学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

27 / 54

ちょっと今回短めです。


*03 初戦

「では、観客への挨拶がわりに派手にやるとするか。なあ、綺凛」

 

「了解です、晶先輩!」

 

開始早々に真っ直ぐに突進してきたガラードワースの二人に特に慌てるでもなく《闇鴉》を構えると、先の一言で何をするのか察したのか綺凛は姿勢を低く、両の脚に力を込める。

ここに至るまでほんの僅な時間、しかし濃密な特訓を行った今の二人の間に、言葉は必要なかった。

 

「疾れーー波濤竜胆!」

 

「ーーーっ!?」

 

《闇鴉》が鞘走り、濃密な星辰力の斬波が接近し続ける二人の間を目指して地を抉りながら放たれる。

その様はまさに波。人一人ならば容易にその顎に収め蹂躙するに余りあるだろうことは想像に難くない。

開幕早々に大技である筈の流星闘技(メテオアーツ)。

それを警戒し、注目するのもしようのない事だ。誰であれそうするだろう。だがそれ故に、気付くのが遅かった。

 

「隙有り、です」

 

「なんっ……!?」

 

『ナニカ』、を感じた一瞬。銀の風が波の後ろから吹き抜け、胸元からパキリという音が二つ鳴った。

唖然とした顔で正面を見れば、すでに《闇鴉》をしまった晶しか居ない。

背後を見れば、残心を終えた綺凛が千羽切を納刀していた。

つまり。あの波濤竜胆を目眩ましに、綺凛が二人の校章を斬り捨てたのだ。

 

「試合終了!勝者、八十崎晶&刀藤綺凛!」

 

時間にして二十秒。見ていた者達は何が起きたのか判らなかった。だが、これだけは確かだ。

八十崎晶と刀藤綺凛は『強い』、と。

 

「オォォォォォォォォォ!!」

 

吼え立てるような歓声が上がり、会場を包み込む。

熱狂的なその中で実況と解説が興奮混じりに喋るのを聞き流しながら、晶は戻ってきた綺凛を迎え入れた。

 

「ただいまです、先輩っ!」

 

「ああ、おかえり綺凛。まずは上々だな……さて、この後は勝利者インタビューか」

 

喜色満面の綺凛の頭を撫でて、晶はもうすでに待ち構えているであろう記者達を思い出して渋い顔になる。

なにせ学生ではない、正規の社会人達だ。あの手この手で根掘り葉掘り情報を引き出そうとしてくるのはまず確実だ。

六花の戦いにおいて情報とは時に必殺の道具となる。事前に相手のバトルスタンスを知っているかいないかで、勝率は大きく変わる。

つまり有名になればなるほどそう言った情報が回りやすくなり、場合によってはあっさりと負けることもある。

 

『《星武祭》で最も恐れるべきはマスコミだ』

 

とさえ言われる事もある。

既に有名な綺凛はまだしも、晶自身の情報はまだそこまで出回っていない。このアドバンテージはまだ生かしておきたいのが二人の共通認識だ。

 

「暫くは適当にはぐらかすとしよう。綺凛はインタビューの経験は……」

 

「だだ、大丈夫でひゅっ」

 

「……私が全て請け負うか」

 

会見スペースへ向かう通路の道すがら、晶はどう記者をはぐらかすかと頭を回すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ったぞ……」

 

「ただいま戻りました……」

 

インタビューを終え、控え室へ戻った晶と綺凛は早々にソファへ腰を下ろして脱力した。

 

「おっかえり~、って何か疲れてる?」

 

「……試合終了までは元気だったのに」

 

待ってくれていたリスティと沙夜の問いかけに、天井を見て思いきり溜め息を吐き出してから晶が応えた。

 

「一時間だ」

 

「はい?」

 

「一時間立ちっぱなしでマスコミどもの質問攻めだ……」

 

「あんなに一杯居るなんて……」

 

「「うわぁ……」」

 

疲れ果てたようすの二人に、リスティも沙夜も口元をひくつかせる。

実際のところ、勝利者インタビューというテーマに沿った質問など最初だけだったのだ。気づけば段々とそこから反れていき、《闇鴉》についてやら、綺凛との関係、家柄についてやら、好きな女性のタイプetc……とそんな質問を一時間も付き合わされたのだ。

 

