学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

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*04 襲撃、再び

「あー、こほん。そろそろ行くか?」

 

その日の放課後。雑談に興じていた晶、綾斗、沙夜の間に割り込むようにユリスがそう告げると、綾斗は何の話なのか理解したのか頷いた。

 

「ああ、ユリス。よろしく頼むね」

 

「仕方がない。や、約束は約束だからな」

 

(ツンデレか、リースフェルトは)

 

微笑む綾斗からぷいっと顔を背けて言うユリスの姿を見て晶は内心呟く。英士郎が居たなら間違いなく「明日は槍でも降るのか・・・!?」と驚くだろうが、その本人は部活で既に居ない。

 

「・・・約束?」

 

そんな二人のやり取りを聞いて沙夜が疑問を浮かべて尋ねた。

 

「今日はユリスに学園内を案内してもらうんだ」

 

「why?何故?リースフェルトに?」

 

「ほう、私もそれは初耳だな」

 

どうしてそうなった?と言外に視線で訴えると綾斗は、あははと笑って後頭部を掻いた。

 

「まあ、昨日いろいろあってね」

 

「ふむ・・・成程な」

 

その一言で大体の事を理解というか予測をつけた晶は納得した。

 

(凡そ、リースフェルトが面倒に巻き込まれている最中に首を突っ込んで、更に言えば何だかんだ巧く丸め込み、貸し借りの件をこじつけたのだろう)

 

予測どころか九割方的中した答えを経験則から導きだしていた。

 

「そういうワケだ。さあ、行くぞ」

 

「ああ。じゃあ晶に沙夜、また明ーー」

 

「・・・待った。私が綾斗を案内する」

 

ユリスの言葉に立ち上がろうとした綾斗に沙夜はそう宣言した。

晶は沙夜自身が案内するというその言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

沙夜は根っからの方向音痴で、北はどっち?と問えば無言で上を指差すといった、致命的なレベルである。徒歩十分の距離ですら彼女が歩けば徒歩二時間に早変わりしてしまう。かつてアスタリスクの街中を晶が案内した時もフラフラとあらぬ方向へと歩き出し、彼ですら知らない場所へと出た事すらある。そのせいで面倒事に巻き込まれもした。

ハッキリ言って不安だ。

 

「案内くらい私だって出来る」

 

「いや、明らかにリースフェルトに任せるべきだろう」

 

「リースフェルトは仕方がないと言った。なら私がやっても大丈夫だ、問題ない」

 

「寧ろ問題しかなぐふぅ!?」

 

「八十崎!?」

 

朝の内に身に染みて痛感した筈なのに思わず突っ込みを入れ過ぎて、沙夜に再び脛を蹴られる晶を見て、ユリスが驚きの声を上げる。

 

「だ、大丈夫だ・・・リースフェルト・・・それで綾斗、この場合選択権はお前にあるようだが、どうする?」

 

どう考えてもこのままだと平行線となりそうだと思った晶は綾斗へと問い掛ける。実際問題、先に約束したのはユリスとなのだから、沙夜に断りを入れれば後は晶が彼女を宥めすかせば何とかなる。

 

「あら、では私が案内しても問題ないですね」

 

とそこで涼やかな声が割り込んできた。

金糸の如き髪に抜群のプロポーションを誇る生徒会長、クローディアであった。

 

「エンフィールドか。綾斗に何か入り用か?」

 

「貴方にも用がありますよ、八十崎くん」

 

音もなく現れ綾斗の背にその豊満な肉体を押し付けながらクローディアは晶の問いに答える。

その常人ならばそれだけで惚けてしまいそうな流し目を受けて彼女の言葉の意味を理解した晶は呆れた顔を押さえて頷いた。

 

「成程な、委細承知した。あとで諸々の情報は通せよ」

 

「ええ、では後程」

 

「では綾斗、すまんが私はここで失礼する。・・・頑張れよ」

 

「え、ちょ、晶!?」

 

