学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

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長らくお待たせして申し訳ありませんm(__)m


*05 奪還 1

「お待たせしました、先輩」

 

「ああ……これで全員揃ったな」

 

綾斗の一報から十分後、とある建物の前にフローラ捜索に当たっていたメンバー全員が集まっていた。

 

「夜吹、どうだ?」

 

「集まるまでにざっくりと調べたが、ここで間違いないだろうな。周辺にゴロツキも居ない、付近には歓楽街があるから多少騒がれても気付かれにくいと来た。しかもこの建物自体、ちょいと前から改装工事が入ってるが、それも業者のトラブルで止まってる……つまり」

 

「他に比べ隠れ蓑にもってこい、という事か」

 

「おうよ。あくまで改装中だから、セキュリティさえ抜けちまえばそうそうバレないって魂胆だろうな」

 

「確かに……私達は廃墟ばかり探していたしな」

 

人を隠す、という点で再開発エリアはそれに適した建物が多すぎるが故に、こういった場所は完全に盲点だった。

一重に、ここまで来れたのは綾斗のおかげだろう。

 

「お手柄だな、綾斗」

 

「俺は、助けてもらっただけだよ」

 

「……そういう事にしておこう。さて、中に入る前にメンバーを決めておこうか」

 

そう言うと晶は英士郎に目配せをすると、英士郎は携帯端末からビルの間取り図を展開する。

全員がそれを見たところで、晶は口を開いた。

 

「セキュリティは夜吹が何とかするとして……一階はそこそこの広さだが、二階から上と地下はあまり広くはない。特に地下は余計にな。そこで一階と二階を私とリースフェルト、地下をを綺凛、綾斗で捜索しようと思う」

 

「了解した」

 

「あっきー、私達は?」

 

「楠木達は念のため正面と裏口を見張っておいてくれ。何があるかわからんからな」

 

「……むう、仕方ない」

 

晶の提案に沙夜はむくれるが、負傷している身で無理させまいとしているのは分かっているので渋々了承する。

時刻は既に十時を過ぎている。あまり時間も掛けていられない。

 

「他に提案は?」

 

『………………』

 

「無いようだな。よし、では行くぞ」

 

掛け声と同時に動きだす。

リスティが裏口の方へと駆け出し、沙夜は拳銃型の煌式武装を展開して付近の物影へと隠れた。

 

「夜吹、どうだ?」

 

「これくらいチョロいチョロい。簡易版のセキュリティだから抜け道だらけだ」

 

英士郎が入り口横にある端末に自分の携帯端末を接続して、慣れた手付きで何やら操作すると軽い空気音が鳴ってドアが開いた。

 

「ほい、いっちょあがり」

 

「流石だな」

 

「……どちらも随分慣れてるようだな?」

 

「「…………気にするな」」

 

ユリスからの視線から二人揃って目を反らす。

何だんかんだとグレーゾーンな事をやってきた実績があるので否定しようがない。

 

「んんっ……では夜吹はここまでだな。直接戦闘は不得手だろう?」

 

「お、おう……そんじゃ俺は裏方に回るわ、『応援』ももう少ししたら来ると思うから、まあ頑張れよ」

 

言うが早いか、夜吹はサッと手を上げるとそのままビルの作った闇に溶けるように駆けて行ってしまった。

実際問題、英士郎はこういった直接戦闘になりうる場面は苦手なのだ。

……若干の誤魔化しも入ってはいるが。

英士郎の背を見送ってから、少し狭いドアを通って中に入る。

 

「これはまた……酷いね」

 

埃っぽい空気に顔をしかめた綾斗の言葉に皆が頷いた。

元々あったであろう設備は既に無く、天井にいくつか開いた穴から射し込む月明かりが伽藍堂のホールを僅かに照らしている。

天井に未だぶら下がったままのシャンデリアが落とす不気味な影の中、周辺を目視で確認する。

 

「人の気配は……無いみたいですね」

 

