学戦都市アスタリスク-Call your name-   作:フォールティア

2 / 54




Code1 Le début du vent-始まりの風-
*01 始まりの幕開け


「やれやれ、転入初日で早々に迷うとは・・・私の友人はどうにも方向音痴が多いな」

 

新緑が芽吹き出し、鮮やかな緑を湛える季節。

転生者、『八十崎 晶(やそざき あきら)』は古くからの親友を探しに白い制服に身を包んで整備された道を歩いていた。

 

日本は北関東、巨大なクレーター湖上に浮かぶ超大型学園都市、六花。通称『アスタリスク』。

その中に存在する学園の一つ、『星導館学園』に晶は在籍している。

神によって転生し早十六年。転生の際に付与された能力を適度に使って過ごし、気付けばここに入学していた。

義理ではあるが両親は共に息災、本人も『星脈世代(ジェネステラ)』である事を除けば平々凡々とした人間・・・とは言いがたいが、健康体であるのは確かである。

 

「しかし、ここまで来て見付からんとはな・・・矢吹に手伝いを頼んでおいて正解だったようだ」

 

ポツポツと呟きながら晶は歩みを止めず進み続ける。時間も時間だ。後一時間もすれば朝のHRが始まってしまう。もし遅刻しようものなら地獄の閻魔も裸足で逃げ出しかねない担任からの折檻が待っている。それだけは避けたい。

ふと廻りを見れば星導館の女子寮近くまで来ていた。

 

「ふむ、まさかな。『また』女を落としているんじゃ無かろうな・・・」

 

ーーードゴンッ!!

 

晶がそう呟くのと同時、女子寮の一室が『爆発』した。

見れば一瞬前に逃げ出したのか、人影が女子寮前の庭に落ちていった。

その姿をはっきりと見た晶は盛大に溜息を吐いた。

 

「はあぁ・・・あの戯けが。女子寮に易々と入る者があるか」

 

呆れた声で愚痴ると晶は地を踏み締め駆け出す。その速度は本気で無いにしろ音を置き去りにしかねない速さだ。

星脈世代であるが故に持つ常人ならざる力。それを遺憾無く発揮して女子寮前へと駆ける。

 

「お、晶も来たのか。アイツがお前の探してた奴だろ?」

 

芝生の生い茂る庭には既に事の原因となった二人を中心として人だかりが出来ていた。

その人だかりの中、一人の男子生徒が晶に声を掛けた。

 

「ああそうだ。あの阿呆が私の友人だ。矢吹」

 

矢吹 英士郎(やぶき えいしろう)。茶髪に左頬から顎下に掛けて目立つ傷を持つ青年は晶の言葉に興味深そうに視線を移す。

その先には薔薇のように赤い長髪の少女に相対する菫色の髪の青年が困惑した様子で立っていた。

 

「まず晶に友人が居たって事実が驚きだぜ。話し聞いた時は冗談か何かだと思ったぁあだだだだ!?」

 

「お前も中々に失礼だな?その頭を後ろから破壊してやろうか?」

 

がっしりと英士郎の頭を掴んだ指に更なる力を込める。

 

「ごめんなさい、申し訳ありませんでした!」

 

「許す」

 

人体として立てたらまずい音を鳴らし始めたところで指を離す。

自身の頭蓋骨が歪んでないか手を忙しなく動かして確認する英士郎に晶は缶ジュースを手渡しながら様子を見る。

 

「手間を掛けたな。礼のジュースだ、受け取ってくれ。・・・それで、何であの馬鹿はよりにもよって『華焔の魔女(グリューエンローゼ)』の部屋に入ったんだ」

 

「サンキュ。その理由はこっちが知りたいくらいだぜ。まあお陰で面白い展開になったから、俺的にはラッキーなんだが」

 

「相変わらずのマスゴミ精神恐れ入る」

 

「マスゴミじゃねぇから、ジャーナリストだから!っとお姫さんが決闘を申し込んだみたいだぜ」

 

見れば赤髪の少女の左胸に取り付けられた校章バッチが光っている。

しかし相手である青年は更に困った様子。

 

「あー、でもほら、俺武器持ってないし」

 

「なあ、晶。茶々入れしていいか?」

 

青年のそんな言葉を聞いた英士郎が隣に立つ晶を見ると晶は一つ頷いた。

 

「まぁ、良い薬にはなるだろう。やってくれ。アイツの得意武器は剣だ」

 

「あいよ・・・こいつを使いな!」

 

晶の言葉に英士郎は懐に持っていた短い棒状の機械、煌式武装(ルークス)の発動体を青年に投げ渡す。

青年が煌式武装を起動させると機械に埋め込まれた鉱石(マナダイト)が輝き、何もない空間から鍔と刃を顕現させ、光刃を持つ剣として完成する。

対する少女も赤い光刃を持つ細剣(レイピア)を顕現させるとその切っ先を青年へと向けた。

 

