学戦都市アスタリスク-Call your name- 作:フォールティア
一万は・・・デカいな・・・(ゲーム版アスタリスク、限定版予約者)
「晶、見てたなら始まる前に止めてくれれば良かったのに・・・」
「丁度良い洗礼にはなっただろう、喜べ。華焔の魔女と決闘などそうは無いぞ?」
「いや、おかげで焼け死ぬところだったんだけど」
時間は過ぎ去り放課後、教室の隅にて晶は綾斗に愚痴られていた。
あの後クローディア・エンフィールドによって決闘は無効とされ、綾斗はそのままクローディアに連行されてしまい、その場はお流れとなった。
そして、暫くして綾斗がHRにて転入の挨拶を終え、更にクラスメイトからの質問攻めを丸一日受けて、今に至る。
「くっく、しかしまあ自業自得とは言え、落ちたハンカチを渡しに行ったら燃やされそうになったとは、つくづくそういうハプニングに会うな綾斗は」
「望んでこうなった訳じゃないんだけど」
「まあ良いじゃないか。あのお姫様に借りを作れたというのは珍しいことだぞ?」
未然に晶が防いだとはいえ、明らかな不意打ちの攻撃から助けようとしてくれたという事でユリスが綾斗に対して借りを作ったのだ。
一度だけ力を貸すといった小さなモノだが、それでも中等部から彼女を知る晶からすればかなりの出来事だ。
とうの晶も借りを作ったのだが、気にするなと辞退した。
「そうそう、学園中に自慢しても良いくらいの事だぜ、ホント」
「えっと?」
唐突に脇から入ってきた英士郎に綾斗が困惑すると、英士郎は人懐っこい笑顔を浮かべて手を差し出した。
「おれは矢吹英士郎ってんだ。お前さんのルームメイトって事になってるから、よろしくな」
「ルームメイト?・・・ああ、寮のか」
「そそ。寮は基本二人部屋だからな。因みに晶はクラス人数の関係でぼっち部屋ぁあ関節が極ってるぅ!?」
「矢吹、お前は本当に懲りんな。一辺地獄巡りでもしてくるか?誰がぼっちだ、誰が。普通に一人部屋と言わんか」
「オーケー、分かったから離して!何かもう感覚無くなってきてるから!」
ぱっと晶が手を放すと英士郎は捻られた左腕を執拗に擦り痛みを誤魔化す。
「矢吹はこの通りのお調子者だ。綾斗なら上手くやれると思うぞ」
「綾斗、コイツ何時もおれに対してだけ暴力的なんだけどどうすりゃ良いんだ?」
「諦めて」
「無慈悲!?」
何処か悟った顔の綾斗の言葉に英士郎が崩れ落ちる。
それを何事もなかったようにスルーして晶が会話を続ける。
「そういえばエンフィールドに連れていかれたが、何をしていたのだ?最終手続きなどという嘘っぱちな小芝居を打ったのだから、某か有ると思うのだが」
「あれが嘘だって気付いてたんだ」
「そういう女だからな、エンフィールドとは」
「・・・えぇと、何もナカッタヨ?」
((あったなコレは))
地に伏した英士郎と晶の心の声がシンクロした答えを出す。
顔を赤らめあらぬ方向を向く様は誰がどう見ても何か有ったと分かるようなものだ。
下と正面から来る何とも言えない視線に綾斗は慌てて話題を変える。
「そ、そういえば晶、さっきリースフェルト・・・さんだっけ。お姫様って呼んでたけどなんで?他の皆もそんな感じだったし」
「ああ、その事か。実際にリースフェルトがある国の姫だからだ。英士郎、説明を頼んだ」
「お任せ!」
晶の呼び声にシュタッ!と勢いよく立ち上がり、英士郎はどこから取り出したのか伊達眼鏡を掛けて綾斗に説明を始める。
「説明、つっても《落星雨(インベルティア)》以降、欧州各地で王制が復活しただろ?まあ実態は政治・経済を取りまとめてる統合企業財体にとって使い勝手の良い象徴、みたいなもんなんだが。とかく、その数多く存在する王国の一つ、リーゼルタニアって国の第一王女があのお姫様ってこった。フルネームはユリス=アレクシア・マリー・フロレンツィア・レナーテ・フォン・リースフェルトだ」
「成程、それで・・・・・・にしてもやけに詳しいね」
「矢吹はそれが商売だからな。情報が欲しければコイツに訊ねれば良い。新聞部故、色々と精通しているぞ」
「ネタがあれば提供してくれよ?」
「はは、考えとくよ」
小気味よくウィンクする英士郎に無難な回答で返した綾斗はまだ何か気になるのか顎に手をあてて小さく唸る。
それを見て晶は何となく予想が付いたのか、声を上げる。
「どうしてそのお姫様がこんな場所で戦っているのか。気になるのだろう?」
「・・・・・・相変わらず、考えてること読むの上手いね」
「ただの勘だ。してリースフェルトが闘う理由だが。その実わからん。ただまあ、実力については確かだろう。運やキセキだけで《冒頭の十二人》には入れんしな」
「去年入ってきて早々に、だからなぁ。あのルックスだから人気高かったが、気に入らない奴が決闘挑んでその尽く返り討ちにしちまって。更にあの他人を寄せ付けない言動だからな。今じゃ孤高のお姫様だ」
一通りの話を受け、綾斗は話の内容を飲み込むように頷く。
そこで晶の懐から小さな振動音が鳴った。音の発生源である携帯端末を取りだし、画面を見ると、晶は僅かに眉を潜めた。
「済まない。どうやら呼び出しのようだ。悪いが先に帰らせてもらう」
「おぉ、今日も『お手伝い』か。忙しいな。頑張れよ」
「良く分からないけど・・・また後で」
「ああ、昔話に花を咲かせるとしよう。ではな」
挨拶もそこそこに、荷物を纏めて晶は教室を出る。
そのまま廊下を歩きながら未だに振動する携帯端末の通話ボタンを押して耳に当てる。
『漸く出てくれましたね。八十崎くん』
「もう暫く旧交を暖めていたかったんだかな・・・・・・それで、何の用だ"エンフィールド"」
声を潜めて通話向こうにいるクローディアへと訊ねると、彼女は変わらぬ涼やかな声で話を始める。
廊下の端にあるエレベーター乗り場でタイミングよく無人のそれに乗り込み一階のボタンを押し込む。
『一つ依頼を頼みたいのです』
「また前回のように『野犬』狩りをしろとは言わんだろうな。その手合いは《影星》に任せれは良かろうに」
『ご安心を、今回頼みたいのはある人物の監視です』
「ふん・・・まあ大体それで予想は付いた。良いだろう、仔細は後でメールで送ってくれ」
『あら、二つ返事で受けるなんて、珍しいですね』
エレベーターの窓から見える夕陽を眺めつつ、クローディアの声に晶は鼻で笑う。
彼女の事だ、自分の事情をある程度わかった上でそんな白々しい事を言ったのだろう。
「はっ。なに、面白そうだと思ったからな」
『そうですか・・・では』
クローディアが言葉を切るのと同時、軽い音ともにエレベーターが一階フロアへと到着する。
ドアが開くのを見て晶は歩き出す。
「よろしくお願いしますね」
「ああ、任せろ」
その際にすれ違った金髪の少女にそう言い残し、晶は学舎を後にする。
夜に変わり行く空を見て、晶は小さく笑う。
「さて・・・これから楽しくなりそうだ」
すまない、戦闘は暫く無いんだ、本当にすまない・・・。