学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

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遅れ馳せながら、皆さま明けましておめでとうございます。
本年もどうか、よろしくお願いいたしますm(__)m

・・・ところでPSO2の次の舞台が地球って、どうしてそうなった・・・・・・


*07 急展

「こんな時間から掛けてくるとは珍しいな、エンフィールド。昨日の事か?」

 

『ええ、進捗について話しておこうと思いまして』

 

休み明けの月曜日。晶は登校する生徒でごった返す通学路を歩きながらクローディアから来た通話を受けていた。

昨日の襲撃の後、晶は帰宅後直ぐにクローディアへと連絡を入れ、集めた情報や襲撃時に隠し撮りしていた映像を送っていたのだ。

 

「それで、何か掴めたのか?」

 

『ええ。今回の犯人はサイラス・ノーマンでほぼ間違いないでしょう。そして彼のバックも貴方の予想通り、アルルカントが関わっている可能性が最も高いですね』

 

「やはり、か・・・確保は何時するつもりだ?」

 

『諸々の準備もありますから、放課後になってしまいますね』

 

「ふっ、生徒会長も大変だな」

 

『ええ全く。・・・それではまた放課後』

 

ぷつりと通話が切れ、携帯端末の投影ディスプレイが音も立てずに消える。

恐らく色々な『根回し』をするのに忙しいのだろう。だというのに直接電話してくるあたり、律儀なものである。

何はともあれ、

 

「今回の騒動もそろそろ終わりか。暫くは平穏無事に過ごしたいものだ」

 

首をコキリと鳴らしそう呟いて、晶は校舎の中へと入っていった。

 

 

 

教室に入って晶を迎えたのは何とも言い難い表情の綾斗だった。

 

「あ、おはよう晶」

 

「おはよう・・・どうした綾斗、暗いぞ」

 

「え?そ、そうかな?」

 

「バレバレだ。伊達にお前の親友をやっておらんよ」

 

単刀直入に聞いてみれば案の定、言葉をつっかえさせる綾斗に苦笑いを浮かべる。

大方、ユリス絡みで何かあったのだろうと予想し、流石に本人が居る教室で話すことではないと思い、晶は綾斗を連れて廊下に出た。

 

「で、何をやらかしたんだ」

 

「既に俺が悪いことになってる!?」

 

「違うのか?」

 

「違うよ!」

 

晶のからかい言葉を強く否定して、綾斗は昨日から今日に至るまでの事情を説明する。

結果。

 

「綾斗」

 

「ん?」

 

「お前は初デートの結果を気にする中学生か」

 

「うぇ!?い、いや俺とユリスは決してそういうんじゃ無くて!」

 

至極真面目な表情で綾斗にそう言えば、当人は顔を真っ赤にして首が取れるのではないかと思うくらい頭を振る。

綾斗の事情というのは、日曜日にユリスに街中を案内(デート)してもらい、その最中に例の襲撃犯らと戦闘、そして何のかんのフラグを立てて今日。教室でユリスと会ったら何やら手紙を読んでいて、挨拶しても生返事というか態度が出会った当初に戻っていたとの事。

襲撃犯のことを抜けばどう考えても先程晶が言った言葉に至るだろう。

 

「しかし成程。昨日の公園の有り様はお前らが原因だったか」

 

「晶もあの公園に?」

 

「ああ、学園までの近道だからな。覚えのある星辰力の残滓だった故、予想はしていたが」

 

レヴォルフの学生らを金で雇ってけしかける等、相手も中々に周到なことをする。

そして何より綾斗とユリスは襲撃に会う前にサイラス・ノーマンと接触していたことが晶の琴線に触れた。

 

(マクフェイルの奴が居たとはいえ、態々ターゲットの前に出るとは・・・へまをしない自信でもあったのか、それともただの凡愚なのか)

 

いずれにしても、今日中に決着はつくだろう。

だが、サイラスが何らかのアクションを起こす、或いは起こしている可能性が高い。警戒を解くような事はしないほうが良いだろう。

今はどうにも気落ちしている親友の心持ちを戻すのが先だ。

 

「まあそう気にするな。リースフェルトも何か事情があるのだろうよ、気に掛けすぎても仕方無かろう」

 

「それは、まあそうだけど・・・」

 

「何も無関心を貫けとは言わん。せめてその不安そうな顔だけでも隠せる程度には持ち直せ。回りが不安がる、というかネタ探しに根掘り葉掘り聞いて来るぞ・・・こいつみたいにな」

 

そう言って晶はさっと腕を伸ばすと、見覚えのあるパーカ姿の青年の襟首を掴んで綾斗の前に出す。

さながら首を掴まれ吊るされた猫のような状態の彼は、英士郎だった。

 

「英士郎?」

 

「お、おっす綾斗。いや盗み聞きするつもりは無かったんだ、ただ面白そうな話が聞こえるなぁと耳を澄ませていただけで」

 

「それを盗み聞きと言うんだ、阿呆」

 

襟首を離した途端、誤魔化すように話す英士郎に呆れながら頭を小突く。

相変わらず耳聡い青年である。

 

「で、綾斗がリースフェルトに振られたって話だよな」

 

「いや違うから!」

 

茶化すようにニヤニヤと笑う英士郎に綾斗がさらに顔を赤くする。

とそこへ晶たちにとって聞きなれた声がかかる。

 

「おら、お前らさっさと教室に入れ~。でないと私の釘バット(相棒)が火を吹くぞー」

 

「「「げっ」」」

 

ジャージに釘バット(血糊つき)という何とも猟奇的な格好のこの女性は八津崎 匡子(やつざき きょうこ)。晶たちのクラスの担任である。

因みに元レヴォルフのOGという、どうしてここに居るのかわからない教師だ。

というかよく教師になれたな。

 