「さて、これで文句は無いだろう。準備はいいか?」

 

「・・・我『天霧綾斗(あまぎり あやと)』は汝ユリスの決闘申請を受諾する」

 

渋々、といった顔で晶の親友、綾斗は薔薇の少女、ユリス=アレクシア・フォン・リーズフェルトの決闘を受けた。

綾斗の身に付けている校章が輝きを放ち、カウントダウンを告げる。

 

三。

二。

一。

 

「零。始まったか」

 

動き出した二人を見て俄にはしゃぐギャラリーの中、晶は小さく呟いた。

綾斗の動きは御世辞にも良いとは言えず、華焔の魔女という二つ名に恥じぬユリスの放つ焔の数々を危なっかしく避けている。

それというのも綾斗自身が持つリミッター故なのだが。それを知るのはこの学園においては晶を含めて三人だけだろう。

 

「晶の親友にしちゃ、動き悪くないか?もっとこう、ガンガン行くのかと思ったんだけど」

 

「『今の』綾斗ではアレで精一杯なんだろうさ。だがまあ、この状況も長くはあるまいよ。そら、動くぞ」

 

「・・・おいおい、マジかよ」

 

視線を動かさずに戦いを見る晶の予言じみた言葉に英士郎が視線を戻せば、綾斗がユリスの放つ焔をあろうことか全て切り払っていた。

ただの焔と言ってもそれが放たれる速度は銃弾程で無いとしてもかなりの速さだ。

しかもそれらが複数同時に襲い来るとなれば対処は困難を極める。だというのに綾斗はそれらをやって見せた。

晶の口端がつり上がる。

 

「ふっ、やはりこれ位はやって貰わねばな。つまらんというものだ」

 

そのまま笑い掛けた晶は表情を引き締める。

この空間において人以外の何かが入ったという異物感を感じ晶は目付きを鋭くし、異物感の正体を探り出す。

幸いにして英士郎は戦いに熱中して晶の様子には気付いていない。

綾斗達の決闘は佳境へと入り、ユリスが高らかに己が焔の名を呼ぶ。

 

「咲き誇れーー六弁の爆焔花(アマリリス)!」

 

巨大な火球が現れた途端、ギャラリーはその危険度の高さに慌てて距離を取る。英士郎もたまらず下がるなか、晶は一人動かず腕を組んでいた。

 

「爆ぜろ!」

 

「ーーーっ!」

 

綾斗が放たれた大火球をかわす直前、完全なタイミングで火球が爆発し、綾斗を飲み込む。

身を撫でようとする火を手で払いながら晶はふっと笑う。

そう、天霧綾斗という人間は『この程度』の事で負けることはない。

現に、彼は。

 

「天霧辰明流剣術初伝、貳蛟龍!!」

 

爆焔を十文字に切り裂いてユリスへと駆け抜けていたのだから。

流星闘技(メテオアーツ)では無い、ただの剣技を持ってあの焔を払ったのだ。

零となった彼我の距離。決着が着かんとしたそのタイミングで晶は動いた。

 

トンッ。

 

小さな踏み込み。それだけで二人の側面へと移動した晶は手に握った武装を展開する。

そして。

 

「祓え。桜花終撃(サクラエンド)

 

神速の斬撃が、飛来した光の矢を切り裂いた。

紫に暗く妖しげに輝く刀。鞘もに刻まれた刻印もまた周囲の万応素(マナ)に反応して淡く光り、その異様さを際立たせる。

 

純星煌式武装 闇鴉(オーガルクス ヤミガラス)

 

妖刀と呼ばれるその武器を持ちながらも晶は何て事無いように刀を鞘に収め、顕現を解除する。

 

「決闘はそこまでだ、親友。って、何をしている」

 

「え?晶ってうわぁ、ごめん!」

 

振り返ってみれば綾斗がユリスを庇おうとしたのだろう。彼女の身体に覆い被さるように地に臥していたのだが、何をどうすれば少女の胸を揉むような体勢に至れるのか。慌てて立ち上がる綾斗を見て晶は嘆息染みた息を吐いた。

離れていたギャラリーもやいのやいのと騒ぎ出す。

 

「いやえっと俺はそんなつもりじゃなくて!」

 

「選べ・・・炭になるか灰になるか・・・!」

 

ユラユラと立ち上がったユリスの周囲から炎が燃え上がる。

明らかに殺る気満々である。年頃の乙女の胸を揉んだのだからある意味当然の帰結であるが、その怒気を押さえるような涼やかな声が晶の耳に届いた。

 

「はいはい、そこまでにしてくださいね」

 

「・・・見ていたのなら、止めて欲しかったものだな。エンフィールド"生徒会長"」

 

ギャラリーの中から現れた黄金色の髪を持つ、ユリスとはまた別ベクトルの美少女。

 

星導館学園生徒会長 クローディア・エンフィールドであった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。