではまずいと瞬時に判断して構えを解き後ろに飛び退くと、空を斬った『妃竜の罪剣』はそのまま床に叩き付けられ、その衝撃は第四訓練場()()に響いた。

 

「いい判断ね。アタシの剣をまともに受けたらただじゃすまないわよ!」

 

そこから軽々と『妃竜の罪剣』を持ち上げつつ横薙ぎを放つが、一輝は体を屈めて何とかやり過ごすことに成功する。正直言って一輝の内心は冷や汗が流れっぱなしの状態だった。ステラの言葉は虚勢などではなく、紛れもなく自信から来るものなのだと感じるほどに。

 

(流石はAランク、と言った所か)

 

とはいえ、一輝になす術がないわけではない。だが、『切り札』はまだ切るわけにはいかない。となれば、一輝のやることはただ一つである、と。彼は意を決し、襲い掛かるステラの剣撃に真正面から挑む。

 

「へぇ、真正面から挑むだなんていい根性してるじゃない! その自信ごと、叩き斬って上げるわ!!」

 

縦横無尽から襲い来るステラの剣撃。圧倒的力と<妃竜の息吹>の炎。<幻想形態>とはいえ、触れれば瞬く間に体力を削られるのは明白であろう。攻撃の手を緩めないステラに対して防戦一方の一輝。ランク差が違えばこうなるだろうと周りの人間がそう思う中、それとは異なる考えをする人物もいた。

 

「ありゃ、これでステラさんの勝ちが()()()()()な」

「傍から見ればステラさんの優勢に見えますが……黒鉄君の眼は諦めていませんね。かけ君は何か知ってるの?」

「そうだな、知っていると言えば知ってるが…答えを言うより、実際目にした方が面白いと思うよ。アイツの力の一端をな」

 

翔の言葉に刀華は疑問に思いつつ、戦っている一輝の表情に焦りが見られないことを不思議に感じた。それに対して翔は『百聞は一見に如かず』とでも言いたげに二人の戦いを見やり、刀華もまた二人の戦いを見やる。

 

観客の殆どがステラの優勢であると疑わない中、そのステラ自身は『妃竜の罪剣』から感じる手応えに違和感を覚える。彼女の持つ大剣は間合いと力と言う点におけば一輝の持つ太刀よりも遥かに上。なので、簡単に叩き潰せる―――その考えを打ち消すかのような“軽い手応え”。そこから導き出される答えは一つ。

 

(まさか、アタシの剣を受け流しているって言うの!? たかが“Fランク”の人間が!?)

 

相手の攻撃を受け流す。それは紛れもなく剣術における高等技術。相手の武器の特性や間合い(リーチ)、そして使用する剣術。大まかに言えば武器と武術の二つの要素を把握しなければできない芸当だ。だが、ステラと戦っている一輝は紛れもなく、この打ち合いの中で彼女の特性を掴んだ上で、下手すれば一撃を貰うぐらいまでギリギリの距離で太刀を振るい、文字通り紙一重の回避でしのいでいる。

 

「どうやら、逃げるのだけは上手いようね!」

「いや、正直言ってギリギリだよ。ステラさんが磨き上げてきた剣術、これは才能だけのものじゃない。凄い努力を重ねてきた結果だ」

「!? 中々目がいいのね。でも、そんな見切りで見破れるほど、アタシの剣はお安くないわよ!」

 

ステラはそう啖呵を切ったが、翔には一輝があのような台詞をこのタイミングで言ったということが何を意味するのかを知っている。そして、これから披露されるのは一輝の強さの一端。それを見せるかのように一輝はこう言い放った。

 

「いや、()()()()()()

 

そして、ここまで防戦一方であった一輝がステラに対して仕掛けた。彼の『陰鉄』が振るわれるその軌道はなんと、紛れもなく対戦相手である()()()()()()剣術による軌道と遜色ないものであったことだ。これに対して驚くステラであったが咄嗟に『妃竜の罪剣』で防御に成功して距離を取る。これには刀華も驚きを隠せないようであった。

 

「これは凄いね。まさか『剣術を模倣する』だけではなく、『相手の剣術の欠点を潰した上位互換の剣術を生み出す』と言う芸当。私でも正直真似できないかな」

「<模倣剣技(ブレイドスティール)>……相手の剣術の『理』を暴き出し、自らの霊装に最適化させた上位互換の剣術を繰り出す。しかも、魔力行使一切なしで、だ」

「ということは、かけ君も?」

「“半分”ぐらいかな。とはいえ、一輝ならその辺りは気付いていそうなものだが」

 

誰にも何も教われなかった一輝。だから、彼は考えた。基本となる剣術が学べないのならば、戦い毎に『対戦相手に最適化した剣術』を振るう方が効率がいい。そもそも、そんな発想を十代の時点で()()()ことの方がよほど凄いことなのだ。そしてそれは、基本となる剣術を習ってきた翔にも通ずる部分がある。何せ、翔の振るう剣術は常識を逸した代物だからだ。

 

そこからは一輝のペースに持ち込まれる。当然だ。皇室剣技(インペリアルアーツ)をベースとした剣術のステラとその上位互換の剣術を即席で編み出した一輝では、剣術における引き出しの数が()()()()()のだ。このままでは押し切られるとステラが取った手段は攻め一辺倒にフェイントを加えることだった。勿論、今までの流れからすればフェイントなど入れないと一輝を思わせることに成功し、霊装を振るった彼の姿勢に隙が出来る。

 

(―――もらった!!)

 

体を回転させ、そのがら空きのスペースに渾身の剣撃を叩き込む。並の剣士や伐刀者相手ならばその一撃で間違いなく倒せる。ましてやFランクの伐刀者など……だが、ここで致命的なミスを犯したのは、()()()()()であった。<模倣剣技>に必要なのは、相手の剣術の『理』―――つまり相手の動きを細かいところまで見切らねばならない。それに必要なのは“集中の極限化”―――常人離れした動体視力だ。当然、ステラのこの動きは一輝には見えている。

 

「太刀筋が()()()()()()よ」

 

そう言って一輝がその剣を受け止めた箇所は、『陰鉄』の柄。しかも握っている両手の間に捉える形で。これにはステラも驚愕した。皇室剣技(インペリアルアーツ)を“盗んだ”ことといい、一体どんな動体視力をこの男はもっているのかと。

 

「なっ!? (嘘でしょ!? この一撃をそんな方法で止めるだなんて!!)」

「そんな『逃げ』の剣は君の剣じゃない。この『曲げた』一撃は致命的だ!!」

 

無理な体勢からのステラの一撃。一輝が力を込めてステラの『妃竜の罪剣』を弾き飛ばすと、当然ステラの体勢は大きく崩れる。それを好機と見た一輝の『陰鉄』が完全にノーガードとなったステラの左肩目がけて振り下ろされる。

 




地味に交友関係が広い翔の巻。

そして寝ぼけた太刀筋によってピンチとなったステラの運命や如何に。


このまま書き続けると10000オーバーになるため、ここで切りました。

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