学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

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今回短めですm(__)m


*06 背中

「天霧様と姫様、大丈夫でしょうか……」

 

空が茜に染まりだした、夕暮れ時。

雑多にビルや店が立ち並ぶ商業区を歩きながらフローラがぽつりと不安を溢した。

 

「大丈夫さ。少し話をしているだけだ、そう不安がる事はない」

 

そんな彼女に歩幅を合わせて歩いていた晶は落ち着かせるためか、普段よりも穏やかな声音で語る。

あの後、綾斗がころなーー正しくはディルクの誘いを承諾、警戒したユリスも同行する事になった。

二人が行くうえに、フローラを一人にする訳にもいかないので、こうして晶がフローラを街の案内がてら宿泊しているホテルまで護送する流れになったのだ。

 

「それに、あの二人がそう易々とやられると思うか?」

 

「お、思いません!」

 

「だろう?なら、信じて待っててやればいいさ」

 

自販機で買ったペットボトルのジュースを渡すと、フローラは「いただきます」と礼を言ってそれを開けてこくこくと飲む。

晶としても、ディルクの人柄はよく知っている。何でも屋の依頼で何度か顔も合わせているからだ。

それを踏まえてみても、今回は本当に『ただの話』、なのだと確信している。

例えそれによって綾斗に何かしら心が揺れたとしてもパートナーであるユリスがフォローを入れるとも。

 

「さて、あらかた商業区も回ったことだ。そろそろ戻るか?フローラ」

 

おおよその店を見て回り、時間もいい塩梅なのでそう提案すると、フローラは何か気になるのかある一点を指差した。

 

「あのお店はなんでしょうか?」

 

「ん……?」

 

指差した方向に目を向けると、周りの店とは違い派手な色合いとごちゃごちゃとした音が聞こえる場所があった。

 

「ああ、彼処はゲームセンターだな」

 

「げぇむせんたぁ?」

 

「そうだ。行ってみるか?」

 

晶の言葉にフローラは勢いよく頷いたので、その手を取ってゲームセンターへと歩いていく。

入り口前には中にぬいぐるみが入ったUFOキャッチャーが幾つかあり、軽快なメロディーをならしていた。

元いた世界に比べ、技術レベルが優れたこの世界ではあるが、俗に言う格闘ゲームやこれといった筐体は未だに廃れること無く存在している。

 

「ふわぁ……何だかすっごく賑やかです!」

 

「中はうるさいくらい賑やかだぞ」

 

防音ガラス越しにすら聞こえる店内の音に、フローラは怖じ気付くどころかむしろ楽しそうにしていた。

やはり、子供は未知なものに興味を惹かれるのだろう。

その様子を見て、いざ店内に入ろうとした所で知った顔が店の中から出てきた。

 

「もうっ、お姉ちゃんったらすぐ喧嘩腰になるの悪い癖だよ」

 

「だから悪かったって…………ん?」

 

揃って同じ赤髪。されど纏う雰囲気は真逆の二人がこちらに気付く。

面白い偶然もあったものだと思いながら、晶は二人に手を上げて挨拶する。

 

「こんにちは。奇遇だな、イレーネ、プリシラ」

 

「「…………女児誘拐?」」

 

「はっはっは……笑えるか馬鹿者」

 

口を揃えて言われた一言に対し、ストレートにツッコミを入れると、イレーネは「冗談だっての」と八重歯を覗かせながら笑い、プリシラは若干申し訳なさそうに頭を下げた。

フローラが現れた二人に困惑した表情を浮かべたので、入口から退いてから紹介した。

 

「私の友人のイレーネ・ウルサイスと、その妹のプリシラだ」

 

「よろしくな、チビッ子」

 

「可愛い……はっ、よろしくね!」

 

柔和な笑みで二人が話し掛けるとフローラも我に帰ったのかペコリとお辞儀して自己紹介をする。

 

「フローラ・クレムといいます!よろしくお願いいたします!」

 

「彼女は訳あって遠路遥々、星導館(ウチ)にいる生徒に会いに来ていてな。今は街の案内をしていた所だ」

 

「ふぅん……なるほどな」

 

晶が話した理由を聞いて、何か悟ったのかイレーネは深く聞く事はせずに納得した様子を見せた。

プリシラの方はそんなバックヤードなど知る気すらなく、フローラと早速打ち解けたようで大変にこやかに話している。

 

