学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

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長らくお待たせしてしまい申し訳ありませんm(__)m


*04 捜索

「しかし、エンフィールドの奴も中々考えたものだな」

 

「……元を作ったのは晶」

 

夜の帳が落ちた六花のビルの森を、二つの人影が駆け抜ける。

晶と紗夜だ。

フローラを誘拐した人物からの一方的な通達から数刻。

二人は念のためにと軽い変装をして再開発エリアへと駆けていた。

 

「エンフィールドが雲隠れした上で、凍結処理の申請をして時間を稼ぐとはな……やはり彼奴は女狐だな」

 

「……でも時間は限られてる」

 

「あぁ、その通りだ」

 

少し焦りの混じった紗夜の一言を肯定する。

『申請には生徒会長の認可が必要』という相手の脅迫の穴を突いた策。

クローディアのこの一策は確かに名案だが、当然彼女もそう長くは雲隠れ出来ない立場にある。

どれだけ長く見積もっても二十四時間が限度だろう。

 

「更に言えば明日は綾斗達も私達も試合がある。そこに間に合わせる事を加味すれば、タイムリミットはかなり短い」

 

「……そうなったら、私とリスティで」

 

「その身体で、やれるのか?」

 

横目で紗夜を見れば、自信有り気に頷くのが見えた。

紗夜とリスティは自ら捜索の参加に願い出てはくれたが負傷している。

正直な所、あまり無茶はしてほしくは無いが……。

 

「分かった……いざという時は任せる」

 

「任せとけ~」

 

頼れる者が居ない以上は、彼女達に頼る他無い。

 

「まあ、その『いざ』が無いように動けば問題あるまい」

 

綾斗とユリス、綺凛とリスティもそれぞれ別々のルートで再開発エリアへ向かっている。

上手く合流出来れば今夜中に決着がつく筈だ。

 

「沙々宮、スピードを上げるぞ。着いてこれるか」

 

「……モチのロン」

 

「よし、では行くぞ」

 

目指すは最良の結末。

二人は速度を上げ、再開発エリアの暗闇の中へと飛び込んでいった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やれやれ、最近はやたらここと縁があるねぇ……」

 

再開発エリアの外縁部にある廃墟となったビルの上で英士郎は一人ぼやく。

本来なら部活などで忙しく、こう言った案件にはあまり関わらないつもりだったが、ビジネスパートナーに頼まれた以上、やらないと言うのも後味が悪い。

 

「しゃあない、他の面子が揃うまでに候補位は絞ってやりますかっと」

 

羽織った制服を風に靡かせてビルの上から飛び降り、手に持った携帯端末から地図アプリを呼び出して周辺一帯の状況を確認する。

 

(相手は手口からして十中八九レヴォルフの黒猫機関。数自体は少ねぇから監視の目の心配は無いと踏んでいい。後は連中の好む『巣穴』をピックアップして案内すりゃ俺の仕事は終わりだな)

 

音も無く、影から影へと駆けていく。

その最中にも五感を使い人の気配を探りながら地図に印を書き加えて目星をつける。

 

(とは言え、ここもそれなりに広いしなぁ……どれだけ絞れるかって話なんだが……ん?)

 

覚えのある気配を感じて一度立ち止まる。

ぐるりと周囲を見渡すと、背後から声が聞こえた。

 

「嗅覚に鈍り無し、か。流石暗部とでも言うべきか」

 

「……なぁんでアンタが此処に居るんですかねぇ?」

 

底冷えするような感覚に震えそうになる声を抑えながら振り返ると、そこには【仮面】が闇から抜き取られたように姿を現していた。

【仮面】は纏う雰囲気とは裏腹に肩を竦めて見せた。

 

「ただの『確認』だ。直ぐに去る」

 

以前聞いた重圧さえ感じる声では無い、少しだけ軽い声音に英士郎は違和感を覚え、微かに眉根を上げた。

それを確かめようと考えたが、既に【仮面】はこちらに背を向けてしまっていた。

 

「もう此処に用は無い…………ああ、そうだ」

 

「?」

 

そのまま立ち去ろうとして【仮面】はふと歩みを止めた。

 

「一つ忠告をしておこう。『目星だけにしておけ、答えは自ずとやってくる』。……ではな」

 

そう言い残して、今度こそ【仮面】は闇の中へと消えていった。

 

「……目星だけ、か。ったく、怖ぇなおい」

 

完全に気配が消えたのを確認して英士郎はガシガシと頭を掻く。

その額には冷や汗が浮かんでいた。

何故、当事者以外知らない筈の情報をあたかも全て知っているような口調であんな忠告をしたのか。

クローディアが教えた?或いは本当に事の全容を知っている?