この中で最も星辰力の察知に敏い綺凛が一通り見回してからそう呟いた。

ホールはただのエントランスのようで、これと言った部屋も無い。

あるのは二階と地下にそれぞれ続く階段だけのようだ。

 

「どうやら、そのようだな……では八十崎、手筈通りに別れるか」

 

「ああ。綺凛の言うとおり、何も無いようだしな」

 

何も無さそうなのを確認し、当初の予定通りに別れて捜索に向かおうとする。

と、そこで綾斗の視界にナニかが映った。

 

「あれは……?」

 

綾斗の様子に全員がその視線の先を見ると、そこにはのっぺりとした黒い『人影』が立っていた。

陽炎のように輪郭を揺らしているそれの両腕は鋭利に尖っており、その用途は簡単に察することが出来る。

 

「どうやら、当たりのようだな──!」

 

ユリスが獰猛に笑う。

直後、人影が音もなくこちらへ距離を詰めて腕を振るう。

 

「疾ッ!」

 

だが、そんな見え透いた攻撃があたる筈も無く、即座に前へ出た綺凛の千羽切によって弾かれる。

返す刀で千羽切を横薙ぎに振るうと、碌な防御も取れずに影が両断された。

風に流される砂塵のように消えた影を眺めて、綺凛は眉を潜めた。

 

「生成に使われた星辰力は僅か……動きも緩慢ですね」

 

「自律型って事かな?」

 

「だろうな。あくまで足止め程度の能力なんだろうさ。でなければ『こんな数』はあり得まい」

 

眼前の光景を見て晶が呆れ混じりに肩を竦めた。

綺凛が人影を斬った直後、まるで最初からそこに居たかのように人影が増殖していたのだ。

その数、ざっと見ただけで五十は下らないだろう。

 

「面倒な……纏めて焼き払ってやりたいが」

 

「得策では無いな。下手をすれば余波でフローラが傷付きかねん」

 

大量の人影達を前にユリスを諌めつつもどうするべきか考える。

これだけの数だ。誰かが足止めしなければ捜索すら立ち行かない。

ユリスの火力も、ここ以外が閉所かつフローラの居場所がわからない以上迂闊に振るえない。

最低限、上か下か、どちらかに居ることが把握できればどうにかなる。

 

「………私とリースフェルトで道を作る。綾斗と綺凛は先に地下に向かえ。見付けたら連絡をくれ」

 

「「了解!」」

 

晶の指示に、一二も無く応える二人に頼もしさを感じながら〔ブラオレット〕を起動させ、近付いて来ていた人影へと銃爪を引いた。

 

「そういうワケだ、リースフェルト。付き合ってもらうぞ」

 

「仕方ないか……まあいい、憂さを晴らさせてもらうぞ、《鋭槍の白炎花》!」

 

作戦の意図を理解したユリスが、地下に続く階段への道を作るべく六本の炎の槍を展開、発射する。

やはり防御能力は一切無いのか、連続して殺到する炎槍に為す術無く、射線上の人影たちが一掃され道が出来る。

 

「今だ、行け!」

 

「ユリス、任せた!」

 

「先輩、お願いします!」

 

ユリスの声に、激励を残して綾斗と綺凛が地下へと一直線に駆けて行く。

その背が見えなくなったのを確認して晶はニヒルに笑った。

 

「さて、ここから先は持久戦だ……あまり暴れるなよ?リースフェルト」

 

「ふん、そちらこそ下手に動いて巻き込まれるなよ、八十崎」

 

背中合わせに軽口を言い合いながら囲むように近付いてくる人影たちを睨む。

星辰力が高まり、身体も精神も戦う為のモノにシフトする。

準備は整った。さあ、始めよう。

 

「「行くぞ!!」」

 

 

一斉に飛び掛かる人影を前に、銃声と爆発音が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

「先程見た設計図だとこの中もちょっとしたホールらしいですが……」

 

上から聞こえる戦闘音を耳にしながら、綺凛は目の前の大扉を見上げてそう口にした。

背後を警戒していた綾斗も、元がカジノなだけあって華美な装飾を施されたそれを眺めながらも、呼吸を整えた。

 

