学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

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code5 Another way
*01 城塞


「しゃあぁっ!」

 

「ぬぅん!」

 

ズシリ、と内臓に響くような音が鳴り渡る。

音の出所を見た観客たちは訳がわからないという顔になる。

それもその筈。

何をどうすれば巨大なハンマーと拳が打ち合って相殺できるのか。

 

「ああもう、かったいなぁ!」

 

「我輩にすれば貴殿の拳こそ強固極まりない!」

 

再度、爆音が鳴る。

ジェットブーツが唸りを上げて鋭い蹴りを放つが、アルディはそれに一瞥もせず防御障壁で防ぐ。

それすら折り込み済みだったのか、リスティは止められた脚を軸にジェットを噴射、身体を捻り拳を叩き込む。

 

「ぐ、ぬぅ!」

 

防御障壁を事実上無視する《裏打ち》によってアルディの右肩の装甲が潰れる。

そこで強引に追撃をすること無くリスティはバク転して一度距離を取った。

 

「ふむ、追撃せぬのか」

 

「やったら強引に引き剥がそうとするつもりだったでしょ?」

 

「ほう……」

 

何故、というニュアンスの籠ったアルディの声にリスティは肩を竦めて首を振った。

 

「一手前より確実に反応速度が上がってたし……大体、『人間』とは違った動きが出来て当然なんだから多少は警戒するよ」

 

そう、アルディもそして紗夜と弾幕シューティングよろしく撃ち合っているリムシィも高度な知能(AI)を持った擬形体。

一度受けた攻撃を学習し、対応パターンを思考する速度は人間を上回る。

さらに人間とは違い、躯体が幾ら壊れようが代えがきくのだから人体におけるリスクを無視した動きが可能なのは明らかだ。

 

「成程、そこまで読まれていたか」

 

「まあ大体は勘なんだけどね!」

 

「……なんと」

 

あっけらかんとドヤ顔でそう宣ったリスティにアルディは唖然とした声を出す。

勘、という言葉は知っている。それがどういった意味のものかも。

だが、そんな不安定な物を頼りに彼女は戦っているという。

 

「まっこと、人間とは面白い!それでこそ闘い甲斐があるものよ!」

 

それを知ってアルディは大笑する。

彼にとって、予想外や想定外は歓喜する事柄だ。何故ならそれを知り、糧とすることで自身は更に強くなれると思考しているからだ。

 

「ならばこそ!貴君らのような強者に『このまま』では失礼であろう!」

 

「このまま……?」

 

アルディの言葉にリスティは警戒を強めた。確実に何かある。

 

「ふっふっふ……さぁリムシィ、今こそ『アレ』を披露するのである!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「却下」

 

即断即決どころか予め用意していたような速さでリムシィはアルディに一瞥もくれずに提案を切り捨てた。

端から見てもあまりに酷な対応にアルディががくりと肩を落とす。

 

「なぜであるか?」

 

「そのない頭で少しは考えなさいこの木偶の坊。この状況でそんな真似をする必要性がないでしょう。なによりその決定権は私が持つ物であなたにはありません」

 

マシンガンの如く叩きつけられた正論にアルディは悲しみのあまりうなだれてしまった。

これには紗夜も若干哀れみを覚えてしまった。

とはいえ、それはそれだ。

相手が何か手を出してこない以上、その一手を打たれる前に決着を着けるべきだ。

 

「…………っ!」

 

リムシィが左手に持つ大型の銃型煌式武装《ルインシャレフ》から放たれる怒涛ような光の奔流をローリングで回避しながら舌を打つ。

続けて右手の銃から雨のように光弾が降り注ぐも、《ヴァルデンホルト》を盾がわりにしながら凌ぐ。

紗夜のポテンシャルとリスティのバトルスタイルからして彼女らを相手に長期戦など論外だ。

 

(なら、やれるときにやる……!)

 

《ヴァルデンホルト》はまだ発射後の強制冷却が終わっていない。

かと言ってこのまま攻撃を一方的に受けるのも癪と言うもの。

ならば、多少無理にでも押し通るべきだ。

覚悟を決めると、迷わず袖口から一本の発動体を取り出しながら、リムシィへ向かってチャージ半ばの《ヴァルデンホルト》の砲口を向ける。

 

「……シュート」

 

「自棄でも起こしましたか?」

 

冷却もままならず、半端な威力で撃たれた光弾は当然、リムシィの放つ光弾に押し負け爆る。

だが、それこそが紗夜の狙いだ。

即座に発動体を起動、《ヴァルデンホルト》とはまた違ったシンプルな外見のそれのグリップを握り、マナダイトに『火を入れる』。

 

「……なるほどそれが、奥の手、と言うわけですか」

 

紗夜が両手に担ぐあまりにも巨大な砲を見てリムシィの目が細まる。

 

「特十一式煌式粒子単装砲《エンディミオン》」

 

ヴァルデンホルトとは違う、白とグレーで彩られた砲身。されど雄々しい威圧感を放つその砲口の奥に星辰力の焔が灯る。

 

「ふふ……そうですか。なら、いいでしょう。もう一度力比べと参りましょう」

 

リムシィはそう言って笑うと、地上に降り立ち、左腕のルインシャレフを構える。

飛行用のエネルギーをルインシャレフに回す為だろう。

文字通り、力比べをするつもりだ。

 

「……エネルギーライン、全段直結。リミットリリース」

 

「ルインシャレフ、最大出力」

 

互いの砲口から眩い輝きが収束していく。

収束し、圧縮し、粒子運動を加速。

溜め込まれたエネルギーが暴れようともがくのをギリギリのラインで調節して抑える。

輝きは更に強まり、地上に二つの魁星が顕れる。

そして、その輝きが。

 

「……ディバインランチャー・零式」

 