「これが勝利するたびにあるのか……」

 

「対戦よりも記者に負けそうです……」

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

げんなりとした表情の二人に部屋の隅で携帯端末を弄っていた英士郎がスポーツジュースを渡す。

晶はそれを一気に煽ると喋りすぎてカラカラになった喉を潤した。

 

「ふう……そういえば綾斗とリースフェルトの姿が見えんが、どうしたのだ?」

 

「……綾斗がマクフェイルの試合を見に行くって言って、リースフェルトもそれについてった」

 

「なるほどな」

 

若干不機嫌そうな沙夜の返答に納得する。

大方、綾斗が応援に行きたくなってユリスがやれやれと着いていったのだろう。

綾斗とて今ではそれなりに名の知れた存在だ。おいそれと一人には出来ないのは確かだ。

 

「あの二人については分かったが、夜吹は何故ここに留まっている。まさか、出迎えたかったとは言うまいな」

 

「んなことあるかって。一通り情報収集終わってから労い半分、休憩半分でここに戻ってきたんだよ」

 

初戦であんたらが負ける筈ないだろ?と続けて英士郎は肩を竦めると、端末の空間スクリーンを拡大してテーブルに置いた。

 

「そろそろいい時間だな。沙々宮と楠木も気になるだろ、この試合は」

 

「……当然」

 

「どんなもんかな、アルルカントのあの『二機』は」

 

目線を鋭くした沙夜と舌舐めずりをするリスティの視線の先。

映し出された映像に、晶と綺凛もすぐに集中する。

熱狂沸き立つステージの真ん中に立つ、人ならざる機械人形に。

相手はレヴォルフ黒学院序列十二位《螺旋の魔術師》モーリッツ・ネスラー、ゲルト・シーレ。最序盤の戦いであたるにはかなりの強敵である。

 

「そこの人間ども!聞くがよい!」

 

鋼の巨躯を持つ擬形体が大気を震わせる大音声を出し、会場全ての視線を集めた。

 

「我輩の名はアルディ!偉大なるマスターの命でこの戦場に立つものである!同時に我輩の本懐は勝利に有らず、マスターより授けられた我が威容を知らしめることにある!そこで貴君らにはその証左を示さんが為の礎となってもらいたい!」

 

闊逹にして尊大な武人めいた口調のアルディに、モーリッツは呆気に取られるがそれを無視してさらに言葉は続く。

 

「貴君らには一分の時間を与えよう。その間、我輩は指一本たりとも動かさぬ。全力で攻撃してくるがよい」

 

鋭角な指を一つ立てて宣言するアルディに、スクリーンを覗いていた全員が眉を潜める。

確かに擬形体は頑丈だ。それに特化した機体も多数存在するが《星脈世代》の、それも《冒頭の十二人》クラスの攻撃を一分も耐えられるものはこれまで存在しえなかった。

 

「……何かある」

 

「だな。流石に素面で受けきるって感じじゃねぇだろ、こいつぁ」

 

「となりのリムシィ?だっけ。頑丈そうには見えないけど」

 

沙夜に続いて英士郎とリスティが疑念を口にする。

と、そこで唐突にリムシィがアルディの側頭部にいつの間にか展開されていた大型ハンドガンの煌式武装で光弾を叩き込み、怒涛の詰りを冷淡に吐き出していた。

 

「まったくこの愚図愚鈍低脳無知のポンコツ機がーー」

 

これには黙々と様子を見ていた晶と綺凛も思わず目を点にした。

 

「まるでボケとツッコミだな……漫才師か?」

 

「でも、あの煌式武装の展開から発砲までの動き、かなりの速さでした」

 

そう、空の手にまるで最初から持っていたように錯覚しかねない速さで彼女は煌式武装を展開。さらには一切の動きを感じさせずに腕を動かしアルディに向かって撃ったのだ。

擬形体であることを加味しても、これは尋常ではない。

アルルカントが、ひいてはエルネスタとカミラが出した虎の子というのは間違いないだろう。

その力量も、この初戦である程度は判明する。

だからこそ、沙夜もリスティも食い入るようにスクリーンを見つめる。

そしてーー。

 

「《鳳凰星武祭》Hブロック一回戦一組、試合開始!」

 

ーー晶達が見たのは、圧倒的な蹂躙だった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。