言外にこれ以上援護出来ない、というかしたくない旨を伝えて晶はさっさと手荷物を纏めると教室から出ていった。

後に残されたのは、

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

「・・・うふふ」

 

「・・・恨むよ、晶・・・」

 

狩人の眼光をもった美少女三人に、哀れな小鹿だった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて。どうしたものか」

 

所変わって学園の中庭、そこで晶は携帯端末の画面を見て思案していた。

そこに映っているのは先程クローディアから送られてきたデータだ。今回の襲撃事件の犯人らしき人物のピックアップがされた資料のようだ。

 

「ふむ、大抵の人間はアリバイがあるようだが・・・む?レスター・マクフェイル、ランディ・フックにアリバイ無し、か」

 

だが、と晶は中庭の道を歩きながら思考を深める。

 

(どうにもおかしい。確かにマクフェイルはかつてリースフェルトに決闘で負けてからと言うものしつこく彼女に再戦を申し込んでは拒否されていた。だが、マクフェイルが今回のような不意打ちをするとは思えん。あの男はあれでいて義理をしかと持っている。取り巻きのランディ・フックについてもそうだ。外見こそズル賢そうに見えるが、その実単純だ。あのような真似は出来んだろう・・・)

 

レスター・マクフェイルは二メートル超えのガタイの良い男で、性格は正しく猪突猛進を絵に描いたような直情的な奴だ。対してランディ・フックは小太りな男で、性格は単純明快にしてレスターに絶対的な信を置いている。

二人とは何度か言葉を交わしているし、今回の騒動のような事をするとは晶は思えなかった。

 

(ん?いや待て・・・確かマクフェイルの取り巻きはもう一人いた筈・・・名前は、と)

 

不意に過った疑問に携帯端末を操作していると何時の間にやらユリスと沙夜が中庭に現れていた。相変わらず空気感は嫌悪のようだが。

二人に気が付くのと同時、彼方も晶に気付いたようだ。

 

「む、八十崎か」

 

「二人揃ってどうしたのだ?綾斗の案内は?」

 

「一通り回って休憩中。綾斗は飲み物買いにいった」

 

「お前は案内なぞしてなかっただろうが・・・!」

 

ドヤ顔で言い放つ沙夜にユリスが拳を震わせる。

端末の時計を見れば確かに一通り回れる程度には時間が経過していた。

 

「すまんなリースフェルト、沙々宮はこの通りマイペース過ぎてな」

 

「まったくだ・・・」

 

ここに来るまでに苦労したのだろう、ユリスから疲労感がありありと見てとれた。

 

「しかしまあ、奇特なモノだな」

 

「何がだ?」

 

「いや何、あのリースフェルトがたった二日でこうも丸くなるとはな、とな」

 

「べ、別に丸くなどなっておらん!これは綾斗に頼まれたからであって、ついでに言えば先日の借りもあるからしたまでで・・・!」

 

((ツンデレだ))

 

晶と沙夜の内心がシンクロした瞬間であった。

赤面、腕組み、そっぽ向きにこの言動、これをツンデレと言わずして何というのか。

 

「そして何時の間にやら名前で呼んでいるしな」

 

「なっ、いやそれは綾斗からそう呼べと言われてだな!?」

 

「・・・ツンデレ乙」

 

「沙々宮ぁ・・・っ!」

 

「ふむ」

 

「おっと」

 

言い合いが始まろうとしたところで三人は同時にその場から跳び退る。

次の瞬間、晶達が立っていた場所に光の矢が突き立った。

 

「昨日のヤツのようだな・・・噴水の中からとは一発芸でもしているのか?」

 

「そんなこと言っている場合か!攻撃してきた以上は片付ける!」

 

中庭の中心にある噴水からその姿を現した襲撃犯はしかし身を覆い隠すようなマントを頭から被っており、素顔が見えない。

それについては良しとして、晶は考える。

 