 

「あぁ、やめだやめだ」

 

回りだす思考を頭を振って追い出す。

確かに気にはなるが、今考えても栓の無いこと。

それよりも目の前の状況をどうにかしなくてはならない。

止まっていた足を再び動かして、英士郎は駆け出す。

脳にこびりつくような『忠告』を反芻して。

 

 

 

 

 

 

「ここも違うか……」

 

「候補が多すぎるのも考え物」

 

「全くだな」

 

紗夜の憮然とした言葉に同意しながら晶は溜め息を吐いて廃墟となったビルを見上げる。

あれから刻々と時間は過ぎ、時刻はすでに二十二時を回っていた。

途中で連絡のあった英士郎曰く、誘拐犯はレヴォルフの暗部《黒猫機関》で間違いなく、余程フローラが抵抗しない限りは手荒な真似はしないだろうとの事だ。

とは言えど、彼女はまだ年端の行かない幼子だ。幾ら星脈世代でも長時間の監禁は負担が掛かる。

 

「……晶、落ち着け」

 

と、眉間に皺を寄せていた晶の頬を紗夜が両手で軽く叩く。

 

「むっ……」

 

「難しい顔をしてる。そういう時、晶は焦ってる」

 

両手を離して背伸びを止め、ピシッと指を突き付けられて晶は一呼吸置いて肩の力を抜いた。

 

「そうだな。沙々宮の言うとおり、焦っていたようだ」

 

「……ん、何時もの顔付き。それじゃあ次に行こう」

 

「ああ……感謝する、紗夜」

 

「いいってことよ~」

 

歩きだす紗夜の姿を見て晶は笑うとすぐに顔を引き締めて携帯端末に開かれた地図を眺める。

共有化によって提示された英士郎の候補は後七つ。

紗夜の言葉通り、焦らず尚且つ迅速に行動しなければ。

 

「晶、次は?」

 

「ここからだと次は……」

 

地図を確認して次の場所を告げようとした所で、不意に端末が着信音を鳴らした。

画面を見て発信者を確認すると、《歓楽街》側から捜索している綾斗からだった。

応答を押すと複数の画面が投影され、綺凛と英士郎の姿も写っていた。

どうやら複数同時通話らしい。

 

『皆、聞こえる!?』

 

『はい、聞こえます』

 

「こちらも問題ない。慌てた様子だが、何かあったのか?」

 

ただならぬ雰囲気の綾斗に、問題が発生したのかと勘繰るが、帰って来た返答はそれとは真逆のものだった。

 

『フローラちゃんの居場所が、分かった!』

 

『本当ですか!?』

 

綾斗の発言と同時に先に展開していた地図に新たな点が加えられる。

 

『おいおいマジかよ、今丁度ここのポイントに着いたんだが、ドンピシャだぞこいつぁ……目星だけってのはこういう事か』

 

画面の向こうで英士郎が苦笑いを浮かべて頭を掻いた。

最後の方は小声でよく聞き取れなかったが。

 

「歓楽街と再開発エリアの境目か……ここからも近いな」

 

「……どうやってここまで絞り込めた?」

 

現在位置からの距離を測る晶の横で紗夜がそう疑問を溢す。

対して綾斗は誤魔化すように笑った。

 

『えっと……ごめん、言えないんだ』

 

『怪我の功名と言うべきか、あるいは綾斗らしいと言うべきか……兎に角居場所はわかった、今はそれで充分だろう』

 

綾斗の隣に立つユリスが強引に話を終わらせるが、確かにフローラの居場所が分かったという事実こそが今は重要だ。

 

「私達も今から向かう。一度施設前で落ち合うとしよう」

 

『わかりました!急いで向かいます!』

 

『了解、んじゃ俺は念のため応援呼んどくわ。近くに居るみたいだしな』

 

『うん、分かった。こっちも今から向かうよ』

 

通話を終えて、一つ息を吐く。

理由こそわからないが漸く見えた光明だ。掴み損ねるわけにはいかない。

 

「よし、行くぞ沙々宮」

 

「りょーかい」

 

合図も無く、二人は駆け出す。

真っ直ぐに、迷い無く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……多少の変化はあれど、これで『規定路線』には乗った、か」

 

その二人の背を眺め、ビルの影から現れた【仮面】は一人呟く。

 

「『今回の』貴様ならば、或いは…………」

 

一陣のビル風が吹く。

その時にはもう、【仮面】の姿はどこにも無かった――。


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