「発射!」

 

衝突した。

発射の衝撃で地面を抉りながらも態勢を整えて紗夜は光弾の行方を見る。

エンディミオンから放たれた高密度に圧縮された光弾がリムシィのルインシャレフから発射された光の奔流に真っ向から撃ち当たり、打ち消した。

 

「なんっ……!?」

 

信じがたい光景を目にしながらもリムシィは身を翻し、回避しようと動き出す。

だが、そうするには遅すぎた。

 

「どっかーん」

 

紗夜がそう声を上げた直後、リムシィは薄緑の巨大な光の中に飲み込まれた。

吹き上がる爆風と衝撃がステージの障壁は愚か、アリーナ全体を揺らす。

観客席からは悲鳴があがり、実況と解説の声すら聞こえない。

 

「……やっぱり、これは疲れる」

 

排熱煙を噴き出すエンディミオンを担いで、紗夜は収まりつつある光を見ながら愚痴る。

《ディバインランチャー・零式》。

紗夜の父が提唱するロボス遷移方式を最大限利用した、晶が考案し、紗夜が形にした砲術式。

ロボス遷移方式によって圧縮形成された光弾を更に圧縮し、粒子を加速。それを発射の際バレル内部で臨界まで高めて対象にぶつけ、爆発させる。

その威力は、今目の前に広がる惨状が物語っている。

 

爆心地には巨大なクレーターが出来上がり、床は軒並み捲れ上がるか砕け散っている。

壁も同様、罅が入っているだけで済んでいるならマシな方だ。

これが、リムシィ達が立っていたステージ半分の現状だ。

 

「……っ」

 

爆風が収まり、リムシィの姿が顕になる。

爆心地で左腕をだらりと下げ、苦悶とも悔しげとも取れる表情で膝を突いている。

しかし、紗夜はそんな光景に首を傾げた。

 

(アレをくらった割には、ダメージが少なすぎる)

 

ステージの半分を優に吹き飛ばす威力なのだ。左腕と多少の傷で済む筈が無い。

だが現にリムシィはその程度のダメージしか受けていないのだ。

彼女に防御用武装は無かった。であるなら、考えられるのは一つ――。

 

「ふははは!正に間一髪であったな、リムシィ!」

 

鉄壁を持つ、もう一人(アルディ)が間に入ったと言うことだ。

 

「先輩、ごめん!止めらんなかった!」

 

クレーターの縁から、リムシィを守るように立つアルディを見ていると、リスティが駆け寄ってきた。

 

「あんな瞬発力があったとはね……てか、あの障壁、遠くにも発生できるとか、聞いてないんですけどぉ!?」

 

インチキだー!と癇癪をおこすリスティをチョップで黙らせ、紗夜は油断なくアルディ達を見据える。

リムシィの武器は損壊、躯体にもそれなり以上のダメージがある。アルディもリスティの『裏打ち』によるダメージが目に見えている。

状況は此方の優勢に見えるだろうが、それはあくまでそう見えるだけだ。『確実』ではない。

 

「……認めましょう、貴女方の実力を」

 

現に、彼らは擬形体という躯を示すように未だ立ちはだかっている。

そして、まだ手があるのだと。

 

「ですので、此方も全力で行くとします……アルディ、不本意ではありますが、貴方の提案を承認します」

 

「ふ、ふははは!そう来なくてはなぁ!」

 

「第一外部装甲、各種煌式武装並びにACMユニットパージ。リミットコントロールを〔AR-D〕へ委譲」

 

リムシィの身体から飛行ユニットと装甲が外れ、更に複数の煌式武装が顕現し宙に浮く。

 

「いざ、いざいざいざ!接・続(コネクト)ォ!」

 

そして、アルディの叫びに呼応するようにそれらが一斉に彼の躯体へと殺到する。

展開された装甲へ飛行ユニットや煌式武装が装着されていく。

 

「ちっ!」

 

あの動作が完了したらマズイ、と本能で感じとったリスティがジェットブーツの残光を牽きながら加速する。

 

「グラン――ウェイブ!」

 

その勢いのまま強烈な蹴りを放つのとアルディの躯体から蒸気のような白煙が上がったのは同時だった。

ドンッ、重低音が響く。

 

「楠木……!」

 

一瞬の静寂に、紗夜の焦り声が零れる。

と、白煙の中から弾かれるようにしてリスティが大きくバク転をしながら紗夜の隣に降り立った。

 

「仕留めきれなかった……っ!」

 

舌打ちしてリスティは白煙を――その中にある存在を睨む。

紗夜もつられて視線を移すと、白煙が薄らぎ、隠されたものを露にした。

 

「接続完了――」

 

これまでの彼(アルディ)を『鉄壁』と称すなら、今紗夜たちの目の前に立つ彼は――。

 

「さあ、ここからが本番である!」

 

『城塞』と呼ぶに相応しい。

リムシィの武装との合体を果たしたアルディが青く染まった光を総身から溢れさせ、意気を示さんと鉄槌を振るい上げた。

 

「……これは、厄介そう」

 

「ですね……。でもまぁ」

 

そんな彼を見て紗夜は眉根を寄せるが、リスティは逆に口元を歪めた。

 

「面白くなってきた……!」

 

獰猛な獣のように。

戦闘狂なパートナーのスイッチが入ってしまったことに紗夜は呆れながらも笑った。

どうやら自分も感化されてしまったらしい。

排熱とリチャージを完了したエンディミオンを担ぎなおし、レティクルをアルディに合わせる。

そうとも。臆する暇など、こちらには無いのだから。

 

「……援護は任せろ」

 

「ははっ!それじゃあ、行きますかァ!」

 

目指すは鉄の城塞。

今、第二ラウンドの幕が静かに上がった。


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