学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

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*04 Lamilexia

「試合終了!勝者、エルネスタ・キューネ&カミラ・パレート!」

 

圧倒的。アルディとリムシィを表現する言葉は見つからなかった。

一分もの間《螺旋の魔術師》の苛烈な、ものによっては殺人的な威力の技を受けてなおアルディは傷一つ付かず、リムシィもまた無傷でゲルトからの攻撃の全てを潰して見せた。

そして約束の時間と同時。ただの一撃で二機は試合を終わらせた。

 

「……まるで戦車と戦闘機だな」

 

スクリーンを眺めていた晶がアルディとリムシィについて端的な感想を言うと、英士郎も頷いた。

 

「言い得て妙だな。ありゃ生半可な攻撃の仕方じゃ勝ち目は見えねぇな……仮にも《冒頭の十二人》の全力を無傷で受けきるとか、擬形体の形した戦術兵器か何かだろあれ」

 

「でもアルディのあの"光の壁"って、どっかで見たような気がするんだよね」

 

試合のハイライトから目を反らさずにリスティが唸る。

アルディは試合中、モーリッツの能力に対して六角形の小さな光の壁を出して耐えきっていた。

リムシィの射撃の相殺などという離れ業も相当だが、こちらの方がより危険だろう。

 

「ふむ……もしや、防御障壁か?」

 

「防御障壁って、ステージの周囲に張ってあるあれですか?」

 

「……晶の考えは一理ある。それならあの固さも頷ける」

 

基本、どのステージにもある防御障壁。

これは観客席への流れ弾や不意の事故を防ぐために設置されているものだがこれの起動、障壁の維持にはかなり大掛かりな装置が必要となる。

しかし、2~3m程度の擬形体の内部に収まるような物ではない。

皆がそろって唸る中、リスティがぼそりと呟いた。

 

「……もしかして必要な時に小出しに出力するようにして装置自体をちっちゃくしてるとか?」

 

「「「それだ(です)」」」

 

思わぬ所からのアイデアに一同が手を叩く。

時折こうしてやけに納得の行く考えを出すのがリスティだ。ある意味、野生の勘じみてはいるが。

ある程度考えが纏まったところで英士郎がスクリーンを閉じて立ち上がる。

 

「んじゃまあ、そこんとこ含めてちょっくら調査に行ってくるわ」

 

「……あまり目立ちすぎるなよ?」

 

「当然。そこらへんは抜かりないっての」

 

ニヤリと笑う晶に同じような顔で英士郎は笑うといつもと変わらぬ足取りで控え室から出ていった。

十中八九、あのマスコミの群れに紛れ込んで情報をかっ浚おうという算段だろう。

 

「さて、話もまとまった事だ。私たちもそろそろ此処を出るとするか」

 

膝を叩いて立ち上がり残った面子に提案すると各々頷いて軽く荷物をまとめ始める。

 

「沙々宮たちはこれからどうする?」

 

「お父さんから新しい銃が届いたから、税関へ確認に行く」

 

「創一さんがか……息災だったか?」

 

「寧ろ元気過ぎるくらい」

 

表情こそ変わらないが嬉しそうな声音で語る沙夜に、晶も「そうか」と口端を上げた。

 

「そういうあっきー達はどうすんの?」

 

小さめの鞄を肩に掛けたリスティの問いに晶は予定を話す。

 

「学園に戻ってしばらく休憩してから訓練だな」

 

「もう少し連係を詰めないといけませんから」

 

ふんす、と鼻を鳴らして握り拳を作る綺凛にリスティは何とも羨ましそうな顔になるが、そんな彼女の襟首を沙夜がガシッと掴んだ。

 

「……楠木、行くよ」

 

「わ、ちょ、沙々宮先輩襟は!襟は首が閉まるぅ!」

 

苦悶の声も聞く耳持たず。そのまま後ろ手に晶たちに手を振って沙夜はリスティを連行して部屋を出て行った。

 

「いつの間にやら、随分仲がよくなったなあの二人は」

 

「なんだか姉妹みたいですね」

 

沙夜が姉でリスティが妹。言われてみればしっくりくるなと謎の納得をする。

変な所で抜けていたり、天然な行動をしたりと共通点が意外とあったことに気がつき、思わず苦笑いしてしまう。

 

「確かにな…………さて、では出るか」

 

「はい、先輩」

 

そう言ってお互い笑いあってから、二人は次の戦いに向けて部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。中央区商業エリア。

《鳳凰星武祭》二日目にして俄に活気立つ往来の最中、晶は深い溜め息を吐いた。

 

「……人、多すぎるだろう」

 

「それに、暑いです……」

 

