学戦都市アスタリスク-Call your name- 作:フォールティア
今回、凄まじく原作キャラ崩壊がおきています、ご注意下さい
明くる日、高等部校舎前に晶と綺凛は居た。
双方、動きやすいトレーニングウェアを着ている。
「おはよう。まさか同時に来るとはな」
「おはようございます、八十崎先輩」
濃い朝霧の中、どちらからともなく挨拶をして笑い合う。
「さて、まずはストレッチをするか。何事も準備は必要だしな」
「はいっ」
運動をする前の基本。不意の事故を防ぐためにも準備体操は必要だ。
筋肉をほぐすように体をお互い動かすのだが、晶はここで一つの事実に気づく。
「いっちに、さんしっ」
「…………」
その事実とは、綺凛の所謂バストである。
大きさは本当に十三歳かと問いたくなるほど豊満で、クローディアに匹敵するほどに見える。
それが目の前で無自覚に弾み揺れるのだから、目のやり場に困るどころではない。
(いかんな……これはいかん。斯様な場面で年下の胸を見るなど……)
「ごーろくっ、しち、はちっ」
視線を反らせど視界の隅でちらちらと見えてかえって気になってしまう。
このままでは集中できない。そう考え、晶はPSO2の一人のキャラクターを思い浮かべる。
『全知は僕だ!僕が導き出した答えに、間違いは無いっ!』
(…………)
『今こそ、全知を掴む時ッ!我が名は【敗者】、全知そのものだ』
(よし、落ち着いた)
思い出したキャラクターの名はダークファルス【敗者(ルーサー)】。PSO2内では知られた、別名アークスの玩具である。
様々な面でネタに溢れた彼の姿を思い浮かべ、晶はどうにか平常心を保った。
「あの、先輩、どうかしましたか?」
「大丈夫だ、問題ない」
顔を覗き込むようにして訊いてきた綺凛に何処か悟った表情でそう返すと、話題を変えるべく口を開けた。
「走り込みのコースだが。昨日話した通り、六花の外縁を周回する形で良いんだな?」
「え、あ、はいっ。ところで先輩はウェイトって使ってますか?」
「ああ、使っているぞ。腰に巻いているのと、両手両足に着けているのがそうだ」
綺凛の問いに、手首に着けたリストバンド型のそれを見せる。
ウェイトと言うのは謂わば重りである。
トレーニングに使うのは勿論のこと、《星脈世代》としての身体能力に制限をかけるのにも使える。
《星脈世代》の軽く走る、というのはスピードにして六十キロ程度は簡単に出せてしまうのだ。
同じ《星脈世代》が殆どの学園の敷地内ならまだしも、一般人もいる外縁区などに行く以上は必要な処置でもある。
「かなりウェイトを着けてるんですね」
「普段からこれくらいは無いとな。トレーニングにならんのだ」
大抵の《星脈世代》の場合、着用するウェイトは綺凛が着けているゼッケンに似た形のもの一つだ。
スピードを落とすのにはこれ一つで充分であるし、着け過ぎても反って身体を痛めるだけだからだ。
とはいえ、幼少の頃から似たような走り込みをしてきた晶にとって、ウェイト一つでは物足りなく感じているから五つも着けているのだが。
「さて、では行こうか。今ならさぞ風も心地良いだろう」
「はいっ!」
綺凛の明るい返事と共に、二人は走り出す。
その姿もやがて、朝霧の中へと消えていった。
「八十崎、お前最近《疾風刃雷》と一緒に居るんだってな?」
「む……?」
トレーニングを始めて数日。隣に座るイレーネが発した一言に晶はフォークを止めた。
ここはレヴォルフ黒学院近く、ウルサイス姉妹が住まうマンションの一部屋である。今日は余暇が出来たのでプリシラに誘われるまま夕飯の相伴に預かっているのだ。
「ああ、確かにそうだが……やはり噂は足が早いな」
「寧ろ噂になんねー方がおかしいだろ」
「私のいるクラスでも話題になってましたね、星導館の序列一位が男と一緒に居るーって」
「プリシラ、誤解を招きそうな言い方は止めてくれ」
シーフードパスタを嚥下して、プリシラの発言に苦笑いする。
「……うむ、やはりプリシラの作る料理はみな美味いな。また上達したか?」
「うふふ、今回のは自信作なんで、そう言って貰えるとうれしいです」
「これだけ家事が完璧ならば、良い嫁になるだろう」
「よ、嫁……」
率直な意見を言ったところで、プリシラが頬を赤らめて沈黙してしまった。
果たして、自分が言ったことに何か不都合はあっただろうか?
