学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

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*10 本気

『はいはーい、皆様大変長らくお待たせしました!《鳳凰星武祭》準々決勝第三試合、いよいよスタートです!実況は私、梁瀬ミーコ!解説はチャムさんでお送りします!』

 

『どもッス。いやぁ、待たされた分、観客の皆さんのボルテージもかなり上がってるッスね』

 

『それもその筈、今試合は《鳳凰星武祭》の中でも注目のカードですからね!』

 

『星導館の《凶拳絶脚》、楠木リスティ&沙々宮紗夜選手ペアに、特例による代理出場ながら圧倒的な性能を見せ付けるアルルカントのアルディ&リムシィ選手。お互い殆ど無傷でここまで来てるッスから……この試合、面白くなりそうッスよ?』

 

「――へぇ?期待はされてるんだ、私ら」

 

歓声に紛れて聞こえる実況と解説の声を聞いてリスティは以外とばかりに首を傾げた。

その両手足には既に〔ディオエイヴィント〕と〔ディオラウンジプル〕が装着されていた。

 

「……流石に煩い」

 

煩わしげに眉を潜めながら、紗夜は対峙するアルディとリムシィを睨む。

歓声が落ち着いてきた所でアルディが仁王立ちのまま声を張り上げた。

 

「聞くがよい!今回も貴君らには一分の猶予をくれてやろう。その間我輩たちは一切攻撃を行うことはない。存分に仕掛けてくるがよい!」

 

およそ擬形態とは思えぬ感情の入った言葉は見た目に反し、ある意味で人間らしい。

 

「案の定の提案、か……んじゃお言葉に甘えますか。沙々宮先輩、そっちお願いしますね」

 

「了解した……楠木」

 

「なんです?」

 

「――勝つぞ」

 

紗夜のストレートなエールに拳を掲げて、リスティはアルディの巨躯を見据えてニヤリと笑った。

 

 

『《鳳凰星武祭》準々決勝第三試合、試合開始!』

 

 

ブザーが鳴り響くや否や、彼我の距離をジェットブーツの加速で詰めたリスティの蹴りがアルディに炸裂する。

しかし、その攻撃はこれまでの試合と同様、

 

「やっぱ無理か~」

 

「無駄である」

 

絶対防壁と呼ばれる小さな光の壁に阻まれてしまう。

 

「まあ、これくらいじゃ駄目だよね、うんうん」

 

ふわりと地面に降り立ち、仁王立ちのまま変わらぬアルディの前でリスティは楽しげに頷く。

 

「意外だな。楠木リスティ、貴君が来るとは」

 

そんな事をしていると、アルディが驚いたような声音でリスティを見た。

 

「……ん?ああ、アンタの防壁(それ)を破るには、近接一辺倒の私じゃ相性悪いとか予想した?」

 

「然り。さらに言えば貴君の得物はどちらも量産品の煌式武装だ。その程度の出力では我輩の防御障壁を抜くことはできまいよ」

 

それが当然だと言わんばかりに胸を張るアルディにリスティは挑発じみた言葉を受けたと言うのに相変わらず笑ったままだった。

 

「確かにねぇ。事実、蹴りじゃ傷一つついてないしね。普通の方法じゃ無理だねこれは」

 

困った困ったとリスティは肩を竦めたかと思えば今度は剛拳を構えた。

 

「でもさぁ、『普通じゃない方法』ならワンチャンありそうじゃない?」

 

「……む?」

 

獰猛に、まるで獣のように口を歪ませて己が星辰力を高める。

後ろに引き絞られた右拳のディオラウンジプルの廃熱口から煙が吹き上がる。

 

「ってなワケで。一発受けてみなよ……っ!」

 

拳が放たれる。

当然、それは展開した防御障壁に阻まれ静止する。

しかし次の瞬間――アルディの躯体が『後ろにずれた』。

 

「ぬ、お……!?」

 

驚愕しながらも体勢を立て直すアルディ。

その腹部の装甲は、拳大ほどの大きさに凹んでいた。

 

「――人間、なめんな」

 

してやったり、と挑発的な笑顔を浮かべてリスティがそう言った途端、会場全体を揺らすほどの歓声が沸き上がる。

 

『お、おぉーっとぉ!つ、ついについに!今まで傷一つつかなかったアルディ選手が攻撃を受けましたぁ!楠木選手、一体どんな奇策を打ったのでしょうかぁ!?』

 

「一体、どういうことであるか……?我輩は確かに貴君の『拳を止めた』筈……」

 