「刀藤さん、まずは俺が先に行くよ」

 

「え?」

 

役割分担って事で。そう続けて綾斗はいつも通りのぽやっとした笑顔を浮かべた。

 

「俺よりも刀藤さんの方が速いから。いざとなったらフローラちゃんをお願いしたいんだ」

 

「成程……わかりました、お任せください」

 

綺凛の心強い頷きに頼もしさを感じて、綾斗は大扉に手を掛けた。

鈍い音を立てて開いた扉の先は、一階と似た広いホールになっていた。

一階と違う点と言えば支柱の数が多く、また搬入された機材などが雑多に置いてあると言った所だ。

足元を照らす程度の、オレンジの小さな蛍光灯が並ぶ中、ホールの一番奥に彼女は居た。

 

「フローラちゃん!」

 

「んんんー!」

 

堪らず綾斗が声を上げると、紐で柱に拘束されたフローラが猿轡を噛みながらも何かを伝えようと喉を鳴らす。

その意図する所はすぐに現れた。

 

((殺気……!))

 

二人が飛び退いた直後、柱の影から突如として真っ黒な棘が二人が立っていた場所を刺し貫く。

 

(一階のやつと同じ……やっぱり犯人は、影を操る《魔術師》か!)

 

連続して三百六十度全てから現出する影の刃をどうにか避けながら、綾斗は今回の下手人の能力を把握する。

枷を解放せずとも戦えるよう人知れず特訓していたからか今は何とか捌けているが、あまり長くは持たない。

殺気を感じてもその出所がわからないというのは、あまりに厄介だ。

 

(その為のこの照明ってわけか……)

 

不規則に配置された小さな蛍光灯、柱と機材が生み出す影。それが起点となっているのだろう。

とは言え、今はそれをどうこう出来るタイミングではない。

 

「──ふん。まさかと思えば天霧綾斗と、刀藤綺凛か」

 

と、唐突に攻撃が止んだかと思えば、フローラが拘束された柱の影からするりと一人の男が現れた。

全身を黒装束に身を包んだ男の声はあまりに人間味が薄い──いや、欠如していた。

自身の命も他の全てにも一切執着も興味も無いとその有り様が示していた。

──綾斗には、それが在りし日の親友に重なって見えた。

 

「……あなたが誘拐犯ですか?」

 

綺凛の問いかけに答えることなく、男はピクリと指を動かした。

その僅かな所作一つで、フローラの影から棘が伸びて喉元に切っ先を突きつけた。

 

「オレの邪魔をすれば、コイツの命は保障しない」

 

「……っ!」

 

それは悪手だ。だが同時にこれ以上ない牽制だ。

もし仮にフローラが害されればこちらを縛る枷は無くなる。

しかしこちらの目的はフローラの生還だ。それが成されなければ意味が無いのだ。

どうすればいい、どうしたらいい?と綺凛が思考の迷路に陥っていると、綾斗が優しくその肩を叩いた。

 

「刀藤さん、一つ聞いていいかな?」

 

「ぇ、あ、はい?」

 

「ここから全速力でフローラちゃんを抱えてどのくらい掛かるかな?」

 

「……へ?」

 

この逼迫した状況下で、尚も普段通りの態度を崩さない綾斗の問いに一瞬思考が止まる。

が、直ぐに持ち直して距離を目算、おおよそのタイムを割り出す。

 

「……八秒です」

 

「ん、なら大丈夫そうだね」

 

答えを聞いて安心したのか綾斗はにこりと笑うと適当な煌式武装の発動体を取り出すと、そのまま起動した。

 

「武器を捨てろ」

 

「ああ、わかった」

 

男の要求に、綾斗はあっさりと応じ武器を男と自分達のちょうど真ん中に行くよう、『放り投げた』。

 

 

 

 

「クローディアには、後で怒られるかな」

 

 

──そう言って綾斗が苦笑いを浮かべたと同時、一際大きな爆発音が暗い部屋に響き渡った。

 

 

 


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