妙な沈黙の中、色々とむず痒さを感じたイレーネが空気を変えんと咳払いをした。
「ん、んんっ!……それで、どうして《疾風刃雷》と居るんだよ?別に依頼ってワケでも無いんだろ?」
「理由か。単にトレーニングを一緒にしているだけだぞ」
「トレーニング?お前が?」
「私を何だと思っているんだ……」
さも意外そうに見てくるイレーネに脱力感を感じながらそう訊くと、彼女は間髪入れずに答えた。
「なんか色々とぶっ飛んだ人間(?)」
「人外魔境のここにおいてそれを言うか……はあ、まあいい」
呆れ混じりの息を吐いて、コップに入った水を飲みながらちらとイレーネの姿を見やる。
何時もの着崩した制服姿ではなく、部屋着であるホットパンツとメタルな柄の入ったTシャツを着た、完全な『オフ』の姿だ。
この服は以前、プリシラと一緒に行きたくないとごねるイレーネを引っ張って服屋で買ったものだ。
「ん?なんだよ、あたしの顔に何か付いてるか?」
「いや、見慣れたはずなのだが、その服が似合っているなと、思っただけだ」
「んなッ!?おおおおお前何言ってんだ!」
「よし待て、フォークをこっちに向けるな洒落にならんから下ろせ」
「お姉ちゃんストップ、ストォップ!!」
唐突に暴れだしたイレーネをプリシラと二人掛かりで何とか抑えると、彼女は赤面した顔を隠さずに晶を睨み付けた。
「ぜー……はー……お、お前、不意打ちは卑怯だぞ」
「率直な感想を述べて卑怯とはこれ如何に」
「だ、大体だな。確かに気楽な格好ではあるけど、野暮ったいとかそういうのが先に来るんじゃないのか?」
「無いな」
一切のタイムラグ無しに即答され、イレーネは言葉を詰まらせる。
「お前たち姉妹は揃って美少女と言って違いないのだぞ?余程アンバランスな格好でなければ似合うに決まってるだろう」
更に掛けられた言葉にイレーネとプリシラは固まってしまった。
そして次第にまるでお湯が沸騰するかのように顔を真っ赤に染め上げた。
「む?どうした」
「わ、私お茶準備してきますね!あ、あははー!」
「いやこのメニューにお茶は要らんだろう……聞こえてないな」
《星脈世代》のポテンシャルを生かした高機動で席を離れたプリシラに呆気を取られ、ポカンとする。
彼女があのような反応を返すということは、本人がよく言う『ジゴロ』な発言だったのだろうと晶は思い至る。
とはいえど晶自身にとっては率直な意見を言ったに過ぎないのだが。
どうしたものかと頭を悩ませていると、イレーネが先程から一切動いていないのに気付く。
その表情は俯いて、髪に隠れているので伺い知れない。
「イレーネ、大丈夫か?すまんな、不用意な発言をし…………た?」
少し心配になった晶が謝罪を口にしながら顔を覗き込むとーー
「…………」
(これは……気を失っているな)
何ともいい笑顔でイレーネは気絶していた。慣れない誉め言葉に思考がショートしたのだろう。
「プリシラ」
「ななな、何でしょう!?」
「イレーネが気絶した」
「はいっ……ってえぇ!?お姉ちゃん!?」
呼ばれたプリシラが見たのは今にも何処へと飛び立ちそうな笑顔のイレーネと、表情こそ固いものの目には困惑の色がありありと浮かんだ晶からの視線と言う混沌としたものだった。
「と、とりあえず寝かさないと!」
「私が部屋に運ぼう、こっちだったか?」
「お姫様抱っことかちょっと羨まし……いやいや、えっとこっちです!」
結局その後朝までイレーネが起きることはなく、責任を感じた晶は泊まり込みで看病することにしたのだった。
「なんであたしの部屋に居んだよお前はぁ!?」
「いや看病の為なのだぐおぁ……!!」
「お姉ちゃぁん!?」
翌朝もまた一騒ぎあったのは、また別の話。