寄せては返す人の波に、はぐれないよう手を繋いだ綺凛が赤らんだ顔を冷ますように手で風を送る。

現在晶達はこの先にあるプロキオンドームで行われる沙夜とリスティの試合を観戦しようと移動しているのだが、普段以上の人混みに歩みが遅くなっていた。

そうして茹だる熱さに身を焼かれながら歩き続けていると、少し先の方で流れが滞っているのが晶の目に映った。同時、聞き覚えのある声もちらほらと聞こえてくる。

 

「へぇ……天霧綾斗じゃねえか。ちょうどいい、手間が省けそうだ」

 

「ええと、俺に何かあるの?」

 

「私のパートナーに何か用かな、《吸血暴姫》」

 

それだけで誰と誰が会話しているのか分かってしまった晶は額に手を当てつつも、無視して通りすぎることはせず、そちらへと足を向けた。

 

「綺凛、すまんが少し付き合ってもらうぞ」

 

「今の声、天霧先輩とリースフェルト先輩ですよね?」

 

「どうにもまた厄介事に絡まれたらしい」

 

「わかりました、行きましょう」

 

多少強引に人々の間を進み、どうにか抜けると案の定知った顔が三人揃っていた。

綾斗にユリス……そしてイレーネだ。その回りにはゴロツキだろうか、何人かが気を失って倒れていた。

中央に立つイレーネの手には禍々しい深紫の刃を持つ大鎌が握られていた。

純星煌式武装《覇潰の血鎌》。適合者は多くあれど、使いこなせるものがほぼ皆無とされる、いわく付きの代物だ。

この道端のど真ん中でそんな純星煌式武装を展開したことに晶のこめかみがひくつく。

隣の綺凛が若干びくついているが今は我慢してもらう。

指向性のない殺気が放たれるがなんのその。思いきり息を吸い込んで大喝した。

 

「何をしているこの阿呆がーーーー!」

 

「こらぁーーーーっ!」

 

叫びに合わせるかのようにもう一つ大声が聞こえたかと思うと、イレーネの妹、プリシラが現れた。

首を動かして声の主を見つけたイレーネは、好戦的な目付きは何処へやら、一転して顔が真っ青になる。

 

「げ、プリシラに、晶まで……!?」

 

「街中でそれを起動するなと口酸っぱく言ったはずだぞ、イレーネ……あれか、聞き流したのか流石に私も怒るぞ」

 

「いつの間にかふらっと居なくなったと思えば……どうしてこうなってるの?怒らないから説明して」

 

「いや、もう怒ってんじゃ」

 

「「何か言った(か)?」」

 

「ハイゴメンナサイ!」

 

いきなり始まった怒濤の展開に今まで退治していた綾斗とユリス、さらに綺凛もぽかんとなるが、視線に気付いたプリシラと晶が頭を下げた。

 

「すいません!お姉ちゃんかとんだご迷惑を……ほらお姉ちゃんも!」

 

「うぅ、わ、わかったよ……」

 

「すまん綾斗、リースフェルト。こいつの友人として、私からも謝る」

 

「い、いや、気にするな……」

 

三人ならんでの謝罪に流石のユリスも曖昧な表情で返事を返す。

綾斗とギャラリーに至っては硬直してしまっている。

 

「二人は試合会場へ移動中だろう?あとは任せて行ってくれ」

 

「本当にごめんなさい。よく言って聞かせますから」

 

「あ、ああ、うん」

 

晶とプリシラ、どちらに答えたのか。綾斗は頷くと後ろ髪引かれているユリスを連れて人混みの中へと入っていった。

二人の背中が見えなくなったのを確認して、晶は綺凛に謝った。

 

「綺凛、本当にすまんな」

 

「いえ、大丈夫ですけど……お二方とはお知り合いなのですか?」

 

「ああ私の無二の友人だーーと、一旦移動するぞ。プリシラ、着いてこれるか?」

 

何かに気付いたのか、晶が綺凛とプリシラに呼び掛ける。

 

「は、はい!行けます!」

 

「星猟警備隊(シャーナガルム)の連中だ。面倒になる前に巻くぞ」

 

星猟警備隊。アスタリスクにおける警察と言ってもいい治安維持組織だ。

どうやら騒ぎを聞き付けてやって来たらしい。独特の制服を着た二人組の男が人波に逆らって向かってきている。

晶が何をしたわけではないが、ゴロツキ達が倒れているこの状況を説明するのにどれほど時間が掛かるかわかったものではない。

当事者のイレーネを突き出せば終わるが、そうなれば十中八九連行されるだろう。

 

(……プリシラも悲しむ。それに、約束にも響くだろうしな)

 

即座に逃走ルートを弾き出し、プリシラとアイコンタクトをとると、晶は三人を連れて人混みに紛れて路地へと逃げ込むのだった。

 

 

 

 





中途半端ですが、今回で今年最後の投稿となります。

皆様、良いお年を(ヾ(´・ω・`)

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