学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

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*05 異国からの童女

それから暫くして。

綾斗に誘われて、ともに出掛けることになった晶はさっと朝食を食べて正門手前で綾斗を待っていた。

 

「しかしまぁ、リースフェルトの奴も苦労するな……」

 

誘われた時のことを思い出して同情まじりに苦笑する。

元々は遠路遥々ユリスの母国からやって来たフローラ・クレムが綾斗と昼食を取りたいと言ったのが発端だ。

その際に何を思ったのか綾斗は晶を誘い、当のフローラも乗り気になってしまったので提案を飲まざるをえなくなったという次第だ。

流石に童女に涙目で頼まれてしまっては晶も頷く以外選択肢は無い。

 

「……ん、来たか」

 

「ごめん、昼食にオススメの場所、夜吹に聞いてたんだ」

 

「ほう?それで、場所は?」

 

「外縁居住区の境目。ユリスには伝えてあるから、あとは行くだけだね」

 

駆け足でやってきた綾斗が端末に登録されたマップを表示し、赤いポインターを指差す。

人で混雑するこの時期、この立地ならばそう混むこともないだろう。

夜吹のリサーチ能力の高さに思わず感心する。

 

「ここからなら、適当に時間を潰して行けば丁度昼時には到着するな」

 

「だね……って、あれ?」

 

ざっくりとした予定の組み立てをしたところで、綾斗が何かに気付く。

晶も綾斗と同じく視線を向ければ、外からこちらに向かって歩いてくる見知った顔が見えた。

 

「これはまた……珍しい組み合わせだな」

 

向こうもこちらに気付いたのだろう。やや歩みを速めてやってくる人物を見て意外そうな顔になる。

 

「おはようございます、晶先輩、天霧先輩!」

 

「うん、おはよう刀藤さん。珍しい組み合わせだね?」

 

「あら、そうでしょうか?」

 

やってきた綺凛とクローディアに綾斗が素直に思ったことを言うと、クローディアが首を傾げた。

そんな彼女に対して晶は肩を竦める。

 

「皆で集まっている時ならばまだしも、二人きりというのは珍しいだろう。どうかしたのか?」

 

「偶然校舎前でお会いしたので、刀藤さんに少しご相談を」

 

「相談?」

 

「ええ……純星煌式武装について」

 

小さく呟くような声で放たれたワードに綾斗はピクリと目を開き、晶は何処か納得したような表情で頷いた。

クローディアが綺凛に確認を込めた視線を送ると、首肯で返されたのでそのまま話を続ける。

 

「以前は鋼一郎氏の意向で純星煌式武装を使わないようにしていたらしいのですが、現在の彼女は自由の身。本人がよろしければ試してみるのもよいのではないかと思いまして」

 

「なるほどな……」

 

確かに綺凛が純星煌式武装を使うとなれば学園に取っても大きな戦力アップに繋がる。

ただでさえ刀一本で序列一位に君臨していたのだ。それが純星煌式武装を持ったのならその強さは計り知れない。

だが、純星煌式武装を使うとしても綺凛にはその条件が厳しいものになるだろう。

というのも、一重に彼女の使う得物に要因がある。

 

「しかし、綺凛の場合私と同じ日本刀型ではないと厳しいのではないか?刀藤流の型も考えるとそこがネックだろう」

 

「晶先輩の仰る通りです……私としても刀以外はあまり扱えませんし」

 

肩に担いだ袋に入った千羽切の紐を握り直して申し訳なさそうに綺凛が言う。

そもそも日本刀型の煌式武装というのは晶の持つ《闇鴉》が初めての物ーー正確にはプロトタイプと言うべき物だがーーなのだ。

綺凛の条件を満たすためにはそれこそ新しく刀型の煌式武装を製造する他ない。

晶も闇鴉の蓄積データを開発元の《銀河》の開発部に送っているが、それでも開発が難航しているのは時折くる研究員の愚痴で知っている。

それを前提に置いてなおクローディアが話すということは……。

 

「開発の目処が立ったのか?日本刀型の」

 

「実は最近、新しいウルム=マナダイトが銀河の研究所から開発部に払い下げになったらしいのですよ」

 

「それがもしかしたら日本刀型に?」

 

綾斗の言葉にクローディアが首肯する。

 

「その可能性があるとは伺っています。ただ、それがいつになるのかは分かりませんけれども」

 

「成る程な……なら、その時が来たならば試してみたらどうだ、綺凛?」

 

「は、はい!宜しくお願いします!」

 

これで本当に純星煌式武装を持ったら、果たして勝ち筋があるだろうか……と内心冷や汗をかきながら晶は恐縮した様子の綺凛の頭を撫でる。

一通り話を終えた所でクローディアが何か思い出したようにポンと手を合わせた。

 

「そういえば、綾斗と八十崎君はこれから出掛けるところではありませんか?」

 

「「…………」」

 

二人揃って時間を確認。

無慈悲にその役目を果たす時計が示す時刻は十時四十分。集合時間は十二時。

ギリギリも良いところだった。

 

「すまない綺凛。そろそろ行かねば」

 

「ごめんクローディア、それと教えてくれてありがとう」

 

「お礼はデートで良いですよ♪」

 

「えぇ!?」

 