「そんで?最後の最後にここに寄った、ってか」

 

「まあ、フローラが行きたそうだったしな。イレーネは……また喧嘩騒ぎか?」

 

「ちげぇよ…………ちょっと口論になっただけだ」

 

気まずそうに頭を掻くイレーネに、晶はさも珍しいと言った顔になる。

以前のイレーネなら売られた喧嘩を即座に買っていたのだが…………

そんな視線に気付いたのか、彼女は少し顔を赤らめて恥ずかしげに目をそらす。

 

「も、もうプリシラを不安にさせないようにしないといけないと思ったんだよ…………そ、それにだな」

 

「ん?」

 

「……あんたにも、その、心配されたくないってだけだよ!!」

 

若干やけくそ気味に言い放たれた言葉に晶は思わず硬直した。

というのも普段のサバサバした彼女との天地の差もあるギャップに心臓が跳ねたからである。

顔に熱が上がってくる不思議な感覚とむず痒さに堪らず沈黙してしまう。

 

「な、何か言えよ……」

 

「いや……まぁ、お前らしくて良いのではないか」

 

お互い変に意識してしまって上手く話せない、もどかしい空気感。

 

「フローラこれ知ってます、らぶこめ?って言うんですよね!」

 

「うん、邪魔しちゃ悪いから静かにしてよう、フローラちゃん」

 

そんな二人を見て、目を輝かせるフローラの唇に指を当てながらプリシラは苦笑する。

 

 

 

(見てるこっちまで、恥ずかしくなってくるんですけどーー!)

 

 

閑話休題。

 

 

あれから、プリシラが何とか場を取り直して。

暑い外で立ち話というのも辛いだろうという提案の下、晶達は連れだってゲームセンターの中に入った。

 

「良かったのか?口論相手が居るかも知れんのだろう?」

 

「あたしがそん位の事で引くと思うか?」

 

「……それもそうだな」

 

仲良くエアホッケーに興じるフローラとプリシラを眺めながら、イレーネと当たり障りのない話をする。

視界には縦横無尽かつハイスピードに動くホッケーが左右に行ったり来たりを繰り返している。

ここ、六花にあるゲームセンターはいずれの店舗も星脈世代でも気軽にプレイ出来るよう、筐体から備品まで頑丈に出来ている。

よくあるパンチングマシーンに至ってはリスティが思い切り殴っても罅一つ入らないという徹底ぶりだ。

 

「しっかし、あんたが子守りとはね。しかもだいぶ慣れてたみたいだけど?」

 

「まぁ、本土では弟弟子達の面倒を見ていたしな」

 

イレーネの茶化すような問いに肩を竦めて返す。

廃れてきているとはいえ、八十崎流の剣術を学びに来る人はそれなりにいる。その中でも年の低い子供たちの面倒は専ら晶が見ていた。

 

「子供、好きなのか?」

 

「嫌いではないな。フローラのように真っ直ぐな子は見ていて微笑ましく思うよ」

 

ずっと昔、前世の事まで思い出して懐かしさが胸に広がる。

 

「まぁ、だからこそかな」

 

「うん?」

 

「将来は、そんな子たちが笑っていられる世界になればと、思ってしまうのさ」

 

かつても今世も同じ『捨て子』として育ったからこそ出てしまった言葉。

 

「晶さーん!つぎ、これやってみたいです!」

 

「ああ、何がやりたいんだ…………って、バーチャ○ンだと……」

 

フローラに呼ばれて歩いていく晶の背中を見て、イレーネは妙な違和感を覚えた。

今の彼と似た『誰かの背中』が重なって見えた、そんな気がした。

 

(…………あたしも、疲れてんのか?)

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

 

「っ、ああいや、何でもない。行こうぜ」

 

奇妙な錯覚を頭を振って払い、プリシラに答えてイレーネは晶達を追うように歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

「おいちょっと待て、フローラ強すぎんだろ!」

 

「まさかフェイ・○ンに負けるとは……不覚」

 

「フローラちゃん、容赦ないね……」

 

「そ、それほどでもないです!」

 

「「「誉めてない!」」」

 

その後、意外な所で才能が発覚したフローラによって、彼女が満足するまで三人は付き合わされることになってしまった。

 

当然、後日話を聞いたユリスから説教を喰らったのは言うまでもない。




バーチャロンマーズ、やりこんだなぁ(遠い目





あ、水着ネロ当たりました(何

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