学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

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今回短めです。m(__)m


*09 二人目の理由

「先輩、お疲れ様でした」

 

「ああ。綺凛こそ、良くやってくれたな」

 

試合終了後、勝利者インタビューもそこそこに切り上げて晶と綺凛は待合室のソファに腰を下ろすと互いを労った。

 

「正直……綺凛の《真眼》が無ければ今回は危なかった」

 

「先輩の特訓のおかげです。つまり二人の勝利です!」

 

ニコニコと朗らかに笑う綺凛につられて晶も口許を緩める。

 

「そうだな。私たちの勝ちだ」

 

とは言え、それも薄氷の上での物だとお互い内心で自戒する。

もし仮に綺凛の《真眼》、その習得が出来ていなかったらこの試合は負けていた可能性が高い。

《真眼》による逆不意打ちからの相手ペースの崩しが奇跡的に噛み合ったからこそ、勝てたと言うべきだろう。

 

「綺凛、眼の方は大事無いか?」

 

「あ、はい。軽い疲れ目だけで、少し休めば大丈夫です」

 

「なら良かった。幸い、今日はもうここを使う者も居ない。時間ギリギリまで休むとするか」

 

晶はそう提案すると、傍らに置いてあったショルダーバッグから目薬を取り出すと綺凛に渡す。

 

「これは?」

 

「念のためにと思って、医者から貰っておいた目薬だ。使ってから少し休むといいだろう」

 

「あ、ありがとうございます」

 

綺凛は一礼して、早速それを開けて目に差すと薬効によるスーっとした感覚に気持ち良さそうに目を閉じる。

 

「~~っ!目薬は初めてですけど、気持ちいいですね」

 

「初めての割には全く警戒していなかったな……」

 

妙なところで思いきりのいい綺凛に苦笑してしまう。

 

「あ、あの、先輩」

 

「ん?何だ?」

 

と、そこで綺凛がおずおずと手を上げて此方を見る。

どうしたのかと聞くと、綺凛はおもむろにソファから立ち上がると晶の横に座り、その顔を見上げた。

 

「えと……」

 

――のは良いのだが、その先の言葉が出てこない。

しかしもうお互いアイコンタクトで作戦をやりとりするような仲なので、晶も何となく言いたいことを察してしまう。

少しの気恥ずかしさはあるが、一番の功労者のお願いだ。受け入れなければならないだろう。

 

「……薬も馴染んだだろう、少し横になるといい」

 

そう言って太腿から手を退けてスペースを空けると、綺凛は顔を赤くしながらもそこに頭を下ろして横になった。

 

「男の膝枕なと、寝心地が悪いだけではないか?」

 

らしくない事をやっている自覚から、少しむず痒さを感じつつ問い掛けると綺凛はリラックスした様子で晶の目を見た。

 

「いえ……先輩の膝、なんだが安心します」

 

(なんだこの愛い生き物は)

 

気の抜けた笑顔で見つめられ、晶はたまらず目元を押さえて天を仰いだ。

これはまずい、破壊力が高すぎる。

イレーネの照れ顔もそうだが、綺凛のこれも晶にとってはかなり『クる』ものがある。

 

「そ、そうか……」

 

妙な沈黙がながれ、そんな空気を変えようと端末を取り出して他の試合を見ようとした所で、慌ただしいノックの音が響いた。

 

『おい、晶いるか!』

 

「夜吹か……?開いているぞ」

 

ただならぬ雰囲気を感じ、部屋に招くと相当急いで来たのか、額に汗を滲ませた英士郎がドアを開けて入ってきた。

 

「ああくっそ遠いわ。向こうから此方まで……うちの会長は人使い荒すぎるぜ、ってウォイ何してんだ!?」

 

「今は気にするな。それで、どうした?お前がそんなに焦るなど、滅多にないだろう」

 

晶の状態を見て驚く英士郎を手で制して、何故ここに来たのかを問う。

綺凛も余程の事態と捉えたのか起き上がり姿勢を正した。

 