(確かにここは待ち伏せを上手く出来るような障害物は少ない。しかしだからといって噴水の中で何時来るかわからない人間を待ち続けられるか?いや、それこそ今朝の擬形体説が有効となるか。ならば)

 

クロスボウ型の煌式武装を構えた襲撃犯を睨み、晶は地を踏み締める。

 

「リースフェルト、沙々宮、ヤツは私に任せろ。二人は『他』に気を配れ」

 

「なっ、おい!?」

 

言うだけ言って駆け出した晶に驚き止めようとするが、既に彼は襲撃犯の懐に飛び込んでいた。

 

「起きろ、《闇鴉》」

 

開いた左手に、万応素が集い刹那を以て妖刀が顕現する。同時、《闇鴉》の鞘に刻まれた紋様が仄(くら)く光り出す。

襲撃犯のマントから覗く目と晶の鋭い眼光が交錯し、そして。

 

「裂け。月見山茶花(ツキミサザンカ)」

 

神速の抜刀による斬り上げが襲撃犯の煌式武装を弾き飛ばした。

成程、と晶は誰に言うでもなく小さく呟いて、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「八十崎!」

 

ユリスの声に斬り上げの勢いを利用して飛び上がり、襲撃犯を蹴り飛ばして距離を取る。

すると一瞬前まで晶が居た所に斧型煌式武装の刃が轟音と共に振り下ろされていた。

 

「ナイスフォローだ、リースフェルト」

 

「軽口を叩くのは後だ。直ぐにでもーー」

 

「どーん」

 

轟ーーッ!!

 

勢い込むユリスの言葉に被さるように沙夜のマイペースな掛け声がかかり、直後、噴水が爆発した。

 

「な、な、なぁ!?」

 

「・・・やりすぎだ、沙々宮」

 

「ふっふっふっ、ぶい」

 

「いやブイじゃないが、ブイじゃ」

 

ユリスがあまりにもあまりにな光景に声をつっかえさせる横で、晶は溜め息を盛大に、これ以上無いほど吐いて沙夜の頭を小突いた。

《三十八式煌型擲弾銃ヘルネクラウム》、それが沙夜の持つ銃の名だが、最早銃と言うより大砲に片足を突っ込んだようなその銃口からは星辰力(プラーナ)の余剰エネルギーが煙のように上がっていた。

噴水、だった物はもう既に基底部分がほんの少し残っているだけで、そこから間欠泉のように水を吹き上げ、周辺をしとどに濡らす。

 

「成程、どうにも頑丈に『出来ている』らしいな」

 

《闇鴉》を消してそう呟く。

回避の間に合わない絶妙なタイミングでの一撃だ。常人ならまず間違いなく命は無い。星脈世代でも、耐えられるのは恐らく極一部だろう。

だというのに襲撃犯はまるで何事も無かったかのように立ち上がると止める間もなく木々の中へと消えてしまった。

 

「なんとまぁ、丈夫な連中だ」

 

「まさかあれを耐えるとは」

 

呆れるでもなく、寧ろ感心したようにユリスと沙夜は口々に言う。

それをチラと見て晶は頭を掻く。遠くから見知った人影が来るのが見えたので先んじて言っておこう。

 

「ところで、だ。沙々宮、リースフェルト」

 

「何だ」

 

「?」

 

「制服の上着はちゃんと着ておけよ?ではな」

 

注意は促した、後は綾斗に丸投げしようそうしよう。

半ば諦めた表情でそう言い残して晶はその場を走り去る。

直後、制服を濡らした少女の悲鳴と、青年の驚く声が聞こえたが、晶は敢えて聞こえなかった事にした。

今から戻れば確実に焼死体にされる。この歳で火葬なんてごめん被りたい。

 

「しかしまあ、収穫はあったな」

 

寮までの道をジョギング程度のスピードで走りながらくすりと笑う。

 

 

 

 

 

その制服の懐で、黒光りする煌式武装がカチャカチャと音を立てていたーー。

 


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