「狼狽えるなよ綾斗!ではまたな」

 

あわただしく挨拶を済ませ、見送ってくれた綺凛とクローディアを背に、綾斗を引っ張って晶は正門へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はじめまして、八十崎様!フローラ・クレムと申します!フローラとお呼びください!」

 

「ああ、はじめまして。宜しく、フローラ」

 

元気よく挨拶した浅葱色の髪の童女、フローラの差し出した右手を握り、握手しながら晶もまた挨拶を返す。

その様子を隣に座ったユリスと綾斗が見守っていた。

場所は英士郎オススメの店。

大通りから少しズレた立地にあるここは、落ち着いた外観もあって隠れ家のような雰囲気を持っている。

結局クローディアたちと別れた後、時間に余裕が無くなったので仕方なくビルの屋上をパルクール宜しく駆け抜けた事でギリギリ間に合った。

 

「しかし、夜吹の奴も侮れんな……こんな店を知っていたとは」

 

注文して運ばれてきたオムライスにフローラが舌鼓をうつ横で、ユリスが面白くなさそうな顔で頬ずえをつく。

 

「彼奴の情報量は多岐に渡るからな。頼れる存在だよ、全く」

 

それに対しアイスコーヒーを飲んでいた晶が肩を竦めて返すと綾斗も確かにと頷いた。

こういった表の事もさることながら裏の事情にも精通している夜吹は晶に取っては良きビジネスパートナーだ。

彼の助力もあって『何でも屋』の依頼もこなせている面もある。

 

「それでも、まだ私は信用した訳ではない。あいつのおかげで何度か迷惑を被っているからな」

 

綾斗のおかげで最近は改善されてきてはいるが、やはりまだユリスの人間関係の根本思考は変わっていないらしい。

 

「フローラ、ケチャップがついているぞ。ーーーそれで、綾斗はまだしも何故私も呼ばれたのだ?」

 

一頻り雑談を終えた所で、フローラの口元を拭って晶はそう訊ねた。

綾斗から誘われたのはまだしも、初見となる筈のフローラがユリスとは知り合い程度の自分が来ることに素直に頷くとは思えなかった。

ーー否、フローラ自身は出会ってまだ数刻だが純粋な子だと分かる。とすれば怪しいのはその裏側の人物。

そんな疑念が籠った問いかけにフローラは人懐っこい笑顔のまま懐から出したメモ帳を見てハキハキと答えた。

 

「あい!陛下から『妹とはどんな関係なのか?もしかして天霧様とは妹を取り合うライバル?』と質問がありましたので!」

 

「……兄上ぇぇ…………!」

 

「ら、ライバル……」

 

「ふ……くく、いかん、堪えられん」

 

突拍子もない回答に、ユリスは眦を吊り上げて怒りを顕にし、綾斗は唖然となり、晶は口元を抑えて笑った。

確かに最近は綾斗絡みで話す機会も増えたこともあるが、だからと言ってこの質問は予想の斜め上を行っている。

……というか、そもそも何故今のユリスの人間関係を遠く離れたユリスの兄が知っているのだろうか。

 

「大方、ウチの新聞部の連中がメディアにリークしたんだろう……後で夜吹に尋問だな」

 

「ユリス、落ち着いて。色々と怖いから」

 

心中の疑問を察したのか、ユリスがなんとも素晴らしい笑顔で的を得た考察を話す。

そして自動的に夜吹が犠牲になるのが決定した。

 

「……まあ何にせよ、私とリースフェルトとはそんな仲ではないと返して置いてくれ」

 

綾斗がユリスを宥めているのを横目に、フローラにそう伝える。

そして徐に手を上げてウェイターを呼ぶと、メニューの最後のページに載っていた特製フルーツパフェを注文した。

 

「意外だね、晶がそういうの頼むの」

 

それに気づいた綾斗が少しばかり驚いた声で話すと、晶は首を横に振った。

 

「いや、食べるのは私ではないよ。フローラだ」

 

「えっ?」

 

「先ほどから隣のテーブルを見ていただろう?」

 

私の奢りだ。そういたずらっぽく言うと、フローラは嬉しそうにはにかんだ。

暫くして運ばれてきたパフェをフローラが喜色満面で食べはじめた。

 

「いいのか?」

 

「構わんよ。子供にはこれくらい甘くしたいんだ」

 

ユリスの問いに懐かしげに笑って返す。

そこから暫く、雑談を交えつつフローラがユリスの兄から預かってきた質問に綾斗が答えたり、ユリスが赤面したりと、楽しい時間を過ごしていると。

 

「あ、あのぉ……お取り込み中、すいません。ちょっといいでしょうか……?」

 

見慣れたレヴォルフの制服を着た一人の少女が話し掛けてきた。

そして、少女は綾斗を見つけるとおどおどとした様子で口を開いた。

 

「えっと、天霧綾斗さん……ですよね」

 

「そうだけど……俺に何か?」

 

「あ、す、すみません。申し遅れました、私はレヴォルフで生徒会長秘書を務めている樫丸ころなと申します」

 

ころなと名乗った少女は慌てて頭を下げると、一拍置いてこう続けた。

 

「えっと、そのーーー生徒会長が貴方にお話があるそうです」

 

 

 

 

 


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