学戦都市アスタリスク-Call your name- 作:フォールティア
みなさま明けましておめでとうございます
本年もまた、よろしくお願いいたしますm(__)m
「ーーまたドタキャンかよ!」
「……仕方ない。晶も綾斗と似たようなところあるし」
プロキオンドームのバトルステージ、その中央でリスティは思いきり叫び、沙夜は憮然とため息を吐いた。
晶と綺凛が応援に来るというので先程まで控え室で待っていたところ、晶からメールが来たのだ。
『すまない、事情があって遅れる』
いろいろと言葉の足りないその一文も、昔馴染みである二人からすれば慣れたものだ。
ようは何やら厄介事に巻き込まれたか自分から突っ込んだかのどちらかである。
「……晶にはあとで高めのスイーツを奢らせよう」
「名案ですね、沙々宮先輩……よし、殺る気出てきたぁ!」
なんだか物騒なニュアンスの言葉でリスティは気合いを入れると自らの得物を展開する。
手甲型煌式武装〔ディオエイヴィント〕。脚甲型煌式武装〔ラムダラウンジブル〕である。
小柄なその肢体に似合わないゴテゴテのシルエットのそれらはギャップも合間って異様な威圧感を醸し出す。
「相手は界龍……まあ、どうにかなる」
対戦相手を一瞥した沙夜もまた得物を展開した。
途端、観客席と対戦相手の二人もどよめく。
それも当然のはず。何せ現れたのは持ち手の沙夜よりも明らかに巨大に過ぎるからだ。
「……三十四式波動重砲アークヴァンデルス改」
「毎度思いますけど先輩の煌式武装、デカいの多すぎません?」
「これでもちっちゃい方」
軽々とアークヴァンデルス改を持ち上げてみせる沙夜にリスティは改めてこの小柄な先輩への認識を改める。
大艦巨砲主義過ぎる、と。
しかし、今回の相手は界龍の生徒。禿頭の青年は青龍刀型煌式武装、片や線の細い青年は無手ーーつまりは自身の肉体を武器としている、近接戦特化と思われる。
大型火器を扱う沙夜には厳しいかと思われる、が。
「先輩、どっち行きますー?」
リスティはそんな事など露知らぬといった顔で沙夜に訊ねる。
「それじゃ大きい方で」
沙夜も沙夜で変わらない様子で答えるとアークヴァンデルス改を構えた。
「《鳳凰星武祭》Lブロック一回戦二組、試合開始!」
「ヤーーーーハーーーーッ!!」
試合開始のブザーか鳴った瞬間、煌式武装の青い軌跡を引きながらリスティが雄叫びと共に突っ込んだ。
ターゲットとなった長髪の青年もある程度予想出来ていたのか、星辰力を纏った拳を打ち放つ。
「ハハッ……速い速い!」
だが、届かない。
狂喜じみた笑い声を漏らしながら、ジェットブーツによって高く跳躍してかわす。
そして続けざまに技を叩き出す。
「クエイクハウリング!」
剛拳がうなり、直下の青年を潰さんと振り下ろされる。
「ぐ、くっ……!」
青年はギリギリのところで床を踏みしめ飛び退いた。
直後、寸前までいた場所にディオエイヴィントの一撃が落ち、人一人分のクレーターが出来上がっていた。
「あっちゃ、『範囲外』か……まあいいや」
土煙の中、リスティは残念そうに呟くが次の瞬間には笑顔に戻っていた。
ーーかつて述べたように、リスティは生粋のバトルジャンキーだ。つまり、技の一つや二つかわされたところで彼女にとっては喜ぶべき事にしかならない。
更に言えばそうして喜ぶごとに彼女の動きは激しさを増す。火力過多の攻撃をこれでもかと連発しだすのだ。
「さぁて、じゃあ次はどうかなぁ!!」
ジェットブーツによる、予備動作を無視した強烈な加速。そこから繰り出されるのは両足を巧みにつかった六連続蹴り。技の名をグランウェイブと言う。
「ぐぅっ!」
青年は咄嗟に両腕に星辰力を集中させ防ぐが、見た目に反するリスティの力に耐えきれず、裂傷が刻まれていく。
「耐えるねぇ!でもーー」
締めの回し蹴りをも見事耐えきった青年に対しリスティはニンマリと深い笑みを浮かべて今度は拳を引き絞る。