声を張り上げる実況を余所に、アルディは自身の腹部を見て唖然としていた。

対してリスティは相変わらず笑ったまま首をコキリと鳴らす。

 

「さて試運転はこんなもんでいいっしょ。……そんで?まだ無抵抗を続ける気?だとしたらアンタは負けるけど」

 

一歩、距離を詰めて再びリスティの拳が撃たれる。

そしてそれは展開された防御障壁に阻まれる。先ほどの焼き直しのような光景。

そして今度は左腕の装甲が鈍い音を立ててひしゃげた。

 

「――どうする?」

 

「……うむ」

 

リスティの問いに、アルディは自らの武器を振るう事で答えた。

ハンマー型の煌式武装が側面から襲い来るが、それを剛拳を叩きつけて止める。

 

「お見事!その武、確かなモノであると認めざるを得ん!……無礼を侘びよう、楠木リスティ」

 

『な、なんとアルディ選手、自ら攻撃を仕掛けました!宣言から五十二秒!一分経過していません!』

 

互いの武器をぶつけ合わせたまま、睨み合う。

 

「無礼を侘びた上で聞きたい。どうやって我輩の防御障壁を抜いたのだ?」

 

「簡単に言えば防御障壁は絶対では無いってことだよ」

 

物騒な光景とは裏腹に気軽な雰囲気でリスティが空いた左手をプラプラと揺らす。

 

「ヒントならアリーナ(ここ)で試合を生で見てれば沢山あった。防御障壁が阻めないモノ。それは『振動』だよ」

 

「何……?」

 

「ま、正確には振動を障壁の裏から通しただけなんだけどね」

 

「……これはまた、奇怪な」

 

自分こそその奇怪の塊でありながらアルディはそう口にせざるを得なかった。

彼女はさも簡単そうに宣ったが、『裏打ち』と言う技術はそんなあっさり獲得し、実践に移せるモノではない。

眼前の人間にある種の畏怖のような感覚を覚えながら、ハンマーを握り直して構える。

リスティもそれに応えるようにしてジェットブーツとナックルを構えた。

 

「星導館学園《凶拳絶脚》、楠木リスティ」

 

「アルルカントアカデミー、アルディ!」

 

「「いざ参る!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わお、どっ派手ー」

 

一方の紗夜はアルディとリスティのぶつかり合いを横目に見て人前では珍しく笑っていた。

 

「理解できません」

 

その姿を見て、リムシィは一言口にする。そこには疑問がありありと含まれていた。

 

「何故、貴女はこの一分間、一度も攻撃をしなかったのですか」

 

驕りや見下しでは無く、純粋に理解できないと思考回路が出した答えを言葉として吐き出す。

主にアルディ(相方)のせいで一分間も相手に猶予を与えたというのに、攻撃のチャンスは幾らでもあったのに、何故……眼前の少女は引き金に指をかけるどころか煌式武装を展開しなかったのか。

 

「……それだと、『意味がない』。何も」

 

「は……?」

 

「別におまえたちがどう思おうが関係ない。私はただ本気のおまえたちと闘いたかっただけ」

 

そう言い切って紗夜は漸く煌式武装の起動体を手にする。

直後、リムシィが両手に持つ巨大な銃型煌式武装が人外の速度で引き金を引いた。

その様はまさに嵐と言える。

紗夜は焦ること無くそれをかわすと、煌式武装を起動する。

 

「四十一式煌式粒子双砲ヴァルデンホルト」

 

持ち主の呼び声に応え、身の丈を優に超える巨砲が顕現し、その両の砲門に光を灯す。

展開と同時に星辰力を注がれたマナダイトがバレルにエネルギーを溜め、臨界へ至る。

 

「……バースト」

 

尚も襲い来る光弾を掻い潜って放たれるは青白い光弾。

微妙にタイミングをずらした発射により、光弾の一つがリムシィに直撃、臓腑を揺らすほどの爆発が上がり、躯体をステージ端まで吹き飛ばし、壁にクレーターを作る。

凡そ『人に向けていい火力ではない』。

突き抜けた破壊力を見せ付けて、紗夜は舞い上がる土煙の奥へ砲口を向けて、紗夜は告げる。

 

 

 

「本気で来い」

 

 

土煙の中で、機械の眼が紅く輝いた。

 

 

 

 





今回で原作第四巻でのお話は終了です。
キャラ設定の後、五巻目のお話にする予定ですm(__)m

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