「おい八十崎、失礼なこと考えてねぇか?」

 

「滅相もない」

 

そしてやけに勘が鋭い。人類の革新か何かかとしか思えない。

兎に角まだ死にたくない三人は匡子に促されるまま教室に入る。

席の大半が埋まったクラスを眺めて、成程、と小さく呟く。ユリスの背中は晶が知る、かつての悲壮さすら感じさせる空気を纏っていた。果たして何が彼女をそうさせたのか。

いや、回答なら既に出ている。その確証が、無いだけで。

 

(・・・手紙、か。単なるラブレターなら救いはあるんだが、な)

 

一つ鼻を鳴らして席につく。

結末の時は、もうすぐそこに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後。

夕焼けに染まる全面特殊ガラス張りの廊下を晶は下校途中の生徒達の流れに逆らって歩いていた。

 

「あの杭打ち女め・・・散々荷物運びをさせおってからに」

 

全授業が終わって早々、晶は匡子に呼び出され、授業で使った備品を運ばされていたのだ。しかも備品庫までは地味に遠い。挙げ句、備品の量も一クラス分のためかなり多いときた。

 

「鬼畜ヤンキー教師め、一生独身の呪いでもかけてやろうか・・・む?」

 

当人が聞いたら間違いなく釘バットによる制裁が下るだろう文句を言いながらふと廊下の窓の外、校門のところに薔薇色の髪の少女が駆けて行くのを見付ける。

 

「リースフェルトか?あんな風に駆けるとは・・・まさか!」

 

ユリスの行く先、それを予想して晶はハッとする。今朝の予感、その答えが確かなものだったのだ。

 

「晶!」

 

そこへ焦った様子の綾斗が走り寄ってきた。その手には未起動状態の煌式武装らしき物が握られていた。

 

「ユリスを見なかった?もしかしたらマズイことになってるかもしれないんだ!」

 

「サイラス・ノーマン、だろう」

 

「気付いてたの?」

 

「まあな。リースフェルトなら先程走って行くのを見た。まだそう遠くまでは行っていないだろうが・・・」

 

追うにしても既に距離は開いてしまっている。彼女の星辰力を追跡しようにもあれだけの人混みの中からたった一人の星辰力の残滓を探し出すのにも時間がかかる。

ではどうするか。晶は迷わず携帯端末を取り出し、クローディアへと繋ぐ。

 

『八十崎君?』

 

「すまんエンフィールド。そちらのシステムでリースフェルトを探し出せるか?」

 

『現在捜索中ですが、流石に行き先の特定箇所が多すぎますね』

 

ワンコールで繋がったクローディアは既に事態を知っていたようだが、しかし苦い顔をしていた。

とそこで綾斗の端末が着信音を立てた。

 

『綾斗、へるぷみー』

 

「沙夜?ってもしかして道に迷った?」

 

『いぐざくとりぃ』

 

投影ディスプレイに映ったのは僅かばかり困り顔の沙夜だった。

どうやらまた道に迷ったらしい。

 

『至急応援を要請する・・・ん?』

 

「どうしたの?」

 

『今、リースフェルトが走ってった。珍しい』

 

「「!?」」

 

さらっと現在もっとも欲しい情報を沙夜が言い、二人は息をのむ。

沙夜には悪いがまさに天運が巡ったと言えるだろう。ならば後は簡単だ。

 

「沙々宮、私だ。周りの風景は映せるか?」

 

『晶も居るのか。ちょっと待て』

 

沙夜がそう言葉を切って画面から消えると、彼女が現在いる場所が映し出される。

晶は即座に携帯端末を綾斗の物と同期させると、クローディアへとその映像を送る。

 

「エンフィールド、分かるか?」

 

『ここは恐らく市街区の外れですね。ですがこれだけでは何とも・・・沙々宮さん、ユリスはどちらに向かって走っていきましたか?』

 

『生徒会長までいるのか。確かこっちだ』

 

画面がクルリとまわり、閑散とした風景が映る。その隅で沙夜の指が右を指す。

 

『成程、判りました。ユリスは再開発エリアに向かっているようです・・・彼処は人も少ない。見付けるのは容易いでしょう』

 

「そうか・・・沙々宮、助かった。私と綾斗はこれから急用があるので向かえんが、代わりの者を寄越す。それまで其処を動くなよ?」

 

『よくわからないが、わかった。む、今度は変なマッチョマンが走ってった』

 

「マッチョマンて、もしかして」

 

「マクフェイルだろうな。ちっ、面倒だ、行くぞ綾斗!」

 

「了解!・・・それじゃ沙夜、また後で!」

 

苛立たしげに舌打ちして通信を切ると、晶と綾斗は人の少なくなった廊下を駆け出す。

ここから先は時間との勝負だ。コンマ一秒すら無駄には出来ない。

エレベーターを使っている余裕は無い。階段なんて降りてる余裕も無い。であるならショートカットするだけだ。

無人となった教室へ入ると、迷わず窓を開ける。

 

「道を走る時間は無い、最短距離を突っ切るぞ!」

 

「オーケー、行こう!」

 

そして二人は空中へと飛び出した。

地上十数メートル、只人ならば簡単に死ねる高さからの落下の衝撃を自身の星辰力を調節して相殺。その反動の勢いを活かして弾丸のごとく加速する。

スポーツカーも斯くやのスピードで校門を突っ切り、一気に市街区まで抜けると跳躍、並び立つビル群の上を走り出す。

屋上から屋上へと跳び移り、駆け抜ける。

 

「間に合ってくれよ、頼むから」

 

「ユリス・・・!」

 

時は、逢魔ヶ時へと差し掛かっていたーー。

 


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