「エンフィールド生徒会長に頼まれてな……シリウスドームから走って来たんだよ。通話じゃなく、直接会って伝えてこいってな」

 

「シリウスドームだと……」

 

肩を竦める英士郎に晶は彼が言わんとしている事を理解した。

 

「そこって確か今日――」

 

「ああ、別グループの準々決勝が行われた場所さ。沙々宮と楠木が出た、な」

 

英士郎の言葉に晶は端末を操作して今日の対戦カードを見る。

そして、ある一点で視線が止まった。

 

 

「対戦相手は例のアルルカントの擬形体。結果は――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を少し遡り、準々決勝前のシリウスドーム。

前日の試合で一部破損したステージの修復に少し遅れが出たため、少々長い時間をリスティと紗夜は控え室で過ごしていた。

 

「あー、待ち時間長いなぁ……まるで過疎ってるブロックの緊急クエにぶちこまれた気分だよ」

 

「……たまに楠木はよく分からないことを言う」

 

退屈そうにシャドーボクシングをするリスティに紗夜は見向きもせず、ソファに座って得物である煌式武装の発動体の数々を手に取っては布で拭いていた。

 

「まあ暇ってことですよ。折角面白そうなのが相手なのに、お預けくらってるんですもん」

 

「……楠木は本当にバトルジャンキー」

 

「はっきり言うなぁ……その通りなんですけどね」

 

ざっくりとした言葉にリスティは苦笑いを浮かべるも動きを止めない。

そんな彼女に紗夜は発動体を全て制服の内に仕舞いこんで、常々訊きたかったことを口に出す。

 

「……そういえば、楠木の戦う理由を聞いていなかった」

 

「あー……確かに言ってなかったですねぇ」

 

拳をピタリと止めて、リスティは頷く。

前回の試合前にリスティは紗夜の戦う理由とその真意を聞いている。

それに対して自分の事を話さないのはある意味不公平だろう。

リスティはそう納得すると紗夜の横に座る。

 

「……やっぱり、強い奴と戦うため?」

 

「まあ、確かにそれもありますね。純粋に誰かと戦うっていうのが楽しいですし」

 

「……別の理由もある?」

 

紗夜の言葉に頷いて、リスティは虚空を見つつ話し出す。

 

「私、こう見えて昔は身体がすっごく弱かったんですよ。十分くらい歩いただけで直ぐ倒れるような。嘘みたいでしょ?」

 

「……そうは思えない」

 

「でしょ?でも実際そんなんで両親からもあまり出歩くなって言われてたんです。何でも、大気中の万応素に身体が過敏に反応しちゃう病気だったそうで。まぁ今は完治したんですけど」

 

「……」

 

「それが原因で小学生の頃苛められてまして。だから、そいつらを見返してやりたいんです。その上で」

 

「その上で?」

 

「ずっと好きな人に告白する!!」

 

強く、叫ぶようにそう宣言したリスティに紗夜は呆気にとられたように目を見開く。

 

「――それが私の願いです。だから、この願いは誰かに叶えて貰う必要は無い……私が自分で叶える願望(ユメ)ですから」

 

「……そうか」

 

明るく笑うリスティを見て、紗夜もつられて笑みを浮かべる。

願いは違えど、その思いは同じだと解ったからだ。

そう。この願いは自分で掴まなければならない夢なのだから。

 

『ステージの修復が完了しました。次の試合の選手はステージ入場口までお越し下さい。繰り返します――』

 

「っと、やっとお呼ばれですか」

 

「……ん」

 

アナウンスが流れ、リスティと紗夜は煌式武装の発動体を携えるとソファから立ち上がる。

そこで紗夜がリスティに声を掛けた。

 

「……『リスティ』」

 

「え?」

 

「……全力で行こう」

 

「――ふふっ、りょーかいっ」

 

コツンと拳と拳を合わせ、決意と覚悟を胸に二人は歩き出す。

その先に居る、強敵へと向かって。


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