それに気が付くも、もう遅い。
「スライドアッパー!」
腕の隙間を掻い潜った拳が顎へとクリーンヒットしそのまま彼の体は『宙に浮いた』。
この時、青年の最も不幸だった事はここで気を失わなかった事だろう。
辛うじて意識が残ってしまった彼の耳に、実質的な死刑宣告が聞こえた。
「まだ終わりじゃないよ?」
一言。次いで、衝撃。
さらに一撃、もう一撃、さらにさらに一撃。
がら空きになった腹部へと容赦なく刺さる連打。
それはボクシングで有名な技、デンプシーロールを模していた。
「ペンデュラムローーールッ」
「ご……はっ……」
止めの重い拳を打ち付けられ、血色の息を吐き出して青年は意識を手離した。
その体が床に倒れ込むと同時、校章が青年の敗北を告げる。
「ふう、おっしまいっと。先輩の方は……心配ないかな」
実況と解説の若干引いた様子の声を聞き流し、肩をぐるりと回してから沙夜の戦いをちらりと見て、リスティは援護の必要はないと判断した。
何せ、もう既に。
「……バースト」
勝敗は決したのだから。
アークヴァンデルス改から発射された極光の柱が対戦相手を呑み込み、空を振るわせ地を鳴らす。
問答無用の大火力によって吹き飛ばされ、防御障壁へ叩きつけられた青年は身体のいたるところから煤けたような煙を上げながら倒れ伏した。
「試合終了!勝者、沙々宮紗夜&楠木リスティ!」
「沙々宮先輩!」
「……楠木」
「イェーイ!」
「いぇーい」
沸き起こる大歓声の中、勝利の感触を確かめるように二人のハイタッチが小さく響いた。
「この歓声……やはり間に合わなかったか」
「大きく回り道しちゃいましたしね……」
ドーム全体に響く歓声を聞き、紗夜たちの控え室へと歩いていた晶はこの後の事を予想して小さく唸った。
あの一悶着の後、追手の警備隊員から逃げながらイレーネに説教をしていたため、迂回路を行ったこともありドームにはつい先程到着したばかりなのだ。
「確実に怒っているだろうな……何を奢らされるやら」
大抵の場合、リスティが怒りを鎮めるのは甘味を食べた時だ。
しかも要求してくるのは決まってかなり高額のものばかり。さらに今回は紗夜も居る。確実に話には乗ってくるだろう。
一応それなりに収入があるものの、学生の身分には痛手なのは変わらない。
「流石にそこまで高いのはないんじゃないですか?」
「……諭吉が飛ばなければ安い方だ」
「……せ、誠心誠意謝れば、大丈夫です!きっと!」
両手を握り慣れないフォローをする綺凛に慰められ、ついに控え室に到着する。
(綺凛の言うとおりだ。心を込めて謝罪しよう……でなければ財布が死ぬ。私も死ぬ)
覚悟を決め、扉の横に備え付けられたインターホンを鳴らすと、すぐに音声が返ってきた。
『はいはーい、ってあっきー』
恐らくインターホンに付属するカメラでこちらを見たのだろう、出たのはリスティだった。
「すまない、遅れた」
『おおう、まさかのガチ謝り……』
さっとキッチリ九十度体を曲げ頭を下げると、予想していなかったのかリスティの声が震えた。
『とりあえず今着替えてるからちょっと待ーーーーって先輩!?』
焦るような声とドタドタという慌ただしい音が聞こえたと思いきや、小さな空気音と共に扉が開く。
そして開いた扉の先、晶の正面には紗夜が立っていた。
半裸の状態で。
「……勝っ」
ズパァン!!とかつてない超スピードで扉を手で閉める。
自動扉がエラー音を吐き出すが調節機能が働いたのかすぐに収まる。
だがそんな事はどうでもいい、重要な事じゃない。例えるなら強化ラボの人間がドゥドゥかモニカかというぐらいどうでもいい。
今言うべきはただ一つ、シンプルな言葉だ。
「服を着んか馬鹿者が!!」
晶、本日二度目の怒声が廊下へと響き渡った……。
当然ながらこの後、まさかの綺凛を加えて紗夜へと説教することになったのは語るべくもない。